東芝メディカルシステムズ

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Technical Note

2012年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

DA(FPD)−Infinix Celeve-iシリーズ “Dose Navigation”コンセプト

廣瀬聖史
営業本部X線営業部営業技術担当

腹部領域のインターベンションにおいて,さまざまな治療支援アプリケーションが登場してきた。一例には,3次元撮影画像を透視画像へリアルタイムに重ね合わせる“3D-Roadmap”が挙げられる。さまざまな画像を融合し,治療に必要な情報を集約することで効率的な環境を提供してきたが,被ばく低減については大きな進歩のない状態が続いていた。そこで弊社では,“Dose Navigation”というコンセプトを打ち出し,患者様のみならず術者の被ばく低減に寄与する機能を開発した。本稿では,「Infinix Celeve-i」におけるDose Navigationコンセプトを紹介する。

■Dose Navigationコンセプトについて

X線を利用するモダリティでは,X線による患者様および術者の被ばくは常に議論される。弊社では,これまでに軟線除去フィルタ,グリッド制御,パルス透視などさまざまな線量低減機構を開発してきた。これまでの線量低減コンセプトでは,画質を優先させても線量が増えないという,やや消極的な取り組みであった。そこで,画質およびカテーテルデバイスの操作性を確保しつつ,積極的に線量を低減するDose Navigationというコンセプトを打ち立てた。

■Dose Navigationの構成

Dose Navigationでは,インターベンションで必要な画質を提供しつつ,大幅に線量を低減する。要件は下記である。
(1) 残像が少なく鮮明な透視画像
(2) 透視画像を撮影画像と同様に扱う透視収集機能
(3) 低レートパルス透視機能
これらは,画像処理コンセプト“PureBrain”が重要な要素となっている。さらに,大胆な線量低減機能として,
(4) 関心領域にのみX線を照射するスポット透視
を開発した。この"スポット透視"についても紹介する。

1.PureBrainが導く線量低減
透視画像,撮影画像の高画質化を追究したPureBrainは,前述の(1)〜(3)を実現するのに重要なコンセプトである。PureBrainのキーコンポーネントであるSuper Noise Reduction Filter(SNRF)によって,透視画像であっても残像が少ない画像が得られる1)。その結果,インターベンション中の記録として,撮影の代わりに透視画像を用いる運用が可能になった。撮影の照射線量は,透視に比べ約10倍高い。撮影を用いないことで,治療全体の線量を低減する新たな取り組みが試みられた。PureBrainによる透視収集を用いた線量低減効果は,Jaclynn M. Sawdyらによって報告されており,先天性心疾患におけるカテーテルインターベンションにおいて,従来の術式から患者入射線量を約50%低減し,術者被ばくも約40%低減している2)
しかし,大幅な線量低減を実現する機能であっても,煩雑な操作を伴うのでは利用を敬遠されてしまう。弊社では,フットスイッチに通常の透視と撮影のペダルに加え,ファンクションスイッチを用意。そこに透視収集機能を割り当てることで,フットペダルの踏み込みにて透視画像を収集することが可能になる。収集の方式は2方式ある。1つは“F-Store”と呼ばれ,透視終了時にペダルを操作すると透視終了後からさかのぼって,設定された時間分の透視画像を収集する。最大60秒までさかのぼることができるが,10秒程度の運用をお勧めする。もう1つは“F-Rec”と呼ばれ,フットスイッチを踏むと透視を開始するとともに,画像が収集される。撮影と同じアクションで透視収集を行うものである。F-StoreとF-Recそれぞれをフットスイッチに割り当て,状況に応じ使い分けることも可能とした。収集された透視画像は,ビデオ出力ではなく,撮影画像と同じようにデジタル装置に取り込まれ,DICOM画像として画像サーバへの保存や,CD-RおよびDVD-Rの記録メディアに保存できる。操作性・管理の面でも使いやすさも追究している。

