国立がん研究センターと日本電気が共同開発した内視鏡AI診断支援医療機器ソフトウェア「WISE VISION内視鏡画像解析AI」医療機器承認

2021-1-12


国立研究開発法人国立がん研究センターと日本電気(株)が共同で開発した人工知能(AI)を用いた早期大腸がん及び前がん病変を内視鏡検査時にリアルタイムに発見するソフトウェアが 2020年11月30日に日本で医療機器として承認された。また,欧州においても同年12月24日に医療機器製品の基準となるCEマークの要件に適合した。
本ソフトウェアは,国立がん研究センター中央病院内視鏡科(科長:斎藤豊,プロジェクト担当:山田真善)に蓄積された画像でトレーニングされた AIを用い,大腸内視鏡検査時に大腸前がん病変及び早期大腸がんをリアルタイムに自動検出することができる。また,検出した情報をリアルタイムに医師にフィードバックすることで,内視鏡医の病変の発見をサポートし,医師と AIが一体となり診断精度の改善・向上が期待される。
本開発研究は,国立がん研究センター中央病院と研究所の連携で行っているトランスレーショナル・リサーチである「人工知能を用いた統合的ながん医療システムの開発」(研究代表者:浜本隆二)のプロジェクトのひとつとして行われた(JST からは2017年度から2019年度までの,AMEDからは2016年度の助成を受けた)

●開発背景

大腸がんは我が国において頻度の高い疾患であり,罹患者数も死亡数も増加している。大腸の場合,通常“がん”は前がん病変である腫瘍性ポリープ(陥凹性病変や平坦型腫瘍を含む)から発生することが明らかとなっており,人間ドックや大腸がん検診で前がん病変が発見された場合は,積極的に内視鏡的切除が行われている。実際に米国では, 1993年に報告されたNational Polyp Studyと2012年に報告されたそのコホート研究の結果から,前がん病変の多くを占める腺腫性ポリープを内視鏡的に切除することが大腸がんの罹患率を 76%〜90%抑制し,死亡率を53%抑制したことが明らかにされている。
したがって,こうした前がん病変あるいは早期がんを内視鏡検査時に見逃さないことが重要だが,肉眼での認識が困難な病変や解剖学的死角,医師の技術格差等により24%が見逃されているという報告もある。また別の報告では,大腸内視鏡検査を受けていたにもかかわらず,後に大腸がんに至るケースが約6%あり,その原因は内視鏡検査時の見逃し(58%),来院しない(20%),新規発生(13%),不十分な内視鏡治療による遺残(9%)が挙げられている。
大腸内視鏡検査時の病変見逃しを改善し,前がん病変発見率を向上させることが,大腸がんの予防,早期発見に大きく寄与する。

●「WISE VISION内視鏡画像解析 AI」の特徴

本ソフトウェアでは,1万病変以上の早期大腸がん及び前がん病変の内視鏡画像25万枚(静止画・動画)の画像一枚一枚に国立がん研究センター中央病院内視鏡科スタッフが所見を付けた上でAIに学習させた。このAIを用いることで大腸内視鏡検査時に映し出される画像全体をリアルタイムに解析し,大腸前がん病変及び早期大腸がんを検出した場合は,通知音と円マークでその部位を示し,内視鏡医へ伝える(図1)。内視鏡医は AIが示した場所をさらに注意深く観察することで,意識していなかった場所を意識できるようになり,大腸がんの見逃しを回避できる可能性がある。
また,本ソフトウェアは,特に発見の難しい表面型・陥凹型腫瘍を重点的に深層学習しているとことが大きな特徴である。これらの多くは,近隣や時に遠方の内視鏡専門クリニックや病院で発見され,中央病院内視鏡科へ紹介された症例。また,主要内視鏡メーカー3社の内視鏡に接続が可能。既存の内視鏡と本ソフトウェアを搭載した端末及びモニターを接続するだけで,すぐに利用を開始できる。また,移動もできるため,検査の実施場所で効率的に使用することができる(図2)。

