ニコン,研究・臨床エコシステムを支える光学顕微鏡の遠隔利用実現へ向けた産学共同の取り組みが成功
東京―北海道間の直線距離約830kmを光回線で接続し,光学顕微鏡の遠隔操作・運用性を検証
2026-3-25
(株)ニコン(以下,ニコン),(株)ニコンソリューションズ(以下,ニコンソリューションズ),NTT東日本(株)(以下,NTT東日本),国立大学法人東京大学大学院医学系研究科・医学部附属病院(以下,東京大学),国立大学法人北海道大学(以下,北海道大学)らは,2023年から進めてきた「リモートバイオDXプロジェクト※1」において,臨床病理およびアカデミア・創薬分野における光学顕微鏡の遠隔操作について,操作性や運用面を中心に検証を行い,その活用に向けた実現性や有用性を確認した。また,東京都内での事前検証では,NTT東日本が提供するAll-Photonic Connect powered by IOWN※2を用いて,遠隔顕微鏡操作に必要なネットワークを構築できることを確認した。本サービスは,高速・大容量,低遅延,さらに通信品質のゆらぎを抑えた安定した伝送を実現できるため,高精細な顕微鏡画像のリアルタイム共有や,繊細な操作が求められる遠隔観察・遠隔操作との高い親和性を有している。
加えて,東京―北海道間の本番検証においては,IOWN以外で実際に提供されている商用光回線サービスを活用して構成可能であることも確認できたことで,先端的な医療・研究現場への実装だけでなく多様な拠点展開に向けた現実的な導入可能性も示された。
本プロジェクトは,遠隔地から顕微鏡を操作できる仕組みの構築を通じ,場所に左右されない環境提供や研究機会の拡大を目指してきた。臨床病理分野における病理医不足や専門医偏在の深刻化,アカデミア・創薬分野における研究機器の高度化やデータの大容量・複雑化に伴う設備格差といった社会的課題を背景に,医療DXおよびバイオDXの推進に貢献することを目的として,約2年間にわたり取り組んできたものである。
※1 生命科学・医学研究のデジタルトランスフォーメーション実現に向けた連携協定のこと。場所にとらわれず,円滑にコミュニケーションができる仕組みや大容量データを高速かつセキュアに共有し,AI等も活用した先端的な研究が行われる基盤の整備を目指して,バイオ領域におけるイノベーションをより加速させ,バイオエコノミー社会の実現を目指す取り組み。2023年12月に締結した枠組みに,北海道大学大学院医学研究院,北海道大学大学院薬学研究院,北海道大学電子科学研究所が新たに参画。
2023年12月21日発表のプレスリリース:https://www.jp.nikon.com/company/news/2023/1221_01.html
※2 IOWN (Innovative Optical and Wireless Networkの略,読み:アイオン)
あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り,光を中心とした革新的技術を活用し,高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な,端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想。https://www.rd.ntt/iown/
「リモートバイオDXプロジェクト」の概要図
プロジェクト概要
名称:リモートバイオDXプロジェクト「光学顕微鏡遠隔操作検証」
参画機関:東京大学,北海道大学,NTT東日本,ニコン,ニコンソリューションズ
内容:
■NTT東日本とニコンでの機器接続の事前検証(2023年12月,2024年2月)
■臨床病理分野
・東京大学医学部附属病院において,模擬遠隔環境での動作検証(2025年1~2月)
・東京大学と北海道大学間において,遠隔操作を動作検証(2025年9月)
・東京大学と北海道大学間において,遠隔操作をユースケースで動作検証(2025年12月)
■アカデミア・創薬分野
東京大学と北海道大学間において,遠隔操作を動作検証(2025年12月,2026年2月)
関連リンク:NTT東日本東大ラボ 「リモートバイオDXプロジェクト」紹介ページ
URL:https://nt-lab.adm.u-tokyo.ac.jp/remote-bioDX/
1.背景と目的
臨床病理分野では,病理医不足や専門医偏在により,術中迅速診断や高度かつ早急なコンサルテーションを行えない現場がある。また,アカデミア・創薬分野では,研究機器の進化やデータの大容量化および複雑化により,研究機関における設備の格差が生じ,研究の機会やスピードに影響を与えている。さらに,高速データ転送による実験効率の向上も求められている。これらの課題を解決するために,産学共同の本プロジェクトを実施した。
