金沢大学,従来の約5倍の解像度を持つCT装置の開発に成功
2026-2-19
金沢大学医薬保健研究域保健学系の市川勝弘教授,および医薬保健研究域保健学系/金沢大学附属病院整形外科の多田薫教授の研究グループは,従来のX線CT装置(※1)の約5倍の解像度(ボクセルサイズ:0.08~0.10 mm)を有する四肢専用の極超高解像度X線CT装置を開発することに成功した。
臨床で一般的に用いられるX線CT装置の解像度(※2)は 0.5 mm 程度であり,0.1~0.2 mm とされる骨の微細構造(骨梁,※3)を描出する能力は持たない。そこで, 本研究グループは,CT装置のスキャン(※4)機構に含まれる,X線装置,検出器,回転機構等に対する研究を重ね,四肢骨梁を明瞭に描出できるレベルまで最適化した。その結果,ボクセル(3次元データの構成単位)サイズを 0.08×0.08×0.08 mm3 まで, 極小化することに成功した。このような極小ボクセルの装置は,これまで人体に適用できない実験セットしかなかった。今回開発した装置は,四肢をごく短時間でスキャンでき,被検者への負担が非常に少ないにもかかわらず,骨の微細構造を鮮明に描出することが可能である。
本開発システムは,すでに臨床応用可能な構成まで完成しており,将来,手や足の骨疾患や外傷の正確な診断に活用されることが期待される。
本研究成果は,2025年11月13日に骨格放射線医学の専門誌『Skeletal Radiology』のオンライン版に掲載された。
【研究の背景】
X線CT装置は,全身がスキャンできる whole body タイプが主流であり,その解像度は 0.5 mm 程度と微小ではない。このため,手や足の骨形態をおおまかに把握することはできるが,骨内部の微細構造である骨梁(0.1~0.2 mm)を描出することはできない。医療機器として承認されている四肢専用の装置は数少なく存在するが,その解像度は全身用装置と大差なく 0.3~0.5 mm とされ,さらに全身用装置に比べて画像コントラストが劣るという課題がある。また,小動物用のCT装置を,人体の手部に活用する研究事例はあったが,撮影時間が約2分と非常に長く,撮影範囲も約 10mm とごく狭いため,臨床応用は現実的ではなかった。そこで本研究グループは,骨梁などの骨の微細構造を明瞭に描出し得る臨床応用可能な,これまでにない極超高解像度 CT装置の開発を目指した。
【研究成果の概要】
開発した装置は,低出力だが小型のX線装置,0.099 mm の微小検出器素子からなる高解像度X線検出器(※5),それらを配置したガントリ(架台)を 0.1 mm 以下の高い中心精度で回転させるモータドライブの機構から構成されている。図1のような内部構造と外観であり,前面パネルを装着した状態では,手や足を挿入する開口を有するシンプルな構造で,すでに本学の倫理委員会による安全性試験を通過している。撮影時間はわずか 6.5 秒で,最大で,122 mm×122 mm(スライス面)×51 mm(軸方向)の範囲を0.08~0.10 mm の解像度で明瞭に画像化する。撮像時間を10 秒程度に延長すれば,軸方向は 90 mm 程度に拡幅できる。図2は,倫理委員会の承認のもと撮影した,健常ボランティア2例の手部の断面画像である。左側は,横断面(軸に対して,垂直な面)画像,右側は,前額面(手のひらに平行な面)画像。これらの画像のように,本装置はどの方向からでも骨の微細構造を詳細に観察することができ,また装置構成の工夫により,従来装置で指摘されているコントラスト劣化もない。さらに,X線被ばく量は 0.024 mSv と極めて低く,人体への影響はない。(ICRP(国際放射線防護委員会)勧告(Publication 103)のボランティアへの最低レベル 0.1 mSv を下回る。)
画像では,骨梁の一本一本が明確に分離して描出されており,もしこれらが,外傷などで損傷すれば手に取るように分かる。図3は,近年臨床使用が可能となった 0.25 mm 検出器による CT装置と解像度を比較した結果である。グラフが右に伸び,かつ,上にあるほど優れた解像度を表すが,開発した装置の解像特性は,0.25 mm 検出器の装置を完全に凌駕している。さらに図4は,取得した手部のCT画像から再構築した極めて写実性の高い3次元画像。本研究グループでは,極超高解像度のCT画像データを効率的に読影するための革新的画像化技術を開発しており,この画像のように,生体からあたかも標本を取り出したかのようなリアルな画像を生成することにも成功した。
