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Seminar Report

第76回日本循環器学会学術集会ランチョンセミナーLS-63
2012進化する循環器画像診断・治療
Low Dose Solution 究極の低線量撮影技術

第76回日本循環器学会学術集会が,2012年3月16日(金)〜18日(日)の3日間,福岡国際会議場をはじめとする福岡市内4会場にて開催された。18日に行われた東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナーでは,帝京大学医学部附属病院循環器内科の一色高明氏が座長を務め,国家公務員共済組合連合会横須賀共済病院循環器内科の高橋 淳氏と,岩手医科大学附属病院循環器医療センター循環器放射線科の吉岡邦浩氏が講演した。ここでは,吉岡氏の講演内容を報告する。

320列面検出器CTによる新しい冠動脈CT技術

吉岡邦浩(岩手医科大学附属病院循環器医療センター循環器放射線科)

吉岡邦浩(岩手医科大学附属病院循環器医療センター循環器放射線科)
吉岡 邦浩
1985年岩手医科大学卒業。同附属病院,同医学部放射線医学講座を経て,97年に同附属循環器医療センター放射線科配置,2004年同医学部放射線医学講座助教授,2007年より同准教授。

CTの技術的進歩に伴い,冠動脈CTの施行件数は飛躍的に増加している。日本循環器学会が2011年に発表した「循環器疾患診療実態調査報告書」によると,2010年には年間約35万件が施行されており,冠動脈造影検査(CAG)に迫りつつある。一方,冠動脈CTは被ばく線量の低減や,著しい冠動脈石灰化症例における血管内腔の評価が課題となっている。
本講演では,これらの解決に向けた東芝メディカルシステムズの320列面検出器CTの特長を生かした新しい診断技術である冠動脈サブトラクションCT(W.I.P.)の可能性と,逐次近似法を用いた新しい画像再構成法"AIDR 3D"を用いた低被ばく冠動脈CTについて述べる。

■冠動脈サブトラクションCT(W.I.P.)

●冠動脈CTの施設要件と患者要件

2009〜2010年にかけて,国内外の各学会から冠動脈CTの新しいガイドラインが発表された。わが国のガイドライン1)では,施設要件と患者要件を満たせば,シンチグラフィよりも先に冠動脈CTを施行することが推奨されている。主な施設要件は,64列以上のMDCTを有していること,被ばく線量の低減プロトコールに取り組んでいることが挙げられる。また,主な患者要件としては,50歳未満の女性では被ばくに配慮すること,著しい冠動脈石灰化が予想される患者でないことなどがあるが,実際には著しい石灰化を予測するのはきわめて困難である。

●冠動脈CT適応の判断基準

著しい石灰化が予想される例として,ガイドラインでは透析患者と高齢者が挙げられているが,その判断基準は明確に示されていない。そこで,高度石灰化のエビデンスとして,64列CTに関する国際多施設共同研究である“ACCURACY”と“CorE 64”を検証したところ,ACCURACYでは石灰化スコアが400を超えると有意に特異度が低下すると報告されており2),CorE 64では石灰化スコア600以上は評価の対象外であった3)。また,2010年に出された米国のガイドライン4)では,適切に判定できるのは石灰化スコア400までとしている。
さらに,当院において2002年に600例を対象に行った,電子ビーム式CTとCAGの対比結果を見てみると,有意狭窄がない群では全例が石灰化スコア400以下であるのに対し,有意狭窄がある群では,男性で50歳以上,女性で60歳以上に石灰化スコアが400を超える例が多く見られた5)

●冠動脈サブトラクションCTの可能性

しかし,こうした課題は320列面検出器CTの登場により,解決の兆しが見えてきた。320列CTでは,心臓全体を1心拍で撮影し,ほぼ時相ズレのない画像を得ることができる。これにより,造影CTの情報から単純CTの情報を差分する“サブトラクション”,つまり,DSAと同様のデータを得ることが可能となった(図1)。

図1 320列CTによる著しい石灰化対策:冠動脈サブトラクションCT
図1 320列CTによる著しい石灰化対策:冠動脈サブトラクションCT

■症例提示
症例1は,70歳代,女性。石灰化スコアが全体で1650,左冠動脈前下行枝(LAD)だけでも520であり,ガイドラインに照らせば適応外となる症例である。CPR像では,LAD近位部に強い石灰化が認められる(図2 a)。そこで,サブトラクション画像を作成すると,石灰化が除去されて内腔の評価が可能となった(図2 b)。また,短軸方向の確認でも石灰化が除去できていることがわかる(図3)。多少のミスレジストレーションはあるものの,診断に支障はない程度と言える。
症例2は,60歳代,男性。左冠動脈回旋枝(LCX)の石灰化スコアは450である。CPR像では3か所に結節状の石灰化が認められ,中央の石灰化部分には高度の狭窄が見えるが,その前後方向には高度の狭窄は認められない(図4 a)。サブトラクション画像を作成したところ,中枢側は25〜50%程度の狭窄であるが,中央・末梢の石灰化部分には75%程度の強い狭窄が認められた(図4 b)。CAGで確認しても,サブトラクション画像と同様の所見が得られた(図4 c)。サブトラクション画像は,見たい石灰化部位を指定すると,自動位置合わせ後3,4分で表示される。
さらに,ステント留置例においても,サブトラクション画像により内腔の評価が可能であるとの結果も得られており,冠動脈サブトラクションCTの有用性が示唆された。

