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別冊付録

Session III Dual Energy Imaging

頸部:Dual Energy CTを用いた喉頭癌と下咽頭癌による喉頭軟骨浸潤評価

久野博文(国立がん研究センター東病院 放射線診断科)

久野博文(国立がん研究センター東病院 放射線診断科)

当院では,2010年4月に,がんの専門施設としては国内で初めて「SOMATOM Definition Flash(以下,Definition Flash)」を導入し,がん診断に対して臨床応用を試みている。今回は,喉頭癌や下咽頭癌における喉頭軟骨浸潤におけるDual Energy Imaging(以下,DEイメージング)を用いた評価について報告する。

■喉頭癌・下咽頭癌の病期診断,治療方針決定における画像診断の重要性

喉頭軟骨浸潤を伴う喉頭癌や下咽頭癌は,原則として喉頭の機能温存を目指した治療法の適応から外れる。近年,限局性の軟骨浸潤症例に対して,喉頭部分切除術や化学放射線療法などによる機能温存療法が試みられているが,明らかな軟骨浸潤を伴う進行例では,依然として喉頭全摘術が行われている。患者にとって,がんの罹患と同時に声を失うという事実は容易に受け入れられるものではなく,画像診断医が軟骨浸潤を過大評価することで,結果的に不必要な喉頭全摘術が行われてしまうことは避けなければならない。したがって,喉頭軟骨浸潤における画像診断の役割は非常に重く,臨床的意義が大きい。
これまでの研究により,CTとMRIの喉頭軟骨浸潤に対する診断基準は概ね確立されているが,残念ながらそれぞれいくつかの問題点があり十分ではない。CTでは,軟骨のびらんや融解像,喉頭外進展,骨硬化などで評価を行うが,腫瘍と非骨化軟骨のCT値が類似することや,軟骨の加齢性変化が多彩であることから,時にその診断が困難な場合があり,特に陽性適中率が低い(53〜76%)と報告されている1),2)
一方,MRIは,軟骨浸潤の同定に関して高い感度と陰性適中率を示し,有用なモダリティであるが,腫瘍による軟骨内の炎症性変化などが原因で(特に甲状軟骨において)特異度が低い(65%)とされる3)。また,喉頭癌や下咽頭癌患者の場合,(呼吸苦や嚥下困難が原因で)体動抑制不良によるアーチファクトが問題となり,診断的価値のある画像が得られないことがある。

■軟骨浸潤の評価におけるDual Energy Imagingの可能性

DEイメージングは,material decompositionをベースにいくつかのmaterialを区別し,強調や除去,あるいは取り出して分離して表示することで,さまざまな分野において,臨床的有用性が報告されている。この技術を喉頭軟骨浸潤の評価に応用すると,腫瘍,非骨化軟骨,ヨード造影剤を識別し,腫瘍浸潤部分と浸潤を受けていない非骨化軟骨を明瞭に区別可能な画像を得ることができる(図1)。
撮影プロトコールは,Dual Energy mode(100kV,140kV),200/200mAs,32×0.6mm,0.33s,p0.6,1mmスライス厚で,CTDIvolは平均15mGyである。軟骨浸潤の評価には繊細な読影を必要とするため,可能な限りノイズを減少させる目的で,100kVと140kVを選択している。解析アルゴリズムはThree-material decompositionを用い,Head VNC(Brain Hemorrhage)というアプリケーションを使用する4),5)。まず,100kVと140kVの画像データから仮想の120kV画像,weighted-average image(WA image)を作成し,次に,virtual non-contrast とiodine mapを50%ミックスした画像,iodine overlay image(IO image)を作成する(図25)

図1 DEイメージングの原理
図1 DEイメージングの原理
図2 DEイメージングのプロトコールと画像処理
図2 DEイメージングのプロトコールと画像処理

■DEイメージングを用いた軟骨浸潤の診断

軟骨浸潤を評価する際,WA image(通常の120kV画像に類似したCT像)を用いた軟骨浸潤の診断基準に,IO imageを追加の画像情報として用いることにより,先に述べたCTの問題点を改善させ,より正確な診断が可能となる。腫瘍浸潤を受けていない正常の軟骨組織はほとんどヨード増強されないため,WA imageにおいて判断が難しいような場合でも,IO imageを併用することで軟骨内の腫瘍を明瞭に区別可能となり,positiveとnegative の判断ができる。
以下に,実際の症例を提示する。

●症例1:60歳代,男性,喉頭癌,軟骨浸潤陽性例(図3
WA imageとIO imageにおいて,甲状軟骨を破壊して喉頭外に進展する腫瘍が認められる。WA image単独でもある程度は診断可能であるが,IO imageではより明瞭に軟骨を貫いていることが診断でき,さらに,喉頭外軟部組織への浸潤範囲に関しても,手術標本に一致した描出が得られている。

