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Seminar Report

第51回日本消化器がん検診学会総会 ランチョンセミナー 4
消化器専門病院が考える大腸がんCT検診 ─導入経緯と実運用,そして導入効果─

2012年6月1日(金),2日(土)の日程で,熊本市市民会館崇城大学ホール/熊本市民会館,熊本市国際交流会館を会場に第51回日本消化器がん検診学会総会が開催された。2日(土)には東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー4が行われ,(財)福井県健康管理協会県民健康センター所長の松田一夫氏を座長に,「消化器専門病院が考える大腸がんCT検診」のテーマで,64列マルチスライスCT「Aquilion CXL」によるCT Colonography検診について,医療法人山下病院理事長の服部昌志氏と同院放射線科部長の山葡ハ尋氏が講演した。

山下病院における大腸がんCT検診の実際

山普@通尋(医療法人山下病院 放射線部部長)

山普@通尋(医療法人山下病院 放射線部部長)
山普@通尋
1981年 東海医療技術専門学校卒業。82年 医療法人山下病院入職,同放射線科主任,同放射線科技師長を経て,2012年より現職。

山下病院では,大腸CT検査(CT Colono-graphy:CTC)を2003年に始めてから,内視鏡なども含めた年間の大腸検査件数がおよそ5500件にまで増加し,もはや限界に達したことから,既存の16列マルチスライスCTに加えて,64列の「Aquilion CXL」(東芝メディカルシステムズ社製)をCTC専用装置として導入した。本講演では,当院におけるCTCの豊富な経験をもとに,前処置,大腸の拡張法,被ばく低減技術,一次チェックのポイントについて述べる。

■前処置

●従来法による前処置

CTCで良好な画像を得るためには,良好な前処置と,良好な腸管拡張が重要である。
前処置の従来法には,ブラウン変法とゴライテリー法の2つがある。CTCでは色調変化で残便と病変との識別を行うことができないため,残便は偽陽性の要因となる。また,残液があると粘膜面を覆ってしまい,データの途絶や盲点の原因となる。残便は,体位変換によって動くこともあるが,まったく移動,形状変化しない場合がある。しかし残液は,体位変換によって重力方向に確実に移動することから,CTCではゴライテリー法の方が優位であると考えられる。当院では,ゴライテリー法の前日等張法を採用しているが,受容性が低いことが課題である。

●タギング法による前処置

現在,受診者の受容性が高い,バリウムを用いたタギング法の評価を行っている(薬事未承認)。タギング法では検査食(FG-one★:伏見製薬販売)も,従来と比較して,充実したものを用意できるようになった。検査前日の毎食後,バリウム約30mLと,コップ1杯以上の水を飲んでいただく。従来,1800〜2000mL必要だった下剤は,就寝前の約200mLのみですむ。
残渣がバリウムで標識されているため,病変を疑わせるような隆起も,VE+MPR像を用いることで,一目で残渣であることがわかる。

■腸管拡張

2011年8月に,国内初のCTC用医療機器として,炭酸ガス(CO2)の持続注入が可能な送気装置「プロトCO2L」(エーディア社販売)が,カテーテルセットとともに承認された。検査中に拡張を維持しつつ,検査終了後すぐに腹圧を下げられるのは,受診者にとっても大きなメリットである。
当院では,CT室にて受診者にまず鎮痙剤を投与し,約5分後に腸管拡張を開始する。炭酸ガスの注入体位は,仰臥位を選択している。腸管拡張法の流れとポイントを図1に示す。
ガスが小腸に流出して,大腸が十分に拡張せず,2体位撮影しても評価が難しい場合もある。そのときは,下行結腸側を高くし,側臥位で撮影する。
また,腹臥位では受診者自身の体重で横行結腸が途絶しがちであるが,東芝社製CTC用寝台マットを用い,圧力を分散させることで,良好な拡張が得られる。
検査終了時には,盲点がないかどうかをaxial像で判断し,必要に応じて追加撮影する。

