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Seminar Report

第18回日本消化器関連学会週間(JDDW 2010 Yokohama)ランチョンセミナー

第18回日本消化器関連学会週間(JDDW 2010 Yokohama)が2010年10月13日(水)〜16日(土)の4日間,パシフィコ横浜にて開催された。10月14日に行われた第48回日本消化器がん検診学会大会と東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナーでは,昭和大学附属豊洲病院消化器内科の松川正明氏が座長を務め,国立がん研究センター中央病院放射線診断科の飯沼 元氏が,CT Colonographyによる大腸スクリーニングの実際について講演した。

ここまで身近になったCT-Colonography
クリニックにおける大腸スクリーニング検査の実際

飯沼 元(独立行政法人 国立がん研究センター中央病院放射線診断科 医長)

飯沼 元
飯沼 元
1986年岐阜大学医学部卒業,同附属病院放射線科入局。秋田赤十字病院,国立がんセンター(現・国立がん研究センター)がん予防検診・研究センター検診部総合検査室長などを経て,2007年より現職。

多列CTによる大腸がんの診断法であるCT Colonography(以下,CTC)は近年,非常に広く知られるようになり,いまや,一般臨床に応用可能な診断法となってきている。実際に,東京都日野市にある英世会クリニックでは,16スライスCTを用いたCTCを検診に導入し,日常的に大腸スクリーニングが施行されている。本講演では,クリニックにおける一般的なCTC検査の実際をVideo Liveで紹介するとともに,国立がん研究センターにおける最新診断技術について報告する。

16列CTを用いたクリニックでのCTC検査:Video Liveより

英世会クリニックでは2008年,国立がん研究センターの技術指導のもとCTCを施行し,2010年6月,万願寺総合健診センター設立と同時に,CTCを検診項目に正式に採用した。現在は,東芝メディカルシステムズ社製16スライスCT「Aquilion 16」を用いて,月間約20件の検査が行われている。また,CTC検査のために開発した,東芝メディカルシステムズオリジナルの腹臥位マットや,CTコンソール搭載の大腸CT解析ソフトウエア"コロンビューイング"により,スムーズな検査を実現している。

●CTC検査の流れ

CTCは,前処置,CT撮影,画像解析,診断という流れで検査が行われる。同クリニックでは,前処置は注腸X線検査の前処置に近い,非常に簡便な方法が採用されている。具体的には,検査前日の食事は3食とも素うどんとし,夕食後にマグコロール250mLを服用するが,残渣・残液を標識(fecal tagging)するためのバリウムやガストログラフインなどの造影剤の服用は行っていない。
撮影前には,被検者に寝台に横向きで寝てもらい,肛門からカテーテルを挿入し,様子を見ながら手動送気によりゆっくりと空気を注入する。このとき,なるべく大腸全体に空気が行き渡るよう,体位変換を行う。
CTCでは通常,腹臥位および仰臥位の2体位のCT撮影を行うが(図1),これは,体位変換によって大腸内の残渣・残液を移動させ,死角のない観察を行うためである。同クリニックでは,まず仰臥位でプレスキャンを行い,大腸の拡張が十分であれば本スキャンを,不十分であれば空気の追加注入を行い,十分に大腸が拡張されたことを確認して本スキャンを行う。続いて,腹臥位で撮影を行うが,仰臥位同様にプレスキャンで大腸の拡張状態を確認した上で本スキャンを行う。

図1 CTC検査の体位
図1 CTC検査の体位

●画像解析の流れ

画像解析は,コロンビューイングを使用し,CTコンソール上で行う。はじめに患者データを選択し,解析ソフトを立ち上げ,解析に使用する画面を選択する。仰臥位もしくは腹臥位の画像を選択すると,自動的に拡張部分が抽出され,大腸に観察経路となる中心線(パス)が引かれる。両体位の設定終了後,解析画面にて仮想内視鏡像で内腔の観察を行うが,その他の画像も観察位置がリンクしてair enema像に表示されるため,同時に観察位置が同定可能である(図2)。
病変の疑いがある場合は,その部分をクリックすればマークが表示され,同部位の画像が保存される。コメント入力や各種三次元画像の保存も可能なほか,残渣・残液によって観察できない箇所については,比較表示に切り替え,2体位同時観察で対応する(図3)。さらに,視野角210°のフィッシュアイモード(Wideモード)を活用すれば,半月ヒダの裏など,大腸全体を盲点なく観察することができる。
保存したキー画像やコメントは病変ごとに分類されるほか,そのままレポートとして記録され,DICOM形式で保存・転送可能である(図4,5)。同クリニックの場合,画像解析の段階で診療放射線技師が先に病変をチェックし,その後,放射線科医もしくは消化器科医が画像全体を再読影して最終診断を行っている。

