生成AIを用いた要約システムの開発 
本間  翼(社会医療法人シマダ 嶋田病院 総務部,情報システム部)

2026-8-20


はじめに

医療現場におけるITシステムは古くは医事システム,オーダリングシステム,そして電子カルテと変遷してきた。また,臨床現場におけるシステムも,PACSや調剤システムなど,各部門に特化したシステムが当たり前のように導入されている。すべては業務効率化のために導入しているものであり,現在の医療現場においては欠かせないシステムではないだろうか。
近年,医療現場においても,生成AIというキーワードが以前より多く聞かれるようになった。当院(図1)でも2025年2月に「Gemini」(Google社)を活用した生成AIシステム「Shimada Summary System(通称:SSS)」を内製開発し,実際の現場で活用し始めた(図2)。現在では毎日50回以上,SSSが実行されており,医師や看護師のみならず,さまざまな部門において業務効率化の一助を担っている。また一方で,SSSに対する課題も出始めている。今回の記事では,開発経緯および当院における利用方法を紹介する。

図1 嶋田病院外観

図1 嶋田病院外観

 

図2 嶋田病院が内製開発したSSSの初期画面

図2 嶋田病院が内製開発したSSSの初期画面

 

開発経緯

2025年1月27日,あるニュースが世界を駆け巡った。中国のスタートアップ企業であるDeepSeek社が,従来の10分の1程度の開発コストでOpenAI社の「GPT-4」レベルの性能を実現したというニュースであり,この発表を受けてAI関連株が大幅に暴落したことがあった。このニュースを見て「AIは新しい技術であるために,どのようなAIモデルが台頭してもおかしくない。生成AIシステムを導入するためには,AIモデルを簡単にチェンジできるようなシステムが必要だ」と感じた。しかし,既存の医療向け生成AIシステムを導入すると,その導入システムが利用するAIモデルを利用せざるを得ないため,内製開発をしようと考えた。
開発には開発経験のあったPython 3をベースに,コストを下げるため,フレームワーク(Django)を利用した。AIモデルは開発当初はGemini 2.0であったが,現在はGemini 3.1 Proを利用している。プロトタイプは2025年2月6日に完成し,すぐに病院で導入の検討を始め,2月末には利用開始となった。当初は診療録・看護記録をベースにした退院サマリや看護サマリ機能だけであったが,2月24日には録音データの文字起こし機能を追加し,栄養指導の記録や議事録作成にも流用できるように開発を進めた。

利用方法

前述の通り,SSSには大きく2つの機能がある。1つは実際の臨床記録を基に要約を行う要約機能。もう1つが,録音データを文字起こしさせた上で要約をする音声要約機能である。臨床記録からの要約機能については,退院サマリや看護サマリのほかに,リハビリテーション部で申し送りをする際の申し送り生成機能もつけている。当院は365日体制でリハビリを行っているが,担当セラピストが休みの際は,あらかじめほかのセラピストに向けて申し送りメールを記載する。しかし,人によっては1名あたりの申し送りに10分以上かけて入力するケースがあった。リハビリ記録はカルテに記載されているため,これをAIにて要約することで入力時間を減らす取り組みを行っている。
もう1つの機能が音声要約機能である。これは臨床現場においては栄養指導の場面で利用している。当院の栄養指導は,個室で管理栄養士と患者が1対1で指導する個別指導を主として行っている。静かな環境であれば音声録音の品質も良く,今では管理栄養士の欠かせないツールとなっている。以前,音声要約機能を検証するために栄養管理部より録音スピーカーを少し借りたことがあったが,1台スピーカーがなくなることに対して管理栄養士から嫌な顔をされた。それぐらい利用価値があるシステムを開発できたことをうれしく思う。

課 題

生成AIを利用し始めて1年ちょっとが経過した。そこで疑問に感じていた「どれぐらい業務効率化につながっているのか」について,記載量が多い看護サマリの記述のうち,どの程度生成AIで生成された内容を引用しているのかを検証してみた。検証方法としては,当院で2025年11月26日~12月14日までの19日間で看護サマリを記載していた149件のうち,SSSを利用していた127件を対象として,生成AIで生成された文章を「A」とし,実際に確定された看護サマリを「A’」とした場合,どの程度の差分があるのか,仮に,すべて同一の場合は0%とし,すべての文字を書き直されていた場合を100%とした「修正率」を算出した。
結果としては,全件の修正率は52.7%であり,約半分の文字が引用され利用されていたことが判明した。仮説としては,ベテラン看護師は修正率が高く,若い看護師は修正率が低いと想定していたが,今回の検証では調査していく過程で経験年数の差はあまり見られなかった。ただし,A看護師は修正率が低いが,B看護師は修正率が高いといった事実が判明した。もちろん,どちらも問題のない看護サマリではあるが,業務効率化を行っていくためには,B看護師もSSSを使っていただきたい。ただし,無理やりB看護師の記述をAI寄りに合わせてもらうのではなく,プロンプトや入力データを工夫して病院として質の高い看護サマリが誰でも記載できるような生成AIシステムに発展させていき,B看護師も納得してSSSを使ってもらえるよう,調整を続けていきたいと考えている。

個人情報について

生成AIというと,やはり個人情報の問題がつきまとう。当院はローカル型AIではなく,クラウド型AIを利用しているので,よりその問題は顕著である。Geminiには設定により「学習をさせない」設定を行うことが可能である(有償版アカウントのみ)。また,海外サーバを利用することで,「越境移転規制」に抵触する恐れもあり,利用するサーバ(リージョン)にも注意が必要である。ローカル型AIも安価な製品やモデルが出てきているので,これらも検証しながら,病院の体制や考え方によってAIとうまく付き合っていく必要があると考えている。

今後について

当法人では,画像診断分野のAI導入例として,上部消化管内視鏡検査時の早期胃がん/胃腺腫の検出支援システムである「gastroAI model-G2」(AIメディカルサービス)を2025年3月に導入した。限定的な運用ではあるが,当院の検討では健康診断の内視鏡で早期胃がん・胃腺腫の発見率がAI使用により2.5倍(0.18%→0.45%)と向上していた。胃がんは見逃しが多いと言われるが,早期発見できれば侵襲の少ない内視鏡治療で根治が期待できる。AIは上部消化管内視鏡検査において質向上の支援につながっており,当院の内視鏡センターでは病院の目標である「消化管がんによる死亡の抑制」に向け積極的に活動している。
内製開発したSSSについても,現場からの要望を多くいただいている。保険診療分野だけではなく,当法人が運営しているケアプランセンターの職員からも,担当者会議という介護利用者や家族,各介護事業所の担当者が一堂に会し,今後の方針を検討する場においてもSSSを通じてAI活用をしたいというニーズが出ている。今後は働き手の不足により,今よりも業務効率化を求められるようになる。AIだけには限らないが,さまざまなシステムを導入しながら業務効率化を行い,最終的には地域住民の皆さまが安心して受診できる環境を整えていくことが私たちの仕事だと考え業務に従事している。

 

(ほんま つばさ)
産経新聞社でのシステム部門,精神科向け電子カルテの開発・導入を経て社会医療法人シマダ嶋田病院へ入職。現在は総務部副部長兼広報担当として,メディアと医療ITの知見を生かした組織運営を担う。専門性を高く評価され,福岡医療経営学院の情報処理分野の非常勤講師として医療経営人材の育成にも尽力している。


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