セミナーレポート(東芝メディカルシステムズ)

2014年5月9日(金)〜11日(日)の3日間,超音波Week 2014〔日本超音波医学会第87回学術集会,第6回アジア造影超音波会議(ACUCI),第32回日本乳腺甲状腺超音波医学会,第114回腹部エコー研究会,第3回日本甲状腺Intervention研究会 共催・同時開催〕がパシフィコ横浜(横浜市)で開催された。2日目の10日(土)に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー9では,ACUCIの大会長でもある森安史典氏(東京医科大学消化器内科教授)と飯島尋子氏(兵庫医科大学超音波センターセンター長・内科 肝胆膵科教授)が交互に座長と演者を務め,肝疾患診療の最前線をテーマに講演した。

2014年8月号

超音波Week2014 ランチョンセミナー9 肝疾患診療の最前線

肝線維化診断へのアプローチ

飯島 尋子(兵庫医科大学超音波センター・内科 肝胆膵科)

慢性肝障害の超音波診断法には従来,Bモード診断,レイリー分布による不均一さの診断(ASQ),ドプラ法のうっ血係数や肝静脈波形による進行度の予測などがある。超音波造影剤が登場してからは,肝動脈,門脈,肝静脈到達時間による肝障害度の予測や,Kupffer細胞への貪食能の評価による機能診断が行われてきた。
本講演では,最近注目されている組織の硬さを診断するエラストグラフィのうち,剪断波(shear wave)による肝硬度診断について解説する。

エラストグラフィ開発の背景

従来の肝障害におけるBモードのスペックルパターンの観察では,F2,F1の症例を診断するのはかなり困難である。肝表面の画像を用いた組織診断も試みられているが,これらはあくまで形態診断であり,触診によってある程度硬いか軟らかいかを知ることはできても,それ以上の情報は得られない。
東芝メディカルシステムズ社製超音波診断装置「Aplio」には,肝臓の中の不均一性を見るASQ(acoustic structure quantification)が搭載されているが,これもあくまで,肝実質の均一度を見ているに過ぎない。
現状では肝障害診断のゴールドスタンダードは肝生検と言えるが,合併症や侵襲性の問題,費用の問題,あるいはサンプリングエラーの問題など,多くの問題点が指摘されている。血液生化学的な検査もあるが,確実性はあまり高くない。
臨床上は,症例ごとの発がんリスクや抗ウイルス薬治療の適否,あるいはC型肝炎の場合,DAAが上市されるまで治療を待てるかどうかなどの判断が必要であり,そのためにも線維化や炎症の程度を評価することが重要となる。
そこで,非侵襲的に肝臓の線維化,硬さを診断できる方法としてエラストグラフィが開発され,注目されるようになった。

エラストグラフィの二大潮流

エラストグラフィには,肝臓に一定の力を加えたときに生じる歪みの大きさを見る“strain法”と,肝臓の中を剪断波(shear wave)が伝播する速度を見る“剪断波法”の2つの方法がある。
剪断波を地震を例に説明すると,まず縦波振動のP波が先に伝わり,次いで横波振動のS波が来る。生体内においても,横波振動である剪断波は1〜10m/sでゆっくり伝わり,硬さによって変化する程度が大きいため,超音波で容易に感知できる。対象に100%の歪みを生じさせるためにどれだけの圧力が必要かを示すのが弾性率(kPa)であり,ある点をつついて別の点で振動を観測する,剪断波の伝播する速度が剪断速度である(図1)。

図1 剪断波の伝播速度と硬さの関係は?

図1 剪断波の伝播速度と硬さの関係は?

 

東芝メディカルシステムズが開発した新しい“shear wave elastography(SWE)”は,まずプッシュパルスによって組織の一部を変形させ,組織の中を伝播する剪断波の速度を検出して,その剪断速度に基づき組織の硬さを評価する(図2 a)。組織の中に腫瘍などの障害物があると,剪断速度が周囲とは違ってくる。障害物が硬い場合は波が速く伝わり(図2 b),周囲より軟らかい場合は遅くなる。広がっていく剪断波は,探索パルスを送って検知する。

