東芝メディカルシステムズ

別冊付録

消化管エコーの最新動向
Gastroenterological Ultrasound CT,MRI 時代の消化管超音波とは

畠 二郎ほか(川崎医科大学 検査診断学 内視鏡・超音波部門)

消化管超音波の現況

1)消化管は超音波検査の対象として認識されているか?
「近年の機器の改良に伴い,消化管も超音波の対象臓器として注目を集めつつある」というフレーズはすでに陳腐なものとなった感があるが,さりとて一定のレベルで広く臨床に導入されているとは必ずしも言えないのが実情である。消化管の超音波診断における最大の課題はこの点にあり,走査法や画像の解釈に関するスタンダードを設定し,それに基づく普遍的な診断能や有用性を明らかにしていくことが今後,消化管領域における画像診断法としての地位を確立するために必要である。正しい手技や画像解析ができれば,日常臨床上必須の診断ツールとなりうることは,いくつかの施設がすでに報告している。
また,東芝メディカルシステムズ社の協賛により,毎年全国数か所で開催されている「消化管エコーセミナー」は,消化管超音波の普及に大きく貢献しており,最近では学会においても説得力のある画像や詳細な画像解析を目や耳にする機会も増えた。特に,超音波検査士のこの領域におけるレベルアップは著しいが,一方で,消化管を超音波で評価するという概念すらない医師や技師も多い。
すなわち,現在わが国では,「消化管なんて見えるわけがない」から「超音波で大半の疾患は診断できる」というレベルまで,幅広いスペクトラムが存在していると言えよう。

2)消化管の診断法は超音波以外にもある
消化管の超音波診断に対する機運がいまひとつ盛り上がらない間に,断層診断法としてのCTやMRIは格段の進歩を遂げ,Virtual Endoscopy(仮想内視鏡)に代表されるように,消化管領域においても積極的に応用されつつある。Fly-through imageで,大腸や小腸の美しいVirtual Endoscopyを見れば,「いまさら消化管超音波に存在意義はあるのか?」という疑念が湧いても不思議ではない。さらに,消化管には従来からX線二重造影検査や内視鏡検査といった画像診断のゴールドスタンダードが存在する。では,消化管領域において超音波(体外式)は,これらのモダリティに対してどのような優位性が期待され,それを生かすためには何をどう見ればよいのであろうか?
ちなみに筆者は,消化管に限らずすべての領域において,「一応超音波でもやっておくか」という言い方は好きではない。侵襲がない代わりに期待感もない,というイメージが強いからである。もし病院内でそういう言葉が頻回に聞かれるようであれば,そこでの超音波の存在意義はグリコキャラメルのおまけにも劣っている恐れがある。いささか脱線したが,本稿では,超音波の特性を生かした消化管疾患の診断について述べる。

基本はBモード!

1)CT,MRIと超音波の違い
CTやMRIとは異なり,超音波にはいわゆる組織分解能はない。「脂肪は白く見えるじゃないか!」と思われるかもしれないが,試しに天ぷら油をカップに入れて観察してみてほしい。ほぼ無エコーであることがわかるだろう。音響インピーダンスの境界がなければ,水も黒,油も黒である。しかし,超音波には組織構築を高い分解能で表示することができるという特長があり,特に,消化管ではその威力が最大限に発揮される。超音波像は,病変のHE染色ルーペ像とよく対応しており,CTやMRIとはその分解能において,また,X線二重造影や内視鏡とは断層像が得られる点で優位性が存在する。したがって,この特長を生かさなければ超音波の存在意義はないと言っても過言ではない。