図2 症例1:70歳代,女性,高度石灰化症例 a:CPR像,b:サブトラクション画像(W.I.P.)
図2 症例1:70歳代,女性,高度石灰化症例
a:CPR像,b:サブトラクション画像(W.I.P.)
図3 症例1のLAD短軸像(冠動脈サブトラクションW.I.P.)
図3 症例1のLAD短軸像(冠動脈サブトラクションW.I.P.)
図4 症例2:60歳代,男性,CAGとの相関が得られた例 a:CPR像,b:サブトラクション画像(W.I.P.),c:CAG画像(Yoshioka, K., Tanaka, R. : Subtraction Coronary CT Angiography for the Evaluation of Severely Calcified Lesions Using a 320-Detector Row Scanner. Curr. Cardiovasc. Imaging Rep., 4・6, 437〜446, 2011.より許可を得て引用転載)
図4 症例2:60歳代,男性,CAGとの相関が得られた例
a:CPR像,b:サブトラクション画像(W.I.P.),c:CAG画像
(Yoshioka, K., Tanaka, R. : Subtraction Coronary CT Angiography for the Evaluation of Severely Calcified Lesions Using a 320-Detector Row Scanner. Curr. Cardiovasc. Imaging Rep., 4・6, 437〜446, 2011.より許可を得て引用転載)

■AIDR 3Dによる低被ばく冠動脈CT

冠動脈CTは被ばく線量が多いことが問題視されてきたが,最近ではAIDR 3Dをはじめとする逐次近似法を応用した新しい画像再構成技術によって,低被ばく撮影が可能となってきた。最大75%の被ばく低減が可能とされるAIDR 3Dについて,当院で検討を行った。
同一症例でAIDR 3Dの強度を変えると,強くするほどノイズが改善された。しかし,それに伴い画像のボケが強くなるため,AIDR 3Dのスタンダードモードを用いた場合には,約33%の被ばく低減が可能であることがわかった。
また,他の症例の検討から,320列CTでは極端な肥満者でないかぎり,通常の1-beat CTAとAIDR 3Dを用いれば,管電圧120kVで被ばくは実効線量で1mSv台での撮影が可能であることが確認できた。さらに,管電圧を100kVにすることができれば,被ばく線量を1mSv以下にすることも充分に可能になると考えられる。

●AIDR 3Dを用いたサブトラクションCTの可能性

AIDR 3Dと冠動脈サブトラクションCTを組み合わせて,Low Dose Subtraction Coronary CTA(W.I.P.)を撮影することも可能である。
狭心症が疑われた70歳代,男性の症例では,低被ばく撮影とサブトラクションの組み合わせにより,被ばく線量は計3.2mSvであった。もし,3mSv程度の被ばくでサブトラクション法が可能であれば,臨床的にも非常に有用であり,適応症例も増加していくと考えられる。

■まとめ

320列面検出器CTでは,AIDR 3Dを用いることで被ばく線量1〜2mSvでの冠動脈CTが可能であった。また,冠動脈サブトラクションCTにおいても,AIDR 3Dを使用することで,おおむね5mSv未満での撮影ができると見込まれる。

●参考文献

1) 日本循環器学会他:循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2007-2008年度合同
研究班報告);冠動脈病変の非侵襲的診断法に関するガイドライン. Circ. J., 73(suppl.V), 1019〜1089, 2009.

2) Budolf, M. J., et al.:Diagnostic performance of 64-multidetector row coronary computed tomographic angiography for evaluation of coronary artery stenosis in individuals without known coronary artery disease. J. Am. Coll. Cardiol., 52, 1724〜1732, 2008.

3) Miller, J. M., et al.:Diagnostic performance of coronary angiography by 64-row CT. N. Engl. J. Med., 359, 2324〜2336, 2008.

4) Taylor, A. J., et al.: ACCF/SCCT/ACR/AHA/ASE/ASNC/NASCI/SCAI/SCMR 2010 appropriate use criteria for cardiac computed tomography ; A report of the American College of Cardiology Foundation Appropriate Use Criteria Task Force, the Society of Cardiovascular Computed Tomography, the American College of Radiology, the American Heart Association, the American Society of Echocardiography, the American Society of Nuclear Cardiology, the North American Society for Cardiovascular Imaging, the Society for Cardiovascular Angiography and Interventions, and the Society for Cardiovascular Magnetic Resonance. J. Am. Coll. Cardiol., 56, 1864〜1894, 2010.

5) 那須和広,吉岡邦浩:電子ビームCTによる冠動脈石灰化指数を用いた虚血性心疾患の診断;日本人での検討. 日本医学放射線学会雑誌,62, 701〜706, 2002.

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