医療放射線防護連絡協議会が第42回「医療放射線の安全利用」フォーラムをオンライン開催

2021-2-17

放射線防護


電離放射線障害防止規則の一部改正を前に,オンラインで行われた

電離放射線障害防止規則の一部改正を前に,
オンラインで行われた

医療放射線防護連絡協議会は2021年2月,「令和3年度からの水晶体等価線量限度改正施行対応について」をテーマに,第42回「医療放射線の安全利用」フォーラムを開催した。同フォーラムでは,第40回(2019年),第41回(2020年)の2回にわたり,水晶体の等価線量限度改正に伴う医療現場の対応について検討を行ってきた。今回は,電離放射線障害防止規則が2021年4月1日に一部改正されるのを前に,水晶体の線量限度改正に関する基調講演のほか,同協議会も編集に参画した「医療スタッフの放射線安全に係るガイドライン」の紹介や関連学会からの話題提供,提言策定に向けた総合討論が行われた。2020年12月の第31回「高橋信次記念講演・古賀佑彦記念シンポジウム」に続くオンラインでの開催となり(事前登録制で,視聴期間は2月12~19日),総合討論のみが2月14日(日)にZoomによるLIVE中継で行われた。

フォーラムでは,同協議会会長の佐々木康人氏による開催の挨拶に続き,産業医科大学の欅田尚樹氏が「水晶体の線量限度改正」と題して基調講演を行った。欅田氏は,2011年の「組織反応に関する声明」(ソウル声明)に始まる国際放射線防護委員会(ICRP)の眼の水晶体等価線量限度の引き下げ勧告を受け,国内で検討が進められた経緯を説明。その過程で,関連学会から推薦された15施設の医師を対象に検証した結果,防護クロスや適切な位置での天吊型防護板の使用,防護メガネの着用などにより,水晶体等価線量を20mSv/年以下に保つことが可能であるとの結論が得られたことを紹介した。また,電離放射線障害防止規則の一部改正を踏まえ,労働安全衛生法における健康の考え方や労働衛生における3管理(作業環境管理,作業管理,健康管理)など,労働衛生の視点に基づいた放射線管理について解説。管理の実施に当たっては,リスクアセスメントの視点を取り入れたマネジメントシステムの導入が重要であると述べ,マネジメントシステム導入支援事業や被ばく線量低減設備改修等補助金事業などの国による支援事業について紹介した。

佐々木康人 氏(同協議会会長)

佐々木康人 氏(同協議会会長)

 

欅田尚樹 氏(産業医科大学)

欅田尚樹 氏(産業医科大学)

 

続いて,京都医療科学大学の大野和子氏が「医療スタッフの放射線安全に係るガイドライン*水晶体の被ばく管理を中心に*」と題して教育講演を行った。大野氏は,高齢化社会を迎え,内視鏡的IVRや骨折整復などの新たな手技が,低侵襲性な選択肢として行われるようになったのに対し,(1)これらを行う診療科では,学会員への教育を含めた従事者の放射線防護への取り組みが未だ不十分,(2)従来から普及している比較的安価な装置を利用して医師主導で開発された手技が多く,放射線に関する教育を受ける機会が少ない看護師が手技に関与する場合が多い,などの課題を指摘。また,大野氏らが行った調査でも,一部の診療科で水晶体近傍の被ばく線量が高値となるケースが見られたことを挙げ,ガイドラインの必要性を強調した。実際のガイドラインの作成に当たっては,日本産業衛生学会や日本歯科放射線学会,日本放射線看護学会など20学会の参画が得られ,放射線の基礎知識についても解説した上で,被ばく低減対策を具体的に紹介していることなどが解説された。

大野和子 氏(京都医療科学大学)

大野和子 氏(京都医療科学大学)

 

次に,「ガイドライン編集参加者からの水晶体被ばく防護に向けた取り組み」をテーマに,関連する循環器,整形外科,IVR放射線技術,放射線看護の各領域における取り組みについて,4名の演者がそれぞれ解説した。

