熊本大学,心臓CTは冠動脈の評価を超えて“心筋の将来リスク”を可視化できる
2026-2-10
(ポイント)
- 近年の技術進歩により心臓CT※1 検査では,冠動脈だけでなく心筋障害も同時に評価が可能となった。
- 心筋障害を評価する指標として,心筋遅延造影(LIE:Late iodine enhancement)※2 や心筋細胞外容積分画(ECV:Extracellular volume fraction)※3 があるが,両者は異なる病態情報を提供する。これらを組み合わせることで,潜在的な心筋障害の検出や心血管イベント※4 予測の精度向上が期待される。
- 本研究は,両指標を併用した評価が心血管イベント予測にどのように寄与するかを明らかにすることを目的としている。
(概要説明)
熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学の小國哲也大学院生,泉家康宏准教授,辻田賢一教授らの研究グループは,心臓CT検査の画像解析で,心筋障害を捉える指標を組み合わせることで,将来の心血管イベントのリスクをより予測できることを明らかにした。
心臓CT検査では,冠動脈の評価に加えて,心筋障害を反映する「心筋遅延造影(LIE:Late iodine enhancement) 」や「心筋細胞外容積分画(ECV:Extracellular volume fraction)」を評価することができるが,これらを同時に評価した意義については,これまで十分に分かっていなかった。本研究により,LIEとECVの両方に異常を認める患者では,死亡や心血管イベントのリスクが高いことが示された。
この成果は,心臓CT検査により予後リスク評価や,早期の治療介入の判断に役立つことが期待される。
本研究成果は,令和8年1月22日にEuropean Heart Journal Cardiovascular Imaging誌に掲載された。
(説明)
[背景]
心臓CT検査は冠動脈の形態評価に加え,遅延相撮影により心筋の状態を評価することができる。心筋遅延造影(LIE:Late iodine enhancement)は局所的な心筋線維化を反映,心筋細胞外容積分画(ECV:Extracellular volume fraction)は心筋全体の組織学的変化を数値(%)で評価可能であり,両者は異なる病態を示す指標である。これらは心筋症を診断する際にも用いられる。しかし,これらを組み合わせた評価の臨床的意義は十分に明らかになっていなかった。
[研究の内容]
本研究では,2020年1月から2022年9月に冠動脈評価目的で心臓CTを受けた1,207例を対象に,LIEの有無とECV正常・高値を組み合わせ4群に分類し,予後との関連を検討した(図1)。
図1. LIE及びECVの組み合わせ
➡ は,LIEを示している部分である。
ECV<29.5% をECV正常値群,ECV≥ 29. 5% をECV高値群と定義している。
(A)LIEなし+ECV正常値群,(B)LIEあり+ECV正常値群,(C)LIEなし+ECV高値群, (D)LIEあり+ECV高値群
[成果]
平均26ヵ月の追跡期間において,心臓CTで評価したLIEを認めた患者,ECVが高い患者いずれも,死亡や心血管イベントが起こる割合が有意に高いことが分かった。
さらに,LIEあり,ECV高値を認める患者では,最もイベント発生率が高く,リスクが段階的に上昇することが示された(図2)。LIEとECVの両方を併せ持つこと自体が,年齢や他の因子を考慮しても,死亡や心血管疾患による入院のリスクを高めることが確認された。
図2. LIE及びECVで層別化した累積発生率
※イベントリスクが段階的に上昇し,LIEあり+ECV高値群は最もイベント発生率が高い。
[展開]
本研究結果は,冠動脈評価目的で施行される心臓CT検査において,LIEとECVを併せて評価することで,将来の心血管イベントリスクをより高精度に予測できる可能性を示している。今後,心臓CTを用いたリスク層別化や治療方針決定への応用が期待される。
[用語解説]
※1 心臓CT:
心臓および冠動脈を非侵襲的に評価する画像検査。
※2 心筋遅延造影(LIE):
局所的な心筋障害や線維化を評価する所見。
※3 心筋細胞外容積分画(ECV):
心筋における細胞外成分の割合を示し,定量的にびまん性心筋障害を評価
※4 心血管イベント:
心臓死や心血管疾患による入院などの臨床的に重要な出来事
(論文情報)
論文名:Does adding a delayed phase to cardiac computed tomography for coronary artery evaluation have prognostic value?
著者:Tetsuya Oguni, Yasuhiro Izumiya, Seitaro Oda, Seij Takashio, Yosuke Matsumoto, Naoto Kuyama, Shinsuke Hanatani, Hiroki Usuku, Yasushi Matsuzawa, Masafumi Kidoh, Eiichiro Yamamoto, Toshinori Hirai, and Kenichi Tsujita
掲載誌:European Heart Journal Cardiovascular Imaging 2026 Jan 22:jeag018
doi:10.1093/ehjci/jeag018
URL:https://doi.org/10.1093/ehjci/jeag018
●問い合わせ先
熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科学
担当:准教授 泉家康宏(いずみや やすひろ)
電話:096-373-5175
e-mail: izumiya@kumamoto-u.ac.jp
