中谷医工計測技術振興財団が第4回長期大型研究助成に量子科学技術研究開発機構を採択
「未来PET創造研究ユニット(仮称)」を設立し「全ガンマ線イメージング」実用化に取り組む

2022-2-18


記者会見では,目録の贈呈が行われた

記者会見では,目録の贈呈が行われた

公益財団法人中谷医工計測技術振興財団は,グローバルに活躍する若手研究者の育成を目的に行っている「長期大型研究助成」に,国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)を採択した。本助成を受け,QSTは核医学診断のイノベーション拠点となる「未来PET創造研究ユニット(仮称)」を設立,国内外の大学や研究機関,企業などと連携し,利用可能なすべての放射線を画像診断に活用する「全ガンマ線イメージング(Whole Gamma Imaging:WGI)」の技術開発と実用化に取り組む。2022年2月16日(水)には,日比谷国際ビルコンファレンススクエア(東京都千代田区)ならびにオンラインで共同記者会見が行われ,同研究の研究責任者であるQST量子生命・医学部門量子医科学研究所先進核医学基盤研究部上席研究員の山谷泰賀氏が,助成対象となった研究テーマ「利用可能なすべての放射線を画像診断に役立てる『全ガンマ線イメージング』への変革」について紹介した。

中谷医工計測技術振興財団は,臨床検査機器・試薬メーカーのシスメックス(株)の創業者である中谷太郎氏が1984年に「中谷電子計測技術振興財団」として設立,2012年に公益財団法人に移行した。医工計測技術分野における先導的な技術開発の助成を中核として,技術開発に顕著な業績を上げた研究者への表彰や技術交流への助成などを行っている。そのうち最上位の研究助成プログラムである長期大型研究助成は,年間最大6000万円を最長5年間,総額3億円を助成するもので,新たに研究部門を設立し,国内外3か所以上の研究機関と共同研究コンソーシアムを形成,研究活動を行うことが選定の条件となる。これまでに3回の助成が行われ,次世代臨床医用計測技術研究ネットワーク拠点(東京大学)などが設立されている。

第4回の助成に採択されたQSTの山谷氏らは,2022年1月に(株)アトックスと世界初のヘルメット型PET「Vrain」を開発,実用化に成功した。Vrainは半球型の頭部専用PETで,世界最速クラスの検出器を搭載し,検出器数を従来の1/4~1/5に低減したほか,座位での検査を可能にし,CTを不要としたことから設置面積が約1/5に抑えられ,高い普及性を実現した。記者会見に登壇した山谷氏は,Vrainの開発経験から,アカデミアが本気で企業と協働することで,技術革新と実用化の歯車が回せるのではないかと述べた。また,今回の助成テーマとなったWGIは,コンプトン散乱を利用することで検出器の増加によらず感度を向上させるというコンセプトの技術で,内側に検出器リングを追加し,通常モードに加えコンプトンモードでの撮影を可能にし,より高感度な撮影をめざす。すでに動物サイズのプロトタイプを開発しており,人を対象とした臨床装置の開発にあたっては抜本的な検出器性能の改善が必要となるが,本助成による研究ユニットで日本の優れた高エネルギー物理学などの技術を集約することで,実用化の壁を越えることは可能だと意気込みを述べた。また,WGIの実現により,早期診断や診断精度向上が見込まれるほか,同時に複数の検査を行うことが可能になることで,臓器連関の解明が期待される。山谷氏は,スクリーニング後の精密検査や治療効果判定,治療薬開発などに活用できるのではないかと述べた上で,実用化への成功体験を若手研究者らと共有していきたいと強調し,発表を締めくくった。

山谷泰賀 氏(QST上席研究員)

山谷泰賀 氏(QST上席研究員)

 

記者会見では,同財団代表理事の家次 恒氏と事務局長の松森信宏氏,研究ユニットに参画する同研究部イメージング物理研究グループ主幹研究員の高橋美和子氏や東北大学未来科学技術共同研究センター准教授の黒澤俊介氏らが出席し,目録の贈呈などが行われた。また,QST理事長の平野俊夫氏は,WGIの実用化は未病段階での疾患の検出を可能にし,QSTが取り組むがん死ゼロ・認知症ゼロの健康長寿社会の実現に貢献するものだと述べ,QSTとして全力でサポートしていくとした。なお,2022年春にキックオフシンポジウム,2025年に中間報告会の開催を予定し,5年間の助成期間が終了する2027年には最終報告会が行われる。

左から,松森 氏,家次 氏,山谷 氏,平野 氏,高橋 氏,黒澤 氏。

左から,松森 氏,家次 氏,山谷 氏,平野 氏,高橋 氏,黒澤 氏。

 

●問い合わせ先
中谷医工計測技術振興財団 事務局
https://www.nakatani-foundation.jp


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