生成AI活用支援体制の構築による業務効率化 
鏡山 虹介(鳥取大学 大学院 医学系研究科 革新的未来医療創造コース)

2026-8-13


はじめに

近年,民間企業における生成AIを利用した業務改善が進んでおり,医療機関においてもその活用は注目されている。ある医療現場では医療文書の作成に大規模言語モデル(LLM)を活用することで作業時間を従来から47%削減できたと報告もされている。
医療機関における業務は,外部システムへの接続が制限された中で個人情報などを取り扱う診療関連業務と,個人情報を扱わない組織運営に関わる事務処理業務に大別される。医師は診療関連業務や,事務処理業務に1日あたり約3時間費やしているとの報告1)があり,業務改善の余地がある。

医療機関における生成AIの利用とそのサポート

患者の個人情報などは通常利用すると学習データとして利用される可能性や,データの保存先の制約があるため,メール,議事録,シフト作成などの文書作成を行う事務処理業務において生成AIを利用することで,事務処理業務の効率化が期待できる。
鳥取大学医学部附属病院ワークライフバランス支援センターでは,2024年10月に,電子カルテとは独立した生成AIツール「exaBase」(エクサウィザーズ社)を導入した。exaBaseは「ChatGPT」(OpenAI社)や「Gemini」(Google社)といった一般的な生成AIをこのシステムの中で切り替えて使うことができる。また,利用ログは院内の特定のユーザーしか閲覧することはできず,国内のサーバのみで処理をするように制御することで,一般的な生成AIを用いる際に起こる,情報漏えいや,学習データへの利用,海外へのデータ流出を防ぐ設定ができる。
exaBaseの導入前に,当院の全従業員のうち,参加希望者に対して生成AI研修会を実施した。参加者146名中92名が生成AIの利用経験がないと回答したため,単に導入するにとどまらず,利活用を促進できるよう3つの支援体制をパッケージ化した生成AI活用支援パッケージを構築し,利用者の支援を行った。

生成AI活用支援パッケージ

1.生成AI研修会の開催
exaBaseの利用を希望する者には研修会の参加を必須とした。研修会はe-learningでも受けることができ,任意のタイミングで視聴することが可能である。また,月に1度の生成AI継続研修会を「Google Meet」(Google社)で実施し,exaBase提供元から講師を迎え,生成AIのトレンドや,当院における各部署での生成AIの利活用方法を共有することで,そのほかの部署での活用に役立てるような情報を周知した。 

2.生成AI情報共有チャットの開設
「Google Chat」(Google社)内にスペースを設け,生成AIに関する情報共有コーナーを設けた。exaBase利用者を随時このスペースに追加し誰でも投稿ができる状態にした。研修会では周知できなかった利活用の方法についての共有や疑問点,生成AIに関連する書籍などを貸し出す案内をこのスペース内で行った。

3.生成AI活用相談窓口の設置
個別の事例にも対応できるように筆者が生成AI活用相談員を務め,生成AI活用相談窓口を設置した。相談員と相談することで,問題を明確化し,生成AIを用いた解決方法を提案した。

利用者の満足度調査

2024年10月〜2025年3月の期間にて,当院の従業員のうち生成AIを業務で利用できる職種約1000名に案内したところ,exaBase登録者が184名,利用者数は143名になった。各利用者をカテゴリに分けた結果は表1の通りである。 また,2024年10月〜2025年2月の間で利用したユーザーのうち30名から生成AIを用いた際の業務改善の程度についてと,生成AI活用支援パッケージの充実度について回答を得た。
図1図2の評価を見ると肯定的な意見が多い。回答数は30名と少なかったためすべてを測れているわけではないが,特に生成AIを用いた業務効率化の程度については全員が何かしらの業務改善が行われたと回答しており,加えて,支援体制についても高評価を得ているため生成AIの有用性を示唆している。

表1 exaBase利用者内訳

表1 exaBase利用者内訳

 

図1 生成AIを用いた業務効率化の程度

図1 生成AIを用いた業務効率化の程度

 

図2 生成AI活用支援パッケージの充実度

図2 生成AI活用支援パッケージの充実度

 

生成AIと生成AI活用支援パッケージの有用性

生成AI活用支援パッケージの3つの意味は,(1) 生成AIを利用するということに対して基本的に押さえておくべき情報を共有する,(2) 活用方法を独占するのではなく,情報共有することで同じ悩みを抱えている人が同時に解決できる,(3) 個別の事例にも対応するため,情報共有チャットのような開かれた環境では相談しにくい内容でも活用できる,という生成AIの活用方法を見いだせていない利用者に対して重要なサポートとして位置付けられる。これらの運用体制は2025年においても継続的に運用し,各部署へ研修会を実施,また,AIの機能アップデートの周知,新たなソリューションの導入などサポートを続けた。結果的に,ある業務を自動化するアプリを自分で作成した利用者がおり,活用方法を見いだした事例もある。

今後の展望

生成AIの利活用に関するサポート体制を構築することで,個人情報を用いない事務処理業務に関して,生成AIが業務効率化に貢献できることが示唆された。
今後さらなる業務効率化に向けて,生成AIを用いた活用実績の共有などで数名を対象としてキーパーソンを設け,その者が部署間に展開・普及することで,利用者を増やすことを目指す。
また,個人情報を取り扱う業務においても,生成AIを用いた業務改善の環境を構築していく必要がある。
なお,本稿は第45回医療情報学連合大会,鳥取大学医学部附属病院ワークライフバランス支援センター「厚生労働省 令和6年度子育て世代の医療職支援事業実施報告書」2)および鳥取大学医学部附属病院ワークライフバランス支援センター「厚生労働省 令和7年度子育て世代の医療職支援事業実施報告書」3)の内容に加筆したものである。

●参考文献
1)瀬戸僚馬, 津村 宏 : 医師が電子カルテ操作に費やす業務時間に関する調査. 医療情報学, 32 : 59-63,2012.
2)鳥取大学医学部附属病院ワークライフバランス支援センター : 厚生労働省 令和6年度子育て世代の医療職支援事業実施報告書. 2024.
3)鳥取大学医学部附属病院ワークライフバランス支援センター : 厚生労働省 令和7年度子育て世代の医療職支援事業実施報告書. 2025.

 

(かがみやま こうすけ)
2023年龍谷大学大学院理工学研究科数理情報学専攻修士課程修了。現在,鳥取大学大学院医学系研究科医学専攻博士課程に在学。医療情報学・医工学研究者。機械学習を活用した医療データ解析研究に従事。2024~2025年鳥取大学医学部附属病院ワークライフバランス支援センターにて生成AI活用相談員を務める。


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