図2 SWEにおける剪断波の伝播速度の変化 a:プッシュパルスによって組織の一部を変形させる。 b:腫瘍などの硬い障害物では伝播速度が速くなる。

図2 SWEにおける剪断波の伝播速度の変化
a:プッシュパルスによって組織の一部を変形させる。
b:腫瘍などの硬い障害物では伝播速度が速くなる。

 

図2a動画

 

図2b動画

 

 

横軸に波が進む距離,縦軸に時間をとり,距離ごとに波が通過した時間をプロットすると,肝臓の中を伝播する剪断波の軌跡を見ることができる(図3)。軌跡は,均一な組織であれば波の速度は変わらないため直線になるが,速度が変われば傾きが変わる。例えば,肝臓内に硬い腫瘍があると,剪断速度が速くなった部分,すなわち硬いと判定される部分が画面上に赤色で表示される。

図3 SWEにおける剪断波の軌跡 奥行き方向は時間を表し,どのように波が移動したかの軌跡を見ている。青いラインは波が通り過ぎましたよ!のお知らせ時間。

図3 SWEにおける剪断波の軌跡
奥行き方向は時間を表し,どのように波が移動したかの軌跡を見ている。
青いラインは波が通り過ぎましたよ!のお知らせ時間。

 

図3動画

 

 

SWEは,3段階のフレームレートを選択できる“連続スキャン”と,画質重視の“ワンショットスキャン”が特徴である。連続スキャンは心拍動の影響を受けやすい部位に有用であるが,当施設では画質を重視し,ワンショットスキャンを選択して検査を行っている。また,もう1つの特徴として,フリーズ後に3種類のモード〔剪断速度(m/s),弾性率(kPa),到達時間等高線〕を切り替えて画面表示させることができる(図4)。

図4 SWEの特徴 フリーズ後3種類のモードを切替表示可能

図4 SWEの特徴
フリーズ後3種類のモードを切替表示可能

 

到達時間等高線の有用性

これまでのエラストグラフィでは,本当にきちんと剪断波が伝わっているかどうか,表示されるカラー画像を検証する手段がなかった。前述したSWEの特徴である到達時間等高線(propagation)を用いれば,剪断波がきちんと組織内を伝わっているかどうかを,1枚の静止画で明確に確認することができる(図5)。

図5 SWEの到達時間等高線表示

図5 SWEの到達時間等高線表示

 

表示される等高線の幅は,ターゲットが硬い組織の場合は広くなり,軟らかければ狭くなる。障害物がないびまん性疾患では,剪断波の速度が変わらないので,同じ幅のままの等高線が連続する。そして,平行な等高線が表示される部分は,剪断波がきちんと伝播している信頼性の高いデータと言えるが,均一性がなくギザギザになった部分は信頼性が低いということになる。すなわち,等高線を確認することにより,データの信頼性が担保される(図6)。

図6 等高線の確認による伝播表示の信頼性

図6 等高線の確認による伝播表示の信頼性

 

SWEは剪断速度モードでも,血管などの影響でデータに信頼性がないような部分はカラー表示されないようになっているが,等高線表示によって剪断波の伝播状況をより明確に確認することができる。また,深部で剪断波が発生しにくい部位でも同様に,等高線表示によって信頼性の有無を確認できる。
このようにデータの信頼性を確認し,剪断速度を測定するのに適した場所を容易に選択できるのは,到達時間等高線表示の大きな利点である。例えば,強い脂肪肝で,皮下脂肪が3cmあるような症例でも,等高線表示によって剪断波が均一に進んでいることが確認できる部分を探し,その部分で剪断速度を測定すれば,信頼性の担保されたデータが得られる(図7)。

図7 到達時間等高線表示による信頼性の担保

図7 到達時間等高線表示による信頼性の担保

 

SWEの臨床データ提示

当施設での2014年1月31日〜4月3日における臨床データを示す。2機種以上で肝硬度を測定した236例と,肝生検を実施した64例を対象とした。
肝生検でF1,A1(慢性肝炎)と診断された症例1では,剪断速度表示モードできれいに青くカラー表示された部分では,等高線表示モードでも均一に波が進んでいることが確認できた(図8)。血管の部分は,カラー表示が抜けている。

図8 症例1:F1,A1(慢性肝炎)

図8 症例1:F1,A1(慢性肝炎)

 

