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Seminar Report

第38回日本磁気共鳴医学会大会ランチョンセミナー

第38回日本磁気共鳴医学会大会が2010年9月30日(木)〜10月2日(土)の3日間,つくば国際会議場で開催された。10月2日(土)に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナーでは,杏林大学医学部放射線医学教室教授の似鳥俊明氏が座長を務め,東芝社製3T MRIの技術と臨床応用をテーマに,同社の青木郁男氏と杏林大学医学部放射線医学教室准教授の土屋一洋氏が講演した。ここでは,中枢神経領域を中心に3T MRIの臨床応用を報告した土屋氏の講演を概説する。

次世代のOpen Bore 3T MRIによる臨床応用
3T MRIの臨床応用─中枢神経領域を中心に

土屋 一洋(杏林大学医学部放射線医学教室准教授)

土屋 一洋
土屋 一洋
1980年,北海道大学医学部卒業。東京大学医学部放射線科研修医。81年,東京大学医学部放射線科助手。84年,公立昭和病院放射線科科長。85年,防衛医科大学校放射線医学教室助手。93年,杏林大学放射線医学教室講師を経て,2000年から現職。

東芝メディカルシステムズの3T MRI「Vantage Titan 3T」(以下,Titan 3T)の世界第1号機が,2010年9月1日より,東京都三鷹市の杏林大学病院で稼働を始めた。Titan 3Tは,当院の放射線科がある地下1階に,6月21日の深夜,クレーンを使って搬入された。当院では現在,Titan 3Tを含めて5台のMRIがコンパクトなスペースに設置され,日常診療にフル稼働している。本講演では,導入後1か月ではあるが,Titan 3Tの特長と,中枢神経領域を中心にした初期経験を報告する。

Vantage Titan 3Tの特長

まずはじめに,Titan 3Tの特長を以下に挙げる。
(1)Super Slim Gradientコイル:最大開口径が71cmのOpen Boreを実現。
(2)Conform:3T MRI特有の問題である磁場均一性を解決する技術。特に円柱状の静磁場領域を形成することで,人体の形状に合わせて,広い範囲で静磁場均一性の向上を図っている(図1)。これによって,特に躯幹部,あるいは関節領域の検査に有用性を発揮する。

図1 Conform:静磁場均一性を人体形状に最適化
図1 Conform:静磁場均一性を人体形状に最適化

(3)Multi-phase Transmission:給電点を4ポイントに増やすことによって,均一で理想的なコイル内の電流分布を保ち,人体の特性に合わせてB1不均一を低減する(図2)。これにより,躯幹部の画質が大幅に向上する。

図2 Multi-phase Transmission
図2 Multi-phase Transmission

中枢神経領域を中心に検査を行う立場から考察すると,Titan 3Tは,先行する3T MRIで積み重ねられてきたソフトウエア面でのノウハウや,東芝が1.5Tで培ってきた技術を取り入れたことが大きなアドバンテージとなっている。特に,中枢神経領域では,日常的なルーチン検査から先端的な検査であるMR spectroscopy(MRS)や拡散トラクトグラフィまでカバーし,さらに,東芝が従来から得意としている高画質のMR DSAやblack blood MRAの撮像にも対応する。
また,患者さんにとっては,ガントリの開口径が広いこと,東芝独自の静音化機構"Pianissimo"が搭載されていることで,良好な検査空間を提供できている。従来の3T装置では,耳栓やヘッドホンが不可欠だったが,Titan 3Tでは耳栓を用いずに検査が可能となった。実際,音の問題を理由として検査ができなかった例は,当院ではこれまでに経験していない。

Vantage Titan 3Tによる中枢神経領域での初期経験

ここからは,当院におけるTitan 3Tによる実際の臨床画像を提示する。はじめに,頭部領域のルーチンと,それに近い撮像について概説し,続いて,MRSや拡散テンソルトラクトグラフィ,非造影MRAなど,先端的な検査について述べる。

