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クラウドとモバイル時代に解き放たれる3Dの無限の可能性

【月刊インナービジョンより転載】

■消化器画像診断における時間軸画像の有用性
  —Time axis imaging for diagnosing digestive disease

京都大学医学部附属病院 消化器内科 辻 喜久

近年,“時間軸”画像を消化器疾患に応用した試みが報告され,注目を集めている。時間軸画像により消化器機能の客観的な観察が可能となり,より正確な消化器疾患の診断が可能となるので,その需要は大きい。われわれ消化器臨床医にとっては,時間軸の概念自体はまったく目新しいものではない。例えば,消化管のX線透視による経時的形態変化に関する知識が,消化器疾患の理解に果たした役割は大きい。こういった今までの先人たちの取り組みがあるので,われわれ消化器臨床医にとって,最新技術によってさらに洗練された時間軸画像は理解しやすく,かつ,大変興味深いものである。
本稿では,消化器画像診断における時間軸画像の有用性について概説する。

●時間軸画像と消化器疾患

消化器臓器は,管腔臓器と実質臓器の2種類があり,時間軸画像もそれぞれ異なった表現形式を取る。消化器管腔臓器に時間軸画像を応用した場合,“形態の変化”の観察に,一方,消化器実質臓器へ時間軸画像を応用した場合,造影剤をトレーサーとして実質血流(Perfusion)の評価に,それぞれ応用されている。形態の変化も,血流の変化もどちらも,時間軸を導入することによって初めて観察が可能である。以上から,“時間軸画像”には,広義にMotion ImageもPerfusion Imageも含まれると考えられる。そこで今回,管腔臓器への時間軸画像応用例として小腸のMotion MRIについて,実質臓器への応用例として膵Perfusion CTを取り上げ,現状について述べたい。

●消化管における時間軸画像

1.腸管運動障害と時間軸画像
消化管運動はなめらかな蠕動運動であり,正常周期は,胃:4〜5回/分,小腸:7〜8回/分とされている1)。炎症性疾患や腫瘍性疾患の場合,腸管における疾患部位の蠕動運動と周期性は失われる。神経因性疾患の場合,蠕動運動は低下することもあれば,亢進することもある。過敏性腸炎や機能性胃腸症と呼ばれる疾患は,腸管運動異常に起因し,罹患者数が大変多い。このような運動機能異常症では,正常な腸管蠕動を失い,運動亢進あるいは低下が混在していると想定されるが,現在の診断法では両者の鑑別を簡便に行うことは不可能である。しかし,治療に際し,より詳細な病態の評価は必須である。以上から,消化管の運動機能を客観的に評価しうる時間軸画像の確立は,大変大きな需要を有していると考えられる。
腸管運動の評価に多列CTによる時間軸画像の応用は始まっているが,撮像範囲の広さや被ばくの問題から,MRIを応用した試みが先行している。しかし,MRIは局所の空気の影響を受けやすいために,小腸のような空気の含有がほとんど見られない臓器には応用しやすいが,胃や食道などへ応用する際には工夫が必要かもしれない。こういった点で,Area Detector CTとどのように棲み分けされるか,興味深い。

2.消化管への時間画像の応用例
36歳,男性,主訴は腹痛(図1)。実際にMRI撮像直後に下痢を来し,診断基準から過敏性腸炎と診断された症例である。1.25秒間隔で撮像されたMR画像(true FISP, MAGNETOM 1.5T, Siemens, Munich, Germany)では,腸管の蠕動は速く,蠕動を精緻に追いかけることは不可能であった(図1 a)。そこで,本例では時間軸を追加した3Dデータ(4D画像)を採取し,得られたデータをRegistration Technique2)にて解析し(Ziosoft, Inc., Tokyo, Japan),時間軸を加えた詳細な2D画像(3D画像)を作成した。これにより,詳細な腸管運動の観察が可能となったが,本例では腸管の収縮周期は大変早く,局所では 3〜4秒周期で収縮した部位も認め,正常よりはるかに短く異常であった(図1 b)。本例の試みは,世界に先駆けて,腸管運動解析にregistrationを行い(Ziosoft, Inc., Tokyo, Japan),成功したものである。このようにregistrationなどソフト面での最新技術を応用すれば,詳細な腸運動の観察が可能となるので,今後,腸疾患へ応用を進めていけば,不明な点の多かった腸疾患の病態が明らかになると考えられる。

図1 消化管運動へのRegistration Technique応用の実際 a:Registration Technique応用前。変化が唐突である。特に,→部分の変化は大きく,連続性は追えない。 b:Registration Technique応用後。→部分が,徐々に変化していく様がよくわかる。
図1 消化管運動へのRegistration Technique応用の実際
a:Registration Technique応用前。変化が唐突である。特に,→部分の変化は大きく,連続性は追えない
b: Registration Technique応用後。→部分が,徐々に変化していく様がよくわかる。

