東芝メディカルシステムズ

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Technical Note

2008年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

PET/CT・SPECT/CT−Deep Inspiration Breath Hold PETによる画質・Fusion位置精度の向上

齋藤 聡
営業推進部

肺がんをはじめとして,多くのがんの診断において胸腹部のPET/CT検査は大変有用な情報を提供する検査として広く認識されてきている。一方,呼吸体動が主な要因となる画質の劣化が大きな課題となっている。この課題を解決するため,呼吸同期法,息止め法などさまざまな収集時の工夫が行われてきている。

■ 呼気息止め法

呼吸体動のPET/CT画像へ与える影響は,胸腹部において顕著となり,PET画像に位置分解能およびコントラストの劣化が生じることと,PET画像とCT画像の位置ずれが挙げられる。この問題は,同じく複合機であるSPECT/CTにも共通する。呼吸体動の軽減方法として,簡易的ではあるが収集時の呼吸制御が広く実施されている。このプロトコールとして現在最も良好な結果を得ている方法は,CT撮影時は軽い呼気で息を止め,PET撮影時は自由呼吸(できるだけ浅い呼吸が望ましい)という組み合わせ(呼気息止め法)である。PET,CTともに自由呼吸にて撮影するプロトコールでは,CT画像が呼吸体動により劣化する問題がある。
呼吸制御による対応は,患者負担や検査時間を考慮した場合,最も実用的な手法であるが,CT撮影時の軽い呼気が必ずしも自由呼吸時のPETに一致するとは限らないため位置ずれを起こすこともある。位置ずれが起きた場合,読影医は経験的にそのずれを患者の呼吸状態によるものと判断できると考えるが,CTとPETの位置の不一致以上に大きな問題がある。それは,減弱補正を組み合わされたCTデータで行うため,PET/CTのずれが起きると誤った減弱補正がされ,それに伴いFDG集積部位の間違った解釈,SUV値の変動,心筋の擬似欠損などの診断に影響を及ぼすケースもある。

■ 呼吸同期法

より高い精度で呼吸体動の影響を低減する手法として,呼吸同期法がある。PET撮影時,CT撮影時ともに呼吸波形に同期させてデータ収集を行う手法である。PET/CTの位置合わせ精度を向上させようとすると分割数を多くする必要があり,しかし分割数を多くすればするほど検査時間が延長する。欧米では,10分割程度を推奨とする報告がある。
また呼吸同期法では,PETと同位相のCT画像で減弱補正を行う必要があるため,4D-CTデータを並び替えた呼吸同期CTデータが必要となり,CT撮影時の被ばくが大幅に増大し,患者負担が大きくなるという欠点がある。

■ DIBH法

このような状況の中,東芝は検査時間延長や被ばくを可能なかぎり抑え,かつ呼吸体動の影響を最小限にする手法として注目されつつあるDeep Inspiration Breath Hold(DIBH:深吸気息止め)法に着目し,ルーチン検査で実施可能な検査法としてPET/CT装置「Aquiduo」で実現している。
DIBH法は,CT,PETともに深吸気で収集する。CT撮影時は一般的なCT検査と同様の撮影を行い,PET撮影時は深吸気息止めと自由呼吸を交互に繰り返し,得られた数回分の深吸気息止め時の収集データ(サイノグラム)を加算して再構成する(図1)。軽い呼気と比較して,深吸気は患者自身によるコントロールがしやすく再現性が高いという報告もある。また,われわれの経験では,放射線治療において注目されている「Abches」(エイペックスメディカル社製)など患者の自発的呼吸制御を補助する機器を用いることで,さらに再現性が向上できることが確認された(図2)。また,本手法では肺領域のCT画像が深呼吸状態で得られ,より診断に有用なCT画像が得られるという利点もある。


図1 DIBH法のプロトコール
図1 DIBH法のプロトコール

図2 Abchesを使用した撮影
図2 Abchesを使用した撮影

ボランティア撮影による呼気息止め法とDIBH法それぞれの画像を図3に示す。横隔膜付近の位置ずれが軽減されるだけでなく,肝臓などにおけるPET画素値の統計ノイズが抑えられるとともにコントラストが向上しているのことがわかる。このDIBH法の効果は,例えば臨床検査において,横隔膜付近に発見された腫瘍が「肺野にあるのか?」,「肝臓などへの浸潤があるのか?」といった正確なPET/CT画像位置の一致による鑑別精度の向上や,腫瘍とバックグラウンドのコントラスト向上による腫瘍診断能の向上をもたらすと考えられる。
また,SPECTにおいても同様の取り組みがなされている。東芝製ガンマカメラ「E. CAM」では,息止めプロトコールであるBreath Hold SPECT(BrST)法が可能となっている。SPECT投影ステップごとに深吸気息止めと自由呼吸を交互に収集することで,息止めデータのみのSPECT画像が得られる。BrST法も良好な画像が得られている。結果を図4に示す。


図3 DIBH法と呼気息止め法の比較
図3 DIBH法と呼気息止め法の比較

図4 BrST法と通常呼吸の比較
図4 BrST法と通常呼吸の比較

PET/CTやSPECT/CTなどの複合機で大きな課題となっている呼吸体動が主な要因となる画質劣化を,簡便かつ効果的に低減させるDIBH法について述べた。DIBH法は,PET画像そのものの画質向上とともに,検査時間や被ばくといった患者負担を最小限に抑え,かつ診断に適した深吸気CT画像を同時に得られるという大きな利点もあり,より有用な情報を提供できると考える。

*Aquiduoは東芝メディカルシステムズ(株)の商標です。



【問い合わせ先】 核医学・PET部