AZE

ホーム の中の AZEの中の 次世代の画像解析ソフトウェアの中の吾輩は,心臓外科医である・・・

次世代の画像解析ソフトウェア

【月刊インナービジョンより転載】

■吾輩は,心臓外科医である・・・

森田 照正
順天堂大学医学部心臓血管外科

●はじめに

心臓外科医として心臓疾患と向き合い,四半世紀を過ごした。一般的に,開心術前検査として,胸部CTで全体像を把握し,冠動脈造影・心エコーにて病変を評価する。それらの情報を頭の中で統合し,解剖と手術完成像をイメージして手術に臨んできた。経験を重ねて,十分に心臓解剖は理解できていると自認していた。その思い込みが覆されたのが,「AZE VirtualPlace」との出会いである。2008年12月,スロベニアでの臨床留学を終え帰国し,欧州で出会った低侵襲心臓手術(MICS)のわが国での普及を模索する中でのことである。本シリーズNo.96に紹介されているが,MICSの高い技術的ハードルの対応策として,仮想内視鏡ソフトウェアによる術式シミュレーション動画作成の効果に驚嘆した。ボリュームレンダリングをもとにセグメンテーション,オパシティ操作,仮想内視鏡ソフトウェア,フュージョン技法によるバーチャルリアリティを体験し,AZE VirtualPlaceの底知れぬ可能性を実感した。
今回,心臓外科医の立場から臨床,特に心臓手術に有用な画像を提示する。心臓手術の実際はなかなか理解しづらいと思われる。そこで,近年メディアで最もセンセーショナルに取り上げられたバチスタ手術を例に挙げ紹介したい。縁あって,2010年秋にテレビ放映された「医龍3」の医療指導にかかわった。心臓手術では最も難しい手術─“神の領域”とされメスを入れることが禁忌であった左心室を対象とするバチスタ手術を,過酷な条件下に成功させる“神の手”を持つ心臓外科医を主人公とするドラマである。
1994年に,ブラジル人心臓外科医ランダス・バチスタにより開発されたバチスタ原法は,時代の検証により現在では否定的であるものの,その変法(オーバーラッピング左室縮小術)は,現在でも拡張型心筋症末期心不全患者に対する治療として,心移植・人工心臓と並ぶ数少ない治療選択肢の1つである。提示する画像は健常者を被検者としたもので,実際の手術と若干異なる面もあるが,心臓手術イメージングにおける絶大なる有効性は紹介するに値すると判断した。

●バチスタ手術への応用

バチスタが開発した画期的手術のコンセプトは,拡張型心筋症を代表とする拡大した左室は,径の拡大に伴い壁張力が増し収縮力が低下しているため,大胆に左室壁を切除し,縫縮することで左室形態を整え,低下した心機能の全体的な回復を期すことである。
術前には拡大した心臓形態の正確な評価が重要である。一例として,図1にボリュームレンダリング像を示したが,胸壁外から心臓各部位の形状,周囲構造物との位置関係を正確に認識することが可能となる。

図1  胸部ボリュームレンダリング像
図1 胸部ボリュームレンダリング像

バチスタ原法において,切除にあたっては図2に示したシェーマのとおり,目標左室径に合わせて左室自由壁を広範に切除する。症例ごとにもともとの解剖や形態変化の程度に大きな差異があるため,まずは心臓の全体像を確認した(図3 a)。続いてセグメンテーションを利用し,重要左室構造物である大動脈基部および冠動脈,僧帽弁,左室乳頭筋を分離して描出した(図3 b)。バチスタ原法では,切除心筋量を規定して左室壁を切除するため,同部に関連する冠動脈や乳頭筋も一体として切除する。その結果,冠血流低下に伴う心虚血や乳頭筋機能不全に伴う僧帽弁機能低下を惹起し,手術成績に大きな影響が及んだ。術前に各構造物の位置・走行を確認し,切除すべき心筋を特定できれば,重篤合併症を回避して残存機能を維持する安全で効果的な手術が可能となる。

図2  バチスタ手術(原法)の術式シェーマ(参考文献1)より引用)
図2 バチスタ手術(原法)の術式シェーマ(参考文献1)より引用)

図3 セグメンテーション効果(a:心臓全体像,b:左室重要構造物像)
図3 セグメンテーション効果(a:心臓全体像,b:左室重要構造物像)

一方,否定的とされたバチスタ原法だが,僧帽弁に対する付随手術の有効性は近年再評価されている。すなわち,左室拡大により変形をきたし逆流を認める僧帽弁に対して,左室切開部より弁置換または弁形成を行うことで,逆流を減らし心拍出の効率改善が期待される。図4では,左室心尖部より大動脈弁・僧帽弁を観察し,オパシティ操作にて僧帽弁輪部近傍の冠動脈走行を明示した。これにて僧帽弁治療の際,弁輪部操作時に冠動脈走行を明確に意識でき,冠動脈損傷のリスクと術者の心理的ストレスが軽減されうる。

図4 オパシティ効果(a:大動脈弁・僧帽弁像,b:冠動脈透過像)
図4 オパシティ効果(a:大動脈弁・僧帽弁像,b:冠動脈透過像)

バチスタ原法のコンセプトを残し,安全性を高める改良術式が新たに考案された。その1つが,前・後乳頭筋基部を左室後壁側で縫い寄せ,左室径の短縮と乳頭筋の機能改善をもくろむ乳頭筋近接術である。他の1つが,左室壁に切開を加えた後,拡張に伴い菲薄化した壁は切除せず,重ね合わせることで壁厚と収縮性を改善させるオーバーラッピング縮小術である。僧帽弁中央より左室心尖部を内視鏡モードで観察することで,乳頭筋のオリエンテーションが容易となる(図5 a)。左室縫小術は,拡張型心筋症だけでなく,虚血性心筋症の末期心不全にも適応される。虚血性心筋症の場合,心筋障害・残存機能に偏在性があるため,CTによる立体構造解析に,心筋SPECTによる心筋機能評価を加えたフュージョン像(図5 b)がきわめて有効となる。セグメンテーション後のオパシティ操作と内視鏡モード(図4 b)にて,冠動脈走行と乳頭筋の位置を確認し,症例によってはCTとSPECTのフュージョン技法による心筋機能評価を追加することで,心臓外科医がバチスタ手術で最大の難題とする左室壁の至適切開部の決定が可能となる。

図5 フュージョン効果(a:左室心尖部像,b:SPECTフュージョン像)
図5 フュージョン効果(a:左室心尖部像,b:SPECTフュージョン像)

●まとめ

ワークステーションの高性能化に伴う画像構築技術の進歩が,心臓手術の術前プランニングに絶大なる有益性を有することを,バチスタ手術を例として説明した。これにより,“神の手”が必要とされたバチスタ手術が,僧帽弁手術と乳頭筋近接術を含めて正確で最適に施行できる光明を共感していただければ幸いである。
最後に稿を閉じるあたり,画像作成に労をいとわず協力してくれたAZE社・阪本 剛氏に心より感謝します。

●参考文献
1) Moreia, L.F.P., et al. : Partial left ventriculectomy with mitral valve preservation in the treatment of patients with dilated cardiomyopathy. J. Thorac. Cardiovasc. Surg., 115, 800〜807, 1998.

【使用CT装置】 Aquilion ONE (東芝社製)
【使用SPECT装置】 シーメンス社製装置(核種:99mTc)
【使用ワークステーション】 AZE VirtualPlace (AZE社製)

(2011年5月号)

▲ページトップへ

AZEトップへ