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【月刊インナービジョンより転載】

■冠動脈疾患における CT-SPECT Fusion Imagingの有用性

日本大学医学部 内科学系循環器内科学分野 平塚 淳/依田 俊一/國本 聡/平山 篤志

近年,多列検出器CT(Multi detector-row CT : MDCT)による冠動脈CT Angiography検査(CTCA)は,冠動脈疾患の診断ツールとして広く普及している。MDCTの利点は,非侵襲的に冠動脈の形態評価が行えることであり,検出器の多列化や厳密な心拍数コントロールにより,放射線被ばく量の低減とともに,さらに精密な冠動脈の描出が可能となってきている。しかしながら高度石灰化病変の内腔評価が困難であるなど,機能的評価に関しては限界があり,機能的評価を得意とする心筋血流SPECT等の他のモダリティに頼らざるを得ない。反面,心筋血流SPECTにも弱点がある。冠動脈の支配領域には個人差があるため,SPECT画像で冠動脈支配に一致していない集積低下が見られた場合,冠動脈疾患に由来する集積低下なのか,何らかのアーチファクトなのか,他の疾患を原因とするのか,鑑別が困難である例も少なくない。
最近,ソフトウェアの進歩により冠動脈の形態的評価を行うCTCAと機能的評価を行う心筋血流SPECTを融合(Fusion)させる手法(CT-SPECT Fusion Imaging)が開発され,冠動脈の狭窄病変と血流低下部位のマッチングにより,責任冠動脈の正確な診断が可能となってきている1)3)。CT-SPECT Fusion Imagingにより各種心疾患における診断精度の向上が期待され,治療戦略の決定やさらなる病態解明に対してもきわめて有用な画像情報を提供しうるものと考える。
当施設では2008年11月から320列CT(Aquilion ONE:東芝社製)を導入し,現在まで約600例のCTCAを施行している。その中でCTCAのみでは評価困難であった症例に対し心筋血流SPECT検査を施行し,CT-SPECT Fusion Imagingにより,病態の詳細な評価が可能となり,効果的な治療へと結びついた症例を経験したので報告したい。

●症例提示

症例は急性心筋梗塞にて入院となった76歳の男性。緊急心臓カテーテル検査(CAG)を施行し,右冠動脈(RCA)に高度狭窄所見,左前下行枝(LAD)に完全閉塞(CTO)所見を認め,LADにはRCA右室枝より側副血行路が認められた。心電図変化等よりRCAが梗塞責任血管と診断し,冠動脈形成術(PCI)を施行しステント留置を行った。その後残存病変の評価および治療方針の決定のため,アデノシン負荷による心筋血流SPECTを施行した。SPECT画像(図1)では,心尖部側の前壁中隔に梗塞+虚血所見(peri-infarct ischemia)を認め,心基部側の下後壁に虚血所見を認めた。次いで,LADのCTO病変を含む残存病変を評価するため施行したCTCA(図2〜4)では,LAD#6に病変径32mmのCTO所見を認め,右室枝からの側副血行路を認めた。左回旋枝(LCX)#14にも高度狭窄所見を認め,RCA#2のステント内に再狭窄所見は認めなかったが,ステント下部のRCA#3に中等度狭窄病変を認めた。

図1 心筋SPECTによる血流画像 LAD領域の虚血+梗塞所見,およびRCA領域の虚血所見が認められる。
図1 心筋SPECTによる血流画像
LAD領域の虚血+梗塞所見,およびRCA領域の虚血所見が認められる。

図2  CTCAによるMIP(Maximum intensity projection)画像 RCAのステント留置部位の開存が確認でき,LADの完全閉塞所見を認め,その他軽度石灰化が散見される。
図2 CTCAによるMIP(Maximum intensity projection)画像
RCAのステント留置部位の開存が確認でき,LADの完全閉塞所見を認め,その他軽度石灰化が散見される。

図3  VR(Volume rendering)画像および CPR(Curved multiplanar reconstruction)画像 LADの完全閉塞所見を認め,側副血行路による末梢側の描出が認められる。 LADのCTO病変についてCTO径が約32mmと計測された。
図3 VR(Volume rendering)画像および CPR(Curved multiplanar reconstruction)画像
LADの完全閉塞所見を認め,側副血行路による末梢側の描出が認められる。 LADのCTO病変についてCTO径が約32mmと計測された。

図4 VR画像 LCX#14に高度狭窄,RCA#3に中等度狭窄病変を認める。
図4 VR画像
LCX#14に高度狭窄,RCA#3に中等度狭窄病変を認める。

これらの結果から,ザイオソフト社製ワークステーション「ZIOSTATION」の「CT/SPECT心臓フュージョン」ソフトウェアを用いて,CT-SPECT Fusionの画像構築を行ったところ,RCA#3の残存狭窄病変に一致する虚血とLAD#6のCTO病変に一致する梗塞+虚血性変化が認められた(図5,6)。CT-SPECT Fusionの結果から,残存病変に対する血行再建の必要性が考慮され,回復期にCAGを行った(図7)。再検したCAGにおいて,LADのCTO病変に関してはPCI困難と判断された。RCAのステント留置部位に関しては亜急性期の再狭窄は認めなかったが,末梢側に有意狭窄を認め,LCX
#14の高度狭窄病変と合わせ,いずれもCTCAと同様の所見であった。以上から,冠動脈バイパス手術(CABG)による血行再建が最適と判断され,第27病日に冠動脈3枝に対しCABGを施行した。

図5 CT-SPECT Fusion Imaging
図5 CT-SPECT Fusion Imaging

図6 CT-SPECT Fusion Imaging LAD領域の梗塞+虚血性変化(peri-infarct ischemia)を認める。
図6 CT-SPECT Fusion Imaging
LAD領域の梗塞+虚血性変化(peri-infarct ischemia)を認める。

図7 CAG LAD#6に完全閉塞,LCX#14に高度狭窄, RCA#3に中等度狭窄病変を認める。
図7 CAG
LAD#6に完全閉塞,LCX#14に高度狭窄, RCA#3に中等度狭窄病変を認める。

本症例ではCT-SPECT Fusion Imagingにより,残存する虚血領域と責任病変の同定が視覚的に容易に診断され治療方針決定に有用であった。今回使用したザイオソフト社製のFusionソフトウェアは従来のものと比較し,短時間での重ね合わせが可能で簡便であった。また,得られたFusion画像は患者や家族にバイパス手術の必要性を説明し同意を得る際にも活用でき,スムーズに治療を進める上でも効果的であった。

高い陰性適中率と時間・空間分解能に富んだCTCAの冠動脈形態画像に,心筋血流SPECTが持つコントラストの高い機能画像を加えることにより,精度の高い画像診断や適切な治療戦略を提供することが可能となる。CT-SPECT Fusion Imagingは冠動脈疾患の病態解明,治療方針決定のみならず,インフォームド・コンセントする際,患者満足度向上につながるツールとしてさらなる活用が期待される。シングルモダリティの時代から形態・機能情報を併せ持つマルチモダリティイメージングへの転換は重要であり,SPECTとCT画像を融合するソフトウェアのさらなる普及が望まれる。

●参考文献
1) Matsuo, S., Nakajima, K., et al. : Clinical usefulness of novel cardiac MDCT/CT fusion image. Ann. Nucl. Med., 2009(in press).
2) Slomka, P.J., Baum, R.P. : Multimodality image registration with software ; State-of-the-art. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 36, S44〜55, 2009.
3) Slart, R.H. et al. : Diagnostic pathway of integrated SPECT/CT for coronary artery disease. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 2009(in press).

(2010年1月号)

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