東芝メディカルシステムズ

別冊付録

心エコーの最新動向
心筋内虚血メモリーを2D speckle tracking imageで観察する
(Detection of postischemic diastolic stunning by using 2D speckle tracking image)

石井克尚(関西電力病院循環器内科)

冠血流が低下し心筋に虚血が生じた場合,最初に心筋の代謝障害に始まり,続いて拡張機能障害,収縮機能障害,心電図変化,そして最後に胸痛という一連の現象が起こる。これがいわゆるischemic cascade(虚血の滝)として知られる現象である。逆に,冠血流が回復し虚血が改善した場合に生じる現象をreverse ischemic cascadeと呼ぶが,近年,この虚血発作後のreverse ischemic cascadeを心エコー法で観察する過程で,収縮機能が改善した後も心筋内に遷延する拡張機能障害,すなわちpostischemic diastolic stunningが報告され,心筋内虚血メモリーという新しい概念が注目されている。本稿では,この心筋内虚血メモリーを2D speckle tracking imageで検出する新しい心筋虚血診断について紹介する。

心筋虚血と左室壁運動異常−reverse ischemic cascadeとdiastolic stunning

冠動脈を閉塞して急性心筋虚血を作製すると,その冠動脈支配域の心筋壁運動が直ちに低下し,収縮期にむしろ伸展することを1935年にTennantとWiggersらが報告した。また,臨床的には冠動脈をPTCAバルーンで閉塞すると,心電図変化や狭心痛に先行して左室壁運動異常が出現することが報告されている。このように,一過性の局所心筋機能低下は,心筋虚血に対する鋭敏な指標として用いられている。さらに,前述したように,心筋虚血による左室機能障害には拡張不全と収縮不全が存在し,一般的には拡張不全が収縮不全に先行して生じる。しかしながら,虚血による心筋障害では拡張機能障害の後に速やかに収縮機能障害が生じるため,臨床の現場では急性の心筋虚血が進行中に拡張不全のみを検出することは困難である。一過性の虚血によるsystolic stunningはfree radicalとカルシウム負荷によって起こることが動物実験などで報告されているが,diastolic stunningに関しての報告はまだあまりなく,現在のところ虚血後に持続する心筋脂肪酸代謝異常により,心筋細胞質内のfreeなカルシウムの小胞体内への取り込みが障害され,早期の拡張運動が遅延すると考えられている。
近年,Dilsizianらは,心筋脂肪酸代謝トレーサであるBIMPP心筋シンチグラフィ検査を用い,運動負荷後に左室虚血部位の脂肪酸代謝異常が30時間以上にわたり持続していることを報告しており1),Ishiiらはcolor kinesisを用い,狭心症患者において,トレッドミル運動負荷後に収縮異常が回復後も拡張運動遅延が遷延することを報告している2)。また,Pislaruらはストレインレートを用い,急性心筋虚血において,左室局所のasynchronyが観察できることを報告している3)。われわれは,このreverse ischemic cascadeの過程において,虚血が解除された後に遷延する心筋内虚血メモリーを,2D speckle tracking image(Aplio SSA-770A:東芝社製)を用いて検出することに成功した。

心筋虚血における収縮期ストレイン,ストレインレートの変化

これまでの心筋虚血診断は,主として断層心エコーにより肉眼的に虚血部位の心内膜運動および壁厚増加の異常を検出することによりなされてきた。しかし,診断における定量性や客観性に問題があり,また肉眼診断ではその時間分解能の限界により,急性虚血の重要な所見である駆出後収縮運動(postsystolic shortening:PSS)や収縮遅延(tardokinesis)が検出されにくい。
それに対し,ストレインおよびストレインレートは局所左室壁厚変化や変化率を定量的にとらえることができ,冠動脈支配に従って生じる心筋虚血の診断に適している。これまでのストレイン法による心筋虚血の評価に関し,陳旧性心筋梗塞部位でのストレイン値の低下はほぼ定説となっており,また,急性虚血では直後から収縮期の最大心筋組織速度やストレインが著明に低下ないし反転することが報告されている。Edvardsen4)らは,左前下行枝の狭窄部位に対しバルーンを用いて開大中,心尖部と前壁中部でストレイン値の低下を認め,ほかの部位では変化しなかったと報告している。またSkulstad5)らは,冠動脈バイパス術中に左前下行枝血流を遮断する前後で,経食道エコーを用いて長軸方向のストレインの変化を観察し,同様の結果を得ている。