【今後の展開】
本研究成果により,整形外科領域の手,足,肘,膝において,骨の微細構造を詳細に観察することが可能となる。これにより,傷病の正確な診断,治療効果判定,および治癒過程の把握などにおいてX線画像診断に革新をもたらすことが期待される。
図 1:四肢用極超高解像度 X線 CT の内部構成と前面パネル装着時の外観。
小型のX線装置,0.099 mm の検出器素子からなる高解像度 X線検出器,およびそれらを固定したガントリ(架台)を回転させるコンピュータ制御の機構から構成されている。回転しながらX線を照射する一般的なCTスキャンを実施し,そのデータをコンピュータに送ることで 0.08~0.10 mm の微小ボクセルからなる3次元画像データを生成する。
図 2: 健常ボランティア2例の手部(手根骨部)のCT画像。
手根骨や手関節の各骨の内部の微細構造(骨梁)がほぼ全て分離されかつ明瞭に描出されている。前額面とは掌に平行な面だが,この画像から,3次元方向の全てにおいて極超高解像度であることが見て取れる。
図 3:0.25 mm の検出器を持つ近年臨床使用が可能となったCT装置との解像特性の比較。
グラフが右に行くほど,また上にあるほど,解像特性が優れていることを示す。開発した装置は,明らかに高解像度である。
図 4: 本装置の開発と並行して開発した写実的3次元画像生成法による画像
生体のCT画像から,あたかも標本を取り出したかのような画像を生成可能。極超高解像度の高精細データは非常に多くの画像枚数からなるが,この画像を用いることで,詳細なデータを眼の前に置いて観察するように一望でき,必要に応じて裁断して内部の状況も確認できる。
【掲載論文】
雑誌名:Skeletal Radiology
論文名: Development and evaluation of an ultra-high-resolution cone-beam computed tomography system for hand and foot
(手部および足部のための超高解像度コーンビーム X線CT装置の開発と評価)
著者名:Wakiko Tani, Katsuhiro Ichikawa, Hiroki Kawashima & Kaoru Tada
(谷 和紀子,市川 勝弘,川嶋 広貴,多田 薫)掲載日時:2025 年 11 月 13 日にオンライン版掲載 DOI:10.1007/s00256-025-05077-z
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s00256-025-05077-z
【用語解説】
※1 X線CT装置
X線を使用して,体の内部をコンピュータ計算によって画像化できる装置。通常のレントゲン撮影の X線画像では内部の臓器などは全て重なってしまい,分離して見ることはできないが,CT装置は,断面画像を生成することによりそれを可能とする。
※2 解像度
どれだけ小さなものまで分離して観察できるかの指標。0.1 mm とした場合は,0.1mmのサイズの小さなものが複数近接していても,それらが分離して認識できる。
※3 骨梁
骨の内部にある微細に入り組んだ構造を有する骨質の柱や梁のことで,家の梁のように骨を内側から支え強度を保つ重要な役割を持つ。
※4 CT装置のスキャン
人体にX線を照射しながら,人体透過後のX線強度を記録すること。
※5 高解像度X線検出器
X線の強度をデジタルデータとして記録する装置。検出器素子一つ一つのサイズが小さいことにより,より高解像度なデータ取得できる。
●本件に関する問い合わせ先
■研究内容に関すること
金沢大学医薬保健研究域保健学系 教授市川 勝弘(いちかわ かつひろ)
TEL:076-265-2528
E-mail:ichikawa@mhs.mp.kanazawa-u.ac.jp
金沢大学医薬保健研究域保健学系 教授多田 薫(ただ かおる)
TEL:076-265-2624
E-mail:tdkr@med.kanazawa-u.ac.jp
■広報に関すること
金沢大学医薬保健系事務部保健学支援課企画総務係青野 真琴(あおの まこと)
TEL:076-265-2511
E-mail:t-hsomu@adm.kanazawa-u.ac.jp