2.主な成果
■臨床病理分野(2025年1月~12月)
東京大学と北海道大学間の直線距離約830kmを光回線にて接続し,ニコンのデジタルイメージングマイクロスコープ「ECLIPSE Ui」を用いた遠隔操作を実施。実運用を想定した検証環境において,8名の医師が操作性や通信遅延の影響,遠隔地からの病理標本観察としての適用可能性について評価を行った。その結果として,遠隔環境においても病理標本観察に不可欠な操作性・応答性・視認性が,直接操作する環境と同等に確保できた。術中迅速診断をはじめとした遠隔地からの病理標本観察に十分適用可能であることが確認できたほか,双方向での操作が成立し,快適な操作が可能との評価が得られた。さらに,コミュニケーション手段として,NTT東日本の低遅延映像伝送システム「VBOLT」を併用することで,遠隔操作の円滑化に寄与した。音声に加えて顕微鏡周辺の視覚・聴覚情報をまとめて共有することで,会話と機器の状態把握を相互に遅延なく実施できる環境を実現した。
今後に向けて,術中迅速診断,細胞診標本の遠隔診断,専門医同士のコンサルテーションなど複数のユースケースでの活用の可能性,遠隔地からの病理標本観察ネットワークの構築に向けた具体的な有用性が示された。
■アカデミア・創薬分野(2025年12月,2026年2月)
ニコンの超解像顕微鏡「N‑SIM」および共焦点レーザー顕微鏡「AX/AX R with NSPARC」を用いて,固定サンプルおよび生細胞を対象に遠隔観察の技術的可否と運用面の評価を実施。臨床病理分野と同様に,東京大学と北海道大学を接続し,「VBOLT」によるコミュニケーション環境を構築した。
評価結果として,実運用を見据えるうえで重要となる視野の確保,顕微鏡の状態把握,遠隔用ジョイスティックの操作性,現場スタッフの役割など,運用設計に向けた具体的な改善ポイントが整理された。また,固定サンプルおよび生細胞のそれぞれに適した遠隔観察条件の整理が進み,今後の運用モデル作成に繋がる重要な知見が得られた。
光学顕微鏡の遠隔操作における動作検証の仕組みのイメージ
3.今後の展開
本検証で得られた知見を基に,拠点間の双方向コミュニケーション,撮像データの保存・転送・解析機能の追加など,より実用環境に近い構成への発展を進める。これにより,医療・研究機関の新たな連携モデル創出を促し,リモートバイオDXの社会実装を加速していく。
ニコン取締役 兼 専務執行役員 ヘルスケア事業部長 大村泰弘 氏
これまで実現が難しかった光学顕微鏡の遠隔操作が,当社の光学顕微鏡とNTT東日本様の高度な通信技術や技術力を組み合わせることで,検証条件下において直接操作と変わらない操作性で成立することを確認できました。遠隔地にいながら病理標本観察や研究が滞りなく行えるという成果は,日本が抱える病理医不足や研究機会の偏在といった社会課題に対して,一歩前進したと捉えています。
今回の検証実験で得られた知見をもとに,今後さらなる成果が期待できると考えております。ニコンは,光利用技術と精密技術の可能性に挑み,イノベーションを通じて“人々のクオリティオブライフの向上を支援する企業”として,バイオエコノミー社会,リモートバイオDXの実現に向け引き続き尽力していきたいと思います。
NTT東日本 執行役員 ビジネス開発本部長 山口肇征 氏
本検証を通じて,東京―北海道間という長距離環境においても,光学顕微鏡の遠隔操作に必要となる通信要件や運用条件を整理できたことを,大きな成果と捉えています。NTT東日本の商用光回線および低遅延映像伝送技術を活用することで,医療・研究の現場が求める操作性や応答性を確保できることを確認できました。
本取り組みは,病理医不足や研究機会の地域偏在といった社会課題に対し,通信の力で新たな選択肢を提示するものです。今後もニコン様をはじめとするパートナーの皆様と連携し,医療DX・バイオDXの社会実装に向けて,信頼性の高いネットワーク基盤とサービスの高度化に取り組んでまいります。
●問い合わせ先
ニコン 企業活動に関する問い合わせ
https://www.jp.nikon.com/contacts/form/
NTT東日本 経営企画部 中期経営戦略推進室・IOWN推進室
先端テクノロジー部 オープンイノベーションセンタ
MAIL: remote-bio-ml@east.ntt.co.jp
東京大学大学院医学系研究科 総務チーム
MAIL: ishomu@m.u-tokyo.ac.jp
北海道大学大学院医学研究院 腫瘍病理学教室
MAIL: patho2jimu@med.hokudai.ac.jp
北海道大学 電子科学研究所 教授 三上秀治
MAIL: hmikami@es.hokudai.ac.jp