図2 コロンビューイングの表示レイアウト
図2 コロンビューイングの表示レイアウト

図3 コロンビューイングの2体位表示
図3 コロンビューイングの2体位表示

図4 レポート機能 日本の診断学に沿った病変入力が可能
図4 レポート機能 日本の診断学に沿った病変入力が可能

図5 レポートはDICOM形式での保存も可能
図5 レポートはDICOM形式での保存も可能

簡便かつ高精度なCTC検査を可能にする技術

●腹臥位マット

腹臥位での撮影においては,腹圧により横行結腸やS状結腸が圧排されて十分な拡張が得られないことが多く,特にBMI 25以上の肥満がある被検者では圧排が顕著となる。そこで,東芝メディカルシステムズが国立がん研究センターと共同開発した同社オリジナルの腹臥位マットを使用すると,圧排が軽減され,良好な大腸の拡張を得ることができる(図6)。

図6 腹臥位マット
図6 腹臥位マット

●On consoleのコロンビューイング

従来,CTCの解析には専用の画像処理ワークステーションが使用されていたが,東芝メディカルシステムズが開発したコロンビューイングでは,CTコンソール上での解析が可能となった。さまざまな画像表示機能により,効率的に大腸全体が観察可能なほか,病変をチェックしていくだけでレポートまで作成することができる(図2〜5)。さらに,別室にある端末からCTCデータにリモートアクセスし,画像解析を行うシェアエクステンションがオプションとして搭載可能であり,これにより検査スループットを下げることなく,効率的に診断することができる(図7)。

図7 シェアエクステンション
図7 シェアエクステンション

海外におけるCTCの現状

CTCは,日本よりも一足早く欧米での普及が進んでおり,CTCに関するさまざまなイベントが行われ,診断法として認められている。しかし,多施設共同研究"American College of Radiology Imaging Network(ACRIN)"によるCTCの診断能の検証データでは,大腸検査法として十分なエビデンスが認められるに至らなかった(New England Journal of Medicine,359・12,1207〜1217,2008.)。その結果,米国ではいまだ,CTCは診療報酬の対象となっていないのが現状であり,さらなる診断能の向上が求められている。

わが国におけるCTCの現状

わが国においても近年,CTCに関するイベントが増加しており,2007年4月には,日本医学放射線学会総会でワークステーションを用いた第1回目のCTCトレーニングコースが開催された。参加者は年々増加しており,2010年には100名を超える参加があった。また,2010年6月には,腹部放射線研究会でも第1回目のハンズオン・トレーニングコースが開催された。
注腸X線検査や大腸内視鏡検査に基づく優れた診断学が確立されている日本においてCTCが普及するためには,消化器科医の参入が不可欠である。そこで,2010年5月には,放射線科医と消化器科医が消化管CT診断をテーマに活発に議論する場として,「第1回消化管CT研究会」も開催されている。消化管診断におけるCTの重要性が高まる中,このようなイベントは,今後ますます盛んになると思われる。

●CTCに必要なインフラ整備の現状

CTCが普及するためにはインフラ整備が重要だが,日本ではまだ十分とは言えないのが現状である。欧米ではすでに炭酸ガス(CO2)自動注入器が普及しているが,日本では薬事未承認である。また,コンピュータ支援診断(CAD)も薬事未承認であり,診断法の標準化・適正化も行われていないことから,さらなるインフラ整備が求められている。

国立がん研究センターにおけるCTC研究の現状

こうした状況の中,国立がん研究センターでは長年にわたってCTCの研究に取り組み,いまやその目的は研究から実際のスクリーニングへの応用に変わろうとしている。ここでは,そうした流れの中で培われてきた研究成果を紹介する。

●前処置:経口造影剤によるtagging

欧米では現在,経口造影剤(ガストログラフイン等)を用いて残渣・残液を高濃度領域として標識(tagging)する前処置法が一般的だが,大腸内視鏡検査に準じているため手間がかかる。そのため当センターでは,注腸X線検査の前処置に準じたバリウム,低残渣食,下剤による,より簡便な方法の開発を行った。その際,造影剤でtaggingされた部分をデジタル処理によって取り除けば,残渣・残液に隠れていたポリープを見つけることも可能であり,いかにうまくtaggingできるかが重要なポイントとなる。
そこで,CTCに最適なバリウムの開発をめざし,欧米で販売されているCTC用バリウムをはじめ,さまざまな製品を検討した結果,CTCでは流動性が低く,粘性度の高いものが適していることが判明した。こうした研究を経て,当センターが伏見製薬所と共同開発したバリウムは現在,治験中である。また,検査食についても,すでに十分臨床レベルのものが完成している。これらを用いた当センターの前処置法を図8に示す。