駆出後収縮運動(postsystolic shortening:PSS)

局所の収縮性が虚血など,何らかの原因により低下すると,その他の正常部の収縮による心内圧の上昇に打ち勝って収縮することができず,収縮期が終了し,左室内圧の低下する収縮末期から拡張早期に遅れて収縮様運動が認められることが報告されており,PSSと呼ばれている6)。この駆出終了後の収縮は虚血の鋭敏な指標の1つと考えられており,主として等容性拡張期(isovolumic relaxation time)に認められる。
Pislaru7)らは動物実験において,PSSがストレイン,ストレインレートを用いて観察でき,虚血の診断に有用であることを報告している。また,Voigtらは冠動脈疾患患者において,心筋シンチグラムとドブタミン負荷心エコーの両者で比較し,虚血部位において,収縮末期ストレイン値の低下とPSSの出現を認め,さらに血行再建による虚血の改善とともにPSSが消失することを報告している。Kukulskiらは,PCI治療において,バルーンでの冠動脈閉塞中にpostsystolic strainが増加し,再灌流にて回復することを報告している。

2D speckle tracking imageを用いた拡張期負荷心エコー法

近年,color kinesisを用いて虚血発作後に収縮運動が回復した後も心筋局所の拡張運動遅延が遷延(diastolic stunning)することが報告されており,運動負荷後にストレインを用いてこのdiastolic stunningを検出し,冠動脈狭窄を診断する新しい運動負荷心エコー法が検討されている。Zhu8)らはtissue velocity imagingを用い,運動前および負荷5分後における拡張期ストレイン解析を行い,心筋シンチグラムにて虚血が確認された領域において感度91%,特異度89%で虚血分画の判定が可能であると報告している。また,Ishii9)らは,2D speckle tracking imageによるストレインを拡張期負荷エコー法に応用し,労作性狭心症患者において75%以上の冠動脈狭窄の診断を検討している(図1〜4)。彼らの検討では,運動負荷前および5分後における拡張早期1/3時間における拡張期ストレイン値の比を測定し,0.66以下をcut-off値とした場合の診断精度は感度96%,特異度90%であり,従来の収縮運動異常を検出する負荷エコー法より優れていた。また,運動負荷5分後に画像を記録するため,ストレイン解析が安定しやすい利点がある。

図1 66歳,男性,労作性狭心症 左冠動脈seg 6:90%狭窄症例
図1 66歳,男性,労作性狭心症 左冠動脈seg 6:90%狭窄症例

図2 図1の症例のトレッドミル運動負荷前,負荷5分後における2D speckle tracking image(心尖部長軸断面,拡張早期1/3時間における静止画像)と,transversal strain曲線
図2 図1の症例のトレッドミル運動負荷前,負荷5分後における2D speckle tracking image(心尖部長軸断面,拡張早期1/3時間における静止画像)と,transversal strain曲線
拡張早期1/3時間における2D speckle 画像において,中隔基部から心尖部(虚血部)で拡張期ストレインの高値が持続している(黄色のmapping領域)。前壁中隔と後壁のtransversal strain曲線の解析では,運動負荷5分後において両領域ともストレイン値はほぼ回復しているが,前壁中隔(虚血部)においてPSSと拡張期ストレインの遅延を認める。

