電子処方箋の概要と最新動向  
伊藤  建[厚生労働省大臣官房総務課企画官(医薬・生活衛生局併任)]

2023-1-16


電子処方箋がやって来る

はじめに

2023年1月から電子処方箋システムが運用開始予定である。電子処方箋とは,マイナンバーカードが保険証として利用できるようになるオンライン資格確認等システムを拡張し,現在紙で行われている処方箋の運用を,電子で実施する仕組みである。これにより,患者が直近の処方や調剤内容を閲覧できるようになるとともに,医療機関等において,当該データを活用した重複投薬等の自動チェックの結果確認が可能となる。
2020年7月,厚生労働省において「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プラン」を策定した。これは,健診・検診情報やレセプト,電子カルテ,処方箋といったさまざまな保健医療情報を連携させ,個人等が閲覧できる仕組みを構築することで,国民の健康寿命のさらなる延伸,効果的・効率的な医療・介護サービスの提供を実現していく取り組みである。現在,全国の医療機関や薬局にオンライン資格確認等システムの導入を進めており,マイナンバーカードの保険証としての利活用を進めているところであるが,電子処方箋情報以外にも,透析等の情報閲覧など順次拡大予定である(図1)。

図1 オンライン資格確認を基盤としたデータヘルス改革

図1 オンライン資格確認を基盤としたデータヘルス改革

 

電子処方箋の検討経緯

これまで処方箋の電磁的記録による作成や交付・保存については,2016年にe-文書法の省令改正やガイドライン策定を行い推進してきた*1。当時は地域医療情報連携ネットワークを中心とした民間主導による電子処方箋の推進を想定していたため,全国統一的な運用を前提にしておらず,また必要な情報基盤も十分整備されていなかったこともあり,電子処方箋のメリットを十分に発揮できない状況であった。このため,マイナンバーカードとオンライン資格確認の基盤整備といった国主導による全国的な情報インフラ整備を基盤として電子処方箋の仕組みを構築していくこととした。2021年2月に厚生労働省医薬・生活衛生局でとりまとめた「令和2年度 オンライン資格確認の基盤を活用した電子処方箋管理サービスに関する調査研究事業報告書」*2等を踏まえ,これまで医療関係者や保険者等の有識者とシステムや法制面に係る議論を進めてきている。2021年6月に閣議決定された成長戦略フォローアップにおいて,「実施時における検証も含め,安全かつ正確な運用に向けた環境整備を行い,2022年度から運用開始」としており,2023年1月運用開始予定である。2022年6月7日には「2025年3月を目指してオンライン資格確認を導入した概ね全ての医療機関及び薬局での電子処方箋システムの導入を支援する」こととしている(新しい資本主義実現本部決定・閣議決定)。
また,電子処方箋システムの費用負担については,後述するように医療機関や薬局,患者それぞれにメリットがあることから,各主体が分担して負担していくこととしている。具体的には,社会保険診療報酬支払基金等が運営する電子処方箋管理サービス(以下,管理サービス)は国主導で整備を行い,その運営費用は保険者が担い,医療機関や薬局は各施設のシステム改修費用を負担することとしている。
法制面については,2022年5月13日,電子処方箋関連法を含む改正薬機法案が国会で成立した。今夏以降,詳細な運用について規定した政省令を策定予定である。

電子処方箋の検討状況

電子処方箋の概要は,図2のとおりである。オンライン資格確認等システムと連動して運用し,社会保険診療報酬支払基金および国民健康保険中央会を運営主体として,医療機関・薬局間の電子処方箋のやりとりの仲介や,薬局からの調剤情報の保存・管理,患者への情報提供を行う。
医療機関は電子カルテ等で電子処方箋を作成し,管理サービスに送信する。薬剤師が処方箋を取得して調剤を行い,調剤情報を管理サービスに登録する。リアルタイムの処方・調剤情報の共有を行い,重複投薬情報も確認可能となる。
患者はマイナポータルで電子処方箋を閲覧することができ,APIと連携して,電子版お薬手帳に自身の薬剤・検診といった関連情報も取り込むことが可能となる。

図2 電子処方箋の概要

図2 電子処方箋の概要

 

電子処方箋を導入するメリット

2022年3月の健康・医療・介護情報利活用検討会において,電子処方箋を導入するメリットとして3点挙げている。
1点目は,紙の処方箋がなくなることで,偽造や再利用が防止され,印刷コスト削減につながる点である。また,オンライン診療・服薬指導等の際,処方箋の「原本」を薬局が電子的に受け取ることができる。
2点目は,処方内容を電子化することで,薬局から医療機関への処方内容の照会を反映した調剤結果等の伝達や,先発品から後発品に調剤を変更した際の伝達がより容易になり,医療機関でも患者情報のシステムへの反映が容易になる。
3点目は,電子化した処方情報を共有することで,医療機関と薬局の情報共有が進み,患者にとってより適切な薬学的管理が可能になる。また,実効性のある重複投薬防止等が可能となる。患者自身がマイナポータルや電子版お薬手帳を活用して,これらの情報を確認でき,各種サービスを利用することも可能となる。
このように,単に処方・調剤業務の効率化にとどまらず,被保険者全体が利益を受ける仕組みとして電子処方箋の仕組みを構築していくことが重要である。