図1 腸管拡張法のポイント
図1 腸管拡張法のポイント

■被ばく低減

●低線量CTCの可能性

検出器の多列化に伴ってスキャン速度は上がり,現在,当院でのCTCの撮影時間は,5〜10秒程度になっている。
Hirofujiらは,人体ファントムを用いてCTCと注腸検査の被ばく線量をそれぞれ測定し,診断可能な画像取得は,低線量のCTCで5.7mSv(両体位),注腸検査は約10mSvであったと報告している1)。当院でも同じ人体ファントムを用い,低線量で撮影したところ,男性で6.85mSv,女性で6.74mSv(共に両体位)という結果であった。

●AIDR 3Dによる被ばく低減効果

被ばく低減の新技術として最近,“AIDR 3D”などの逐次近似再構成法を応用した低線量撮影が注目されている。
1体位で撮影した大腸がんの症例で検討したところ,S状結腸がノイズもなく描出されており,被ばく線量は0.71mSvだった。
AIDR 3Dの有無でCTCの画像を比較すると,AIDR 3Dなしの場合はノイズが強く,評価が難しくなることがわかる(図2)。
同一の患者で,AIDR 3D導入前後の被ばく線量を16症例で横断的に比較してみると,ほとんどの受診者で,およそ50%低減していた(表1)。No.14の受診者(表1の囲み)では31%しか低減できていないが,体重が約10kg増加しており,体格の変化を見て線量をコントロールしていることがわかる。
造影検査後の低線量CTCでは,膀胱にたまった造影剤がアーチファクトの原因となる。CT値が500HU以下であれば影響は少ないが,毛羽立ち様アーチファクトが描出されることがある。AIDR 3Dを使いつつ線量はもう少し上げるべきかどうかなど,今後,現場のわれわれが判断していかなければならないだろう。

図2 AIDR 3Dの有無によるノイズの差
図2 AIDR 3Dの有無によるノイズの差

表1 同一受診者におけるAIDR 3D導入前後の被ばく線量比較
表1 同一受診者におけるAIDR 3D導入前後の被ばく線量比較

■一次チェックのポイント

一次チェックにあたっては,使用しているワークステーション(WS)の表示画像の特徴を理解することが,最も重要である。当院で用いているWS(ziostation2:ザイオソフト社製)の大きな特徴は,大腸を開いて伸ばしたVGP像である(図3)。歪みはあるが,大腸全体の粘膜面に異常がないかどうかを評価するには,非常に適している。
一次チェックでは,まず大腸を抽出したVR像で,壁に変化があるかどうかを観察する。次に,VGP像で全粘膜面をチェックし,変化が認められればVE+MPR像で腸管の内外を確認する。その後,VE像で全体を見ていく。
最終的には,病変が疑われる画像を提供するが,見る角度をマウスで操作すると,襞が引きつったように描出されるなど,存在診断だけでなく,質的診断も可能ではないかと考えている。

図3 VGP(仮想切除標本展開像)2体位比較評価(ザイオソフト社製ziostation2)
図3 VGP(仮想切除標本展開像)2体位比較評価(ザイオソフト社製ziostation2)

2012年1月よりCTC撮影加算が認められるようになったことで,今後CTCは急速に普及していくことが予想される。1日に数例のCTCを行う施設では,CT本体コンソールのWSで十分評価可能である。Aquilion CXLのコンソールWSにおけるコロンビューイングソフトウエアを用いたlaterally spreading tumor(LST)の展開像でも,襞の上に大小2つの病変がはっきり描出されているのがわかる(図4)。VE像,MPR像も,コンソール上で十分に評価することができる。

図4 Aquilion CXLのコンソールWSでの画像評価 襞の上に病変(○)が認められる。
図4 Aquilion CXLのコンソールWSでの画像評価
襞の上に病変()が認められる。

■まとめ

今後,できるだけ多くの施設でCTCが行われるようになることで,大腸がんの早期発見と死亡率の減少につながることを期待している。

●参考文献

1)Hirofuji, Y., et al. : Evaluation of patient dose for barium enemas and CT Colonography in Japan. Brit. J. Radiol., 82, 219〜227, 2009.

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