図1 7.5ppsにおける回転ファントムの透視画像
図1 7.5ppsにおける回転ファントムの透視画像

透視収集機能により治療全体の線量低減を実現したが,よりいっそうの線量低減のために,1秒あたりの曝射数であるパルスレートを落とした低レートパルス透視が注目されている。PureBrainによって,1秒間に15回曝射する15パルス/秒(pps)より低いパルスレートを利用しても,デバイスの視認性を損なわない残像の少ない透視画像が提供できる。Infinix Celeve-iでは,標準で30/20/15/10/7.5/5/3/2/1ppsの9段階のパルスレートを使用できる。腹部領域では,5〜10ppsを用いたインターベンションが実施されるようになってきている。低レートパルス透視の実例として,7.5ppsの透視における回転ファントムの画像を図1に示す。従来方式(図1 a)では回転しているファントムに残像が発生しているのに対し,PureBrain(図1 b)では残像がなく,明瞭な視認性を提供している。低レートパルス透視を多く利用していただくため,5ppsのパルスレートに,より低線量化する線量設定を組み合わせた低線量透視モードを用意した。この低線量透視モードは,15pps標準設定時に比べ1/6程度の入射線量率を達成し,積極的な線量低減を提案している。

2.極限まで照射野を絞るスポット透視
前項により,透視画質の向上による線量低減を紹介したが,治療の状況においては,さらにX線照射が低減できる余地があると考える。それは,デバイスが治療関心部位に到達し,デバイスが安定した状態で透視を続けるような場面である。このような場面では,術者はデバイスの近傍の情報をもとに治療を進めている。極論すれば,デバイス近傍以外のX線照射エリアは,治療手技にはかかわらない画像を表示していることになる。これまでは,それら不要なエリアにはX線絞りを挿入し,照射野を狭めることで不要な被ばくを抑えてきた。しかし,このX線絞りを用いることには,いくつかの問題があった。
(1) X線絞りが上下・左右の対称にしか絞れず,関心領域を画像中心にしなければ,有効に絞れない。
(2) ABC制御の計算領域にX線絞りが入ると,装置はX線不足と感知し,照射線量が増加してしまうことがある。
(3) X線絞りをかけた領域は,X線が遮蔽されるため画像が黒く表示され,照射野以外の様子がつかみにくい。

弊社は,これらの問題を解決しつつ大胆な線量低減を実現するスポット透視を開発した。スポット透視は,透視モニタ上でX線を照射したい関心領域を指定し,その領域のみにX線が照射される。なお,関心領域は画面中心でなくてもよい。また,X線照射においては,どのように絞られていても適切なABC制御を行うことで,絞り込みによるX線照射量の増加を防いでいる。そして,絞りのかけられた領域には,直前の全面透視の静止画像を表示し,画面全体の様子を想像できるようにする。スポット透視は,フットスイッチのファンクションスイッチで操作する。その操作イメージを図2に示す。通常の透視ペダルでは全面透視を行い,ファンクションスイッチに踏み替えると,即座にスポット透視に切り替わる。

図2 スポット透視の操作
図2 スポット透視の操作

スポット透視の効果をファントム実験にて確認した。12インチ視野FPDシステムにて,Cアームは正面(LAO0°,CRA0°),SID100cmにて,面積30cm×30cm,高さ20cmのアクリルをカテーテルテーブルに設置し,厚みの中心部にアイソセンタが来るように高さを調整した。照射面積が全面の1/4,1/9,そして1/16になるようにスポット透視の関心領域を設定した。図3に,全面透視を100とした時のそれぞれの面積線量と,X線照射中心から50cm離れ,床面から150cmの高さの点での全面照射時の散乱線量を100とした場合のそれぞれの散乱線量を示す。スポット透視によりファントムに入射する面積線量が下がっている。スポット透視により術者被ばくとなる散乱線も低減できている。

図3 線量の比較
図3 線量の比較

3.線量管理
Dose Navigationでは,患者様のみならず術者の線量低減も実現する。手技のレポートとして,照射録に代表される線量管理も大きなテーマとなる。Dose Navigationでは,いち早くIHEのプロファイルであるRadiation Exposure Monitoring(REM)に対応し,DICOM Radiation Dose Structured Report(RDSR)にて各種線量情報を出力できるようにしている。
Dose Navigationでは,積極的な線量低減を提案し,患者様のみならず術者にもやさしい環境を提供する。

*Infinix CeleveおよびPureBrainは東芝メディカルシステムズ株式会社の商標です。

●参考文献
1) 長岡秀樹 : Angioの技術進歩と被ばく低減への取り組み―血管撮影装置の進化 : PureBrainが導く被ばく低減への試み. INNERVISION, 26・5, 56〜59, 2011.
2) Jaclynn, M. Sawdy, et al. : Use of a Dose-dependent Follow-up Protocol and Mechanisms to Reduce Patients and Staff Radiation Exposure in Congenital and Structural Interventions. Catheterization and Cardiovascular Interventions, 78, 136〜142, 2011.
   
【問い合わせ先】 X線事業部 TEL 0287-26-5042