シーメンス・ジャパン株式会社

別冊付録

Session III Dual Energy Imaging

肺:Dual Energy CTを用いた閉塞性肺疾患の評価

白神伸之(東邦大学医療センター大森病院 放射線科)

白神伸之(東邦大学医療センター大森病院 放射線科)

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,わが国において罹患率が増加し続けており,その診断は今後ますます重要となってくる。本講演では,Dual Energy Imaging(以下,DEイメージング)を用いたXenon(Xe)イメージと“Lung PBV”による,COPDにおける肺の換気と血流の同時評価について報告する。

■従来のCOPD評価の問題点

従来,COPDはスパイロメトリーの国際ガイドライン「GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung
Disease)」の重症度分類で評価されてきた。しかし,COPD患者には高齢者が多く,労作時呼吸困難(DOE)の自覚がないことや,そもそも呼吸機能が低下しているのでスパイロメトリーへの忍容性が低いことから,GOLD分類による評価には疑問が残る。
また,CT値による肺気腫の重症度評価も行われてきたが,これはスパイロメトリーで評価した重症度分類を基準にCT値の閾値が設定されている。加えて,CT値は機種や線量の差により相対的に変化するため,単純CTによるLAA(low attenuation area)診断の信頼度も高いとは言えない。この解決には,Xeガス吸入による,CT値に頼らない肺胞の評価が有用と考える。
さらに肺気腫(pulmonary emphysema)では,血流障害(低酸素性血管攣縮,air trappingによる肺過膨張,肺胞破壊による血管床の減少など)によりV/Q mismatch(換気血流比不均等)が生じ,その定量が重症度の指標となるが,従来行われてきたSPECT-CT fusion画像では分解能に限界があった。
そこで,DEイメージングを用いてXeイメージとLung PBVを同時に評価できれば,換気と灌流の正しい評価が可能になると考えられる。

■XeイメージとLung PBVの同時評価(fusion)

当院では,XeイメージとLung PBVの同時評価を次の方法で行っている。35%Xeガス1回吸入法にて,吸入直後にDEイメージングを行い,その後,呼気で1回撮影を行う。2,3分の強制換気後,Lung PBVを撮影する(Lung perfusion:300mgl/mL,60mL,3〜4mL/s bolus injection,scan delay:17s)。DEイメージングは,造影剤の抑制,除去,抽出が可能なThree-material decomposition法を用いている。
図1は,健常ボランティア(a)と肺気腫患者(b)のXeイメージである。黄色で示されるXeの分布は,aは均一だが,bはまだらであり,特に末梢での分布が少ないことがわかる。

図1 Xeイメージ 健常ボランティア(a)と肺気腫患者(b)の比較
図1 Xeイメージ
健常ボランティア(a)と肺気腫患者(b)の比較

1.肺気腫の評価

●症例1:肺気腫,GOLDステージU
上肺野の単純CT(図2a)で淡くLAAと認められる部分が,Xeイメージ(図2 b)では黒く抜けているのが認められる。Xeを示すオレンジ色がまだらであり,全体として非常に不均一な分布であることがわかる。
また,肺のCT値分布を画像化・解析するアプリケーション“lung parenchyma”で再構成したparenchyma画像(図2 c)も,Xeイメージと同様の分布を示している。parenchyma画像は,−1000〜−850HUのCT値を15分割に色分けしたもので,紫色の−1000HUに近づくと,いわゆるLAAを表している。

図2 症例1:肺気腫,GOLDU(上肺野) a:単純CT,b:Xeイメージ c:parenchyma画像
図2 症例1:肺気腫,GOLDU(上肺野)
a:単純CT b:Xeイメージ c:parenchyma画像

一方,下肺野(図3)では,単純CTとparenchyma画像でLAAが認められる部分に,Xeが取り込まれている(○)。この理由は不明であり,air trappingの可能性もあるが,こういったケースの存在をXeイメージで知ることができる。

図3 症例1:肺気腫,GOLDU(下肺野) a:単純CT b:Xeイメージ c:parenchyma画像
図3 症例1:肺気腫,GOLDU(下肺野)
a:単純CT b:Xeイメージ c:parenchyma画像

また,最大吸気した後に最大呼気を行ったXeイメージ(図4)では,一見,呼気後のXe残量が少ないため,呼吸機能が保たれているようにも思われる。Xeイメージの残気量で呼吸機能を評価することの妥当性は,今後検討が必要である。

図4 症例1:肺気腫,GOLDU(Xeイメージ)
図4 症例1:肺気腫,GOLDU(Xeイメージ)

