メディカル・データ・ビジョンは,日本生命グループとのシナジーで,「地域全体で患者を診る」という社会インフラの構築に貢献していく
中村正樹 氏(メディカル・データ・ビジョン株式会社 代表取締役社長)
飛田知明 氏(メディカル・データ・ビジョン株式会社 代表取締役副社長)
2026-8-5
中村正樹代表取締役社長(左)と
飛田知明代表取締役副社長(右)
実患者数約6000万人の医療データベースを有している医療ビッグデータ大手メディカル・データ・ビジョン(MDV)は2026年5月,日本生命保険のグループ入りを機に新体制へ移行した。新社長に就任した中村正樹氏と副社長の飛田知明氏にグループ入りのねらい,ニチイ学館やニッセイ情報テクノロジーなどのグループ企業との連携によるシナジーへの期待,医療機関・製薬企業向けサービスの提供など,新生MDVの今後の展開について確かめた。
日本生命グループ入りしたことで,中長期のビジョンを描く
――5月21日に新体制が発足してから約2か月が過ぎました。中村社長の率直な所感を聞かせてください。
中村社長:日々楽しくやらせてもらっています。これまでMDVは医療機関向けのデータネットワークサービスとデータ利活用サービスが事業の中心でしたが,日本生命グループに入ったことで,より大きなビジョンを描けるようになったと感じる機会が多いです。地域や患者,医療従事者にどのような価値提供ができるかという構想が日々広がっており,中長期のビジョンを考えられるようになったことが最も良かった点だと思っています。日本生命からは,副社長である飛田をはじめ6名がMDVに参画しましたが,日々密な連携をとっており,強力なパートナーを得たという意識でいます。
――飛田副社長は,日本生命出身の立場からMDVの雰囲気をどう感じていますか。
飛田副社長:私はMDVの日本生命グループ入りが決まって以降,新体制に向けて準備を進めてきました。MDVは日本生命にはなかった経験やノウハウを有している企業であり,それは当初想定していた以上に多いと感じています。日本生命グループとなったものの,日本生命がMDVを管理するという発想ではなく,双方の強みを掛け合わせて,新たな価値を創造していくことを重視していきたいと思います。
――MDVの社員や顧客からは,日本生命グループ入りについてどのような反応がありましたか。
中村社長:グループ入りが公表された当初は社員から不安の声も挙がっていましたが,今後のビジョンを説明する中で徐々にポジティブにとらえてくれるようになったと感じています。また,病院や製薬企業などの顧客からも,日本生命グループになったことで大きなことができそうだという肯定的な意見をいただいています。
データを基に価値を提供するという両者のビジョンが一致
――日本生命がMDVの参画を求めたねらいは何でしょうか。
飛田副社長:日本生命は2017年からヘルスケア領域に取り組んでおり,未病の状態から罹患後の社会復帰,重症化予防などをトータルで支える会社への転換をめざしてきました。8,9年かけて健康保険組合などからデータを集めてきましたが,これを価値に変えて社会に還元するには自前で進めるより,すでにデータを価値に変えている企業と組む方が加速度的に大きなインパクトを生み出せると考えました。その最適な相手がMDVでした。
――MDVの立場から,グループ入りの意義をどうとらえていますか。
中村社長:日本生命からの「国民のために何ができるかを一緒に考えたい」というメッセージが患者や生活者,医療従事者への価値提供をめざすMDVのビジョンと合致していると感じてグループ入りを決めました。
グループのシナジーで診療データという資産を生かす
――日本生命グループにはニチイ学館やニッセイ情報テクノロジーといった医療にかかわる企業がありますが,今後どのように連携を進めていきますか。
中村社長:ニチイ学館とはすでにミーティングを重ねています。ニチイ学館は全国の医療機関で,医療事務を担う人材を多数擁しており,その規模は国内最大です。こうした基盤を生かすこと,またニチイ学館でのDXをグループ内で支援していくことで,病院に役立つサービスとして横展開できると考えています。また,ニッセイ情報テクノロジーとも,病院支援事業に関する連携を協議しています。
――日本生命の「保険者データ」とMDVの「診療データ」を組み合わせると,どのような分析が可能になりますか。
中村社長:現在の法律では,保険者データと診療データを名寄せして組み合わせることには制限がありますが,それぞれの特性を生かし,慢性疾患や急性期疾患などを合わせて分析できるプラットフォームを提供したいと考えています。日本生命が保有する最長8年間の時間軸データは,希少疾患の動向分析にも有効です。人材交流も図っており,MDVではすでに6名の出向者を受け入れていて,今後も必要に応じて進めていきます。