2)体外式でも層構造を評価しよう
消化管の超音波診断には,薄い壁の層構造を分離する高い分解能が要求されることから,プローブの改良による送受信感度の向上,Pulse Subtraction法や広帯域の周波数を受信して画像化するDifferential THIなどのハーモニックイメージング,さらにはコンパウンド技法であるApliPureなど,送受信にかかわる種々の手法が大きく寄与している。これらの改良によりBモード画像は飛躍的に向上し,微細な変化も描出されるようになったことから,消化管においても病変を単に“pseudokidney sign”という用語でひとくくりする時代は遠い昔に過ぎ去り,細かな病理学的変化をとらえることによる,より正確な診断が求められている。機器がいくら改良されても,それを生かさなければ何の意味もなく,まさに猫に小判となってしまう。また,このような手法の開発により,画像の分解能や鮮明さを,中心周波数という単一のパラメータのみでは評価できなくなっている。
図1 aは早期胃がん(Uc,深達度m)の切除標本を水浸下に20MHz細径プローブで観察した画像,図1 bは同一標本の体外式12MHzリニアプローブによる画像である。分解能に関しては両者はほぼ同等だが,画像としては後者の方がむしろ説得力がある。すなわち,体外式でも条件が良好であれば,超音波内視鏡画像に匹敵する評価が可能ということである。
図2は,正常小児の前庭部から十二指腸球部の縦断像である。胃壁の5層構造,幽門輪筋,胃壁とは異なった層構造の比率を呈する十二指腸壁などがよく表現されている。それに対し,図3 aは,先天性肥厚性幽門狭窄症における幽門部の縦断像である。壁の肥厚により内腔が長いセグメントで狭窄している。図3 bはその横断像であるが,肥厚の主体は固有筋層であることが明瞭に描出されている。図4に,スキルス胃がんの前庭部横断像を示す。各層が不整に肥厚しているのがわかる。
がんの深達度を評価する上で層構造の描出は必須である。図5は,早期胃がん(Uc,深達度sm)の超音波像である。腫瘍を反映した低エコー域は粘膜下層深層に及んでいるが,固有筋層には達していない。図6 aは進行胃がん(深達度mp)の3.75MHzコンベックスプローブによる画像であるが,限局性の壁肥厚があるということしかわからない。一方,図6 bは同一病変の7.5MHzリニアプローブによる画像である。粘膜下層が断裂しており,進行がんであると判断できる。このように条件が不良な場合でも,積極的に高周波プローブを用いて診断に寄与する画像を得ることは可能であり,必ずしもきれいな画像が診断価値の高い画像ではない。

図1 早期胃がん(Uc)の切除標本
図1 早期胃がん(Uc)の切除標本
a:20MHz細径プローブを用いた水浸超音波像
b:体外式12MHzリニアプローブによる水浸超音波像

図2 正常小児の前庭部から十二指腸球部の縦断像
図2 正常小児の前庭部から十二指腸球部の縦断像

図3 先天性肥厚性幽門狭窄症
図3 先天性肥厚性幽門狭窄症
a:幽門部縦断像 b:幽門部横断像

図4 スキルス胃がん症例の前庭部横断像
図4 スキルス胃がん症例の前庭部横断像

図5 早期胃がん(Uc,sm)症例における胃体下部横断像
図5 早期胃がん(Uc,sm)症例における胃体下部横断像

図6 進行胃がん(mp)
図6 進行胃がん(mp)
a:3.75MHzコンベックスプローブによる胃体下部横断像
b:同病変の7.5MHzリニアプローブによる画像

3)高周波プローブを使うべし
がんに限らず,また消化管に限らず,高周波プローブの使用は有効である。図7 aは,良性胃潰瘍症例の胃角部横断像である。胃角部小彎に,潰瘍を反映した大きな壁欠損と周囲の壁肥厚が見られる。図7 bは,潰瘍周辺の高周波リニアプローブによる画像であるが,層構造は明瞭で,粘膜下層の浮腫による肥厚であり,良性潰瘍であることがわかる。
図8 aは,十二指腸潰瘍穿孔のコンベックスプローブによる画像である。十二指腸球部の壁肥厚と,free airらしい点状高エコーが描出されているが,穿孔部位の診断には至らない。図8 bは,同症例における十二指腸球部の高周波プローブを用いた画像であるが,穿孔部位が明瞭に描出されている。
このように,3MHz前後のコンベックスプローブでは病変の検出は可能であるものの,必ずしも診断に足る画像が得られるとはかぎらないため,高周波プローブを積極的に使用すべきである。筆者が研修医の時代は,「高周波プローブは小児あるいは表在臓器を診るためのものである」と教わったが,最近の高周波プローブは,腹腔内臓器の観察にも十分に応用できる。

図7 良性胃潰瘍
図7 良性胃潰瘍
a:胃角部横断像
b:潰瘍周辺の高周波リニアプローブによる画像

図8 十二指腸潰瘍穿孔
図8 十二指腸潰瘍穿孔
a:3.75MHzコンベクスプローブによる前庭部(十二指腸球部)縦断像
b:7MHzリニアプローブによる十二指腸球部縦断像

