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別冊付録

Session T Cardiac Imaging

心臓U 不整脈症例,高心拍症例に対する対応

堀 祐郎(新潟大学医歯学総合病院放射線科)
堀 祐郎
新潟大学医歯学総合病院
放射線科

Dual Source CT(以下,DSCT)では,1心拍から1つの画像を再構成するモノセグメントリコンで,心拍数に依存せず,「SOMATOM Definition(以下,Definition)」では83ms,「SOMATOM Definition Flash(以下,Definition Flash)」では75msの高い時間分解能が得られる。このため,モーションアーチファクトやセグメントリコンによるアーチファクトは受けにくく,DSCTは不整脈症例に有利な装置である。ただし,バンディングアーチファクトをいかに減らすかが課題と言える。
本講演では,DefinitionおよびDefinition Flashによる不整脈症例,高心拍症例へのアプローチについて述べる。


■不整脈症例でのバンディングアーチファクト軽減のアプローチ

● Cine MRIによる検討
cine MRIで心房細動(Af)症例での冠動脈の動きを観察したところ,Af症例では心房収縮期がなく,洞調律症例で見られる拡張中期後の心房収縮を起こさずに次の収縮に向かうことがわかった。Af症例を集めて心時相ごとの右冠動脈の位置のズレを検討した結果,R波の直前が心拍ごとの冠動脈の位置のズレが小さく,バンディングアーチファクトを起こしにくい時相と考えられた(図1)。また,RR間隔とR波直前の右冠動脈の位置を検討したところ,RR間隔が短くなると心尖部方向に右冠動脈が残り,前RR間隔が700ms以下では,右冠動脈が心基部まで戻りきらないうちに,次の心収縮に移ることが確認された(図2)。

図1 Af症例における各時相の右冠動脈の位置ズレ(R波を0としたグラフ)
図1 Af症例における各時相の右冠動脈の位置ズレ(R波を0としたグラフ)
図2 前RR間隔とR波直前の右冠動脈の位置(赤ラインが700ms)
図2 前RR間隔とR波直前の右冠動脈の位置(赤ラインが700ms)

● 4D cine表示による検討
同様に,冠動脈CTの4D cine画像でAf症例17例に対して,R波を中心に−500〜500msまでを50msごとに再構成し,4D cineで観察して冠動脈の描出能を評価した。その結果,右冠動脈,左前下行枝とも,R波直前の−100〜−50msと,収縮末期の250〜300msで良好な画質が得られた(図3)。また,収縮末期では,左前下行枝の最適な時相が右冠動脈より若干前になることがわかった。
以上の検討から,Af症例ではR波の直前と250〜300msの2回,バンディングアーチファクトが少ない時相があること,また,収縮末期では右冠動脈と左前下行枝では最適心時相が異なること,RR間隔が短い700ms以下の心拍は,アーチファクトの原因になることがわかった。不整脈症例では,これに注意して心電図editを行うことで,バンディングアーチファクトの少ない画像が得られると考えられる。

図3 4D cine画像による冠動脈描出能の評価 R波を中心に50msごとに再構成して4段階で評価した。青が右冠動脈,赤が左前下行枝。
図3 4D cine画像による冠動脈描出能の評価
R波を中心に50msごとに再構成して4段階で評価した。青が右冠動脈,赤が左前下行枝。

■ヘリカルピッチと心拍数の関係

Definitionのヘリカルピッチは,寝台移動距離をビーム幅で割って算出する。ビーム幅は0.6mm×検出器32で19.2mm,ピッチ0.2なら,寝台移動距離は19.2mm×0.2で3.8mmとなる。ギャップのないデータ収集を行うためには,心拍数に合わせたピッチを設定する必要がある。Definitionでは,RR間隔の間の寝台移動距離が検出器の幅を超えないピッチ設定を行えば,ギャップができないことになる(図4)。
つまり,心拍数が60000/330×ピッチより小さくなればギャップが発生する。例えばピッチ0.2の場合,心拍数は36.4bpm以上にする必要がある。この計算式が心電図editの際に参考になる。

図4 ヘリカルピッチと寝台移動距離から最適な心拍数を求める計算式
図4 ヘリカルピッチと寝台移動距離から最適な心拍数を求める計算式

実際の不整脈症例における心電図editでは,RR間隔の寝台移動距離が検出器の幅を超えている場合にデータの欠損を生ずる。この場合には,心電図editでシンクを移動するか挿入することで,データ欠損を補う必要がある(図5)。

図5 心電図editを使ったデータ補完方法
図5 心電図editを使ったデータ補完方法

■症例提示:心電図editを用いた画像作成

図6は,RR間隔が時々短いAf症例で,ピッチ0.2で撮影し,R波の直前で再構成している。バンティングアーチファクトもなく画像化されているように見えるが,上記の計算式に基づいてRR間隔の短い部分のデータを削除することで画像の鮮鋭度が向上し,後下行枝(#4PD)あたりまで描出された。

図6 Af症例(RR間隔が時々短い)の心電図edit画像
図6 Af症例(RR間隔が時々短い)の心電図edit画像

図7は,CABG後評価のAf症例で,腎機能低下のため造影剤を抑える必要があった。平均心拍数64bpm,予想心拍数80bpm以上で,ピッチ0.36で撮影した。ピッチ0.36では心拍数65.5bpm以上が必要だったが,1か所のみ64bpmとなったため,シンクを挿入して65.5bpm以上になるように設定し,データ欠損がない画像が得られた。

図7 CABG後のAf症例(腎機能低下で造影剤低減が必要)
図7 CABG後のAf症例(腎機能低下で造影剤低減が必要)

■高心拍症例における冠動脈CTA:Flash Cardio Sequenceの有用性

当院では,心拍数65bpm以上の高心拍症例に対しては,Definition FlashのFlash Cardio Sequenceを使用して,Flex Paddingを30〜80%の広めに設定し,造影剤はtest injection法でピークの3秒後に撮影を開始している。

心拍数75bpm以上の高心拍症例17例を対象に検討を行ったところ,撮影時心拍数は75〜96bpm,平均83bpm,実効線量は2.3〜6.6mSvで,レトロスペクティブの撮影に比べて低被ばく検査が実施できた。

最適な再構成心時相は,収縮期9例,拡張期8例で,収縮期が良かった症例は33〜43%,平均37%,拡張期が良かった症例は70〜78%,平均74%だった。収縮期,拡張期が良かった症例を,それぞれ心拍数でプロットしてみると,拡張期が良かった症例には90bpm以上の心拍数の症例もあり,Definition Flashの高い時間分解能であれば,比較的高心拍であっても拡張期の方が良いことがあることが示された。

また,高心拍症例の冠動脈描出能の検討を行った。冠動脈をAHAセグメント分類ごとに分け,その描出能をGrade1(ほとんどブレがない)〜Grade4(ブレのために冠動脈評価不可能)の4段階に分け,Grade3以上が冠動脈評価可能とした(図8)。その結果,Grade1が11セグメント,以下,Grade2が110,Grade3が78,Grade4が11となり,ほとんどの症例で冠動脈評価が可能であった。

図8 高心拍症例の冠動脈描出能評価
図8 高心拍症例の冠動脈描出能評価

■まとめ

不整脈症例,特にAf症例であってもDSCTにより冠動脈評価が可能になった。また,高心拍症例でも,Flash Cardio Sequenceを用いることで,低被ばくでの冠動脈評価が可能になった。

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