制度改正

2022年5月に成立した電子処方箋関連法について4点概説する。まず,処方箋関連規定との調整規定について,医師法および歯科医師法では,医師等は患者等に処方箋を交付しなければならないとされているため,医師等が社会保険診療報酬支払基金等に電子処方箋を提供した場合は,患者等に対して処方箋を交付したものとみなす規定を設けることとしている。
次に,電子処方箋管理業務に係る支払基金等の業務規定の整備についてである。社会保険診療報酬支払基金は特別民間法人であり,業務内容を法定する必要があるため,地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律において,支払基金業務の追加を行っている。患者が電子処方箋の内容を閲覧することができるようにするとともに,患者等の求めに応じて,薬局に対して電子処方箋を提供する等の規定を設ける。併せて,電子処方箋管理業務に係る医療保険者等の費用負担に係る規定等を整備する。
加えて,個人情報保護法の規定との関係の整理についてである。電子処方箋に含まれる個人情報の第三者提供や要配慮個人情報の取得について,地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律において,電子処方箋を,医師等が社会保険診療報酬支払基金等に提供し,社会保険診療報酬支払基金等は当該提供を受けた電子処方箋を薬局に提供すること等を規定することで,患者の本人同意を都度取得せずとも,医師等や薬剤師等の限定された関係者間における情報共有を可能としている。 
最後に,関係者の連携および協力規定として,医療機関および薬局について,電子処方箋管理業務が円滑に実施されるよう,連携協力に係る規定を設けている。

システム面の検討状況

1.電子署名
処方箋は医師法施行規則第21条,調剤済み処方箋については薬剤師法第26条に基づき,医師・薬剤師の記名押印または署名が必要であり,電子処方箋も改ざん防止等の観点から,2022年3月に改訂した「電子処方箋の運用ガイドライン」に基づき,紙の処方箋と同様に,医師や薬剤師の電子署名を付すこととしている。
電子署名は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に則って行う必要がある。HPKI以外の民間サービスの活用に加え,マイナンバーカードによる電子署名への対応について今後検討することとしているが,2023年1月の運用開始段階では,現時点で利用可能なHPKIカードによる電子署名を付す必要がある。厚生労働省としても,令和3年(2021)度補正予算において,説明会の開催等HPKIの普及推進に取り組んでいるところであり,医療機関や薬局の電子処方箋のシステム改修と併せた準備をお願いしたい。

2.重複投薬・併用禁忌チェック
電子処方箋では,図2で示したとおり,処方箋発行時と調剤時の二段階で重複投薬等の自動チェックがかかる仕組みとなっている。重複投薬については,同一成分同一投与経路である医薬品との重複がないかを確認し,併用禁忌については,添付文書の相互作用欄で「併用禁忌」と定義されているもののみ(「併用注意」は除く)を対象に一律チェックを行う。また,服用期間の算定が可能な医薬品については,該当する服用期間を利用し,服用期間の算定が不可の医薬品(外用や頓服等)は一律14日間を服用期間として判定することとする。なお,処方・調剤日の100日より前に処方・調剤された医薬品は服用期間を算定しないこととする。

3.コードの統一
重複投薬等チェックを自動でかけ,医療機関や薬局で処方箋情報を円滑にやりとりするためには,医薬品等のコードが統一されていることが必要である。現場の運用変更コストを最小限にする観点から,医療機関や薬局で使われているレセプト電算(以下,レセ電)・YJ・一般名コードを医療機関および薬局から受け付けることとし,運営主体である支払基金等において,コード変換テーブルを整備の上,レセ電コードを共通コードとしてファイルに追加して医療機関および薬局に提供することとする。また,電子カルテ標準化の議論とも足並みをそろえており,用法コードはJAMIコードを利用することとしている。用量については,1回量 / 1日量のいずれの記載方法でも記録できるようにし,医療機関・薬局が現行利用している用量の記載方法をそのまま踏襲することとする。
また,重複投薬等チェックには直接使用しないが,医療・衛生材料については,将来的に活用可能となるように,レセ電コード(特定器材コード)が存在する場合は,レセ電コードを利用し,それ以外は「ダミーコード+個別商品名をテキスト記載」することとしている。

4.オンライン診療・服薬指導等への対応
現下のコロナ禍において,非対面型の医療サービスの提供が進展しており,昨2021年度,オンライン診療・服薬指導の恒久化措置としてガイドラインや関連通知の改定を行った。電子処方箋の導入は,非対面型の医療サービスの普及拡大に資すると考えている。例えば,これまで医療機関が患者の指定する薬局にFAX・郵送で処方箋を送付してきたが,電子処方箋により,薬局に処方情報が速やかに共有されることで,患者を待たせることなく調剤やオンライン服薬指導が可能となる。
他方,オンライン資格確認端末でマイナンバーカードを用いて本人確認と情報提供の同意の上,医師や薬剤師は過去の処方・調剤情報の閲覧が可能となる仕組みのため,患者が来院・来局しない場合には,医師や薬剤師は過去の処方・調剤情報は閲覧できない*3

