東芝メディカルシステムズ

別冊付録

Session 2「Aquilion PRIMEの各領域における臨床」
循環器領域

石村理英子

石村理英子
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 循環器センター 内科

虎の門病院では,年間約3万件のCT検査を行っているが,そのうち冠動脈CTは約300件,大動脈,肺動脈,末梢血管は約350件になる。
当院では,2011年3月に,80列CT「Aquilion PRIME」を導入。以後,心大血管領域のCT検査は,すべてAquilion PRIMEで行っている。臨床の一例を(図1)に示す。
冠動脈CTの撮影加算を請求するためには,64列以上のマルチスライス型CTを有し,画像診断管理加算2の施設基準を満たしていることが条件となる。今回,実際に80列CTを使用してみると,従来の64列CTとは格段の差があることがわかり,導入のメリットを実感している。本講演では,導入後1年余りの使用経験から,循環器領域における有用性について報告する。

図1 労作性狭心症  RCA #2狭窄
図1 労作性狭心症 RCA #2狭窄

■心電図同期フラッシュスキャン

心電図同期フラッシュスキャンは,高速ヘリカルピッチを用い,至適心位相,すなわち拡張中期にのみX線を曝射する撮影方法である。従来の64列CTにおける,広い範囲にオーバーラップしてX線をかけながら,低ヘリカルピッチで撮影する心電図同期法に比べると,約70%の被ばく低減を実現することができる(図2)。

図2 心電図同期フラッシュスキャン
図2 心電図同期フラッシュスキャン

また,撮影に必要な心拍数を3〜5心拍に減らせるため,心臓の動きによって積算していく“ぶれ”も,心拍数が減ることで低減される。
正常冠動脈を心電図同期フラッシュスキャンにより5心拍5秒で撮影した(図3)。ボリュームレンダリング画像(a)はもちろん,CPR画像でも(b),末梢の細い血管まで明瞭な画像が得られた。

図3 心電図同期フラッシュスキャンによる正常冠動脈CT画像
図3 心電図同期フラッシュスキャンによる正常冠動脈CT画像

64列CTでは,心臓全体の撮影に約10秒かかっていたが,心電図同期フラッシュスキャンでは5秒以下に短縮することができる。それにより,被ばくの低減,息止め時間の短縮,造影剤の使用量の低減が可能となり,患者さんの負担は大きく軽減される。
心電図同期フラッシュスキャンは,心拍数が65未満で安定していることが前提条件となっているが,これは64列CTでも320列CTでも同様であり,一般的な冠動脈CT全般の条件と言える。当院では,検査前のメトプロロール内服を徹底させており,冠動脈CT全体のおよそ70%で,心電図同期フラッシュスキャンを実施することができている。

■AIDR 3Dによる被ばくの低減

AIDR 3Dは,逐次近似再構成としてスキャナーモデル,統計学的ノイズモデル,アナトミカルモデルを用いて被ばくを低減するとともに,飛躍的なノイズ低減と画質向上を図る技術である。
当院では,prospectiveにはAIDR 3DのMildを用い,retrospectiveにはStandardで画像再構成を行っている。
オリジナル画像と,AIDR 3Dによる再構成画像を比較すると,AIDR 3Dによってノイズが低減していることが確認できる。
MIP画像ではノイズの低減が確認できるとともに,RCAの末梢や細い血管領域が明瞭に描出されていることが確認できる(図4)。

図4 AIDR 3Dの有無による比較(MIP画像)
図4 AIDR 3Dの有無による比較(MIP画像)

図5に示すように,ノイズが大きく低減されても,CT値は変わらないことから,コントラスト比(CNR)が保たれていることがわかる。
当院では,CTで冠動脈をフォローアップしている症例について,64列CTとAquilion PRIMEで同一条件で撮影した場合のDLP値の比較検討を行った。CABG術後のフォローアップ症例と,冠動脈のみを撮影した症例の全例で,Aquilion PRIMEの方がDLP値が低く,平均で44%の被ばく低減が実現していることが認められた(図6)。冠動脈のみの撮影で比較すると49%と,被ばく量は,ほぼ半減している。

図5 AIDR 3Dの有無によるCNRの比較(MPR画像)
図5 AIDR 3Dの有無によるCNRの比較(MPR画像)
図6 64列CTとAquilion PRIMの被ばく低減効果の比較
図6 64列CTとAquilion PRIMEの被ばく低減効果の比較

■AIDR 3Dによる画質の向上

被ばくが低減した場合,画質が担保されているのかどうかについても検討した。
LADにステントを留置した症例のフォローアップで,64列CTとAquilion PRIMEの画像を比較すると,PRIMEではステントのストラッドが明瞭に描出されている(図7)。この症例は,フォローアップ中にステント内狭窄を来した症例であるが,ステント内の病変の形態も明瞭に描出されている(図8)。

