橋本市民病院における看護サマリでの生成AI活用の実際 
川北 ひさ(橋本市民病院 看護部)

2026-8-27


導入の目的

医療現場における看護師の負担軽減と業務効率化は,現代の病院経営における重要な課題である。なかでも,患者の転院や退院の際に作成される「看護サマリ」は,多忙な業務の合間を縫って膨大な看護記録を遡り,情報を整理して記載しなければならないため,看護師にとって大きな負担となっていた。作成に30分以上を要することも珍しくなく,記録業務の長時間化を招く要因の一つとされてきた。このような背景のもと,橋本市民病院では生成AI技術を用いた医療支援サービス「MegaOak AIメディカルアシスト」(NEC社)を活用し,看護サマリ作成業務の効率化を図る実証実験を実施した。主な目的は,日々蓄積される膨大な看護記録からAIが必要な情報を自動抽出し,看護サマリの文章下書きを自動生成することで,記載にかかる時間と精神的負担を削減することである。さらに,AIによる均質な情報抽出を通じて,記載する看護師ごとの経験やスキルの差による情報の抜け漏れを防ぎ,記述内容の平準化を達成することも重要な目的の一つである。

システム概要

本実証で活用されたシステムは,MegaOak AIメディカルアシストの看護サマリ対応β版システムである。すでに製品化されている「退院サマリ」や「診療情報提供書」の仕組みを応用・機能拡充し,看護業務特有の記述様式にフィットするよう設計されたものである。 
システムの核となるのは,電子カルテシステムから連携される,医師記録,看護記録,部門記録などの各種時系列テキストデータである。MegaOak AIメディカルアシストは,生成AIを用いて,これらの膨大な日々の記録を解析する。看護サマリ向けの専用プロンプトが組み込まれており,AIに対して「医療知識が豊富な看護師」としての役割を与えている。これにより,入院前から退院までの全期間の記録を網羅しつつ,「昨日」「明日」といった相対的な時間表現を具体的な日付へと正確に変換する処理や,症状,バイタル,食事摂取状況,ADL(日常生活動作)といった変動する状態については,「現在の状態」として適切に要約し,時系列順ではなく「食事」「排泄」「移乗」「移動」「コミュニケーション」「服薬管理」「危険行為」「退院支援」といったトピックごとに整理された形式で下書き文章を出力することができる。

運用方法

橋本市民病院における本システムの運用は,現場への負荷を避け,実用性を段階的に見極めるため,2025年4月から2026年1月にかけてステップを踏んで展開された。
まず,2025年4月に現行運用確認や看護師へのヒアリングが実施され,簡易的な実現性の検証が行われた。5月には試作機を用いてサンプル患者の経過文章をお試し生成し,実用的なプロンプトの調整やUI(ユーザーインターフェイス)の改善点を洗い出す方針の検討が進められた。その後,2025年8月下旬から10月末までの約2か月間,実際の病棟業務にシステムを組み込んだ本格実証が開始された。当初は2つの病棟から限定的に開始され,最終的には全病棟へと展開された。 
実際の現場での運用フローは以下の通りである。看護師は通常の看護業務を行いながら,受け持ち患者の退院や転院が決まった際,電子カルテシステムからMegaOak AIメディカルアシストの看護サマリ機能を起動する。システムは対象患者の過去の看護記録を読み込み,数分でトピックごとに整理されたサマリの下書き文章を自動生成する。看護師は生成された文章を画面上で確認し,日々のケアで記録に書き切れなかったニュアンスの微調整,導尿や処置の回数といった詳細の修正,また情報の過不足をチェックした上で,必要に応じて手動で加筆・修正を行って最終的な看護サマリを完成させる。このように,「AIが下書きを作成し,人間が最終確認と修正を行う」という運用体制で行われた。 