5.電子版お薬手帳アプリとの連携
現状,電子版お薬手帳は各事業者がバラバラに開発し,さまざまな機能が提供されている。すでにある機能か新たに実装が必要な機能かを整理し,最低限備えるべき機能・付加的機能等を検討し,すでにある機能については,改善や活用方策も検討していく予定である。それを踏まえ,電子処方箋の運用開始に合わせて,患者が適切な電子版お薬手帳を利用できるよう,必要な機能要件を整理したガイドラインを策定する。これにより,電子処方箋システムと連携してアプリを活用することで,患者自身の服薬状況の全体把握(処方薬と一般医薬品)に加え,最新の副作用情報や健診情報などが統合され,総合的なヘルスケアプラットフォームとして活用していくことをめざす。

電子処方箋の普及拡大に向けて

2023年1月の運用開始に向け,今後のスケジュールは図3のとおりである。
電子処方箋は医療機関・薬局・患者それぞれにメリットがある仕組みであり,できるだけ多くの医療機関等で導入いただくことが重要と考えている。医療機関や薬局のご協力が必要不可欠であるが,その導入に当たっては,医療現場の負担軽減や混乱しないような配慮が必要である。このため,まず,医療機関や薬局が円滑に電子処方箋を導入できるための措置として,以下に取り組むこととしている。

図3 今後のスケジュール

図3 今後のスケジュール

 

1.医療現場の業務プロセスに配慮した設計や,各種機能の段階的導入
例えば,重複投薬等のチェック機能について,既存の電子カルテの院内チェックと同時かつ1クリックで行えるようにするとともに,チェック結果の判定も迅速に行うことができる仕様とするなど,医療現場のオペレーションに配慮した設計とする。また,医療現場のオペレーションに影響を与えるような機能については,2023年1月の運用開始以降,順次,運用を開始するなど,PDCAにより改善を図りながら本格稼働させていく。
また,2022年秋口(10月頃)から,複数の地域を選定し,運用開始前にモデル事業を実施する予定である。これは,データの正確な伝達や,ネットワークが処方箋の情報伝達量に耐えられるかなど,システムが適切に作動することを確認するとともに,実際に電子処方箋を運用し,現場に負荷を生じさせないか,診療や調剤のプロセスと整合的であるのかなどの検証を行うこととし,必要に応じて,実装する機能の絞り込みや運用の改善を行うなど,医療現場における負担を増やさないよう配慮していく予定である。

2.システム改修経費の補助
令和4(2022)年度予算案において,医療情報化支援基金に383億円の積み増しを行い,医療機関や薬局のシステム改修費を一部補助する。

3.医療機関における設備への配慮
電子カルテ未対応の医療機関においても,電子処方箋を導入できるよう,レセコンでも対応可能な仕組みとする。
また,利用者に配慮した措置として以下に取り組む。
1)健康保険証でも利用可能な仕組み
マイナンバーカードを保険証利用している患者は,顔認証端末で資格確認するだけで簡単に電子処方箋が使えるようになるとともに,健康保険証を医療機関や薬局で提示等することでも,電子処方箋を利用できる仕組みとする。
2)処方内容の確認のための紙〔処方内容(控え)〕の交付
オンライン資格確認等システムやマイナポータルが広く普及し,国民がマイナポータルで処方内容を確認できるようになるまでの暫定的措置として,処方内容の控えを紙で患者に交付し,処方内容を確認できる仕組みとする。
併せて,電子処方箋導入の前提となるオンライン資格確認等システム普及拡大にも取り組んでいるところである。オンライン資格確認等システムは,2023年3月末までにおおむねすべての医療機関・薬局に導入することをめざしており,導入の加速化に向けて関係者と連携した取り組みを進めている。例えば,日本医師会・日本歯科医師会・日本薬剤師会で「オンライン資格確認推進協議会」を設置し,2022年5月11日に第1回を開催して進捗状況のフォローアップを行っている。

*1 「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」,「電子処方せんの運用ガイドライン」
*2 令和2年度 オンライン資格確認の基盤を活用した電子処方箋管理サービスに関する調査研究事業報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000764582.pdf
*3 現状,マイナンバーカード用電子証明書の利用には,毎回カードの読み取りが必要だが,公的個人認証サービスの電子証明書の機能をスマートフォンに搭載することによって,スマートフォンひとつで,いつでもどこでもオンライン行政手続等を行うことができる環境の構築をめざすべく,総務省で検討が進められている。
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu02_02000332.html

 

(いとう たける)
厚生労働省大臣官房総務課企画官(医薬・生活衛生局併任)。2005年経済産業省入省。これまで,カーボンニュートラルに向けた環境エネルギー政策や,医療分野を含む日本の質の高いインフラ輸出戦略の推進,世界貿易機関(WTO)での越境データのルール策定やコロナ禍での医薬品を含む輸出規制対応などを担当。

 

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ITvision No.46(2022年6月25日発行)転載
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