●腹部実質臓器における時間軸画像

消化器実質臓器へ時間軸画像を応用し,実質血流の評価を行った報告が多数なされている。ここでは,筆者らが取り組んでいる膵実質血流評価法としての膵Perfusion CTの有用性について述べる。

1.重症急性膵炎における膵Perfusion CTの有用性
重症急性膵炎の致命率は高く(20%),2010年の今日も大きな問題である。死亡率の改善を困難にしている原因として,早期重症化予測が困難であることが挙げられる。現在,最も広く受け入れられているAPACHEUスコアであっても,発症早期の重症化予測法としての感度は,60%程度と十分ではない3)。せっかく発症早期に搬送されても,正確な重症化予測ができないために早期治療に失敗する症例もあり,発症早期の精度の高い重症化予測法の確立が熱望されてきた。そこで近年,発症早期の重症化予測を行うために,時間軸画像の一つであるPerfusion CTを膵炎へ応用した報告が続いている。
重症急性膵炎では,膵壊死を合併した場合,予後不良である。壊死を診断するためには,現状では造影CTに頼らなければいけないが,その発症早期の壊死予測法としての感度は低く,50〜60%程度とした報告もある4)。以上の点から,GUTの急性膵炎診療ガイドラインでは,発症3日以内に限れば,壊死予測ができない場合があるので,造影剤の副作用と相まって造影CTの有用性は乏しいとしている。
一方,われわれの検討では,発症3日以内の重症急性膵炎症例において,膵Perfusion CTを用いて膵虚血を半定量的に診断すれば,正確に膵壊死予測が可能であった(感度:100%,特異度:95.3%)6)7)。現在,予後改善に向け て,さらに研究を進めているところである(図2)。

図2 重症急性膵炎へのPerfusion CT応用の有用性 発症早期(発症3日以内)の造影CTでは,あたかも膵実質が造影されているように見える(a)。発症早期(発症3日以内)のPerfusion CTによる膵血流カラーマップでは,左端のスケールバーに従って血流が示されている(b)。aの造影CTと異なり,体部血流が低下・まったく表現されず,すでに壊死している可能性が示された。発症後期(Day14)の造影CTでは,Perfusion CTで示された血流低下部位が,壊死・嚢胞化したことがよくわかる(c)。発症早期(発症3日以内)の造影CTでは,壊死部位はなく(d),発症早期(発症3日以内)のPerfusion CTでも血流は速く,White Outしている(e)。3週以降の造影CTでは,壊死を来さず改善している(f)。
図2 重症急性膵炎へのPerfusion CT応用の有用性
発症早期(発症3日以内)の造影CTでは,あたかも膵実質が造影されているように見える(a)。発症早期(発症3日以内)のPerfusion CTによる膵血流カラーマップでは,左端のスケールバーに従って血流が示されている(b)。aの造影CTと異なり,体部血流が低下・まったく表現されず,すでに壊死している可能性が示された。発症後期(Day14)の造影CTでは,Perfusion CTで示された血流低下部位が,壊死・嚢胞化したことがよくわかる(c)。発症早期(発症3日以内)の造影CTでは,壊死部位はなく(d),発症早期(発症3日以内)のPerfusion CTでも血流は速く,White Outしている(e)。3週以降の造影CTでは,壊死を来さず改善している(f)。

2.膵Perfusion CT撮像条件について
Perfusion CT撮像は,4〜5mL/秒の注入速度で10秒間造影剤を正中静脈から投与し,対象臓器実質のCT値の変化を同一断面で観察することから始まる。次いで,CT値の経時的な変化を時間濃度勾配(TDC)としてとらえ,このTDCを解析アルゴリズムにて解析し,実質血流をPerfusion画像としてカラーマップで提示する。血流解析アルゴリズムとしては,Maximum Slope法とDeconvolution法がよく知られているが,次世代の解析系としてOne Compartment Modelに注目が集まっている9)12)図3)。

図3 アルゴリズムによる画像の違い Deconvolution(box-MTF)と,One Compartment(Ziosoft, Inc., Tokyo, Japan)にて,それぞれ同一症例の膵血流を表現したもの。発症早期の膵血流の有無が,両解析アルゴリズムにて表現されているが,One Compartment法の方が,よりわかりやすい画像であり,今後症例数を増やしてその精度を検証する予定である。
図3 アルゴリズムによる画像の違い
Deconvolution(box-MTF)と,One Compartment(Ziosoft, Inc., Tokyo, Japan)にて,それぞれ同一症例の膵血流を表現したもの。発症早期の膵血流の有無が,両解析アルゴリズムにて表現されているが,One Compartment法の方が,よりわかりやすい画像であり,今後症例数を増やしてその精度を検証する予定である。

