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Technical Note

2010年7月号
Workstationはどこに向かうのか

開発面から見たWSの行方 ─サーバサイドシステムで実現される3D画像サーバ

畦元将吾
代表取締役社長

「もはやワークステーションではない」と格好の良い言葉が当てはまるだろうか。近年のワークステーション(WS)は,すでに三次元画像を生成するだけの医療機器ではなくなっている。5,6年前のWSは,CT,MRIなどのモダリティから画像を受信して,MPRや3D画像を生成するだけの装置であった。しかし,病院内のコンピュータ導入数の増加,ネットワークの整備に伴い,医用WSもスタンドアローン型からネットワーク型に変化し,そのサーバ本体は,大型ハードディスクを搭載した画像サーバとしても活用されている。さらには,機能の充実したビューワ,レポート作成機能を備えることにより,これまでRIS,HISなどが担ってきた検査情報管理や,電子カルテ機能などの業務にも役立てられるようになってきた。
本稿では,医用画像の運用を中心とした医療ネットワークにおけるWSの統合的技術・機能の進歩について概説する。

ネットワーク型から遠隔画像配信へ

1.ネットワーク型WSへの進化

世界中の医療施設で,施設内のコンピュータをつなぐ院内ネットワークの導入,整備は,日々の医療活動を行う上で必須となっている。その利用目的は,画像撮影のオーダリング,画像送信,読影依頼,電子カルテ配信など多種にわたる。医用WSにおいても,これまでは医用画像ファイルをDICOMプロトコールで送信するためだけにネットワークを利用してきたが,数年前からは画像ファイルだけではなく,解析処理機能自体をネットワークで共有するようになってきた。つまり,ネットワークの発展によって,WSはスタンドアローン構成から複数のコンピュータで共有されるネットワーク構成へとシフトせざるを得なくなった。
ネットワーク型WSにおいて,ネットワークの利用方法は2通りある。1つは,従来からWSの基本機能とされているDICOM画像ファイルの受信,送信機能である。そしてもう1つは,画像処理機能の共有である。
前者は,既知のとおりCT,MRIなどで撮影された画像を受信して,院内のPACSサーバあるいはビューワ端末に送信する機能である。後者は,画像ファイルを送受信するのではなく,画像処理自体を他のコンピュータに配信することによって,画像処理サーバの高スペックハードウエア,高機能アプリケーションをネットワークで共有する方法である。つまり,ネットワーク型のWSを1台導入し,複数のコンピュータで共有することで複数台のWSを導入することと同等の機能を実現できる。これを“thin(シン)クライアント構成”と呼ぶこともでき,最近ではコンピュータネットワークの書物等でよく見かけられる言葉である。この技術は,一般企業向けの情報システムにおいては,1999年ごろから取り入れられてきた技術であり,業務アプリケーションを高いスペックのサーバサイドに集約し,ユーザーの手元にある端末PCからそのアプリケーションを利用するものである。アプリケーションやデータの集約管理が可能であり,端末PCに高いスペックを要求しないことから,導入,運用コストも削減できる。近年注目されている“クラウドコンピューティング”も,このシンクライアントの延長と言える。

2.シンクライアント/サーバシステムへの進化

シンクライアント技術を利用したネットワーク型WSでは,クライアントPCからサーバへアクセスするツールとして,Webブラウザが多く用いられている。現在では,ほとんどのPCに搭載され,インターネットの閲覧に必須とされているWebブラウザをビューワとすることにより,あらゆる場所,時間でWSを利用することができる。ユーザーは,手元のPCからインターネット閲覧と同様の操作でWebブラウザを起動し,サーバのURLにアクセスするだけでWSを利用できる。これにより,緊急を要する場合や混雑時,また手術やカテーテルなどの処置現場でも,要望に応じたタイミングでWSを利用することが可能である。また,今日ではインターネット網を利用した仮想的なLAN(Virtual Private Network:VPN)を導入して,他施設,医師の自宅,あるいは協力病院とネットワークを通じてWSの共有が行われているケースもある(図1)。このVPNを利用した遠隔画像配信も,これからWSが担う一つのテーマとも言える。

