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別冊付録

Aplioが創る超音波の新潮流(日本超音波医学会第84回学術集会お昼の勉強会より)
(2) “マルチ”で視る超音波治療 〜Aplio500による肝がんの診断と治療支援

森安 史典(東京医科大学消化器内科)

新しいAplio500で実現した肝がんの治療支援について,“Smart Fusion(スマートフュージョン)”を用いたラジオ波焼灼療法(RFA)ナビゲーションと,“Fly Thru(フライスルー)”の肝がんの診断への応用について述べる。

CTなどのデータとの連動表示を可能にする“Smart Fusion”

Smart Fusionは,新しいAplioシリーズの画像エンジンで実現された高い空間分解能と,S/N比の良い画像を生かした治療ナビゲーションのアプリケーションである。Smart Fusionでは,CTやMRIなどの他モダリティのボリュームデータと超音波画像を,磁気センサーで位置情報を関連付けて表示することができる。これによって,超音波だけでは同定しにくい病変を,CTやMRIのデータを参考にして,穿刺や治療が正確に行えるようになる。
Smart Fusionの特長は,"軸合わせ”と"目印合わせ”の2ステップで位置合わせが行えることである。Smart Registrationを用いれば,短時間に正確な位置合わせが行える。用いる超音波は,Bモード,造影,ADF,カラードプラなど,モードを選ばずに利用できることも特長である。超音波装置の本体に,送信機(磁場発生装置)をセットしたアームが取り付けられており,固定が容易で衝撃などによる位置ズレの心配も少ない。また,受信機側のセンサーは,プローブのケーブルの付け根部分に取り付けられており,操作の妨げにならない。超音波ガイド下の治療を行う場合には,特にこの操作性が良いことが重要である。

“Smart Registration"による簡単な位置合わせが可能

ここでは,Smart Registrationを用いた肝がんのRFA治療の手順を概説する。
(1)軸合わせ
Smart Registrationの位置合わせでは,最初にCTなどの他のモダリティのボリュームデータの3軸(X,Y,Z)と,プローブの磁場座標系の3軸の“軸合わせ"を行う(図1)。手順としては,CT画像で剣状突起を表示して,それに対してプローブを体軸に直交する向きにした状態を装置に認識させることで軸合わせを完了する。最初の段階で,軸合わせが正確に行われれば,治療中でも最後までCT画像との整合性を保つことができるため,重要な手順である。

(2)目印合わせ
次に,3軸をアジャストした座標の中の1点同士を合わせる“目印合わせ"を行う。具体的には,プローブを剣状突起から肋間に移動し,病変の近くで目標となる1点をCTの同じポイントと合わせることで微調整を行う(図2)。肝臓の場合では,超音波画像の門脈の分岐部とCTの分岐部を合わせて登録するのが有効である。このように目印合わせによって微調整することで,完全に超音波の断層像とCTの断層が一致する。実際の治療の際には呼吸移動があるため,目印合わせは,治療を行う呼吸のタイミングで実施することが肝要である。

図1 Smart Registrationの1ステップ 磁場の中に置かれた被検者の躯幹を使って,CTのボリュームデータと超音波プローブの軸を合わせる。
図1 Smart Registrationの1ステップ
磁場の中に置かれた被検者の躯幹を使って,
CTのボリュームデータと超音波プローブの軸を合わせる。
図2 Smart Registrationの2ステップ 目印合わせによって微調整する。
図2 Smart Registrationの2ステップ
目印合わせによって微調整する。

(3)腫瘍範囲の設定と登録
2ステップの位置合わせに続いて,腫瘍の範囲,あるいは焼灼範囲の設定と登録を行う。造影CTあるいは造影MRIの動脈相の濃染部分で,腫瘍の中心を決定し,それを囲む3cmの焼灼範囲を設定する。これによって,腫瘍を立体の中で球として三次元的に取り囲む領域が設定,登録される。この情報をもとに,穿刺治療を進めていくことになる。
Smart Fusionを使った肝がんのRFAは,まず,RFA前に画像下で腫瘍を同定し,腫瘍境界を明確にして治療シミュレーションを行う。治療中には,Smart Fusionガイド下での穿刺や,焼灼範囲と腫瘍の位置関係をリアルタイムでモニタする。治療終了後には,焼灼範囲をボリュームで同定して,それが腫瘍を取り囲んでいるかを確認し,治療が不十分な部分があれば追加の焼灼計画を立てることになる。
RFAのSmart Fusionでは,CTのボリュームデータと超音波のBモード,造影超音波の血管イメージと,Kupfferイメージを必要に応じて使用する。

“Smart Fusion"による肝がんのRFA

Smart Fusionを使った肝がん治療の実際の症例を提示する。60歳代の男性で,C型肝硬変,S6に2cmの単発・初発の肝がん症例である(図3〜6)。
まず,ソナゾイドによる造影超音波を行うが,Aplio500では造影性能も向上しており,空間分解能も高く,肝臓の浅いところから深いところまで均一な,コントラスト分解能の良い造影像が得られている。フュージョンすると,CTの動脈相とよく一致した所見で,腫瘍の範囲がさらに明瞭になる(図3)。
組織学的分化度(悪性度)を明らかにするために生検を行う。治療計画に沿って,ラジオ波の針を穿刺する(図4)。Aplio500では,空間分解能が高く,細い生検針やラジオ波の針先がきれいに見え,視認性が高い。図4はRita社の展開針だが,展開した細い針先が明瞭に観察できている。高画質なモニタ画像は,正確で安全な治療のための必須の要件である。
その後,通電によって針先が白くなり腫瘍が焼灼される状況など,焼灼予定範囲をモニタしながら治療を進めるが,Aplio500ではラジオ波によるノイズがまったくといっていいほどない。ノイズのない画像でモニタできることは術者のストレスを軽減する。
焼灼開始から約15分で治療が終了するが,追加穿刺が必要かどうかをSmart Fusionの画像により,CTデータも参考にしながら評価を行う(図5)。
治療直後に,再びSmart Fusion下のソナゾイド造影を行い,腫瘍近くの比較的太い血管が閉塞せずに残っていることが認められた。血流が増加した領域が辺縁部にリング状に見られるが,これは炎症反応を見ていると考えられる。また,この症例では十分マージンも取れていることが評価できた(図6)。
このようにAplio500では,安心できる治療,ストレスのない治療を行うことができ,Smart Fusionは,治療ナビゲーションとして威力を発揮すると考えられる。

