画像診断報告書未読による事故を防ぐために必要なことは何か  
対馬 義人(群馬大学大学院 医学系研究科 放射線診断核医学科)
群馬大学医学部附属病院 × 統合診療支援プラットフォーム CITA Clinical Finder(富士フイルムメディカル)

2020-7-8


画像診断レポートの見落としを防げ!

はじめに

2014年の群馬大学医学部附属病院における腹腔鏡問題は,医療の質と安全について深く考え,学ぶ機会となった。いかにわれわれが無知であり,医療の質と安全のためのシステムも前近代的かつ不完全なものであったと認めざるを得なかった。当院に医療安全部が設立されたのは全国でもかなり早い時期であったにもかかわらず,このような大きな事故を防ぐことができなかったのは,(あくまで私見ではあるが)医療安全の根本となる思想,十分な知識を持たず,システム(らしきもの)を作って満足していたからだと考えている。
「医療安全」は学問であり,その根本思想を知り,考え方を学び,そして実践しなければならない。思いつきで対策(らしきもの)を実行しても徒労に終わる。「十分に注意しているので大丈夫です」などと発言する者がいたとすれば危うい。
そんな中で読影報告書未読問題が発覚し,当院は再び新聞報道されることとなった。この古くて新しい問題をいかに解決するか,その戦略を立て実行するに当たり,腹腔鏡問題をきっかけに学び考えたことが大いに役に立った。

基本的考え方

医療安全を考えるとき,「だれかの責任である」として処理してしまうことは絶対に避けなければならない。つまり,「報告書を読まない依頼医が悪いのである」といった単純な考え方は,問題解決のためには逆効果である。もちろん,依頼医が報告書を読まなければならないのは当然であり,それを前提としての話である。
この問題はコミュニケーションエラーである(診断エラーではない)。コミュニケーションには,必ず情報の送り手と受け手がいる。受け手側の行為ばかりが注目され,何とか(強制的に)読ませればよいと考えがちであるが,誤りである。同時に,この問題は病院全体の問題であるということも肝に銘じなければならない。
有効な対策を講じるには,まずこのエラーの実態と危険因子などについて知る必要がある。当日中に対応が必要な緊急の所見については,読影した放射線診断医が責任を持ってしかるべき担当医に電話連絡すべきであることは当然であり,むしろ事故は生じがたい。問題となるのは,当日中に対応するほどではないが,数週間から数か月程度の間には対応すべきと考えられる準緊急ともいうべき所見である。また,未読はCTに多く,新たな悪性腫瘍(疑いを含む)の発見が危険であり,特に依頼医の専門分野でない臓器にたまたま発見された場合が最も危険である1)。依頼医が自分で読影して,報告書を見なかったといった例が多いことは,このような「危険因子」からよく納得される。

いかに未読による事故を防ぐか

大きく分けて3つの方法が考えられる。

1.未開封警告システム
報告書未開封に対して,電子カルテ上で警告を発するシステムが代表的である。しかし,警告を発するべき対象は,ほかにも病理診断報告書や多種多様な臨床検査,書類作成の催促など多くある。その重要性もさまざまである。人はあまりに多くの警告を受け取ると,いつしかそれらを無視するようになり,これは警告疲労(alert fatigue)と言われる。警告はたまに受信するから適切に反応できるのであって,安易に発してはならない。
例えば結論が単に「異常なし」という報告書を読まなくても,それが事故の原因となるとはかなり考えにくく,警告を発してはならない。警告を発するのであれば,見落とすと事故につながるような重要所見を含む報告書の未開封のみを対象とすべきである。そのためには,重要な報告書を指定しなければならないが,これを「フラグを立てる」と言い,欧米では放射線診断医の責務とされている2)。このように危険性の高い対象に絞って対策を行う方法を,risk-based approachという。左右を間違えないといった絶対に生じてはならないエラーに対する対策とは本質的に異なる。
警告がだれに対して発せられるべきかも大問題である。依頼医のみとすると,担当医の転勤や患者の転科・未受診などに対応できない。各診療科の責任者などにも同時に警告を発すれば,ますます警告が増加してしまう。
開封されていても内容が正しく伝わっているという保証はまったくない。当院では,開封されているにもかかわらず重要所見が伝わっていなかった例を1年間に5件経験している1)。多く実施されている「未読管理」は,実は「未開封管理」であり,これだけで解決できると考えるとすれば早計である。このような例はかなり多いはずであり,この問題の本質がコミュニケーションエラーであることを考えれば,未開封管理だけでは解決できないことが理解されるだろう。