図3 症例1:60歳代,男性,喉頭癌
図3 症例1:60歳代,男性,喉頭癌

●症例2:60歳代,男性,下咽頭癌,軟骨浸潤陰性例(図4
WA imageとIO imageにおいて,右梨状窩に浸潤性腫瘍を認める。WA imageでは,腫瘍と軟骨組織のCT値が同等で,浸潤の有無が判断しにくいが,IO imageでは隣接する軟骨組織がヨード増強されていないことが明瞭に描出されており,軟骨浸潤陰性と判断され,化学放射線療法が施行された。IO imageの優位性を示す代表的な例であると言える。

図4 症例2:60歳代,男性,下咽頭癌
図4 症例2:60歳代,男性,下咽頭癌

●症例3:70歳代,男性,声門上喉頭癌,軟骨浸潤陰性例(図55)
WA imageとIO imageにおいて,右声門上喉頭を中心とした浸潤性腫瘍を認める。WA imageでは腫瘍が甲状軟骨を取り囲み,軟骨浸潤陽性に見えるが,IO imageではヨード増強は認められず,軟骨浸潤は陰性であることが判断できる。また,右披裂軟骨に関しても,WA imageでは存在診断すら判断が難しいが,IO imageでは明瞭に腫瘍と区別することができている。

図5 症例3:70歳代,男性,声門上喉頭癌
図5 症例3:70歳代,男性,声門上喉頭癌5)

■WA image+IO imageの診断能の検討5)

われわれは,喉頭癌と下咽頭癌におけるDEイメージングの有用性について評価する目的で,ある期間に連続した72例の喉頭癌と下咽頭癌を対象に,軟骨浸潤の評価について検討した。臨床情報が盲目とされた3人の放射線科医が,WA imageでの単独画像とWA imageとIO imageを組み合わせた画像を用いてランダム順で読影し,軟骨浸潤の有無を判断し比較検討した。
結果は,手術が施行された病理組織結果をゴールドスタンダードとした30例において,WA image+IO imageの複合診断の方が,WA image単独に比べ,ROC曲線におけるROC曲線下面積(AUC:area under the curve)の向上が認められた(AUC=0.870→0.957)。甲状軟骨に対する診断能では,sensitivityは86%と変化はなかったが,specificityは70%→96%と,統計学的にも有意に上昇した。さらに,診断医間の診断一致率では,甲状軟骨と輪状軟骨のκ valueがいずれも上昇していた。IO imageを追加の画像情報とすることによって,より特異性および再現性の高い診断の可能性が示唆された。

■まとめ

われわれは,DSCTによるDEイメージングを喉頭癌と下咽頭癌による軟骨浸潤の評価に応用し,いまだ初期経験の段階でいくつかの問題点はあるが,ある程度の臨床的有用性を示すことができたと考えている5)。2010年のDefinition Flash導入後,喉頭癌や下咽頭癌に対してルーチンにDEイメージングを撮像し,すでに症例数は250例に及ぶが,日常診療において,この技術によって治療方針や臨床病期が変更になるような症例を経験している。また,昨年の北米放射線学会(RSNA2011)においてこの研究成果の概略を発表し,Magna Cum Laudeの評価を得ることができた6)。これらの成果は,われわれにとってもまったくの予想外の結果であり,改めてDEイメージング技術に秘められたポテンシャルの高さ,世界的なインパクトおよび期待度の高さを実感することができたように思う。このDEイメージングの技術は,頭頸部領域のみならず,他の領域・疾患においても,活用できる場面は多いと期待しているところである。

●参考文献

1) Becker, M., et al. : Neoplastic invasion of the laryngeal cartilage ; Reassessment of criteria for diagnosis at CT. Radiology, 203・2, 521〜532, 1997.

2) Li, B., Bobinski, M., et al. : Overstaging of cartilage invasion by multidetector CT scan for laryngeal cancer and its potential effect on the use of organ preservation with chemoradiation. Br. J. Radiol., 84・997, 64〜69, 2011.

3) Becker, M., et al. : Neoplastic invasion of laryngeal cartilage ; Reassessment of criteria for diagnosis at MR imaging. Radiology, 249・2, 551〜559, 2008.

4) Gupta, R., et al. : Evaluation of Dual-Energy CT for Differentiating Intracerebral Hemorrhage from Iodinated Contrast Material Staining. Radiology, 257・1, 205〜211, 2010.

5) Kuno, H, Onaya, H, Iwata, R., et al. : Evaluation of Cartilage Invasion by Laryngeal and Hypopharyngeal Squamous Cell Carcinoma with Dual-Energy CT. Radiology, 111719; Published online September 14, doi:101148/radiol12111719, 2012.

6) 久野博文・他:Education Exhibit─MagnaCum Laude 受賞報告. INNERVISION, 27・2, 53〜54, 2012.

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