シーメンス・ジャパン株式会社

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Technical Note

2005年10月号別冊付録
革新のインターベンショナル3Dイメージング DynaCT & AXIOM FDi concept

シーメンスのFD製品開発コンセプト「AXIOM FDi

Bernd Weber
シーメンス旭メディテック株式会社
メディカルソリューションマーケティング本部
AXビジネスマネジメントグループ
マネージャー


はじめに

撮影形態や目的部位に応じた各種フラットディテクタ(以下,FD)の開発が進み,これらを搭載したシステムが普及してきた。これに伴い,画質の向上,被ばくの低減,運用性の向上など,I.I.系やCR系に替わるシステムとして,FDへの期待も年々高まってきている。しかし,FDユニットを搭載するだけで,システム全体の性能向上が得られるとは限らない。FD特性を最大限に生かすためには,関連する周辺のユニット,そして,システム全体にわたる最適な設計思想が欠かせない。
シーメンスではFDの搭載と同時に,“機能性”,“統合性”,そして“発展性”の3つの視点に基づいた製品づくりを進めてきた。そして,現在では全製品ラインナップへのFD搭載を完了し,次の新たなテーマに取り組んでいる(図1)。このシーメンス独自のシステム開発思想が,“AXIOM FDi”コンセプトである。FDユニット開発競争の先を歩み,運用性や発展性,さらに検査治療形態の将来も見据えた,このコンセプトの先進性について,要素技術を挙げながら紹介していく。


図1 FD搭載装置全ラインナップ
図1 FD搭載装置全ラインナップ


シーメンスのフラットディテクタ概要

“AXIOM FDi”コンセプトの中核を成すのが,FDユニット本体である。一般撮影装置からアンギオ装置に至るまで,用途に合わせた最適な特性のユニットを幅広く準備している。

1.基本原理
図2はユニットの内部構造である。人体透過X線を捕捉し,光エネルギーに変換するシンチレータに高い吸収変換効率値を持つCsIを採用し,優れたDQEを実現した。この蛍光体は柱状の結晶を形成しており,光を散乱させることなく検出部へ伝達することができる。異なる検出方法としてa-Seによる変換方法も考えられるが,これは細かい加工が容易である反面,通常X線エネルギー帯で変換効率が低下しやすいという傾向も持っている。このためシーメンスでは,中高X線エネルギー帯域を多用する透視・撮影にはCsI方式,低エネルギー帯域を多用するマンモグラフィにはa-Se方式という,用途に合わせた異なる素材を採用した。一方,誘導された光を検出し,電荷量に変換するのが検出部である。マトリックス上に配置されたアモルファス・シリコンの素子群は14bitのデータ深度を有しており,高いダイナミックレンジを実現している。得られた信号は高速に読み取られ,大容量のデータ伝達系を経由し,データ処理部へ送られる。


図2 FDユニットの構造
図2 FDユニットの構造


2.画像特性上の優位点
前述の構造を持つFDは,従来のフィルムやCR系,I.I.系と比較し,高い画像性能を有している。その1つが,異なる組織間の描出能を決定する密度分解能である。14bitの階調を持つデータは,広いダイナミックレンジをそのまま確保でき,わずかなコントラスト差を明瞭に画像化できる。また,データ・オーバーフローを原因とするハレーションを防ぐことも容易になった。2つ目が,緻密な細部構造の描出性を決定する空間分解能である。高い集積度を誇るシーメンスのFDでは,用途に合わせてピクセルサイズを最適化。空間分解能の向上とS/N比改善との両立により,高いDQEを実現し,より微細な構造の画像化を可能にした。

3.その他の優位点
FD検出面は完全にフラットなため,I.I.などに特有の画像の空間的な歪みが生じず,また,磁場の影響を受けることもない。これは,3D回転撮影時に正確な空間データ収集が可能になること,そして,磁場を用いる他装置との併用が可能になることを意味している。さらに,軽量・小型であることも重要である。コンパクトなFDユニットは,可動機構の搭載により撮影方向の柔軟性を確保でき,撮影者,術者,そして,被検者へ開放感を与える。一方で,運用面においては,FDの持つリアルタイム性の効果も大きい。フルデジタルのFDユニットは,撮影から画像表示までを一括して高速に処理でき,従来のフィルム系やCR系と比較した場合,カセット回収や読み取り作業が不要な分,効率的なワークフローを実現できる。


FD特性を最大限に発揮させる統合開発コンセプト“AXIOM FDi

このようにFDは,画質面や機能面で多くのメリットを備えているが,FDユニットの装置への搭載だけで検査環境の向上がもたらされるわけではない。前述のように,FD本来の性能を最大限に発揮させるためには,周辺の各ユニット,そして,装置全体にわたる最適な製品設計が必要である。この目的に沿ってシーメンスが提唱しているのが,独自の製品開発コンセプト“AXIOM FDi”である。3つの視点で製品を開発設計し,統合性,運用性に優れた先進の診断・治療環境を提供する(図3)。以降,代表的な要素技術を例示しながら,これらのコンセプトを紹介していく。

  図3 FDiコンセプトの概念
図3 FDiコンセプトの概念

1.intelligence―機能性
1つ目の視点は,FDと連携する周辺ユニットの機能性である。FDの特性を生かすためには,最適で高い機能性を持った周辺ユニットの搭載が不可欠である。

a)スマート・ムーブ機能(AXIOM Aristos FX)