図7 同一症例におけるCTAの比較
図7 同一症例におけるCTAの比較
図8 AIDR 3Dによる画質向上効果(高分解能関数+AIDR 3D) ステント内再狭窄・石灰化の症例
図8 AIDR 3Dによる画質向上効果(高分解能関数+AIDR 3D)
ステント内再狭窄・石灰化の症例

当院では,4人の読影担当医が判定した5段階の画質評価を,読影レポートに付記している。64列CTでは,“good”以上の画質評価を得た画像は全体の半分強にとどまっていたが,Aquilion PRIMEでは85%に増加している(図9)。このことからも,Aquilion PRIMEは,被ばくを低減しつつ,画質も向上させていることが確認できる。

図9 AIDR 3Dを用いた再構成画像における画質評価の比較
図9 AIDR 3Dを用いた再構成画像における画質評価の比較

■Variable helical pitch scan

variable helical pitch scan(VHP)は,胸部から腹部の広範囲にわたる領域において,一度の撮影の中で心電図同期のONとOFFを切り変えつつ,ヘリカルピッチを変えていく技術である。
VHPは,大動脈瘤の術前などの大動脈と冠動脈の同時評価,心拍動の影響を受ける上行大動脈病変,内胸動脈グラフトと胃大網動脈グラフト併用例などのCABG術後のフォローアップなどに有用である。
心電図同期のON-OFF法は,従来の64列CTでも使用されていたが,ONからOFFへの切り替えには,6秒間を要していた。この間に造影剤はwash outされ,OFFでの撮影が始まるころには,大動脈内の造影剤が薄まってしまうことが問題であった。
また,切り替え時間中も息止めを続けてもらわなければならず,全体で約25秒の息止めが必要となるため患者さんの負担も大きく,特に高齢の患者さんでは撮影困難であった。
さらに,術前に大動脈全体の3D画像を要求されることも多いが,64列CTの心電図同期ON-OFF法では,CT値が異なるためにmulti data fusionが必要となるなど,検査スタッフのストレスも大きかった。
VHPでは,心電図同期のONからOFFへの切り替え時間が不要になったため,息止め時間が平均17秒前後にまで短縮され,CT値も均一になった。画像をつくる手間も減り,スタッフの業務軽減にもつながっている。
動脈グラフト併用CABG術後に対し,VHPで撮影した症例を示す(図10)。大動脈全体が評価できるほか,心電図同期ONとOFFの境界をまたぐように走行する胃大網動脈グラフトも,段差がないだけでなく,native RCAとの吻合部も含めて明瞭に描出され,良好な画質で評価できるようになった。

図10 VHPを用いたCABG術後の冠動脈と大動脈の同時評価
図10 VHPを用いたCABG術後の冠動脈と大動脈の同時評価

■再構成スピードの向上

Aquilion PRIMEは再構成スピードが大きく高速化しているため,スループットが向上し,検査フローの改善にも寄与する。
冠動脈CTは撮影の手順が煩雑で,撮影後も画像再構成,血管解析を経て読影に至る(図11)。冠動脈CT1件にかかる時間は1時間を超えてしまうため,検査件数も限られてしまい,面倒な検査という認識を持つ施設も少なくないと思われる。

図11 冠動脈CT検査のワークフロー
図11 冠動脈CT検査のワークフロー

検査のワークフロー全体を見た時,撮影や読影の時間を短縮することは現実的に難しい。そこで注目されるのが,再構成時間である。64列CTと比較すると,Aquilion PRIMEの再構成時間は,およそ60%に短縮されている。
64列CTによる冠動脈CTでは,次の患者さんの撮影が終了するころにようやく,ワークステーションへのデータ転送が終わるような状況であった。しかし,Aquilion PRIMEでは,撮影終了後から3分程度でワークステーションへのデータ転送が完了し,次の患者さんの造影剤注入前に,血管解析がすべて終了する。
このことは,冠動脈CTのワークフローを飛躍的に改善させ,検査件数を増やし,スタッフの負担の軽減にもつながる。

■まとめ

心電図同期フラッシュスキャンおよびAIDR 3Dによって,被ばく低減,造影剤使用量の低減,息止め時間の短縮が実現し,患者さんの負担が大幅に軽減された。
VHPによって,冠動脈と大動脈を同時に評価できるようになった。
再構成スピードの向上によって,全検査時間が短縮され,検査件数の増加が見込まれるとともに,検査スタッフ側の負担も軽減された。
80列CT「Aquilion PRIME」の恩恵を,強く実感しているところである。

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