書評:FDG-PETマニュアル 検査と読影のコツ

2004-6-7


FDG-PETマニュアル 検査と読影のコツ

編著:陣之内正史(厚地記念クリニック・PET画像診断センター)
B5版フルカラー260頁
臨床写真283点収録
税込6,825円

 

書評

PET検査が医学界のみならず一般社会でも話題になるようになった。
ブドウ糖代謝を画像化するFDG-PETが,癌を中心とした診療に役立ち,「究極の検診」として注目されるようになったことが大きい。癌細胞の増殖にはエネルギー源としてブドウ糖を利用しているので,ブドウ糖代謝を画像化すれば癌細胞の活動状態がわかるという理屈である。ブドウ糖とよく似た構造式のFDGを注射。ほぼ1時間後にFDGの体内分布を撮影すれば,癌ならばFDGを取り込み,癌の部位が陽性となり光ってくる。
このように聞くと,医師ならばだれでもFDG-PETの診断が正確にできると思われることだろう。だが実際はそうはうまくいかない。癌か癌でないか,正常か異常か,あるいはこれは単なる生理的な取り込みではないか,現場では判断に迷うことも多い。殺人事件で「この容疑者は本当に犯人だろうか」と捜査にあたっている警官が悩むのとよく似ているかもしれない。
そのような悩みを救うべく,FDG-PETの検査と読影のコツがわかりやすく書かれた本が刊行された。厚地記念クリニック・PET画像診断センター院長の陣之内正史先生編著による「FDG-PETマニュアル:検査と読影のコツ」である。
陣之内先生はじめ,著者である吉田 毅,落合礼次,田邉博昭の各先生は,九州の厚地記念クリニックと古賀病院21でPET診療に携わっているため,数多くの症例から厳選されたものを提示しているので,読者にとってわかりやすい。各論は1項目を見開き2ページになるように見やすくしているし,何より肝腎の写真がきれいである。また,検査の利点・意義,欠点・限界,ポイントなども記載されており,文献も豊富である。
陣之内先生は以前,優れた放射線科専門医,核医学専門医として宮崎医科大学に助教授として勤務されていたが,助教授の職を辞し,現在は厚地記念クリニックでPETの診療に携わっている。先生の恩師である渡邊克司宮崎大学名誉教授よると,“水を得た魚のよう”に活躍されており,いまやわが国を代表する診療PETの第一人者になられた。
FDG-PET検査を行うには,現在は小型サイクロトロンという大がかりな設備投資が必要で,日本でも100あまりの施設でしか検査ができない。しかし,このFDGを製造するメーカーの手で,全国10か所に薬剤工場が建設中である。これによって2005年には,日本の約70%の地域でFDGが入手できる算段になっている。
FDGが市販されるようになれば,病院に小型サイクロトロンがなくても,PETカメラを購入すればFDG-PET検査を行うことができるわけで,まもなくFDG-PETが日本全国の病院に普及することだろう。
癌診療において,FDG-PETを行えば約20%の患者で新しい病変が見つかるし,服用している抗癌剤が効いているかどうかの治療効果判定や,手術・放射線治療がうまくいっているかどうか,再発・再燃の有無などにも,特に役立つ。
この「FDG-PETマニュアル:検査と読影のコツ」は,FDG-PETに携わる関係者ばかりでなく,FDG-PET検査を依頼する医師などが読んでもわかりやすいように書かれており,多くの方に自信をもってお薦めできる素晴らしい本である。

遠藤啓吾
群馬大学大学院医学系研究科画像核医学教授

 

書評

本書は最近急増しているPETがん診断の検査法と読影法についての教科書(マニュアル)である。編著者の陣之内先生は日本核医学会の認定医(専門医)の資格を有し,長年核医学診療にかかわってきた核医学診断の専門家である。このような教科書を執筆するには,先生はうってつけの人材と言える。
本書をめくってみて第一の印象は,PET画像が非常にきれいなことである。評者も日頃PET診断にかかわっているが,普段はもっとノイズの多い画像を扱っている。二次元データ収集(2D収集)のためノイズが少ないのか,体の外側のノイズを消す工夫をしてあるためなのか,あるいは単に最新のPET装置と画像再構成法を用いているためであろうか。
FDG-PETでは,生体の生理・生化学的状況に応じてFDG集積が変化することを理解していないと正確な診断は難しい。また,このような知識を知っているだけでは不十分で,豊富な正常パターンを蓄積・整理して初めて教科書的記述が可能となる。本書の総論では,主として正常集積像について扱っているが,1万例以上の経験から抽出された正常集積像と,いろいろな原因による注意すべき集積像が示されている。初心者も熟練者もこの章はかなり参考になると思われる。
疾患各論では,それぞれの部位ごとに,読影のポイントと必要な知識(正常集積部位,炎症性疾患への集積,診断精度,リンパ節転移診断精度,診断の限界など)について必要最小限の情報が記述されている。記述は具体的で,しかも,コツと落とし穴についてかゆい所に手が届くような配慮がされている。特に,これらの情報のまとめが最初の1ページに設けられているので大変ありがたい。初心者にとっては理解・整理の助けとなるであろう。
全体としては,これまでにない優れた実用的な教科書(マニュアル)に仕上がっていると感じる。強いて言えば,対応するCT,MRIの画像がもう少しほしい感じがするが,ページ数の制約,盛り込むべき情報の重み付けの点でやむを得ないかもしれない。また,画像装置の性能と定量性を維持するための装置管理などに関する章もほしい気がするが,できるだけ多くの参照画像を提示するという制約上,それもやむを得ないのかもしれない。引用文献は,番号付きで各章末に示されており,どの記述に対応しているのか本文中に明示されていない。このようなマニュアル形式の本では,これもやむを得ないかもしれないが。

福田 寛
東北大学加齢医学研究所機能画像医学研究分野教授(東北大学病院加齢核医学科科長)


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