評 価

実証実験の成果は,利用件数データ,および参加した看護職員へのアンケート調査から,定量・定性の両面において高く評価された。

1.定量的な利用実績と効果
実証期間中における各部署での看護サマリ機能の利用件数は,電子カルテ連携による本格運用の開始に伴い,大きな伸びを見せた。2025年8月時点での看護サマリ利用は31件であったが,9月129件,10月181件,2026年1月以降も141件,181件と長期間にわたり高い水準で推移した(表)。 
各病棟別の総計利用件数を見ると,「3西病棟」が407件と最も多く,次いで「4東病棟」が292件,「4西病棟」が124件など,病棟だけで計1013件にのぼる。また,病棟看護師だけでなく,地域医療課(10件),外来(7件),手術室(6件),救急外来(5件)など,病院内の多様な部署でも必要に応じて活用され,病院全体における看護サマリ関連機能の累計利用件数は1054件に達した。 
この利用実績を背景に,定量的な時間短縮効果として,従来の看護サマリ作成にかかっていた時間が平均50%削減(30分が15分)されることが確認された。本格実証期間の平均的な利用回数を基に試算すると,月平均で36時間(年間換算で432時間)の業務時間削減に相当する。

表 MegaOak AIメディカルアシストの利用実績

表 MegaOak AIメディカルアシストの利用実績

 

2.定性的な効果と現場の評価
本格実証に参加した看護職員85名(回答数45名)による評価では,サマリの生成精度に対して5点満点中3.8点,今後の継続利用に対しては5点満点中4.7点という高い満足度が示された。
「急な退院でサマリ作成に時間を割けない状況でも,素早くベースを作れるため非常に助かる」「経過の長い患者情報を,過去のカルテに遡って探す手間がなくなった」といった好意的な意見が多く寄せられた。また,「ある程度の下書きをAIが作ってくれるため,ポイントの修正やチェックに集中すればよく,ハードルが下がった」という運用のフィット感も高く評価された。さらに,「誰が作成しても一定の基準を満たしたサマリが作れるため,スタッフ間の記述のバラつきや情報不足が劇的に減る」「AIに正しく要約させることを
意識して日々の看護記録を書くようになるため,結果として自身の看護記録の品質向上につながる」といった,看護の質そのものを高める効果も確認された。 

今後の展望

第1の展望は,操作性と情報抽出源のさらなる拡張である。将来的には記録だけでなく,経過表や看護カレンダーといった数値・スケジュール管理エリアからのデータ抽出,ならびに専門職などが登録する部門システムの記録内容なども包括的にサマリに反映できるよう,連携データの拡大が望まれる。これにより,医療・ケアの全体像をより詳細に捉えたサマリの自動生成が実現する。 
第2に,病院全体および地域医療連携への貢献である。利用件数データが示すように,本システムは病棟にとどまらず,地域医療課や外来などの部署でも活用が始まっている。看護サマリの作成が効率化され,その品質が標準化されることは病院内部の業務効率化にとどまらない。患者が別の医療機関や介護施設へ転院・退院する際,迅速かつ高精度なケア情報がシームレスに引き継がれることを意味し,地域包括ケアシステム全体の質の向上や,医療安全の確保に寄与する。
第3に,看護師の日常業務に「カルテからの情報収集」がある。患者の情報を収集するために定められた就業開始時間より早く出勤するスタッフも少なくない。情報収集の際はさまざまな画面を閲覧するため,個人差があるものの,時間を要することから朝は電子カルテの争奪戦である。そこで,生成AIを活用し,指定した期間の患者情報がトピックスなどを踏まえサマライズされる。また,必要な情報を一画面で確認することができれば,情報収集にかかる時間の大幅な短縮につながり,看護師の労働時間,ワークライフバランスに寄与すると言える。
橋本市民病院における生成AIの活用事例は,最先端のテクノロジーを医療現場の運用に調和させ,労働環境の改善と医療の質的向上を両立させた先進的なモデルケースであると考えている。

 

(かわきた ひさ)
1998年橋本市民病院入職。2013年より看護師長職。2026年より在宅医療担当看護師長。


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