FDユニットをロボットアームのようにコンピュータで自動制御する一般撮影装置である。ポジショニングの協力が得られにくい被検者に対しても,柔軟なポジショニングが可能になる。FDのコンパクトさを生かしたユニークな設計となっている(図4)。

b)FD自動回転補正機能(AXIOM Artis 全シリーズ)

I.I.とは異なり,矩形のFDではアーム旋回時に視野からFOVが回転逸脱してしまう。これを防ぐのがこの機能である。FDユニットを自動回転させ,最大の視野を確保する。また,コリメータ回転とも連動しており,テーブル長手方向に対し,常に自律的に回転追従を行う。矩形の視野形状を有するFDには今後,必須の機能となっていくだろう(図5)。

c)ダブルスライドCアーム機構(AXIOM Artis dTA)

2本のCアームを同時にスライド駆動させることで,回転速度と回転範囲を拡大させる機構である。この機構によりスライド回転においても,60°/秒の高速回転を実現している。また,回転範囲は最大200°で,これはDynaCTに対応させたものである。CTにおけるハーフスキャンと同様,180°+ファン角度分を確保することにより,側面アーム挿入による全身領域での血管および軟部組織描出が可能になる(図6)。

 

図4 スマート・ムーブ機能
図4 スマート・ムーブ機能

図5 FD自動回転補正機能
図5 FD自動回転補正機能


図6 ダブルスライドCアーム機構
図6 ダブルスライドCアーム機構


d)FDバイプレーンシステム(AXIOM Artis dBC/dBA)

従来,散乱線の影響のため,FDバイプレーンは困難と言われていたが,シーメンスではD-Sireシステムによりこれを解決。FDだけでなく,X線照射,発光,読み取り,転送を高速に行うことで読み取り時の散乱線の影響を排除し,世界に先駆けてFDバイプレーン装置を実現した(図7)。2003年登場の循環器用システムAXIOM dBC に加えて,2004年からは頭腹部用FDバイプレーンシステムAXIOM dBAも国内稼働を開始している(図8)。


図7 D-Sireによる高速読み取り
図7 D-Sireによる高速読み取り

  図8 AXIOM Artis dBA
図8 AXIOM Artis dBA

2.integration―統合性

2つ目の視点は統合性である。高い機能性を備えた多くのユニット群を統合し,これらを集中的に制御することで,より操作性に優れた効率的な運用環境を提供できる。

a)syngo統合型コンソール

シーメンスの統合操作環境syngoを採用。撮影,画像処理,画像出力,ネットワークなど,さまざまな機能を一元的に統合管理することにより,シームレスな操作環境と効率的なワークフローを実現した。今後,ますます多機能化が見込まれるFD搭載装置において,煩雑さを避け,快適な運用環境を実現するために不可欠なアーキテクチャである。

b)テーブルサイド多目的コントローラ

syngoの思想は,検査室内のコントローラにも生かされている。タッチパネルと簡易なメニューにより,ほとんどの操作を検査室内で行えるほか,3Dやアームとの相互連動,他モダリティ画像の制御管理,そして,DynaCTなど,統合された操作環境をテーブルサイドにて実現できる。FDの搭載により,アンギオ装置が診断から治療用途へと加速していくなかで,アンギオ装置を明確にイン ターベンション装置として位置づけているシーメンスの象徴的な機能と言える。


3.innovation―発展性

3つ目の視点は発展性である。機能性と統合性を高めつつ,現在だけでなく,将来におけるさまざまな検査形態の変化や動向にも対応できる,確かな発展性が考慮されている。

a)マグネティックナビゲーション・システム(W.I.P.)

磁場によるマグネッティック・カテーテル誘導の際にも,FDは磁場の影響を受けないため,正確なナビゲーション画像を提供できる。大きな誘導用対向マグネット間にあっても使用できる,スリムなストレート正面アームの採用により実現した。すでに欧米にて稼働開始しており,国内においても2004年12月より研究目的での試験稼働を始めている。


b)IC3D(PCI用コロナリー3Dイメージング)

異なる方向から投影された2枚の静止画から,血管形状を三次元的に表示する機能である。狭窄率だけでなく長さ,角度などの情報を立体的に正確に把握できるため,PCI中のステント留置などの際に,ナビゲーション・ツールとして使用できる。歪みが少なく高精度な画像を提供できるFDにおいて効果を発揮する。2004年9月より,国内施設においても稼働中である(図9)。

c)DynaCT(軟部組織描出CアームCT機能)

昨年のRSNA2004にて反響を巻き起こした最新の3Dイメージング機能である(図10)。ダイナミックレンジ特性に優れたFDは,Cアーム回転による三次元再構成画像においても高い密度分解能を有する。これに加え,CTに準ずる各種アーチファクト補正機能を搭載することで,10HU/10mmの密度分解能を実現した。このため,従来の血管系だけでなく,CTのような軟部組織の3DやMPR像の描出も可能になった(図11)。2004年11月より千葉県がんセンター様での運用が開始されたのに始まり,現在では国内の12施設(2005年8月時点)でお使いいただいており,今後も多くのご施設への設置が進行していく予定である。

  図9 IC3Dによる心臓血管3D表示
図9 IC3Dによる心臓血管3D表示

図10 DynaCTデータフロー
図10 DynaCTデータフロー

  図11 DynaCT画像例
図11 DynaCT画像例

まとめ

FDのメリットを最大限に生かすシーメンスのFD開発コンセプト“AXIOM FDi”について紹介した。機能性,統合性,そして,発展性。どれが欠けてもFD本来のメリットを十分に生かすことはできない。今後も,シーメンス独自のこのコンセプトに沿って,お客さまが望まれるバランスのある製品づくりを継続していきたいと考えている。