図8 国立がん研究センターにおける前処置の流れ
図8 国立がん研究センターにおける前処置の流れ

●炭酸ガス自動注入器の開発

CTCを行うにあたり,最も問題となるのが大腸のガス拡張である。日本では炭酸ガス自動注入器が薬事未承認のため,当センターでは当初,医師の個人輸入として導入し,2000例以上の術前CTCを行ってきた。
ガス拡張により,被検者が痛みを訴えることが多いが,これはガスが小腸に流入するためであり,大腸拡張時にはほとんど苦痛がない。また,画像処理の際には腸の拡張部分が自動で選択されるが,小腸にガスが流入すると,ガスの拡張領域が広くなるため,画像処理に時間がかかることも問題となる。そこで当センターでは,こうした問題の解決と,より優れた装置の開発をめざし,各症例のガス拡張に際して注入速度や内腔圧,注入量のデジタル計測などを行って腸管拡張の適正化を図り,メディックサイト社と共同で独自の炭酸ガス自動注入器を開発した(図9)。すでに欧州ではCEマークを取得して販売を行っており,国内で臨床に登場する日も近いと思われる。

図9 国立がん研究センターが開発した炭酸ガス自動注入器による前処置
図9 国立がん研究センターが開発した炭酸ガス自動注入器による前処置

●electronic cleansing画像処理

大腸内で高濃度にtaggingされた残渣・残液を画像処理で取り除く方法を"electronic cleansing"と呼ぶ。残渣・残液で隠れていた部分が観察可能になることで(図10),CTCの診断能の向上につながる。electronic cleansingも,すでにziostation(ザイオソフト社製)で実用化されている。

図10 ziostationの大腸展開画像(Virtual Gross Pathology:VGP)におけるelectronic cleansing
図10 ziostationの大腸展開画像(Virtual Gross Pathology:VGP)におけるelectronic cleansing

●表面型腫瘍に対するCADの精度向上

当センターでは,約4年前からメディックサイト社とCADの開発を行っており,最近では5mm程度の小さな病変でもCADで十分に検出可能となった。比較的小さなUa+Uc型病変などもCADで検出できるようになっており(図11),sm2癌など,ある程度の隆起があれば見逃さなくなってきている。
CADの検出能を調べた当センターのデータを表1に示す。表面型腫瘍については課題も残されているが,隆起型病変は100%検出可能である。また現在では,壁の不整に肥厚した領域を抽出する新しい解析アルゴリズムも実用化されており,従来のCADでは検出できなかった病変も検出可能になりつつある。CADをより有効に活用するため,モニタ2画面構成で仰臥位と腹臥位の同時観察を行う,"Band View"という新しい表示方法も開発され(図12),病変を見落とさないための診断環境がすでに整えられている。

表1 国立がん研究センターにおけるCAD検出能
表1 国立がん研究センターにおけるCAD検出能

図11 CADによる上行結腸の・a+・c型病変の検出
図11 CADによる上行結腸のUa+Uc型病変の検出

図12 Band ViewによるCTC-CAD診断
図12 Band ViewによるCTC-CAD診断

わが国における今後の展望

現在,当センターが中心となり,CTCの診療報酬収載をめざしたマルチセンタースタディを計画している。すでにCTC検診を導入している各施設と,前処置や診断法に関する情報交換を行うことで,わが国におけるCTCの有効性を検証していきたいと考えている。
また,当センターでは,2010年11月にCTCによる大腸がん検診を開始した。CTCには,(1) 検査処理能力が高い,(2) 検査の質が術者の技量に左右されない,(3) 診断画像に客観性・再現性があり,標準化できる可能性が高い,(4) デジタル画像を生かした画像表示,CAD,前処置が可能,といったさまざまなメリットがあり,CTCをスクリーニングに導入する意義はきわめて大きいと思われる。
図13表2に,英世会クリニックが2008〜2009年に行ったCTCの結果を示す。5mm以上の病変陽性率は,便潜血(FOBT)が30.8%,血便で44.4%であり,きわめて大腸がんに対して高リスクであることがわかる。さらに,CTCでは大腸壁外病変も多数見つかっており,腹部の他臓器スクリーニングも可能だと考えている。

図13 英世会クリニックにおけるCTC検査結果
図13 英世会クリニックにおけるCTC検査結果

表2 英世会クリニックにおけるCTC検査結果の原因別内訳
表2 英世会クリニックにおけるCTC検査結果の原因別内訳

大腸がんスクリーニングは現在,便潜血反応検査にて行われているが,陽性であるにもかかわらず,大腸内視鏡検査に対する嫌悪感などから検査を受けない人が非常に多いのが実情である。しかし,CTCによって大腸検査がより身近なものとなれば,大腸がん精検未受診の問題も解決され,さらなる早期発見と死亡率の低下につながる可能性があると考えている。CTCで見つけにくい表面型病変については,大腸内視鏡検査でも100%診断することは困難であることを考えると,スクリーニングの対象となる病変のポイントさえきちんと押さえれば,大腸がんスクリーニングにおける可能性はもっと大きくなると思われる。その上で,CTCが16スライスCTを用いて一般クリニックでも行われていることを,より多くの方に認識していただき,今後の大腸がん診断に役立てていただけることを願っている。

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