図3 CT(a)とソナゾイド造影Kupfferイメージ(b)のSmart Fusion 画面 両者の濃染像がよく一致している。
図3 CT(a)とソナゾイド造影Kupfferイメージ(b)のSmart Fusion 画面
両者の濃染像がよく一致している。

図4 治療中の焼灼モニタ(動画)
RFAの針先が腫瘍の中心に入っていることがわかる(b)。

図5 治療から15分後の焼灼モニタ 焼灼範囲と腫瘍の位置関係がよくわかる(b)。
図5 治療から15分後の焼灼モニタ
焼灼範囲と腫瘍の位置関係がよくわかる(b)。
図6 RFA治療直後のソナゾイド造影超音波画像(b) 治療前の焼灼予定範囲(aおよびbの緑の円)と治療後の実際の 治療域の関係がよくわかる(b)。
図6 RFA治療直後のソナゾイド造影超音波画像(b)
治療前の焼灼予定範囲(aおよびbの緑の円)と
治療後の実際の治療域の関係がよくわかる(b)。

“Fly Thru”による肝内門脈腫瘍栓の診断への期待

次に,3D画像であるFly Thruの肝がん診断への応用について述べる。
東芝メディカルシステムズの超音波診断装置のメカニカル4Dプローブには,腹部用のコンベックスとマイクロコンベックス,乳腺,甲状腺,体表用のリニアをメカニカルに振るもの,経直腸,経膣用があるが,これらすべてでFly Thruが可能である(図7)。Fly Thruは,シングルスイープでボリュームデータを取得し,そのボリュームデータから"High Density Rendering"という高速画像取得・演算を行う。簡単で高速なボリューム操作を実現する新しいエンジンで画像処理を行うことで,高画質のデータを最大限に生かした透視投影像を再構成する。
Fly Thruによる肝への応用で高いポテンシャルが期待されるのは,肝内門脈の病変である三次分枝の門脈腫瘍栓(VP1)の診断である。肝細胞がんにおいて,門脈の末梢に浸潤するVP1は,従来の画像診断では診断が不可能で,外科切除標本の病理検査が必要だった。例えば,肝細胞がんでは,超音波画像で病変に隣接して門脈枝や肝静脈枝が走行している場合,通常の超音波断層像では,門脈内にVP1があるかどうかは診断できない。高画質のBモード画像でも,血管が細く蛇行しているため,診断は困難である(図8)。造影超音波でも,血流があり閉塞していないことは確認できるが,VP1かどうかの診断には至らない。
しかし,造影なしのファンダメンタルBモードによる3Dのボリュームデータから再構成したFly Thruでは,細い門脈枝の中心を自動的に移動して観察することで,腫瘍の近傍で隆起はあるが閉塞はしていないことが確認できる(図9)。肝内の脈管に関してFly Thruに期待するのは,内膜側の変化を見ることではなく,管腔内を自動で移動して内膜が変化している場所を特定し,その部分の断層面を観察することである。Fly Thruの元になる情報は断層像であり,直接の浸潤を受けていなければ,脈管と腫瘍との間には一定の距離があることが考えられる。脈管内の変化から疑わしい場所を特定して,その部位で仮想の“メス"を使って断層を自由に切って観察することで,浸潤の有無を診断することが可能ではないかと考えている。
肝内胆管の拡張例(図10)では,造影超音波の血管イメージで取得したボリュームデータから得られた3Dイメージで診断する。門脈からの信号がなくなるのと同時に,胆管の内皮がソナゾイドによって造影され,胆管の内腔がきれいにレンダリングされている。造影超音波とFly Thruの組み合せは,拡張した肝内胆管や膵管の病変では重要になると考えている。

図7 メカニカル4Dプローブのラインナップ
図7 メカニカル4Dプローブのラインナップ
図8 肝内門脈腫瘍栓の有無は高画質Bモード画像でも診断は困難 腫瘍(←で囲まれる)の近傍を走行する門脈枝()は蛇行するため 内腔の描出が困難である。
図8 肝内門脈腫瘍栓の有無は高画質Bモード画像でも診断は困難
腫瘍(←で囲まれる)の近傍を走行する門脈枝(↑)は
蛇行するため内腔の描出が困難である。

図9 肝内門脈枝のFly Thru画像
図9 肝内門脈枝のFly Thru画像
腫瘍近傍を走行する門脈枝の中に腫瘍栓がないことがわかる。

図10 造影超音波のKupfferイメージから再構成した肝内胆管のFly Thru画像(動画)
肝実質が強く造影されているので,胆管の内腔の観察が容易である。

Smart Fusionによって,他のモダリティのボリュームデータとのフュージョンイメージングがより簡便で正確に行え,高精細なBモード,造影モードを利用することで,肝がんの局所治療における正確なシミュレーション,ナビゲーションが実現できる。また,Aplio500のHigh Density Renderingによる高速なボリューム操作性を持つFly Thruは,肝内脈管の病変の診断に寄与する高いポテンシャルを持っていると考えられる。

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