生成AIによる退院サマリ作成支援の効果と今後
佐藤智太郎(独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター 医療情報管理部,整形外科)

2026-3-16


はじめに

2025年11月19日,富士通Japanは医療関連AIの提供スケジュールを発表した(図1)。同社はAIを含む「デジタルホスピタル化」により,「医師の働き方改革」をはじめ,業務効率の改善が進むとしている。医師が行っている業務は,「細かいルールが増える診療報酬請求」「医療安全への配慮」「患者満足度向上」「研修医教育」「多職種連携」など,増加の一途である。その多くは,「医療情報システム(電子カルテ)」上のペーパーワークであり,特に「入院患者の退院サマリ作成」は,AI導入による医師業務の効率化が見込める領域の一つである。当院では,富士通Japanの「文書作成サービス」のうち「退院サマリ」の先行実証を2024年11月〜2025年2月に行った。「要約ボタン」をクリックすると,数分で退院サマリの下書きが生成され,解説付きの既往病名なども表示されることを確認した(図2)。結果として,13名の医師のAI使用で,サマリ作成時間の平均19.8分(71.2%)の短縮と,記載内容の向上が得られ,コスト削減が見込まれた(図3,4)。その後,国立病院機構本部および,政府「AI戦略本部(デジタル庁)」に順次「生成AIの利用」の申請を行った(図5)。両者からの利用承認後,利用条件を理解した医師および診療情報管理士に,AI利用の権限を付与し,院内での実運用を2025年10月31日から開始した。利用した医師からは「ボタンをクリックするだけで,1~数分でサマリができて,結構使える」「数十年前や,ほかの診療科の既往歴などが出てくるので, 患者さんの安全に寄与する」「入院直後から退院までに何回かAIに生成させてみると,かなり正確に文書を要約している」「いちいちカルテ画面を何十回も切り替えなくてもよいので,サマリを作る時間が半分か1/3くらいになった感じ」「専門医試験の申請の症例まとめに役立つ」などの感想が寄せられた。

図1 富士通Japanの記者向け説明会(2025年11月19日)資料より

図1 富士通Japanの記者向け説明会(2025年11月19日)資料より

 

図2 退院サマリ作成画面の「要約」ボタンでAIが起動し,文書が提示される。

図2 退院サマリ作成画面の「要約」ボタンでAIが起動し,文書が提示される。

 

図3 先行でのサマリ作成時間の短縮例

図3 先行でのサマリ作成時間の短縮例

 

図4 当院の全退院サマリでAIによる時間短縮ができた場合の費用削減効果

図4 当院の全退院サマリでAIによる時間短縮ができた場合の費用削減効果

 

図5 医師が継続利用する退院サマリAIの条件とは

図5 医師が継続利用する退院サマリAIの条件とは

 

医師の業務負担の軽減

「退院サマリ」の作成は,手間と時間がかかる業務の代表格であり,他職種へのタスクシフトも困難とされてきた。電子カルテは,時系列順に情報が並んだ,「巻物」に例えられ,医師が手作業でサマリを作成する場合,病名をはじめ,多くの画面を参照し,コピー&ペーストし,退院時処方や次回予約を入力するなど,15~60分程度を要する。内科系の医師は,入院中にこまめにサマリを作成しているが,外科系医師は手術の前後に記載量がピークとなって,緊急手術や様態急変などがあると,退院直前に慌てることもまれではない。

患者がサマリをスマートフォンで見る時代へ

欧米などでは患者がスマートフォンなどで自分のカルテを見る時代となっている。わが国の厚生労働省も,インターネットに親和性の高いFHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)形式で,カルテデータを「電子カルテ情報共通サービス」に集め,「退院サマリ」を3文書6情報の1つである「診療情報提供書」の一部として添付させる作業を進めている。これが実現すると,患者は医師の指導事項と検査データ程度の「患者サマリ」をスマートフォンで閲覧することができるが,将来的には欧米と同様にカルテ自体を見られるようになろう。すでにマイナンバーカードにひも付けられた「マイナ保険証」では,救急患者のレセプトデータなどをERで閲覧できるようになっており,災害対策など,さらに参照可能な情報は増えると思われる。その際に,「退院サマリ」は,医療DXの重要なデータとして扱われ,現在の退院サマリ1画面(当院)は,FHIR化で5画面に増加する。これは,医師にとっては大きな負担増を意味する。患者の閲覧に備え,退院サマリの質の向上が求められるが,生成AI利用により,医師間の記載のバラツキが減ると考えられる。

どの生成AIを選ぶか

生成AIは米中の大手から,スタートアップの製品まで多種多様な現状で,すでに多くのカルテに実装されつつある。ただ,カルテ上の複数の情報を手作業でコピーし,プロンプトにペーストし,出力された文章を修正してコピーし,サマリとしてペーストする手間が必要な製品も多く,中には医師が負担軽減を実感できず,使用を中止するケースも見受けられる。当院では,利用開始から約3か月の現在も,医師たちが継続してAIを利用してくれているようである。また,外部のインターネット情報を取得できない閉鎖環境でのAI使用は,「いつの学習データか?」「システムのアップデートはされているか」などが,薬剤や検査などのデータ陳旧化や誤認防止に重要である。ハルシネーション(幻覚)などは非常に改善されつつあるが,ゼロにはならないので,最終的には医師が確認すべきであるとの利用者教育も継続していく必要がある。導入したAIは日々の学習とファインチューニングで「賢く」なり,子育てに通じるものがあると実感している。使用してみると,医療における生成AIは業務効率化に著効する技術であり,今後,「診療情報提供書,返書作成」「症状詳記」,さらに「看護サマリ」「申し送り支援」などへの導入を検討している。

 

(さとう ともたろう)
1985年名古屋大学医学部卒業,90年同大学院医学研究科修了,米国Thomas Jefferson大学医学部整形外科fellowなどを経て,半田市立半田病院,碧南市民病院等で医療情報システムの導入に関与。2004年より名古屋医療センター整形外科・リウマチ科に勤務。現在,同センター医療情報管理部長兼整形外科医長。


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