VARIAN RT REPORT
2026年4月号
人にやさしいがん医療を放射線治療を中心に No.32
TrueBeam HyperSightによるOffline ARTに向けて
伊藤 芳紀*1/小林 玲*1/加藤 正子*1/藤井 智希*2/宮浦 和徳*3
*1 昭和医科大学医学部放射線医学講座放射線治療学部門
*2 昭和医科大学病院放射線技術部
*3 昭和医科大学大学院保健医療学研究科医学物理教育分野
はじめに
昭和医科大学病院では,2025年6月より臨床使用では国内初となる次世代型イメージングソリューション「HyperSight」を搭載した「TrueBeam HyperSight」が稼働している。このシステムは,従来の「TrueBeam」と比較して1.5倍高速なcone-beam computed tomography (CBCT)撮影が可能であり,image-guided radiotherapy(IGRT)における迅速な位置照合を実現するとともに,呼吸性移動など体動に起因するモーションアーチファクトの低減により,画質の向上が得られる。また,拡張されたイメージングパネルの導入により,field of view(FOV)が拡大し,従来と比較して広範囲の撮影が可能となった。これにより,鎖骨上から腹部にかけて照射する局所進行食道がんや傍大動脈リンパ節転移を有する局所進行子宮頸がんなど,頭尾側方向に長い照射範囲を有する照射例においてもより正確な位置確認が可能となり,日常臨床における高精度放射線治療の施行に大きく貢献している。高画質のCBCT画像が取得可能となれば,その画像を用いたoffline adaptive radiotherapy(ART)での治療計画が期待されている。本稿では,TrueBeam HyperSightによるoffline ARTに向けてのCBCTの機能および臨床導入に向けた検討について紹介する。
HyperSight CBCTの機能
HyperSight CBCTの機能として,上記の高速撮影およびFOV拡大に加え,散乱線補正付逐次近似再構成技術「iterative CBCT(iCBCT)」が搭載されている。これにより,画像ノイズやアーチファクトが大幅に低減され,軟部組織コントラストに優れた高画質画像が得られ,より高精度な画像位置照合が可能となっている。さらに,CBCT画像再構成にmetal artifact reduction(MAR)アルゴリズムを搭載しており,クリップや歯冠,歯科インプラント,人工股関節などの金属インプラントに起因するアーチファクトを大幅に低減できる。その結果,治療計画CTとほぼ同等の画質を有するCT画像が取得可能となり,より正確な画像位置照合が実現されている。
Offline ARTのワークフロー
従来からのoffline ARTは,治療期間中のCBCTにて腫瘍体積や形状の著明な変化,体重減少に伴う体型変化,腸管などのリスク臓器の位置・形状変化を認め,腫瘍あるいはリスク臓器の線量分布の乖離が臨床的に問題となると判断された場合,同日や翌日以降に治療計画CT室にてCTを撮影し,治療計画装置にて再治療計画を施行している(図1 (1))。一方,TrueBeam HyperSightによるoffline ARTでは,HyperSightにより取得した位置照合用CBCT画像を治療計画CT画像として利用することで,迅速な再治療計画の施行が可能となる(図1 (2))。このフローでは,患者が再度治療計画CT室に移動し撮影を行う必要がないため,患者およびスタッフの時間を含めた負担軽減に加え,治療計画CT装置の稼働負荷の軽減にも寄与できる。当院で子宮頸がんに対してHyperSightによるoffline ARTを施行する場合,照射までに要する時間は130分と算出された。(図2)。主にCT撮影,輪郭描出,治療計画に要する時間が短縮され,conventional offline ARTと比較して,少なくとも90〜120分の短縮が可能である。
図1 Offline ARTのワークフロー
図2 HyperSightによるoffline ARTの照射までに要する時間:子宮頸がん
HyperSight CBCT画像の線量計算の精度
CBCT画像を治療計画に用いるためには,線量計算精度の担保が不可欠である。HyperSight CBCT画像のCT値精度を評価するため,当院で使用している治療計画CT〔「SOMATOM go.Open Pro 」(シーメンス社製)〕とTrueBeam HyperSightのCBCT(iCBCT,iCBCT+MAR)について,電子密度ファントムを用いてCT値と電子密度の関係を比較した(撮影条件:骨盤)。その結果,HyperSight CBCTでは,治療計画CTにおけるCT値と物理密度および電子密度の対応関係がほぼ一致していた(図3)。また,MARを適用した場合においてもCT値の線形性はほぼ維持されており,金属アーチファクト補正が線量計算精度に及ぼす影響はきわめて小さいことが確認された(図3)。これらの結果から,HyperSight CBCTはARTにおける線量再評価および再治療計画に必要な基礎的精度要件を十分に満たしていることが示された。
次に,線量分布精度を検証するため,子宮頸がんに対して,治療計画CT(SOMATOM go.Open Pro)を用いて算出した線量分布と,HyperSight CBCTを用いて同一のbeam parameterで再計算した線量分布を比較した(図4 a)。その結果,線量分布の形状および高線量域の位置関係は良好に一致しており,CBCT上においても治療計画CTに近い線量再現性が得られていることが確認された。さらに,両者の線量分布を定量的に評価するため,同一断面において線量プロファイルを抽出し線量値を比較したところ,高線量域の形状や線量勾配も良好に一致しており,ほぼ同一の線量分布が得られた(図4 b)。
図3 TrueBeam HyperSightのCT値の精度
図4 子宮頸がんにおける線量分布精度の検証
a:治療計画CTとHyperSightを用いた治療計画の比較
b:同一断面での線量プロファイル:線量値の比較
Offline ARTの活用例
offline ARTの胸部領域の活用例として,食道がん術後局所再発例に対するvolumetric modulated arc therapy(VMAT)治療例を示す(図5)。30Gy/15回時点でのCBCT画像で腫瘍の著明な縮小を認めているため,HyperSight CBCT画像を用いて初回治療計画でのbeam parameterで再計算し,腫瘍およびリスク臓器の線量分布の検討が可能であった。今後はこのような例に対してHyperSight CBCT画像を用いたoffline ARTによる再治療計画を検討,導入予定である。
図5 胸部領域のoffline ARTの活用例
今後の展望
金属インプラントなどにより電子密度換算上の高吸収領域では,CT値にバラツキが生じうる点に留意する必要がある。そのため,CBCT画像を直接線量計算に用いる場合には,適切な補正および事前検証を行うことが重要である。また,呼吸性移動がCT値に及ぼす影響として,呼吸性移動条件下ではHU値が局所的に著しく低下する領域が生じうることが報告されている。そのため,呼吸性移動を伴う胸部や上腹部などの治療部位に対してHyperSight CBCTを用いた線量再計算を行う際には,呼吸性移動の影響を十分に考慮することが重要である。今後,offline ARTの導入に向けて,治療部位別の線量計算精度に関する検証を進めるとともに,骨転移などの緩和照射への適応についても検討予定である。
