シーメンス・ジャパン株式会社

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Technical Note

2012年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

CT−CTの最新撮影技術と被ばく低減

大西哲夫
イメージング&セラピー事業本部 CTビジネスマネージメント部


■現状の問題点

マルチスライスCTが登場してから10年以上が経過した。1回の呼吸停止時間で,すべての部位を1.0mm以下のthin slice画像で描出可能になったことや,数秒で全身を検査することが可能になり,さらに高速化が進みスキャン時間が短縮されてきた。
しかし,最適な腹部造影CTの造影タイミングはいまださまざまな論議の渦中にあり,各臓器によりその設定は必ずしも容易ではない。このことから,現在のマルチスライスCTは汎用性と多目的性の両立が不可欠になってきており,腹部領域の画像診断におけるマルチスライスCTの重要性はさらに高まってきている。
現在のCT装置において,3D画像は検査目的,データの利用方法の多様化も著しいが,血管画像,血流画像,灌流画像等については,検査のカバレッジが検出器幅に制限されることから,必要な情報をすべて網羅することは不可能であると言われている。このような課題を克服する1つの方法として,臓器全体を1回のアキシャルスキャンによりカバーできる,大幅に多列化された検出器の導入が考えられた。この方法では,目的臓器をカバーする検出器幅を1回転させることで目的臓器全体の撮影が可能であることから,時間分解能とボリュームカバレッジの両立が可能となる。しかし,現在の画像再構成方法では,多列化された検出器の広いコーン角に対応した補正技術が不十分であるため,コーン角アーチファクトが生じることや散乱線の影響などが避けられない。また,CT装置を構成するパーツの中で,検出器が占めるコストは最も高額であり,大幅な多列化はコストの増加が避けられないという現実問題も残っている。シーメンスは,このような従来型のマルチスライスCTでは解決できなかったさまざまな問題を解決するため,現行の画質レベルの維持と,ボリュームカバレッジ,および時間分解能それぞれの両立を可能とする“Adaptive 4D Spiral”を開発した。

■新しい撮影方法:Adaptive 4D Spiral

Adaptive 4D Spiralは,通常のスパイラル撮影とは異なる収集方法により,一定の範囲を連続的に往復する撮影方法である。約4cmの体軸方向への検出器幅で40cmを超える撮影範囲をカバーし,さらに最速0.3秒以下のガントリ回転速度により,時間分解能は撮影中心で4秒程度を可能とした。つまり,連続する規則的なテーブルの動きによって,検出器幅よりも大きな範囲のダイナミックボリュームスキャンを可能にした先進的な技術である。加えて,滑らかに加速と減速を繰り返すテーブル制御により,臓器が動きの影響を受けて共振しないよう,撮影ピッチは一定ではなく,連続的に変化させるという精密な制御を行いながら撮影することを可能とした。経時的に広範囲のデータ収集を行うことで,体軸方向に検出器の制限を持つ場合でも,4Dによるデータ収集を実現している。
このようなデータの画像再構成は一般的には複雑なものとなるが,新しく開発された画像再構成アルゴリズムとハードウエアの進歩により,CT値の変動,形状の歪みなどの影響を受けなくなっている。撮影時には,テーブルが加減速を繰り返されるため,これまでのようなピッチの概念が導入できない。このことから,撮影には撮影距離,時間分解能,撮影回数などの条件を入力することで設定を行う。
この新しい撮影技術は頭部,胸腹部などさまざまなスキャンの限界を超える撮影方法である。従来,多血性病変や腫瘍病変に対しては,テーブル移動をさせずに同じ位置での連続したコンベンショナルスキャンによるダイナミックCT撮影という方法を行ってきたため,検出器幅という制限に従わざるを得なかった。しかし,Adaptive 4D Spiralでは,スパイラル撮影の技術を超えた寝台のスムーズな連続往復スパイラルスキャンによって,静止画でしか確認できなかった肝臓,膵臓などの腹部臓器の灌流画像の取得,また血管の連続的な経時変化を描出できることから,時間遅延を伴うような病態も検出することが可能になった。このことが,広範囲での支配領域の血管から腫瘍が濃染していく経時的変化,解離性病変の造影剤の流入出の描出部位特定,ステントグラフト挿入後のリーク,灌流検査などの解析などさまざまな動態検査を臓器全体で観察することを可能にした(図1,2)。

図1 Adaptive 4D Spiral での4D動画による血管撮影
図1 Adaptive 4D Spiral での4D動画による血管撮影

図2  Adaptive 4D Spiralでの 灌流解析(CT Perfusion)
図2 Adaptive 4D Spiralでの 灌流解析(CT Perfusion)

物理的な検出器幅に依存することなく,臓器の機能情報を広範囲かつ経時的に撮影することを可能にしたこの技術は,血管造影での侵襲性,準備,撮影,および検査時間などを考えて今後,有用性が期待できる技術である。しかし,この検査は同一部位の複数撮影を伴うため,従来の撮影よりも被ばく線量に関しての考慮が必要となる。当然,必要な臨床情報と被ばく線量はトレードオフの関係にあり,開発メーカーとして,さらなる努力が問われることになることは避けられない。このような複数回撮影が必要な検査を含め,通常の撮影時でも被ばく低減を可能にする新しい技術として“Adaptive Dose Shield”が搭載されている。

■被ばく低減技術

スパイラルスキャン撮影時には,テーブル移動を伴いながらのデータ収集を行うが,その際,X線照射開始直後から180°分,およびX線照射終了直前の180°分はそれぞれ再構成に使用することができない。結果として,この領域のデータは画像化されることがないため,無効被ばく部分と言われている。このAdaptive Dose Shieldは,スパイラル撮影開始,終了それぞれにおける180°分のX線照射を管球前の可動式ビームコリメータを閉じることで,画像化できない領域のX線照射を制御することが可能な,スパイラル撮影に対しての新しい被ばく低減機構である(図3)。
撮影範囲により異なるが,従来のスパイラルスキャン時の被ばく線量の最大20%以上1)の被ばく低減を可能としている。そして,さらなる被ばく低減技術が2011年の北米放射線学会(RSNA)で発表された。それが,“Stellar Detector”である。シーメンスが開発した新しい検出器であるStellar Detectorには,検出器内部回路に発生している電気ノイズを最小限に抑え,SNRを向上させる技術が搭載されている(図4)。
体幹部などの連続撮影などで積算線量が懸念される撮影において,線量を増加することなく,低線量でSNRの向上を行えるStellar Detectorは,さらなる被ばく線量の低減を可能とし,時間軸を含む4D画像などの検査にも大きく貢献することが期待できる。

図3 無効被ばく低減のためのシールド Adaptive Dose Shield
図3 無効被ばく低減のためのシールド
Adaptive Dose Shield
図4 シーメンスが新しく開発した Stellar Detector
図4 シーメンスが新しく開発した
Stellar Detector

シーメンスの技術は,すべての相乗効果によりさらなる進化を遂げ続けている。今後は,Adaptive 4D Spiralが実現したOne Organ Imagingによって,腹部などの画像診断に新たな診断方法を加え,医療の発展に貢献していく所存である。

●参考文献
1) Deak, P., van Straten, M., Shrimpton, P.C., et al. : Dose reduction with adaptive dose shield. Eur. Radiol., 252, 140〜147, 2009.
   
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