シーメンス・ジャパン株式会社

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別冊付録

Session III Dual Energy Imaging

心臓:Definition Flashによる大動脈弁疾患の評価

井口信雄(榊原記念病院 循環器内科)

井口信雄(榊原記念病院 循環器内科)

当院では,2009年にDual Source CT「SOMATOM Definition Flash(以下,Definition Flash)」の国内第1号機を導入以来,心臓CTにおいて多大な恩恵を受けてきた。Dual Energy Imaging (以下,DEイメージング)による石灰化除去は,大動脈ではルーチンで行っており,冠動脈でも時間を要するものの施行可能である。
2011年度に当院で施行した1298例の開心術のうち,弁膜症が230例,虚血・弁膜・大血管の混合症例が341例と,弁膜症の増加が顕著であり,虚血性157例を上回っている。そこで本講演では,弁膜症評価におけるDEイメージングや,高い時間分解能を活用した4D CTの有用性について報告する。

■高時間分解能と石灰化の描出

Definition Flashは,冠動脈評価はもちろんのこと,75msというきわめて高い時間分解能による,動きの観察にも力を発揮する。16列CTと比べると,Definition Flashでは大動脈弁や僧帽弁の動きを非常にクリアに観察でき,外科医が求める情報を得ることができる(図1)。
また,CTの特徴である優れた石灰化の描出能も,大動脈弁の評価に有用である。石灰化分布の視覚的評価と石灰化スコアによる定量化が,大動脈弁狭窄の重症度に一致する指標になると報告されており,CTは大動脈狭窄の評価に非常に有用である。

図1 弁の動きの評価
図1 弁の動きの評価

■大動脈弁狭窄症の評価

大動脈狭窄症の評価のポイントの1つである弁口面積の測定には,CTの静止画が有用である。さらに動画で観察することで,弁の癒着や三尖の動きの制限を明瞭に把握することができる(図2)。これは,医師にとって有用であるばかりでなく,研修医や患者さんへの説明時にもわかりやすい。また,任意の方向からの観察,計測ができるため,弁の開放制限の程度,石灰化の分布や程度を理解することができる(図3)。これらは,高い時間分解能だからこそ可能な,大動脈弁評価である。

図2 CTによる大動脈弁狭窄の評価
図2 CTによる大動脈弁狭窄の評価
図3 CTによる大動脈弁狭窄の評価
図3 CTによる大動脈弁狭窄の評価

近年,欧州を中心に経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)が行われるようになり,わが国においても当院などで治験が進行中である。この治療では,大動脈とデバイスがジャストサイズであることが重要で,サイズが小さければ,デバイスの逸脱や大動脈弁逆流の恐れがあり,逆に大きければ,valsalva洞や大動脈壁が破裂し致命的となる。
この評価には当初,エコーが有用と言われていたが,最近はCTの有用性が注目されている。TAVIの安全な施行には,大動脈全体の石灰化や蛇行の程度,大動脈のannulus,valsalva洞,ST-junctionの径,大動脈と左心室の位置関係(角度),大動脈弁と左右冠動脈起始部との位置関係や距離を正確に把握することが重要であり,これらは前述のとおり,CTの得意とするところである。Definition Flashを用いて,低被ばくかつ短時間で大動脈や弁の必要な情報が得られるとの報告1)もあり,その有用性が期待されるが,心拍による径の変動があるため,さらなる検討が必要であろう。

■大動脈弁閉鎖不全症の評価

大動脈弁閉鎖不全症の解剖学的病型は,大きく3つに分類できる。
・タイプ I :大動脈基部拡大を伴う正常弁尖運動あるいは弁穿孔
・タイプ II :弁の逸脱,過剰弁尖運動
・タイプ III :弁の硬化,弁尖運動制限
 タイプ I ・ II は,弁形成術の適応となるが,タイプVは適応外となるため,解剖学的病型,弁の形態・動きの把握が,大動脈弁形成術の適応判断に不可欠となる。そこで,動きを見る4DCT画像が優れた有用性を発揮する。

図4は,二尖弁による閉鎖不全の4DCT画像であるが,弁の逸脱が非常によくわかる。任意の方向から断面を得ることができるため,立体的に理解することが可能となる。
図5も同一症例で,弁尖の動きやST-junctionの拡大の有無,石灰化の有無,逸脱の程度などを評価することができ,大動脈弁形成術の適応決定に重要な情報となる。