●ルーチンと,それに近い撮像

ルーチン検査では,spin echo(SE)法のEPIによる拡散強調画像,FLAIR像,T2強調画像など,ほとんどのシーケンスが1.5Tと同様のパラメータ,スキャン設定で撮像可能である(図3)。3T MRIでは当初から,造影T1強調画像の最適な撮像条件についての議論があるが,当院ではボランティアや臨床症例で検討を重ねた結果,現状ではinversion pulseを加えてinversion recovery(IR)法による撮像を行っている。また,造影T1強調画像は,脳神経外科サイドの要望で,基本的には造影前と同一の条件で撮像している(図4)。しかしIR法では,3Tとしての造影検査のメリットが十分生かせるとは言えず,従来のSE法による造影T1強調画像の方が造影効果が大きいと考えられる。ただし,血流や拍動によるアーチファクトが増えるなどのデメリットもあることから,脳転移や腫瘍性病変がある場合には,描出能を高める目的でSE法を追加している。
また当院では,3Tの造影T1強調画像は基本的に2Dスキャンで撮像しているが,高いSNRを応用して3Dスキャンも行っている。図5は,傍鞍部髄膜腫の症例であるが,脳全体を4分35秒で撮像でき,特に限局性の病変では,ターゲットを絞った再構成が可能となる。今後,さまざまな症例で,どのようにルーチン化していくかは検討が必要である。

図3 頭部ルーチン画像
図3 頭部ルーチン画像

図4 造影T1強調画像(b,c)a,b:IR法,c:SE法
図4 造影T1強調画像(b,c)
a,b:IR法,c:SE法

図5 傍鞍部髄膜腫の3D-FE画像
図5 傍鞍部髄膜腫の3D-FE画像

1)MRA
Titan 3TによるMRAはルーチンで,1.5Tと比べて高画質の画像が得られている。東芝のMRAは,1.5T装置でも高いクオリティを達成していたが,3Tではさらに向上したと言えるだろう。当院では,動脈瘤症例の検査やフォローアップが多いが,図6のような,左内頸動脈の動脈瘤症例におけるボリュームレンダリング画像(b)は,診断に有用と考えられる。3TのMRAでは,ウイリス動脈輪近傍のみならず,中大脳動脈(MCA)の末梢血管の描出能が高くなっている。図7は,未破裂動脈瘤のフォローアップの症例で,1年前に撮像した1.5T(a)と,Titan 3T(b)によるボリュームレンダリング画像だが,1.5Tと3Tでは,描出能の違いが一目瞭然である。

図6 左内頸動脈動脈瘤のMRA a:MIP画像,b:ボリュームレンダリング画像
図6 左内頸動脈動脈瘤のMRA a:MIP画像,b:ボリュームレンダリング画像

図7 未破裂動脈瘤のフォローアップMRA a:1.5T,b:3T
図7 未破裂動脈瘤のフォローアップMRA
a:1.5T,b:3T

2)HOP-MRA(Hybrid of OPposite-contrast MRA)
われわれと東芝が共同開発したHOP-MRAは,同時に取得した3D-TOFの高信号からblack blood法の低信号をサブトラクションすることで血流信号を増強し,末梢動脈の描出能を向上させる新しい撮像法である。Titan 3TによるHOP-MRA(図8)では,従来の3D-TOF(a)に比べて,HOPの画像(b)で,末梢の動脈分枝の描出能が,より向上していることがわかる。冠状断方向のHOP-MRA(図9)は,バイパスの血流の開存と,さらに末梢の血管の状況が確認でき,3TによるHOP-MRAでは,きわめて良好な画像が得られている。

図8 HOP-MRA(b) 3D-TOF(a)に比較して,末梢の血管まで描出されている。
図8 HOP-MRA(b) 3D-TOF(a)に比較して,末梢の血管まで描出されている。

図9 冠状断方向のHOP-MRA(b)
図9 冠状断方向のHOP-MRA(b)

3)MR DSA
図10は,Titan 3Tによる髄膜腫のMR DSAである。撮像マトリックスの精度を1.5Tよりも上げたため,時間分解能は約1秒になったが,腫瘍は良好に増強されている。正常動脈の末梢,あるいは脳表静脈の細部までよく描出されている。

図10 髄膜腫のMR DSA
図10 髄膜腫のMR DSA

4)real IR
real IRは,薄いスライス厚でもコントラスト分解能に優れた撮像法である。痴呆性疾患などで注目されている海馬領域を中心に,T1強調の2Dスキャンを行った(図11)。画像を拡大すると,内部のコントラストも非常に良好なことがわかる(図12)。同様にT2強調の2D-STIRでも,比較的良好な画像が得られている(図13)。海馬内部の微細構造も,高い空間分解能で描出することが可能となっている。