図3  63歳,男性,労作性狭心症 右冠動脈seg 2:75%狭窄症例
図3 63歳,男性,労作性狭心症 右冠動脈seg 2:75%狭窄症例

図4 図3の症例のトレッドミル運動負荷前,負荷5分後における	2D speckle tracking image(心尖部二腔断面,拡張早期1/3時間における静止画像)と,transversal strain曲線
図4 図3の症例のトレッドミル運動負荷前,負荷5分後における 2D speckle tracking image(心尖部二腔断面,拡張早期1/3時間における静止画像)と,transversal strain曲線
拡張早期1/3時間における2D speckle 画像において,下壁基部から中部(虚血部)で拡張期ストレインの高値が持続している(黄色のmapping領域)。前壁領域のtransversal strain曲線の解析では,運動負荷5分後において両領域ともストレイン値はほぼ回復しているが,下壁領域 (虚血部)において拡張期ストレインの遅延を認める。

2D speckle tracking imageを用いた不安定狭心症の診断−postischemic diastolic stunningの検出

心筋梗塞患者の50%以上において,発作早期の心電図変化は非特異的である。血液マーカーであるCK-MBは,胸痛発作後6時間以降の感度は優れているが,発作4時間以内では感度が低下する。現在,心筋壊死に対する最も感度の高い血液マーカーはトロポニンTとトロポニンIであるが,腎機能障害などの影響を受ける。
心エコー検査は胸痛患者の診療において,救急室で施行でき,しかもその場で診断できる利点がある。心エコー検査により胸痛患者の(1) 左室収縮機能,(2) 左室拡張機能,そして最近では(3) 心筋灌流の状態までが救急室で評価可能であり,診断とトリア−ジに役立っている。また,心筋虚血以外の胸痛疾患の鑑別にも非常に有益である 。
近年,心筋虚血が解除された後のreverse ischemic cascade現象を応用し,虚血発作後に遷延する局所拡張機能障害(diastolic stunning)を検出することで,冠動脈疾患を診断可能であることが報告されている。心筋虚血により生ずる拡張機能障害にはPSSや拡張早期運動障害があるが,color kinesisや組織ドプラ法,ストレイン法を用いてこれらの現象が観察できる。Ishiiら10)は,冠攣縮性狭心症患者において,数週間にわたりpostischemic diastolic stunningがcolor kinesisを用いて検出可能であることを報告している。またWangら11)は,組織ドプラー法を用いた動物実験において,心筋灌流低下領域で安静時の心内膜拡張運動異常が観察されることを報告し,臨床ではOnishiら12)が,虚血心筋において等容拡張期にpositive myocardial velocityが観察され,これを応用したパラメトリック・イメージ(DADI)が胸痛患者の鑑別に有用であることを報告している。Liangら13)も,2D speckle tracking imageを用い,冠動脈に70%以上の高度狭窄を有する領域では,安静時においても拡張早期のlongitudinal strain rateが低下していることを報告している。
これらの方法を用いることにより,2Dエコーで収縮異常を認めない症例においても心筋虚血を診断可能であり,胸痛患者の診断において非常に有用な方法と考えられる。

症例提示

来院時に明らかな心電図異常,血液マーカーの陽性所見,および2Dエコーにて左室壁運動異常を認めなかったが,2D speckle tracking imageを用い,責任冠動脈領域においてpostischemic diastolic stunningを確認し得た不安定狭心症例を提示する。
54歳,男性,2週間前からの労作性胸痛を自覚し,症状増悪するため来院。2D speckle tracking imageで下壁領域にpostischemic diastolic stunnigを認め,下壁基部から心尖部領域のtransversal strain曲線での解析では,同領域にPSSが観察されている(図5)。冠動脈造影では,右冠動脈に不安定プラークを認める(図6)。血行再建術後の2D speckle tracking imageでは,下壁領域のdiastolic stunningは消失し,transversal strain曲線も正常化しているのがわかる(図7)。

