通院支援スマートフォンアプリ「とりりんりん」による患者サービス向上と業務改善
金坂 尚子(鳥取大学医学部附属病院 外来看護師長)

2026-3-2


金坂 尚子(鳥取大学医学部附属病院 外来看護師長)

金坂 尚子 氏

渡邊 仁美(鳥取大学医学部附属病院 情報担当看護師 認定看護管理者)
寺本  圭(鳥取大学医学部附属病院 医療情報部長)

医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中で,タブレットやスマートフォンなどのモバイルデバイスの活用が進んでいる。鳥取大学医学部附属病院では, 通院支援スマートフォンアプリ「とりりんりん」を運用している。外来患者の50%以上が利用する「とりりんりん」について金坂尚子氏が解説する。

通院支援スマートフォンアプリ「とりりんりん」開発の経緯とシステムの概要

近年,外来患者数の増加や医療従事者不足により,多くの医療機関において待ち時間の長期化やスタッフの業務負担増大が喫緊の課題となっている。特に初診時に実施される問診,検査・治療内容の説明,同意取得には多くの時間を要し,医師や看護師による説明内容のばらつきが,患者の意思決定支援に影響を及ぼすことは,医療現場に共通する課題である。限られた人的資源の中で医療の質を維持・向上させるためには,ICTを活用した業務の標準化・効率化や,診察前業務を含めた業務フローの再設計が不可欠である。
一方,スマートフォンの普及により,患者が診療前から医療情報へアクセスできる環境が整いつつある。診察前に問診への回答や説明動画の視聴を行うことは,患者の理解度や納得感を高めるだけでなく,医療者側にとっても診療準備の効率化,説明内容の標準化,ヒューマンエラーの抑制に寄与すると考えられる。しかし,従来のクラウド型問診サービスでは,患者IDと電子カルテとの連携が不十分であり,回答内容の手入力作業が残存するなど,実運用における業務負担軽減効果には限界があった。
これらの背景を踏まえ,当院では2022年に通院支援スマートフォンアプリ「とりりんりん」を独自に開発し,まず患者受付・呼び出し機能から運用を開始した。その後,現場での使用状況や課題を踏まえながら段階的に機能拡張を行い,2024年12月にはデジタル問診機能および説明動画配信機能を実装し,電子カルテと自動連携するシステムを構築した(図1)。本システムにより,患者の来院前から診療進捗と併せて,問診回答内容や説明動画の視聴状況を電子カルテ上で一元管理できるようになった。2025年6月時点では,外来受診患者の約50%が「とりりんりん」を利用しており,情報共有の効率化という点で一定の効果が認められている。

図1 システム概要図(一部) 通院支援スマートフォンアプリ「とりりんりん」と電子カルテの情報フロー。

図1 システム概要図(一部)
通院支援スマートフォンアプリ「とりりんりん」と電子カルテの情報フロー。

 

運用の実際

本システム稼働に先立ち,各診療科および看護部で111種類のデジタル問診票を整備し,加えて「PIP-Maker」(4COLORS)で作成した163本の説明動画を導入した。医療スタッフは電子カルテ画面上から対象患者を選択し,問診票や説明動画を送信するだけで運用可能であり,専用端末の導入や複雑な操作は不要である。
患者は診察前に自身のスマートフォンを用いて問診に回答し,必要に応じて説明動画を視聴する(図2)。医療スタッフは電子カルテ上の一覧画面(図3)から,アプリ登録状況,問診回答状況,説明動画の視聴状況を一目で確認できる。問診回答内容および動画視聴履歴は自動的に電子カルテへ反映されるため,紙問診の回収や転記作業は不要となった。
スマートフォンの利用が困難な患者に対しては,院内に設置したタブレット端末を使用するとともに,外来スタッフが操作方法の説明や必要に応じた直接支援を行い,デジタル機器に不慣れな患者でも安心して利用できる体制を整備している。また,QRコードを用いて患者自身のスマートフォンから説明動画のみを視聴可能とする仕組みも構築した(図3)

図2 患者問診回答・動画視聴

図2 患者問診回答・動画視聴

 

図3 医療者によるデジタル問診・説明動画の送信と確認

図3 医療者によるデジタル問診・説明動画の送信と確認

 

運用実績と効果

2024年10月から2025年12月にかけて,デジタル問診の実施件数は4103件から9166件へと増加し,段階的な運用拡大に伴う利用定着が確認された(図4)。PFM(Patient Flow Management)業務に関連する入院日問診は2352件実施された。外来診療では,皮膚科問診(2256件)や循環器内科問診(2122件)などで活用されている。
説明動画の配信件数も同期間で1749件から3483件へと増加した。CT/MRIオーダ時の動画自動送信や,入院患者全員に対して必要な問診・動画を自動送信する設定も導入した。説明動画の月平均視聴回数は約590回であり,説明動画が日常診療の一部として定着していることが示唆された。
運用初期に実施した少数例の聞き取り調査では,「説明がわかりやすく安心できた」「短時間で理解できた」「対応がスムーズで待ち時間が短縮された」といった肯定的な意見が得られた。一方で,患者のスマートフォンの機種や通信環境によっては動画再生が中断される事例も認められ,タブレット端末など代替手段の確保が必要であるとの意見があった。

図4 デジタル問診および説明動画配信件数の推移 2024年10月~2025年12月の3か月ごとの推移。

図4 デジタル問診および説明動画配信件数の推移
2024年10月~2025年12月の3か月ごとの推移。

 

課題と今後の展望

運用開始後の課題として,紹介患者では受診前の情報登録が不十分な場合があり,問診や説明動画を事前に送信できないケースがある。現在は,紹介元医療機関からのWeb紹介時点でアプリ登録とIDの紐付けを行い,初診前から問診が患者に届く仕組みを整備中である。
また,説明動画は主に日本語で提供しているため,外国籍患者への対応は限定的である。今後は多言語化を進めるとともに,近隣医療機関との連携により,地域全体で共有・活用可能な仕組みを構築する予定である。
本取り組みは,特別な体制を新たに構築することなく,既存の診療フローを見直しながら段階的な改善を重ねてきた。本報告が,同様の課題を抱える医療機関にとって,「自施設でも段階的に導入可能ではないか」と考える一助となれば幸いである。

 

(かねさか なおこ)
都内の病院にて内科病棟に従事後,鳥取大学医学部附属病院に勤務。現在,鳥取大学附属病院外来師長として,外来におけるデジタル問診・説明動画の運用に携わる。


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