富士通Japan,デジタルホスピタルサービスで医療機関のパートナーをめざすAI,医療DX戦略を発表
名古屋医療センターでは生成AIによる退院サマリ作成支援で業務時間を7割削減し,年間5000万円超のコスト削減効果を見込む
2025-11-25
写真左から富士通Japanヘルスケア事業本部長の桑原裕哉氏,
富士通Japan代表取締役社長の長堀 泉氏,
名古屋医療センター医療情報管理部長/整形外科医長の
佐藤智太郎氏,
富士通Japanヘルスケア事業本部
第二ヘルスケアソリューション事業部長の大西 享氏
富士通Japan(株)は2025年11月19日(水),「医療機関におけるAI活用およびDXの直近の取り組みについて」と題した記者説明会を開催した。この中で,AIをはじめとするデジタル技術によって医療機関の在り方を変革し,単なる電子カルテベンダーにとどまらず,デジタルホスピタルのサービスを提供することで医療機関のパートナーとなるための事業戦略を示した。その取り組みの一例として,独立行政法人国立病院機構名古屋医療センターにおける生成AIを用いた医療文書作成支援サービスの導入事例を紹介した。同センターでは,医師の退院サマリ作成時間が7割削減され,年間で5000万円以上のコスト削減効果が見込まれるという。
説明会には,代表取締役社長の長堀 泉氏,ヘルスケア事業本部長の桑原裕哉氏,ヘルスケア事業本部第二ヘルスケアソリューション事業部長の大西 享氏,名古屋医療センター医療情報管理部長/整形外科医長の佐藤智太郎氏が出席した。まず,長堀社長は挨拶で,同社が取り組むヘルスケア領域の施策として,ヘルスケア特化型AIエージェントの実行基盤構築(8月27日発表),日本アイ・ビー・エム(株)との協業(9月17日発表),AIによる病院経営支援の実証実験(10月28日発表)を紹介。「地域に根ざした医療の課題をデジタル技術で解決したい」と述べた。
ヘルスケア特化型AIエージェントの実行基盤構築など2025年度のヘルスケア事業の取り組み
続いて桑原氏が「デジタルホスピタルの実現に向けて」と題して発表を行った。現在,国内の電子カルテ導入率は診療所で55%,病院で65.6%となっており,富士通Japanのシェアは全体で32%,500床以上の病院では56%に達する。この高いシェアは,50年以上にわたる医療分野での知見,技術によるイノベーション,クロスインダストリーでの社会課題解決の取り組みが背景にある。桑原氏は,これらを説明した上で,同社のヘルスケアビジョンとして「Healthcare Transformation これまでのデータをこれからのために」を提示。このビジョンに基づいて,人を起点にデータ活用と技術をつなぎ,高度な診療支援,診療格差の是正,持続可能な病院経営,ドラッグロスの解消をめざすと述べた上で,これからの医療の変革を推進するのはAIであると強調した。
データと技術をつなぎ医療における新たな価値を生み出す
続いて大西氏が,「診療領域におけるAIを活用した業務革新」について説明した。同社のAI技術は,看護師の配置調整時間の削減,AI問診による確認・カルテ記載時間の短縮,運動能力評価や手術調整業務の効率化など医療機関での活用が広がっている。医療文書作成支援AIの提供も開始しており,今後は経営改善のためのデータ分析AI,患者サービス向上のための対話支援AIの展開も進める。
さらに大西氏は,AI活用の重点領域として,経営支援,働き方改革,新しい患者体験の3点を挙げ,具体的な取り組みを紹介した。経営支援では,経営状況を可視化する「Healthcare Management Platform」を提供。働き方改革の例として,名古屋医療センターや獨協医科大学病院での医療文書作成支援AIを用いた退院サマリ作成効率化を紹介した。また,新しい患者体験として,国土交通省のプロジェクトにおける徳島県でのMaaSによる通院支援の実証にも取り組んでいる。
医療におけるAI活用の重点領域となる経営支援,働き方改革,新しい患者体験
名古屋医療センターでの取り組みについては,佐藤氏が詳細を説明した。退院サマリの作成には通常30〜60分を要するため,医師にとって大きな負担となっている。同センターでは,電子カルテ情報を基に生成AIが退院サマリの下書きを作成し,医師が確認して電子カルテに反映する仕組みを導入した。このサービスはクラウドで提供されているが,閉域ネットワークを採用することで,外部からアクセスできない安全な環境を構築している。実証実験では,診療科にかかわらず高精度な生成結果が得られ,1サマリあたり平均19.8分の業務削減,従来比71.2%の削減効果が確認された。これにより,年間約5400万円のコスト削減効果が見込まれるという。
佐藤氏の発表を受け,大西氏は各医療機関の業務内容に応じた個別AIの普及を進め,さらにマルチモーダル化によって業務フロー全体の最適化を図る方針を示した。そして,その先の電子カルテの将来像として,エージェント型AIを搭載した診療記録アプリを提示。これにより「デジタルホスピタル」が実現するとして,医療機関のパートナーとして医療DXを推進していく姿勢をアピールした。
電子カルテの将来像であるエージェント型AIを搭載した診療録アプリでデジタルホスピタルを実現
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富士通Japan(株)
https://www.fujitsu.com/jp/group/fjj/