AI活用などの医療DXにより地域と中小規模病院の課題解決を支援
――これまで提供してきた病院経営改善アプリケーション「MDV Act」などの製品・サービスは,今後どのように強化されますか。
中村社長:短期的にはニッセイ情報テクノロジーとの連携や,ニチイ学館の人材を通じたデータ分析支援など,医療機関の人材不足解消と分析高度化を同時に進める価値の提供を考えています。中長期では,日本生命が47都道府県と結ぶ包括連携協定や個別連携協定を生かし,個々の医療機関の経営支援にとどまらず,地域でどのような医療提供体制にしていくかといった社会インフラの構築を大きなテーマとしたいと考えています。
飛田副社長:そのためのキーワードが,「医療DX」と「地域」です。これまでのMDVは病院経営の可視化に強みがありましたが,今後は蓄積したデータをAIと組み合わせ,診療業務の改善につなげたいと考えています。地域医療の視点では,日本生命と自治体とのリレーションとMDVのデータを組み合わせ,地域医療の課題を可視化し,自治体の方針決定を支援して,医療機関の経営にも寄与するという循環を生み出したいと考えています。
――中小規模病院への提案型営業を強化するとのことですが,具体的な展開を教えてください。
中村社長:プライマリーケアを担う中小規模病院では,データを分析するための人材が不足しています。その人材を補い,医療機関が所有するデータを可視化して,課題解決につながるように寄り添っていきたいと考えています。「改定QAチャットボット」(編注:2026年10月31日まで無償提供)や,音声AIツール「カタナシ」などのAIを用いたソリューションを提供し,個々の医療機関に最適化した業務をどのように再設計するかという議論を重ねていきます。
製薬企業向けには地域単位でのデータ活用という新たな価値を提案
――製薬企業向けのデータ提供サービスは,これまでの「データの厚みに頼った営業」から提案型営業へ転換するとのことですが,違いを教えてください。
中村社長:従来型のマーケティングや薬剤効果の提示は継続しつつ,日本生命とのシナジーによる地域単位でのデータ活用という価値を提供していきます。具体的には,製薬企業で比重が増している希少疾患をはじめとするスペシャリティ医薬品領域向け,あるいは未診断患者の早期把握や診断後の寄り添いにつながる提案ができる体制を整えています。地域の患者データを組み合わせることができれば,可能性は大きく広がります。データ提供に関する規制改革の議論についても,医療機関がデータの出し先を判断しやすくなるよう,MDVがハブとなって支える活動が必要だと考えています。
「地域全体で患者を診る」という社会インフラの構築に貢献する
――医療機関・医療IT関係者へメッセージをお願いします。
中村社長:今後プライマリーケアの重要性が高まっていくという認識の下,個々の病院が競い合う時代から,地域全体で患者を共に支える「共創」へのパラダイムシフトが求められています。患者の初期症状発生から受診・入院に至るまでをシームレスに連携させる「地域全体で患者を診る」という社会インフラの視点が重要です。地域医療構想でも,患者をどう地域でケアするかという方向性は明確に打ち出される一方,それを支える社会インフラの議論はまだ乏しいと感じています。患者起点でデータを集約し,誰もが参照できる環境を整えることが重要であり,MDVとしては日本生命とともに社会インフラの構築に取り組んでいきたいと考えています。
飛田副社長:MDVはこれまでデータを強みとしてきましたが,日本生命グループ入りにより自治体とのネットワークなど事業基盤が大きく広がりました。医療DXと地域というキーワードで,社会インフラの構築や病院経営に引き続き貢献していきたいと思います。
(取材日:2026年7月16日,文責・編集部)
中村 正樹 氏(なかむら まさき)
メディカル・データ・ビジョン株式会社代表取締役社長。九州工業大学卒業,2007年10月にMDVに入社。医療機関の経営支援システムの企画やデータ利活用サービス事業の拡大に貢献。2018年3月に取締役に就任。2026年5月より現職。
飛田 知明 氏(ひだ ともあき)
メディカル・データ・ビジョン株式会社代表取締役副社長。京都大学卒業。2003年4月に日本生命に入社。本店人事G課長,営業企画部担当課長を歴任し,2025年3月にヘルスケア事業部部長に就任。2026年3月にMDVに入社し,5月より現職。