まず,循環器領域について,「日本循環器学会の取り組み」と題して東邦大学大学院医学研究科循環器内科学の天野英夫氏が解説した。診療科別に見た医師の水晶体等価線量分布調査では,循環器内科は1年間で20mSvを超える医師の割合が最も多く,早急な対応が必要な状況にある。天野氏は,日本循環器学会の「循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン」の2021年改訂版が4月に発行予定であると述べ,その一部を紹介した。また天野氏は,具体的な防護法について,防護メガネなどによる防護が有効なものの,計測法や導入に当たっての経済的負担,高度技術者への被ばくの偏りなどの課題があり,それぞれ製品の改良や行政による負担の検討,多くの医師への技術の伝承などの対応が望まれるとした。さらに,手術前にスタッフが手技の行程を確認する「タイムアウト」で多職種間で情報共有することで,遮蔽板や適切な術者の立ち位置などを事前に予測でき,防護に役立つと述べた。

天野英夫 氏(東邦大学)

天野英夫 氏(東邦大学)

 

次に,「整形外科領域での職業被ばくに対する取り組みついて」と題して,日本整形外科学会安全医療推進・感染対策委員会担当理事/青森県立中央病院の伊藤淳二氏が解説した。伊藤氏は,整形外科領域の放射線被ばくについて,整形外科医を対象に行った調査の結果から,職業被ばくへの意識は高い半面,防護具や測定バッジ着用などの対策は十分ではなかったことが明らかになったとした。そして,伊藤氏らが行っている対策として,防護具の使用や放射線量のモニタリング,術中CT(O-arm)ナビゲーションなどを紹介し,職業被ばく低減に向けたよりいっそうの取り組みや教育が必要だと述べた。

伊藤淳二 氏(青森県立中央病院)

伊藤淳二 氏(青森県立中央病院)

 

3演題目として,「IVRにおける従事者の水晶体被ばく管理について」と題して,兵庫医科大学病院放射線技術部の松本一真氏が解説した。松本氏は,IVRでの水晶体被ばく線量に関する研究の結果を交え,防護メガネや天吊型防護板の適切な使用により,線量限度の超過は防ぎうると解説。他方で,不均等被ばく測定用の頸部バッジは水晶体線量を過大評価する傾向にあることから,適切な管理が必要であるとした。また,「日本の診断参考レベル」(DRLs)の公開や画像処理技術向上による低パルス化の実現などにより,線量の最適化が図られているのではないかと述べた。

松本一真 氏(兵庫医科大学病院)

松本一真 氏(兵庫医科大学病院)

 

最後に,看護領域での放射線防護について,日本放射線看護学会副理事長/東都大学沼津ヒューマンケア学部開設準備室の太田勝正氏が解説した。2012年に放射線看護の発展と専門的な活動の質向上に寄与することを目的に設立された日本放射線看護学会は,日本看護協会から2018年の第6回放射線審議会に意見書が提出されたのを受けて「看護職のための眼の水晶体放射線防護ガイドライン」を策定,2020年12月に公表した。太田氏は,看護職向けのガイドラインの必要性について,個人モニタの装着対象となる看護職が約11万人に上り,一部では新しい線量限度を超過する可能性がある看護職がいるにもかかわらず,看護職の放射線管理・防護については施設差が大きく,統一的,具体的な指針が必要であると述べた。太田氏は,本ガイドラインは日本看護協会などの関係機関に提示されており,看護職の適切な放射線防護の実現に資することに期待したいとした。

太田勝正 氏(東都大学)

太田勝正 氏(東都大学)

 

14日にLIVE中継で行われた総合討論は,大野和子氏と同協会総務理事の菊地 透氏が総合司会を務め,大学やクリニック,メーカーなどから幅広い関係者が参加した。各講演の補足説明や演者間の相互質問の後,事前に参加者から募集した質問を基にディスカッションが行われた。ディスカッションでは,被ばく管理における診療放射線技師の役割や,個人の被ばく線量の一元管理などについて意見が交わされ,まずは現場での線量管理の促進を図ることが重要との見解が示された。総合討論の最後には,今回のフォーラムでの「医療放射線の安全利用に関する提言」が策定された。提言では,医療スタッフへの安全対策が労働衛生における3管理と統括管理,労働衛生教育の各項目に沿ってまとめられ,現場でPDCAを回し,マネジメントを行うことが提起された。

菊地 透 氏(同協議会総務理事)

菊地 透 氏
(同協議会総務理事)

 

●問い合わせ先
医療放射線防護連絡協議会 事務局
〒451-0041 愛知県名古屋市西区幅下1-5-17 大野ビル1階
Fax:052-526-5101 TEL:052-526-5100
E-mail:jimusitu@jarpm.net
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