2.人的なチェック
報告書が読まれたかどうか,担当者が診療録をチェックするシステムである。「フラグの立てられた報告書」にのみ行うrisk-based approachであればその労力は十分に小さく,内容が正しく伝達されたかどうかも確認できる。正しく伝達され,かつ適切な対応がなされていない場合に限って担当医などに連絡する。
これをすべての報告書について実施している施設もあると聞くが,必要な人的負担があまりに大きい。当院では担当の放射線診断医が診療録のチェックを行ってきたが,現在は医療の質・安全管理部が担当しており,有効に機能している。「フラグの立てられる報告書」は1日あたり数件で,必要な人的リソースは限定的である。当院ではこの方法によって多くのニアミス症例を回避している1)

3.患者参加型医療の導入
報告書のコピーを患者さんに渡し,確認してもらおうという考え方である。受け身ではなく,患者さん自身が医療チームの一員として参加するという考え方を「患者参加型医療」という。
報告書を渡しても患者さんには理解できない,誤解される危険がある,信頼関係を損なう,クレームや質問が増加するといった不安から,このようなことはすべきではないといった意見がある。しかし,報告書は診療録の一部であり,閲覧の希望を拒否することはできない。報告書は医師間の情報伝達の手段である,放射線診断医の了解なく交付するのは不当であるといった意見も妥当性を欠く。診療録の内容の所有者は患者さん自身である。理解できなかったり,誤解したり,質問があるのであれば,医療者は適切に説明する義務がある。この方法が責任を患者さん側に転嫁することを意味しないことに注意してほしい。
当院では,希望があれば報告書のコピーが渡される。入院患者であれば,自らの診療録をリアルタイムで閲覧することも可能である。この試みを開始してすでに1年半となるが,これによる事故やインシデントは皆無であり,患者さんには非常に評判が良い。当初は院内の医療者から多くの反発があったが,まったくの杞憂であった。
医療安全のための対策を思いつきで行ってはならない。学問としての医療安全には多くの知識の蓄積があり,実践による効果も測定されている。そのような知識に基づいた対策を行わないと雑用ばかりが増加し,現場を疲弊させることになる。

一番大切なこと

画像診断報告書を読んでも無駄と考えている臨床医は,間違いなくまれではない。
報告書は正確であるだけでは十分ではない。依頼医の(そして患者さん自身の)求める内容が簡潔に,理論的に,適切に,わかりやすく記載されていなければならない。曖昧な表現は誤解を生み,防衛的とされ,信用されなくなる。結論(診断)の欄に,「上記のとおり」などと記載する放射線診断医がいるそうだが,そのような報告書に何の意味があるのか3)。画像診断の世界は,医療の中のごく小さな一部にすぎない。独りよがりの報告書になっていないか自問自答しなければならない。
われわれは患者さんのために仕事をしているはずである。未読問題の最大の犠牲者は患者さんであることを忘れてはならない。この問題が放射線診断医の存在意義について本質的な疑問(と同時にその重要性)を提示していることに気づくべきであるし,われわれが医療の世界でさらに確固とした地位を築くチャンスでもあるのである。“Doctor’s doctor”という考え方はもはや危険である。

●参考文献
1)Tsushima, Y., et al. : Possible solution for the problem of unread image interpretation reports ; The “Gunma University Star Search”. Jpn. J. Radiol., 2020(in press).
2)The Royal College of Radiologists. Standards for the communication of radiological reports and fail-safe alert notification. 2016.
https://www.rcr.ac.uk/system/files/publication/field_publication_files/bfcr164_failsafe.pdf
3)下野太郎, 中島康雄 : 読影レポートの作法. JCR News, 231:18-21, 2019.

 

対馬 義人(群馬大学大学院 医学系研究科 放射線診断核医学科)

(つしま よしと)
1988年群馬大学医学部卒業,93年群馬大学大学院修了。94〜95年フィンランドトゥルク大学放射線診断科フェローなどを経て,2011年から群馬大学大学院医学系研究科放射線診断核医学分野教授,同大学医学部附属病院放射線部長・画像診療部長・超音波診療センター長。2015年から同附属病院病院長補佐。放射線診断専門医,超音波専門医・指導医。

 

 

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