図11 海馬領域のreal IR
図11 海馬領域のreal IR
図12 図11の拡大画像
図12 図11の拡大画像
図13 海馬領域のT2強調2D-STIR
図13 海馬領域のT2強調2D-STIR

5)3D-FLAIR
Titan 3Tによる3D-FLAIRの画像を示す。図14は20代,女性で,多発性の虚血性病変の精査目的で検査を行った。図14にあるような撮像条件でスキャンし,得られた画像は高いSNRを有している。3D-FLAIRでは,図15のように,後処理により多断面で三次元的に描出することもでき,多発性硬化症などで臨床的に有用な画像が得られるのではないかと考えられる。

図14 血管炎(疑い)の3D-FLAIR
図14 血管炎(疑い)の3D-FLAIR

図15  多発性硬化症の多断面3D-FLAIR
図15 多発性硬化症の多断面3D-FLAIR

●応用的撮像法

次に,Titan 3Tによる応用的な撮像法の画像を提示する。

1)MRS
図16は,glioblastoma(神経膠芽腫)のMRSである。MRSは1.5Tでも可能だが,3Tではマルチボクセルによる解析をルーチンで問題なく行うことができる。

図16 glioblastomaのMRS(TE=136)
図16 glioblastomaのMRS(TE=136)

2)拡散テンソルトラクトグラフィ
図17は,拡散テンソルトラクトグラフィで脳梁に連続する神経線維を描画したものだが,同一症例ではないものの,1.5Tに比べて3Tでは,より高精細な描出が可能になっている。

図17 拡散テンソルトラクトグラフィ 3T(a)と1.5T(b)の比較
図17 拡散テンソルトラクトグラフィ 3T(a)と1.5T(b)の比較

3)fMRI(ファンクショナルMRI)
fMRI(図18)では,従来の東芝社製1.5T装置に搭載されていたソフトに改良が加えられており,さらに,作成手順がわかりやすくなって操作性が向上している。

図18 fMRI
図18 fMRI

4)FSBB
次に,ボランティアによるblack blood MRAの画像を示す(図19)。磁化率強調画像と組み合わせたFSBB(flow-sensitive black blood)で動脈・静脈とも描出可能で,特に動脈の末梢,脳室周囲の上衣下静脈が非常に良好なコントラストで描出されている。また,最近注目されている穿通枝も,末梢まで良好に描出することができる。

図19 FSBB
図19 FSBB

5)灌流画像
図20は,造影剤を使った髄膜腫の灌流画像で,CBF(脳血流量)とCBV(脳血液量)を示している。増強されている腫瘍の内部を灌流画像のパラメータで見ると,かなり不均一な部分が認められる。1.5Tによる撮像データと比べることは厳密には難しいが,3Tによって,各パラメータの微細な差が描出されていることが推測される。

図20 髄膜腫の灌流画像
図20 髄膜腫の灌流画像

6)非造影MRA
図21に,東芝が1.5Tで先駆的に取り組んできた非造影MRAであるTime-SLIP法のTitan 3Tによる画像を提示する。1.5TではT1値の変化がバックグラウンドにも影響して,頭蓋内の末梢血管の描出は難しかったが,3Tでは磁場均一性を高めることなどにより,3Tの特長である高いSNRやT1値の延長といったファクターを生かすことで,末梢血管まで描出できるようになった。非造影MRAについても,Titan 3Tの初期経験の中でコンスタントに画像が得られており,今後さらに,症例を積み重ねていきたいと考えている。

図21 Time-SLIP法による非造影MRA
図21 Time-SLIP法による非造影MRA

まとめ

Titan 3Tでは,神経放射線領域のルーチン検査から先端的検査まで,問題なく施行できており,さらに,東芝がこれまで得意としてきたMR DSA,black blood MRA,非造影MRAについても,3Tのメリットを生かした検査が可能になっている。導入当初より,通信系やユーザーインターフェイス,本体の動作などの安定性が増し,当院のような"野戦病院"に近い,多忙な施設でも安心して使える3T MRIではないかと実感している。今後も,種々の分野での技術の発展を取り入れて,さらに質の高い検査ができるようになると考えている。

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