東芝メディカルシステムズ

Technical Note

2009年4月号
Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

US−「Artida」の最新壁運動解析技術

大内啓之/阿部康彦/橋本新一
超音波開発部臨床応用開発担当

近年,心エコーにおいては,スペックルトラッキングによる壁運動解析が注目を集めている。われわれは,この技術を用いたWall Motion Trackingアプリケーション(2次元の2D WMTおよび3次元の3D WMT)を開発し,超音波診断装置「Aplio Artida」(以下,Artida)上に搭載している。そして今回,2D WMTにおける心筋内の追跡も可能とする“Transmural Myocardial Tracking”,3D WMTにおける心内膜面の局所面積変化率に着目した“Endocardial Surface Area Tracking”,1心拍で3次元的な動きを解析可能とする“One-Beat 3D WMT”を新たに開発した。
本稿では,これらの次世代壁運動解析機能に関して概説する。

■ Transmural Myocardial Tracking

従来のスペックルトラッキングでは,内外膜のみを追跡し,一般的に心筋内は追跡していない。したがって,壁内での不均一な壁運動の様子を把握するには至っていない。今回,心筋内も追跡して内外を分離した壁運動解析機能を提供するTransmural Myocardial Tracking(以下,Transmural Tracking)を新たに開発した。
2D WMTの基本となる技術は,動きを検出するためのパターンマッチング処理を超音波動画像に応用したものである。Transmural Trackingでは,2次元空間での情報を最大限に活用することで,心筋内での動き検出精度を高める工夫を行った。また2D WMTでは,基準とするフレームでストレインを計算する方向に2点のペアが設定されるが,このペアが連続する画像中でどのように動いたかをスペックルトラッキングの手法により追跡して求め,定義した方向の距離変化成分を抽出し,基準フレームでのペア間の距離で規格化することにより,ストレインを求める。Transmural Trackingでは,内外膜以外に中層位置も有しているので,図1に示すように,壁厚方向(Radial,Transverse)では内膜側のInner,外膜側のOuterおよび全壁厚のTotalの3種類を定義できる。同様に,接線方向(Circumferential,LongitudinalおよびRotation)では,内膜上のInner,外膜上のOuterおよび中層上のMidの3種類を定義できる。こうした各種ストレインやローテーションの値はカラーコード化され,図2のように,パラメトリックイメージングとして心筋に重畳して表示することが可能である。


図1 Transmural Trackingの位置定義
図1 Transmural Trackingの位置定義

図2 Transmural Trackingのパラメトリックイメージング
図2 Transmural Trackingのパラメトリックイメージング

■ Endocardial Surface Area Tracking

従来は局所的な壁運動を,1次元的な3つのストレイン指標〔Circumferential strain(CS),Longitudinal strain(LS),Radial strain〕に分離して解析するのが一般的であった。しかし,壁運動は本来3次元的なものである。そこで,3次元的な壁運動の様子を,より簡便に把握可能な指標が望まれている。われわれは新しい壁運動評価指標として,心内膜面の局所面積変化率(Endocardial Surface Area Tracking:以下,Area Tracking)に着目した。
3D WMTでは,3次元の内膜面を3次元的に追跡しているため1),このArea Trackingを求めることが可能である。本指標の算出では,まず基準とする時相で内膜面の局所領域の面積を算出する。次に,この領域が,時間的に連続する3次元画像においてどのように変形したのかを追跡することで,各時相においてこの領域の面積変化を算出し,基準時相での領域の面積で規格化することにより面積変化率を求める(図3)。本指標には,内膜の心尖方向への伸縮運動と円周方向への伸縮運動の両方が反映されており,前者はLS,後者はCSを意味するため,Area Trackingはその両方の成分を持つ指標と言え,相対的にS/Nが高くなると期待される。また,本指標は,従来のストレイン指標と同様にトランスレーションの影響を受けない。
図4は,左前下行枝(LAD)を結紮して,心尖部近傍で虚血を誘発させたヒツジに適用した結果であり,特に心尖部領域において,Area Trackingの値が低下している様子をパラメトリックイメージングで観察することができる。


図3 Area Tracking の定義
図3 Area Tracking の定義

図4 Area Trackingの解析例(LAD結紮羊)
図4 Area Trackingの解析例(LAD結紮羊)
(画像ご提供:筑波大学・瀬尾由広先生)

■ One-Beat 3D WMT

3D WMTでは,画質やフレームレート向上の目的で,心拍同期を用いたFull 4Dモードの画像を使用して解析しているが,心拍の安定しない場合の解析に制約があった。
今回われわれは,リアルタイムの3D機能である4Dモードのデータでも,3D WMTが可能な“One-Beat 3D WMT”を開発した。One-Beat 3D WMTでは,4Dモードを用いているため,その名のとおり,1心拍のデータで心筋の3次元的な動きを解析することが可能である。4Dモードにより左室全体の3D画像を収集する場合,画質とフレームレートはFull 4Dに比べて低下することになる。そこでわれわれは,3D WMTのトラッキング設定を4Dモードの画像用に最適化し,One-Beat 3D WMTを実現した。健常例での解析結果を図5に示す。One-Beat 3D WMTは,従来の3D WMTの場合と同様にすべての機能を使用することが可能であり,3D WMTで実現したさまざまな解析を行うことができる。


図5 One-Beat 3D WMTの解析例(健常例)
図5 One-Beat 3D WMTの解析例(健常例)

今回,Artida上に搭載した次世代Wall Motion Tracking技術について概説した。Transmural Myocardial Tracking,Endocardial Surface Area Tracking,One-Beat 3D WMTは新しい解析技術であり,今後さらなる研究開発を通して,心機能解析の新たなツールとなることを期待したい。
また,継続的に画質の向上に努めていくとともに,トラッキング自体の機能と性能についてもさらに改善していきたい。


●参考文献
1) 阿部康彦 : スペックルトラッキング法の原理. 検査と技術, 36・10, 904〜913, 2008.


【問い合わせ先】 超音波事業部