3.腹部Perfusion CTにおける被ばく線量
われわれが用いている条件:80kV,30mA,1.5s/1回転,連続54s(量子フィルターあり)では,被ばく線量は,人体模型モデルおよびガラス線量計にて実測したところ,63.8mGy(CT Dose Index Volume)であった14)15)。通常,Dynamic CTは120kV,80〜200mAで撮像されることが多く,単純,早期,後期の3相での被ばく線量は70〜80mGy以上と考えられ,80kVにおけるPerfusion CTの被ばく線量はDynamic CTと同程度であった。
わが国では,2007年より難治性膵疾患研究班(下瀬川班)にて,膵Perfusion CTの臨床応用の立場から放射線被ばくについての検討が行われ,われわれのグループも研究班に参加し,低被ばく線量で撮像可能な条件について検討を重ねてきた14)15)。2009年末に,FDAから,Perfusion CTの被ばくに関する勧告が出されたが,この勧告内容はわが国の取り組みと矛盾しない。このように,放射線被ばくの減量を含め,腹部Perfusion CTの精度を高めるさまざまな知見が蓄積されつつあり,興味深い。

●最後に

腹部疾患における時間軸画像の有用性について報告したが,これら一連の試みは始まったばかりである。筆者らの経験の多くは,放射線科のSpecialistの方々のご指導のもと得られたものばかりであり,深く感謝している。新たな画像診断技術を臨床応用するためには,放射線科と初療医との密な関係が重要であると考えられ,今後も,このことを忘れずに,研究を進めていく所存である。

●参考文献
1) Yamada, T., Alpers, D., Laine, L., et al. : Textbook of Gastroenterology. Forth edition. Philadelphia, Lippincott Williams & Wilkins, 2003.
2) Crum, W.R., Hartkens, T., Hill, D.L. : Non-rigid image registration ; Theory and practice. Br. J. Radiol., 77, 140〜153, 2004.
3) Neoptolemos, J.P., Kemppainen, E.A., Mayer, J.M., et al. : Early prediction of severity in acute pancreatitis by urinary trypsinogen activation peptide ; A multicentre study. Lancet, 355, 1955〜1960, 2000.
4) Casas, J.D., Diaz, R., Valderas, G., et al. : Prognostic value of CT in the early assessment of patients with acute pancreatitis. Am. J. Roentgenol., 182, 569〜574, 2004.
5) Bize, P.E., Platon, A., Becker, C.D., et al. : Perfusion measurement in acute pancreatitis using dynamic perfusion MDCT. Am. J. Roentgenol., 186, 114〜118, 2006.
6) Tsuji, Y., Watanabe, Y., Matsueda, K., et al. : Usefulness of perfusion computed tomography for early detection of pancreatic ischemia in severe acute pancreatitis. J. Gastroenterol. Hepatol., 21, 1506〜1508, 2006.
7) Tsuji, Y., Yamamoto, H., Yazumi, S., et al. : Perfusion computerized tomography can predict pancreatic necrosis in early stages of severe acute pancreatitis. Clin. Gastroenterol. Hepatol., 5, 1484〜1492, 2007.
8) Kishimoto, M., Tsuji, Y., Katabami, N., et al. : Measurement of canine pancreatic perfusion using dynamic computed tomography ; Influence of input-output vessels on deconvolution and maximum slope methods. Eur. J. Radiol., 2009.
9) 武田和憲, 木村憲治, 佐藤明弘 : Perfusion CTによる急性壊死性膵炎の診断. 膵臓, 22・5, 547〜555, 2007.
10) Miles, K.A., Hayball, M.P., Dixon, A.K. : Measurement of human pancreatic perfusion using dynamic computed tomography with perfusion imaging. Br. J. Radiol., 68, 471〜475, 1995.
11) Tsushima, Y., Kusano, S. : Age-dependent decline in parenchymal perfusion in the normal human pancreas ; Measurement by dynamic computed tomography. Pancreas, 17, 148〜152, 1998.
12) Abe, H., Murakami, T., Kubota, M., et al. : Quantitative tissue blood flow evaluation of pancreatic tumor ; Comparison between xenon CT technique and perfusion CT technique based on deconvolution analysis. Radiat. Med., 23, 364〜370, 2005.
13) Kambadakone, A.R., Sahani, D.V. : Body perfusion CT ; Technique, clinical applications, and advances. Radiol. Clin. North. Am., 47, 161〜178, 2009.
14) 多田真輔, 辻 喜久, 上野憲司・他 : 膵Perfusion CTにおける被曝線量と安全性. 難治性膵疾患に関する研究調査 平成20年度 総括・分担研究報告書.
15) Tsuji, Y., Koizumi, K., Isoda, H., et al. : The radiological exposure of pancreatic perfusion CT. Pancreas, 2009(in press).

(2010年2月号)

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