4)壁以外にも注意!
壁の層構造を評価することが消化管の超音波診断に最も重要であり,他のモダリティを凌駕する超音波の利点であるが,内外の境界,さらには壁外に眼を向けることも診断に役立つ。図9 aは,ヘリコバクターピロリ感染による鳥肌胃炎症例の胃前庭部縦断像である。壁の厚みや層構造に異常はないが,粘膜面の凹凸が著明であり,図9 bの内視鏡像をよく反映している。図10は,上腸間膜動脈(SMA)症候群症例の十二指腸水平部縦断像である。大動脈と上腸間膜動脈に挟まれた内腔の狭小化と,その口側の内腔拡張が描出されており,リアルタイムの観察では内容物の通過は見られなかった。
図11は,上行結腸憩室炎の縦断像である。壁の浮腫性肥厚,憩室および糞石とともに,周囲脂肪織の肥厚が描出されている。憩室炎や異物穿孔などの場合は,壁そのものの変化より周囲の変化を評価することが診断上重要である。
図12 aは,小腸穿孔症例における高周波プローブによる画像である。腹水中に微細な点状エコーが見られ,混濁した性状であることがわかる。一方,同一部位においてダイナミックレンジをやや狭くし,かつゲインを低くした画像を図12 bに示す。腹水の混濁は評価困難となったが,小腸壁の漿膜に付着したごく小さなfree airが,よりはっきりと認識できる。
一般に,free airの検出にはCTが最も優れているとされるが,このような小さな気泡をCTで認識することは困難である(超音波はソナゾイドの大きさのバブルも検出可能!)。また,このように目的に応じてゲインやダイナミックレンジを調節することも1つのコツである。
図13は,大腸がんの腹膜播種による腹膜上の結節である。これも同様に,他のモダリティで検出することは不可能に近い。

図9 鳥肌胃炎
図9 鳥肌胃炎
a:胃前庭部縦断像 b:胃前庭部内視鏡像

図10 上腸間膜動脈症候群症例における十二指腸水平部縦断像
図10 上腸間膜動脈症候群症例における十二指腸水平部縦断像
図11 上行結腸憩室炎の縦断像
図11 上行結腸憩室炎の縦断像

図12 小腸穿孔
図12 小腸穿孔
a:高周波プローブによる画像
b:同一部位でダイナミックレンジを狭く,ゲインを低くした画像

図13 大腸がん症例に見られた播種性の腹膜結節
図13 大腸がん症例に見られた播種性の腹膜結節

期待される新しい手法

以上,分解能の高さを生かした診断が消化管超音波の基本であることを述べたが,さらに,今後期待される新しい手法として,造影超音波と3D表示が挙げられる。造影超音波に関しては現在,ソナゾイドの保険適応が肝腫瘍に限定されているため本稿では割愛するが,種々の疾患や病態における応用が可能であることが明らかとなっている。
3D表示にはいくつかの手法が存在するが,立体の表面を観察する場合には,表示したい境界が明瞭に分離されていることが重要であり,羊水に囲まれた胎児はその点で理想的な環境にあると言える。消化管では管腔内に水を注入(飲用)すればその環境を得ることが可能となるが,小気泡そのものの反射やサイドローブ,体表側からの多重反射などを効率良く除外することは必ずしも容易でなく,ゲインやダイナミックレンジといった条件設定にも工夫を要する。一方,希釈した造影剤の内服によりこれらの問題点を軽減することが可能であり,管腔造影下での3D表示は,病変形状をより正確に反映する方法として有用である。
東芝メディカルシステムズ社の「AplioXG」に搭載されている4Dコンベックスプローブは,プローブを機械的に一定速度で扇動して三次元データを収集するものであるが,われわれは,主に中心周波数が5.0(ハーモニック表示)MHzのプローブを用いている。リアルタイム性よりも画質が優先されることから,single sweep(sweep angle:60〜75°)でデータを収集し,その後3D画像を再構成する。管腔造影を行った場合はcavity(白黒反転)表示を用いる。図14は正常な胃体部大彎の3D表示,図15は腸閉塞症例における空腸の3D表示であるが,いずれも襞が明瞭に描出されている。

図14 正常な胃体部大彎の3D画像
図14 正常な胃体部大彎の3D画像
図15 腸閉塞症例における拡張した小腸の3D画像
図15 腸閉塞症例における拡張した小腸の3D画像

将来への期待

以上,種々のモダリティが気軽に使用可能なわが国における,消化管超音波の存在意義を中心に述べたつもりである。病歴の聴取,身体所見の把握によって可能性の高い疾患を推定し,必要最小限の検査を行って診断を確定するというのは診断学の基本であるが,真にそれを理解し実践することは必ずしも容易でない。その点でも,超音波が第二の聴診器として消化管領域でも積極的に応用されるようになれば,より効率的で患者に優しい医療が展開できるはずである。また一般に,「超音波はスクリーニング,CTやMRIは精査」というイメージが強いが,使いこなすことで,超音波は他のモダリティを凌駕する診断能が期待できる。
今後,超音波検査がその存在意義を維持し続けるためには,「微細な変化の描出」と「機能の評価」がキーワードになるのではないかと思っている。同時に,超音波に特有な欠点の克服も重要な課題であり,個体条件に左右されず,すべての部位で高分解能な画像が得られるような機器の開発も切に望まれる。

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