図1「WISE VISION内視鏡画像解析AI」を用いた大腸癌検出の例

図1「WISE VISION内視鏡画像解析AI」を用いた大腸癌検出の例

 

図2 WISE VISIONの概略

図2 WISE VISIONの概略

 

●「WISE VISION内視鏡画像解析 AI」の臨床的有用性

本ソフトウェアの性能検証(DESIGN AI-01試験)では,大腸前がん病変または早期大腸がん病変を正しく検出できるか,また誤検出がないかについて,350種類の病変を動画で一定時間以上連続して正しく判定した場合を正解とする厳しい基準で検証を行った。
その結果,約83%が5フレーム以上連続で正しく検出され,病変が写っていない動画4000区間中の約89%が正しく大腸前がん病変または早期大腸がんではないと判定された。さらに,視認しやすい隆起型の93病変と視認しにくい表面型の257病変に分けて解析したところ,隆起型では約95%,表面型では約78%が正しく検出された。これらの結果を臨床医の読影試験と比較すると,隆起型の病変に対して経験豊富な内視鏡医と同程度の診断性能を有していること,また経験の浅い医師(4名)が本AIシステムを使用することにより表面型の病変の検出が6%高くなる結果が得られた。
以上のデータを踏まえ,「本品は,内視鏡検査機器から得られた信号を解析して,大腸前がん病変及び早期大腸癌の病変候補部位を示し,肉眼型が隆起型である病変の診断等の支援(補助)のために使用する医療機器プログラムである。」との【使用目的又は効果】で医療機器として承認された。AIのサポートにより内視鏡医の経験等の影響を抑えて病変を発見でき,また誤検出も少ないため,検査時間を延長することなく診断精度の改善・向上が期待される。

●今後の展望

「WISE VISION内視鏡画像解析 AI」は,従来の内視鏡検査と比べてより広い画像空間を瞬時に解析することができ,人間の視野の限界を補い大腸前がん病変と早期大腸がんの見逃し率が減少することが期待されることから,大腸内視鏡検査中の大腸がんの見逃し回避を解消する画期的な AIシステムであると考えられる。今後さらに,同院に内視鏡治療目的で紹介される多くの“人間には認識が困難な平坦・陥凹性病変”をAIに学習させ,精度を上げていきたいと考えている。
また将来的に,画像強調内視鏡に代表される新しい内視鏡を利用し,大腸前がん病変と早期大腸がんの表面の微細構造や模様を学習させ,大腸病変の質的診断や大腸がんのリンパ節転移の予測への対応も目指す。さらに CT画像,病理画像や分子生物学的情報などの情報とリンクさせ,より利用価値の高いマルチモーダルなリアルタイム内視鏡画像診断補助システムを目指し,高度医療や個別化医療,遠隔診断の実現に向けて開発研究を進めていく。

研究費
科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)
イノベーション創発に資する人工知能基盤技術の創出と統合化(研究総括:栄藤稔) *
注人工知能を用いた統合的ながん医療システムの開発
研究代表者:国立がん研究センター研究所がん分子修飾制御学分野 分野長 浜本隆二
*注:文部科学省の人工知能/ビッグデータ/ IoT/サイバーセキュリティ統合プロジェクト(AIPプロジェクト)の一環として運営
日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業
消化管がんに対する特異的蛍光内視鏡の開発とその臨床応用に向けた研究
研究代表者:国立がん研究センター中央病院内視鏡科科長 斎藤豊

共同研究
日本電気株式会社(NEC)
「形態情報定量化を基盤とした革新的解析アルゴリズムを用いた大腸がん及び前がん病変発見のためのリアルタイム内視鏡自動解析システム」

 

●研究開発支援事業の問い合わせ先
戦略的創造研究推進事業( CREST)に関する問い合わせ
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
戦略研究推進部 ICTグループ
TEL 03-3512-3525
E-mail:crest@jst.go.jp

革新的がん医療実用化研究事業に関する問い合わせ
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
医療機器・ヘルスケア事業部医療機器研究開発課
TEL 03-6870-2213
E-mail:cancer@amed.go.jp


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