コロナル画像(図5)では, Xeの取り込みが少なく,parenchyma画像で青く表示される上肺野・下肺野の肺気腫の部位について,Lung PBVでも血流の低下が認められ,肺気腫・LAA・血流低下が相関していることがわかる。

図5 症例1:肺気腫,GOLDU(コロナル画像) a:Xeイメージ(吸気) b:Xeイメージ(呼気) c:Lung PBV d:parenchyma画像(呼気LAA)
図5 症例1:肺気腫,GOLDU(コロナル画像)
a:Xeイメージ(吸気) b:Xeイメージ(呼気)
c:Lung PBV d:parenchyma画像(呼気LAA)

“lung parenchyma”の三次元表示では,左右のインクリメントごとの体積比率とヒストグラムが同時に得られるので,定量的な解析が可能である(図6)。

図6 症例1:肺気腫,GOLDU(parenchyma画像の三次元表示)
図6 症例1:肺気腫,GOLDU(parenchyma画像の三次元表示)

閾値と気腫肺量の関係(表1)では,Xe 10を閾値とすると,右肺26%,左肺29%の欠損域があることがわかる。これをCT値で分けると,−950〜−940HUあたりがXe 10と近い欠損域比率となる。閾値をXe 15に上げると,CT値と乖離した比率となることから,Xeの閾値の設定が今後の課題の1つとなるだろう。

表1 閾値と気腫肺量の関係
表1 閾値と気腫肺量の関係

●肺気腫評価のまとめ
症例の検討から,LAAとXe欠損域はおおむね一致していること,気道と交通しているLAAが存在すること,LAA領域では肺動脈の血流低下が多く見られることがわかった。また,呼気でのXe撮影法には見直しの余地があり,LAAとXeイメージともに,閾値の設定に撮影条件も含めた見直しが必要である。そして,GOLD分類とLAA,Xe欠損域量はおおむね対応しているが,必ずしも正確ではない可能性があることがわかった。

2.CPFE(肺気腫合併肺線維症)の評価

線維症と肺気腫が合併したcombined pulmobary fibrosis emphysema(CPFE)における,XeイメージとLung PBVの同時評価について述べる。CPFEは,parenchyma画像では赤い領域のなかにLAA(青)が散在し,Xeイメージ呼気で末梢までXeが残ることが特徴である。

●症例2:CPFE(図7
単純CT(図7d)でもデンシティが高く,線維症であることがわかるが,parenchyma画像(図7b)でも線状の赤い表示が多数認められ,線維化が明瞭に認められる。また,Xeの欠損域(図7a,c)では血流が保たれており,肺気腫とは異なるCPFEの特徴が見て取れる。
図8に,症例2のコロナル画像を示す。

図7 症例2:CPFE(72歳,男性),下肺野,アキシャル画像 a:Xeイメージ b:parenchyma画像 c:Lung PBV d:単純CT画像
図7 症例2:CPFE(72歳,男性),下肺野,アキシャル画像
a:Xeイメージ b:parenchyma画像
c:Lung PBV d:単純CT画像
図8 症例2:CPFE(72歳,男性),コロナル画像 a:Xeイメージ(吸気) b:Xeイメージ(呼気) c:Lung PBV d:parenchyma画像
図8 症例2:CPFE(72歳,男性),コロナル画像
a:Xeイメージ(吸気) b:Xeイメージ(呼気)
c:Lung PBV d:parenchyma画像

●CPFE評価のまとめ
症例の検討から,CPFEは,気腫肺の容量が肺気腫と比べて少ない傾向があり,XeイメージとLAAで乖離が見られることがある。また,肺気腫に比べて血流が保たれていると考えられる。

■肺のDEイメージングの問題点

DEイメージングによるXeイメージとLung PBVの評価では,肋骨によるアーチファクトが大きいことや,被ばく量が多いこと(1症例あたり5回撮影で,平均約20mSv)が問題である。今後は,低線量撮影をめざして条件設定を十分に検討する必要がある。
また,今回の検討では,Xe 10,LAAを−950HUを閾値として評価したが,Xeの値を下げるなど,閾値の設定についても検討の余地がある。
さらに,現時点では,Xeでのair trappingの評価が困難であることから,その評価方法も課題である。

■まとめ

今回,DEイメージングを用いた肺の評価をCOPDを中心に行った。条件設定や問題点など,解決すべき点はまだ多いが,従来の評価法では判然としなかった情報が得られることがわかった。
DEイメージング単体では,有用性に限界があると思われるが,今回のように複数の解析方法を組み合わせることで,さらに病態・病期の評価に適応が広がる可能性がある。

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