図5 54歳,男性,不安定狭心症の胸痛発作6時間後の2D speckle tracking image(心尖部2腔断面,拡張早期1/3時間)と,transversal strain曲線
図5 54歳,男性,不安定狭心症の胸痛発作6時間後の2D speckle tracking image(心尖部2腔断面,拡張早期1/3時間)と,transversal strain曲線
収縮末期において各セグメントのストレイン値は上昇しているが(左),拡張早期に下壁領域でdiastolic stunning(黄色にmappingされている領域)が観察され,transverse strain曲線では,同領域においてPSSが認められる(←)。

図6 図5の症例の冠動脈造影
図6 図5の症例の冠動脈造影
冠動脈造影では,右冠動脈(seg 3)にプラーク破裂を認める。

図7 図5の症例のPCI後の2D speckle tracking image(心尖部2腔断面,拡張早期1/3時間)と,transversal strain曲線
図7 図5の症例のPCI後の2D speckle tracking image(心尖部2腔断面,拡張早期1/3時間)と,transversal strain曲線
下壁領域でのdiastolic stunningは消失し(左),同領域のtransverse strain 曲線は正常パターンに改善している(右)。

●参考文献
1) Dilsizian, V., Bateman, T.M., Bergmann, S.R., et al.: Metabolic imaging with β-methyl-p-[123I]-iodophenyl-pentadecanoic acid identifies ischemic memory after demand Ischemia. circulation,112,2169〜2174,2005.
2) Ishii, K., et al.: Detection of postischemic regional left ventricular delayed outward wall motion or diastolic stunning after exercise-induced ischemia in patients with stable effort angina by using color kinesis. J. Am. Soc. Echocardiogr., 2008(inpress).
3) Pislaru, C., Belohlavek, M., Bae, R.Y.,et al.: Regional asynchrony during acute myocardial ischemia quantification by ultrasound strain imaging. J. Am. Coll. Cardiol., 37,1141〜1148, 2001.
4) Edvardsen, T. et al.: Regional myocardial systolic function during acute myocardial ischemia assessed by strain doppler echocardiography. J. Am. Coll. Cardiol., 37・726〜730, 2001.
5) Skulstad, H. et al.:Grading of myocardial dysfunction by tissue Doppler echoca-rdiography ; A comparison between velocity, displacement, and strain imageing in acute ischemia. J. Am. Coll. Cardiol., 47,1672〜1682, 2006.
6) )Skulstad, H. et al.: Postsystolic shortening in ischemic myocardium ; Active contraction or passive recoil ?. Circulation, 106,718〜724, 2002.
7) Pislaru, C. et al.: Higher myocardial strain rates during isovolumic relaxation phase than during ejection characterize acutely ischemic myocardium. J. Am. Coll. Cardiol., 40, 1487〜1494, 2002.
8) Zhu, et al.: Estimation of myocardial ischemia by diastolic strain analysis in exercise stress echocardiography ; Comparison with exercise thallium-201 single photon emission computed tomography. J. Cardiol., 47・4, 165〜172, 2006.
9) Ishii, K. et al.: Diagnosis of coronary artery disease by detection of post-ischemic diastolic dyssynchrony after treadmill exercise using strain image derived from 2D speckle traking. J. Am. Coll. Cardiol., 49・9, suppl 177A, 2007.
10) Ishii, K. et al.: Prolonged postischemic regional left ventricular delayed relaxation or diastolic asynchrony detected by color kinesis following coronary vasospasm. Am. J. Cardiol., 91,1366〜1369, 2003.
11) Wang, J. et al.: Delayed onset of subendocardial diastolic thinning at rest identifies hypoperfused myocardium. Circulation, 111,2943〜2950, 2005.
12 ) Onishi, T. et al.: Positive isovolumic relaxation velocity detected by a spectral tissue doppler mapping technique as an indicator of coronary artery disease ; A prospective study. J. Am. Soc. Echocardiogr., 20,158〜164, 2007.
13) Liang, H.Y. et al.: Usefulness of two-dimensional speckle strain for evaluation of left ventricular diastolic deformation in patients with coronary artery disease. Am. J. Cardiol., 98,1581〜1586, 2006 .

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