図4 二尖弁閉鎖不全症の4DCT画像
図4 二尖弁閉鎖不全症の4DCT画像
図5 二尖弁閉鎖不全症の評価
図5 二尖弁閉鎖不全症の評価

■人工弁の評価

人工弁は,置換後に機能不全に陥っていないかを評価することが重要である。人工弁の部分に血栓やパンヌス(結合組織)が付着することで,弁に開放制限が出て機能不全を起こす。
人工弁の開放角は,一葉弁のBejork Shileyは60°,二葉弁のSt. Jude Medicalは85°,Carbomedicsは78°と決まっているため,人工弁の角度を計測することで機能不全を診断できる。
人工弁の動きは,CTで非常に明瞭に観察することができる(図6)。動きをダイナミックに見ることも可能であるが,開放角の測定には,閉鎖時と開放時をしっかりと観察できればよく,特に,図6のような開放時に,鮮明かつアーチファクトの少ない画像が重要となる。

図6 大動脈弁の描出(開放角の測定)
図6 大動脈弁の描出(開放角の測定)

■DEイメージングの臨床応用

当院で,大動脈人工弁置換術後にDEイメージングを行い,アーチファクトと画質の観点から,至適実効エネルギーの設定を検討した。方法は,DEイメージングで撮影した画像をphoton energy 40〜190keVの範囲で設定を行い,仮想単色エネルギー画像(monoenergetic image)を作成し,金属アーチファクト,コントラスト,ノイズなどを評価した。
まず,人工弁金属部の分解能を評価するため,弁上に3点のCT値プロファイルカーブを描出し,半値幅を測定。そして,その3点の平均値を各実効エネルギーごとに算出した。また,アーチファクトやノイズを評価するため,3点のROIを囲み,各実効エネルギーごとのSD値,SNRを算出した。
図7は,B46 Kernelと逐次近似画像再構成法IRISを用いた46 Kernelで再構成したmonoenergetic imageである。IRISを用いることで,多少ノイズを低減することができる。低エネルギーではコントラストが強いものの,アーチファクトも非常に強く,80keVあたりはノイズの少ないきれいな画像となっている。高エネルギーでは,人工弁自体は非常にシャープに見えるが,黒抜けしてくる部分もある。弁を上から見た画像(図8)でも同様であり,高エネルギーで黒抜けしてしまうとパンヌスの評価ができなくなる。弁の開放角計測には高エネルギーが適しており,パンヌスを見たい場合は,80keVあたりが適していることがわかる。

図7 monoenergetic image
図7 monoenergetic image
図8 monoenergetic image
図8 monoenergetic image

以上の検討から,B46 Kernelと46Kernelで有意差は見られなかったが,エネルギーが高いほど半値幅が低くなって画像がシャープになり(図9),SD値は80〜100keVで最も低く,SNRは3点いずれも80keVで最高値を示した。
このように,人工弁の評価においては,高エネルギーで得られるシャープな画像が開放角測定に適しており,パンヌスなど弁周囲組織の評価には,DEイメージングを用いて得られる至適monoenergetic imageが有用であると言える。

図9 金属部の分解能の評価
図9 金属部の分解能の評価

■まとめ

Definition Flashを用いた大動脈弁疾患の評価は,手術に際しての胸腹部大動脈から大動脈起始部までの広範囲の評価にはHigh Pitch Double Spiral Scan(高速二重螺旋スキャン),大動脈弁閉鎖不全症に対する形成術の適応など,弁の動きをダイナミックに評価する場合には高時間分解能のSpiral撮影,人工弁の評価にはDEイメージング(monoenergetic image)と,目的によって使い分けができる。
これからのCTは,リアルでわかりやすい画像を,外科医やインターベンション術者が自由にシミュレーションに用いるなど,より広く活用されていくだろう。

●参考文献

1) Wuest, W., et al. : Dual source multidetector CT-angiography before Transcatheter Aortic Valve Implantation (TAVI) using a high-pitch spiral acquisition mode. Eur. Radiol., 22, 51〜58, 2012.

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