医療放射線防護連絡協議会が「第36回『医療放射線の安全利用』フォーラム」を開催

2015-3-2

放射線防護

医療被ばく

福島原発事故


活発に意見交換がなされた総合討論

活発に意見交換がなされた総合討論

医療放射線防護連絡協議会は2015年2月27日(金),「第36回『医療放射線の安全利用』フォーラム」を開催した。前回に続き,タワーホール船堀(東京都江戸川区)を会場にした今回のフォーラムのテーマは,「医療関係者に対する放射線防護教育とは?」。2009年に,国際放射線防護委員会(以下,ICRP)からPublication 113「放射線診断およびIVRにおける放射線防護教育と訓練」の勧告が出されたことを受けて,このテーマが用意された。同協議会総務理事を務める自治医科大学の菊地 透氏が司会を務め,基調講演,パネルディスカッション,総合討論の三部構成でプログラムが組まれた。

開会に先立ち挨拶に立った同協議会会長の佐々木康人氏は,2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故以降,多くの医療関係者が放射線防護教育の重要性を認識しつつも,国民や医療関係者,医療系学生に対して,必ずしも適切な教育が行われてこなかったと指摘。放射線利用による利益と損失についてのコンセンサスが得られていないとして,今回のフォーラムをその議論の場にしたいと述べた。

佐々木康人 氏(会長)

佐々木康人 氏
(会長)

菊地 透 氏(総務理事)

菊地 透 氏
(総務理事)

 

 

まず第1部は,京都医療科学大学の大野和子氏による基調講演が行われた。講演のテーマは,「医療関係者への放射線防護教育の現状と課題」。大野氏は,同協議会の活動について触れ,IVRにおける患者の放射線皮膚障害,妊娠と放射線に関する取り組みを紹介。さらに,法令などにおける放射線防護教育,ICRPのPublication 113について解説を行った。その上で大野氏は放射線防護の現状を取り上げ,知識が不足しがちな消化器内科や整形外科などによるIVRが増えていることが,新たな課題となっていると説明した。また,大野氏は,マンパワーの限られたクリニックなどでも,学会などに参加が困難であるため,診療放射線技師が最新の放射線防護教育を受けられないという問題も指摘。講演のまとめとして,読みやすい教材を活用したり,朝礼などで短時間に学べるような場を設けたりすることが大切であると述べた。大野氏は,自身らのグループで作成した『放射線についてお話しします』という医療関係者向けにも使用できる教材も紹介した(教材に関する問い合わせは,京都医療科学大学の藤尾氏・村上氏,FAX 0771-63-0189まで)。

続く第2部のパネルディスカッション「『放射線診療における放射線防護とは?』—その意義と必要性—」では,菊地氏が座長を務めて,5題の発表が行われた。先に,菊地氏が「ICRP Publ. 113の『放射線診断およびIVRにおける放射線防護教育と訓練』紹介」をテーマに座長講演を行った。菊地氏は,ICRPの前身である国際X線およびラジウム防護委員会などの歴史を振り返った上で,ICRPの勧告内容について,対象となる医療従事者,訓練項目,訓練プログラムなどを説明した。そして,同協議会が関連学会などを協力し,各医療施設で放射線防護教育が実施されることを期待したいとまとめた。2番目に登壇したさいたま赤十字病院の鈴木 滋氏は,「CT検査における放射線防護教育とその意義」について発表した。鈴木氏は,多列化などのCTの技術進歩により被ばくが増加する可能性があるが,逐次近似応用再構成法といった低被ばく化の技術も進んでいると述べた。また,鈴木氏は,診断参考レベル(DRL)にも言及した上で,医療系学生,研修医,放射線科医,検査依頼医などに対する教育と訓練の考え方を示した。

大野和子 氏(京都医療科学大学)

大野和子 氏
(京都医療科学大学)

鈴木 滋 氏(さいたま赤十字病院)

鈴木 滋 氏
(さいたま赤十字病院)

 

 

次いで山梨大学医学部附属病院の坂本 肇氏が,「IVR手技における放射線防護教育とその意義」のタイトルで,日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構の放射線防護教育について講演した。坂本氏は,多くの職種がかかわるIVRの現場では,チームの責任者である医師に放射線防護の重要性を認識してもらうことが必要だと説明。同時に放射線に関する知識を持つ診療放射線技師の存在が重要だと述べた。また,坂本氏は,医療関係者に対する放射線防護には,被ばく線量などのデータを可視化して提示することによって,意識が高まるとも話した。これらを踏まえた上で坂本氏は,IVRの現場で診療放射線技師が被ばく管理,放射線防護教育を行っていくために,日本血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師認定機構の活動を進めていきたいとまとめた。4番目に登壇した榊原記念病院の粟井一夫氏は,自身がかかわった血管造影検査,IVRを振り返り,装置の進歩に伴い,放射線被ばくのリスクが高まったと言及。そして,同協議会の活動を通じて,放射線防護の啓発活動を行ってきたと述べ,これまでのフォーラムの内容などを紹介した。また,粟井氏は,「IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン」などの解説も行った。

坂本 肇 氏(山梨大学医学部附属病院)

坂本 肇 氏
(山梨大学医学部附属病院)

粟井一夫 氏(榊原記念病院)

粟井一夫 氏
(榊原記念病院)

 

 

最後に登壇した東京医科大学八王子医療センターの小泉 潔氏は,「核医学診療における放射線防護教育とその意義」と題して講演した。小泉氏は,東京電力福島第一原子力発電所の事故以降,日本核医学会のホームページ上で,内部被ばくに関する情報提供を行い,多くのアクセス数を記録したと述べた。また,2011年に発覚した市立甲府病院における小児核医学検査での放射性医薬品の過剰投与に関連し,小児検査向けのガイドラインを作成するといった日本核医学会の放射線防護教育の活動についても紹介した。

この後休憩を挟み,第3部の総合討論が行われた。まず指定発言として放射線安全フォーラムの多田順一郎氏が登壇。「放射線防護の固定観念」と題して発表した。多田氏は,東京電力福島第一原子力発電所の事故後の対応では,専門家の固定観念に縛られた対応により,混乱を招いたと指摘。医療被ばくにおけるシーベルト(Sv)という単位について,放射線の影響を表すものではないという考えを強調した。

小泉 潔 氏(東京医科大学八王子医療センター)

小泉 潔 氏
(東京医科大学
八王子医療センター)

多田順一郎 氏(放射線安全フォーラム)

多田順一郎 氏
(放射線安全フォーラム)

 

 

多田氏の指定発言に続き,今回の講演者全員が登壇し,会場内の参加者からの質疑も交えて,意見交換がなされた。多忙な医療現場での教育のあり方や,興味を持ってもらう方法,職種によって放射線に関する知識に差がある場合にどの程度に合わせて教育を行うかといったことが話し合われた。講演者だけでなく,会場からも活発な意見が出され,密度の濃い討論が行われた。

 

●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会(日本アイソトープ協会内)
TEL 03-5978-6433(月・水・金のみ)
FAX 03-5978-6434
Email jarpm@chive.ocn.ne.jp
http://www.fujita-hu.ac.jp/~ssuzuki/bougo/bougo_index.html

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