生検でF3,A1と診断された症例2では,剪断速度表示モードでの色調が,症例1よりやや黄味がかっていた(図9)。等高線の幅も症例1よりやや広く表示されており,剪断速度の測定値は2.3m/sであった。

図9 症例2:F3,A1 F1症例と比べて色が明るく,等高線の間隔も広い。

図9 症例2:F3,A1
F1症例と比べて色が明るく,等高線の間隔も広い。

 

症例3の肝硬変(F4)のカラー表示は,症例2よりずっと黄味が強かった(図10)。赤色の部分も出現しており,組織の硬さが一目で見て取れた。等高線の幅も,症例1と2よりさらに広がっている。血小板数は7.8×104μL,アルブミン3.5g/dLで,剪断速度は3.32m/sという測定結果であった。
当施設ではAplioのほかにも3社の超音波装置を用いているが,測定値の係数相関をみるとそれぞれ,0.884,0.852,0.938と,いずれも高い値を示した。このことから,東芝メディカルシステムズの開発したSWEの測定値は,従来製品と同等の信頼性があると言える。
生検を行った64例についても同様に,Aplioと他の3機種との相関係数をみるとそれぞれ,0.927,0.916,0.959と,すべて0.9以上であり,きわめて高い相関が認められた。

図10 症例3:F4(肝硬変)

図10 症例3:F4(肝硬変)

 

生検の結果とAplioでの剪断速度の測定値の比較を箱髭図で表してみると,大きく乖離した症例が数例あるものの,F4の診断能が高いことが示された(図11)。剪断速度の平均値は,F1と診断された症例では1.646m/s,F2では1.762m/s,F3では2.213m/s,F4では2.862m/sとなっており,線維化が進むにつれて測定値も高くなっていることがわかる。

図11 生検データとの比較

図11 生検データとの比較

 

生検結果と測定値が乖離していた症例は,例えば生検ではF1と診断されたが,臨床的には胃・食道静脈瘤を合併した肝硬変の症例などであった(図12)。症例4は,Aplio以外のいずれの装置でも高い測定値を示していた。生検で採取した組織には,一部幅が広い線維化の部位はあるが,病理医によってF1と診断された。剪断速度表示モードの画像では黄色がかってカラー表示されており,また,等高線の幅も広いことから,SWEで肝硬変の診断が可能であると思われた。

図12 症例4:臨床的には肝硬変であったF1症例

図12 症例4:臨床的には肝硬変であったF1症例

 

症例数は少ないものの当施設での成績から,SWEにおける肝硬変のカットオフ値は,2.23m/sと算出された(図13)。2.23m/s以上であれば肝硬変と診断することができ,ROCは0.9ときわめて良好であった。

図13 SWEによる肝硬変診断のカットオフ値(2.23m/s) F0-3Vs F4='F4'を陽性とする。 曲線の下の面積=0.90143

図13 SWEによる肝硬変診断のカットオフ値(2.23m/s)
F0-3Vs F4='F4'を陽性とする。
曲線の下の面積=0.90143

 

まとめ

東芝メディカルシステムズの新しいエラストグラフィ(SWE)での肝硬度測定値は,他社製品と同等の線維化診断能を有している。生検における線維化ステージの進展とともに,SWEで測定した剪断速度も上昇する傾向が認められた。
SWEの特徴である到達時間等高線表示は剪断波の伝播の様子を確認できるため,データの信頼性が担保される。他機種ではまだらに表示されているとデータの信頼性が疑われ,何回も検査を繰り返すことが多かったが,Aplioでは剪断波の到達時間等高線を確認することで,一度の検査で信頼できるデータを得ることが可能になると考えられる。

 

飯島 尋子(兵庫医科大学超音波センター・内科 肝胆膵科)

飯島 尋子(Iijima Hiroko)
1983年 兵庫医科大学卒。同年兵庫医科大学病院第三内科教室臨床研修医。1996年 兵庫医科大学第三内科助手。2000年 東京医科大学第四内科講師。2003年トロント大学トロント総合病院放射線科客員臨床教授,トロント大学サニーブルック校舎医学生物物理学教室客員教授。2005年 兵庫医科大学中央医療画像部門助教授,内科肝胆膵科助教授(兼任)。2008年〜 兵庫医科大学超音波センター長,肝胆膵内科教授(兼任)。

 

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