図1 VPNを利用した遠隔画像配信
図1 VPNを利用した遠隔画像配信

読影システムの統合をめざして

現在,医用画像の読影業務に利用される一般的な機器構成として,以下のシステムが利用されている。オーダを確認するためのオーダリングシステムと患者情報,所見入力を行う電子カルテシステム端末,画像の検索,読影を行うPACSクライアントビューワ,高度な画像解析を行う3DWSなどである。読影医は,これらのシステムを利用して日常の読影業務を行っている。ここで利用されている各システムは,製品やメーカー,インストールされている筺体が異なる場合があり,各システムに複数のデータベースが存在する。その場合,ユーザーは各システムを起動するたびに,データの検索や情報の入力作業が必要となる。また,データ管理者から見ても,複数のデータベースの存在は管理上不利益になることが多い。例えば,ある患者の画像をPACSビューワで読影を行う途中で,その画像を解析するために3DWSを起動する必要が出てくる際,ユーザーはPACSビューワ上に表示されている患者IDを覚えておいて,3DWSを起動し,そのWSのデータベースで該当患者データを再度検索する必要がある。このような人為的な作業は,情報の入力ミス等でデータの誤りを招く可能性があり,また,作業そのものの手間がかかってしまう。
そこで読影現場からは,画像読影システムの統合を求める声が多く聞かれるようになってきた。これらの要望を解決するため,WSにPACSや電子カルテシステムとの情報連携インターフェイスを設ける方法で,画像読影システムの統合化が進められている。

1.PACSビューワとの連携例

PACSビューワから該当画像を特定するための情報を受け取り,画像の再検索をする必要なく該当画像を読み込むことができる。

2.操作手順

(1) PACSビューワで画像参照
(2) WSで解析したいデータを選択して,PACSビューワ上の〈ワークステーション〉ボタンをクリック
(3) 選択された画像がWSに読み込まれて起動される。

このような操作が簡易な連携システムの構築により,運用上の基本的な画像データベースはPACSのデータベースに統合され,データ管理の煩雑さを解消することができる。また,データの再検索に伴う人為的な情報入力を必要としないため,データの選択誤りも避けることができる。このように,WSは,単に三次元画像の生成を行うだけでなく,読影システムの1つとして院内の画像データ運用の効率化にも役立てられ始めている。

シンスライスサーバとして

より広範囲を高速に撮影できる多列CTの出現は,医用画像の発展に大きく寄与している。一方で,多列CTから出力される大量の画像は,画像サーバのハードディスクを大きく圧迫するようになってきた。従来から,3DWSにもハードディスクは備えられていたが,保存容量が少なく大量の3D用画像を保管することができなかった。そのため,仕方なく大量の3D用画像を院内画像サーバに送る運用が行われ,その結果,ネットワーク負荷の増加やハードディスクの増設,大規模データベースの管理など多大なコストの発生を引き起こしていた。
しかし,近年ではWSにも大型ハードディスクやQ/R(画像検索取得機能)が備えられ,ユーザーは大量のシンスライス画像をWSで保管できるようになった。さらに,Q/R機能を利用することにより,他のビューワ等からも画像を取得することができるため,これまでの画像サーバと同じ運用をすることができる。こういった特徴から,最近ではWSを3Dボリュームデータ(シンスライス)専用のサーバとして活用する病院が増えている(図2)。

図2 WSをシンスライスサーバとして活用した例
図2 WSをシンスライスサーバとして活用した例

以上のように,医療施設の画像診断におけるフィルムレス,CT,MRIの発展に同調するように医用ワークステーションもまた,年々そのシステム形態を変えている。今後も,日々進化を続ける医用WSの動向に注目していただきたい。

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