富士通,説明可能なディープラーニング技術「Deep Tensor」を活用し,化学構造式のみで化合物の特性を予測する「SCIQUICK-DT」を提供開始
新薬開発の初期段階における実用性,安全性評価を強力に支援

2021-9-2

富士通


富士通(株)は,グラフ構造データを学習する独自の説明可能なディープラーニング技術「Deep Tensor(ディープ テンソル)」を活用し,化学構造式のみで化合物の特性を予測するほか,標準の学習モデルに加え,製薬会社が希望する化合物データを学習したモデルを構築するサービス「FUJITSU Digital Laboratory Platform SCIQUICK-DT(サイクイックディーティー)」(以下,「SCIQUICK-DT」)を9月2日より提供開始する。

従来,新薬開発に必要な代謝安定性や経口吸収性などの化合物の特性予測において,学習モデルの作成には機械学習を活用した手法が用いられているが,化合物に関する膨大な実験データの整理や,化学構造式の数値化が必要となっていた。

「SCIQUICK-DT」は,化学構造式における原子のつながり方の特徴をグラフ構造データとして「Deep Tensor」に学習させておくことにより,化学構造式を入力するだけで,代謝安定性や経口吸収性などを予測でき,それらの特性を引き出す重要な要因を判別することが可能になる。また,オプションのモデル構築サービスは,製薬会社が希望する評価項目に合わせて収集した化合物のデータを学習させることで,独自の学習モデルを構築することが可能。

これにより,製薬会社は新薬開発の初期段階において精度高く実用性や安全性の評価が可能となるほか,求めたい化合物の特性に合わせて化学構造式をスムーズに改変(リデザイン)することが可能となる。

同社は「SCIQUICK-DT」の提供を通じて,新薬開発の早期化に貢献し,あらゆる人々のウェルビーイング(注1)な暮らしをサポートする「Healthy Living」の取り組みを推進していく。

●背景

新薬開発には,一般的に約15年の期間と数百億円から1千億円以上の研究開発費がかかると言われている(注2)。しかし,その研究の初期段階では,候補となる化合物をすべて合成することができず,その評価実験も実施できないため,新薬開発の後期になって特性や安全性の問題が露見し,臨床試験前のドロップアウトや,市場投入の断念を余儀なくされることがある。そのため,製薬業界では開発の手戻りをなくし,開発期間の短縮や開発費用の削減に有効な手段として,AI活用の期待が高まっている。

しかし,機械学習の手法を用いて新薬の特性や安全性を事前に予測・評価する場合,過去の化合物の実験データを揃えたうえで,化学構造式を数値化する必要があった。

この課題を解決するため,同社は,新薬開発の初期段階でその実用性や安全性を化学構造式だけで高精度に予測が可能な「SCIQUICK-DT」を提供開始する。

●「SCIQUICK-DT」の特長

1. 化学構造式のみで新薬の実用性や安全性を予測可能
新薬の開発において重要な評価項目である代謝安定性および経口吸収性を学習モデルで評価する場合,従来は過去の関連する実験データを収集したうえで記述子計算(注3)を行ったのち,機械学習により学習モデルを構築する必要があった。「SCIQUICK-DT」は,化合物の原子のつながり方における特徴をグラフ構造データとして学習可能な「Deep Tensor」によって,化学構造式のみで学習モデルを構築し,予測することが可能になる。これにより,新薬開発の初期段階で高精度かつ容易に代謝安定性および経口吸収性を予測できる。

また,オプションのモデル構築サービスにより,物理特性や毒性などお客様が希望する評価項目の化合物データを収集して学習させることで,顧客独自の学習モデルを構築することも可能。

なお,「SCIQUICK-DT」の学習モデルは,同社が参画する「ライフ インテリジェンス コンソーシアム(LINC)」(以下,「LINC」)(注4)での成果に基づき作成し,LINCで作成したモデルと同等の高い予測精度を達成している。

2. 同社独自のディープラーニング技術で説明可能な予測結果を提供
「Deep Tensor」は,化学構造式をSMILES(注5)などのテキストデータに変換せず,グラフ構造データとして取り込み,化合物の特徴量(どういった構造上の特徴が求めたい特性値に関係があるか)を自動生成し,学習結果から特性に影響する部分の構造を判別することができる。これにより,予測結果の判断基準となる箇所が容易に判別可能となり,新薬開発に不可欠な化合物デザインにおいて高精度なヒントを得ることができる。

図「SCIQUICK-DT」の学習モデル構築および予測イメージ

図「SCIQUICK-DT」の学習モデル構築および予測イメージ

 

●販売価格
FUJITSU Digital Laboratory Platform SCIQUICK-DT(基本サービス(必須))     
200万円/3か月
FUJITSU Digital Laboratory Platform SCIQUICK-DT モデル構築サービス(オプション)
個別見積
提供開始時期:9月2日より

●販売目標
2024年度末までに売上6.2億円(同社の決算日は3月末日)。

注釈
注1
ウェルビーイング:生活者に身体的,精神的,社会的に良好な状態をとどけること。
注2
一般的に約15年の期間と数百億円から1千億円以上の研究開発費:出典 第1回医薬品開発協議会 2020年10月27日 日本製薬工業協会
注3
記述子計算:化合物の特徴を,化学構造式をもとに,数値(分子量や特定の原子数,結合数など)として表すための計算。
注4
ライフインテリジェンスコンソーシアム:製薬・化学・食品・医療・ヘルスケア関連のライフサイエンス分野におけるAIならびにビッグデータ技術を開発することで,関連諸分野の産業振興,保健医療の高度化による国民の健康長寿に資することを目指して,2016年に設立されたコンソーシアム。
注5
SMILES:分子の化学構造を英数字の文字列で表記したもの。

「SCIQUICK-DT」紹介サイト

 

●問い合わせ先
富士通コンタクトライン(総合窓口)
TEL 0120-933-200(通話無料)
受付時間: 9時~12時および13時~17時30分(土曜日・日曜日・祝日・富士通指定の休業日を除く)

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