第45回医療情報学連合大会が開催 
生成AIやセキュリティなど医療DXの課題と将来を展望した4日間

2025-12-8

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第45回医療情報学連合大会会場のアクリエひめじ

第45回医療情報学連合大会会場のアクリエひめじ

第45回医療情報学連合大会(第26回日本医療情報学会学術大会)が2025年11月12日(水)~11月15日(土)の4日間,姫路文化コンベンションセンター アクリエひめじ(兵庫県姫路市)を会場に開催された。大会長は山下芳範氏(福井大学医学部附属病院)が務め,テーマには「医療DXがもたらす医療情報新時代」が掲げられた。大会2日目の13日8時30分から行われた開会式で登壇した山下大会長は,大会テーマに触れて,生成AIの普及が進み医療DX新時代を迎えようとしており,セキュリティも重要になっていると指摘。この転換期に医療情報学も新たな方向に進まなければならないと述べた。この後,医師でもある清元秀泰姫路市長の挨拶が紹介され,さらに日本医療情報学会代表理事の横井英人氏(香川大学)が登壇。サイバーセキュリティの重要性に言及し,この課題に取り組み,医療DXを進めていくための活発な議論を期待していると述べた。

大会長:山下芳範 氏(福井大学医学部附属病院)

大会長:山下芳範 氏(福井大学医学部附属病院)

 

代表理事:横井英人 氏(香川大学)

代表理事:横井英人 氏(香川大学)

 

山下大会長,横井代表理事の挨拶にあったとおり,サイバーセキュリティの重要性が高まる中,今大会では複数のセッションが設けられた。開会式後に行われた大会企画1「他分野に学ぶサイバーセキュリティレベル向上~専門家の視点から~」では,山下大会長と鳥飼幸太氏(群馬大学)が座長を務め,4人が登壇した。最初に「重要インフラとしての医療機関におけるリスクコントロール」をテーマに発表した鐘ヶ江誠子氏〔アクセンチュア(株)〕は,医療は重要なインフラであるとして,医療機関のリスクマネジメントの重要性に言及。これまでのルールベースの対策では対応が困難になるとし,限られたリソースでも柔軟に対応できるリスクベースへの転換を促した。また,杉浦隆幸氏(一般社団法人日本ハッカー協会/社会保険診療報酬支払基金)は,「ランサムウェア被害,どうしてやられるのか,やられたらどうしたらよいのか?」と題して,ランサムウエア対策の実践的な手法を説明し,ベンダーに依存せずに医療機関が主体的に取り組むことの必要性を訴えた。

大会企画1「他分野に学ぶサイバーセキュリティレベル向上 ~専門家の視点から~」

大会企画1「他分野に学ぶサイバーセキュリティレベル向上 ~専門家の視点から~」

 

3日目の14日には,油谷 曉氏(京都大学)と橋本智広氏(大津赤十字病院)が座長を務め,公募パネルディスカッション8「サイバー攻撃に対抗する医療情報・IT関連団体の連携」が行われ,5人が発表した。1番目に登壇した大谷俊介氏(CISSMED/医療法人社団誠馨会千葉中央メディカルセンター)は,「医療分野におけるサイバーセキュリティ情報共有組織CISSMEDの現在とその展望」と題して,CISSMEDについて説明した。CISSMEDは,医療機関のサイバーセキュリティに関する情報交換などを行う非営利の団体で,情報共有プラットフォームである「SIGNAL」において,コミュニケーションを図っている。大谷氏は,その活動について解説を行った。次いで,若村友行氏(一般社団法人医療サイバーセキュリティ協議会)が,「サイバー攻撃に対抗する医療情報・IT関連団体の連携」をテーマに発表した。若村氏は,医療機関の職員向けの教育支援やセミナーといった医療サイバーセキュリティ協議会の活動内容を説明。教育支援ツールとして提供している「HCARE 2.0」や「サイバーセキュリティシミュレータ」「インシデント対応シミュレータ」を紹介した。すべての発表後には,ディスカッションへと移り,契約,責任分界点に関する医療機関とベンダーの認識の違いなどについて意見が交換された。
今大会では,生成AIに関するセッションも複数用意された。このうち,最終日の15日に行われた大会企画6「我が国のLLM/LMM開発の現状と成果―SIP第三期『統合型ヘルスケアシステムの構築における生成AIの活用』からの研究成果報告―」では,相澤彰子氏(国立情報学研究所),原田達也氏(東京大学)が座長を務め,6人が発表した。最初に相澤氏が,「日本語医療ドメインに適応したオープンなLLMの開発」と題して発表した。相澤氏は,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)(第三期)「統合型ヘルスケアシステムの構築における生成AIの活用」において,「日本語汎用大規模言語モデルの構築と医療ドメインへの適応」をテーマに研究開発に取り組んだ。「SIP-jmed-llm」シリーズをベースモデルに,医療に特化した「SIP-jmed-llm-2-8x13b-OP-instruct」を開発しており,その概要を紹介した。次いで発表した原田氏は,「日本語に特化した医療大規模マルチモーダルモデルの構築」と題して,診療科ごとに最適化した医療用LMMについて取り上げた。3番目に発表した小寺 聡氏(東京大学医学部附属病院)は,「循環器疾患データを統合して判断する医療LMM開発」をテーマに,循環器疾患用LMMの開発について説明。X線や心エコー,冠動脈造影の各画像から所見を作成するLMMを紹介した。
学会長講演は,2日目の14日行われた。大佐賀 敦氏(東北医科薬科大学)が座長を務めて,横井代表理事が「医療DXと今後の医療」と題して,学術と実践の両面から活動を展開する方針を示した。そこで,今大会からは学術発表と実践報告に発表を分けて,学会員の多様なニーズに応えるようにしたと説明。また,サイバーセキュリティ対策として,人材育成と診療報酬への反映に取り組んでいると述べた。
最終日の15日には,大会長講演も行われた。横井代表理事が座長を務めて,山下大会長が「医療DXにおける医療情報の役割~これまで,これから~」をテーマに講演した。山下大会長は自身の経歴を紹介した上で,医療機関のネットワーク環境について,IPv4からIPv6への移行,適切な無線通信環境の整備に言及。さらに,医療における未来のエージェントAIにも言及した。
同日には表彰式・閉会式が行われた。表彰式では実践報告を対象にしたYoung Practitioner Awardを伊藤敬太氏(医療法人富田浜病院),学術発表を対象としたYoung Investigator Awardを福山啓太氏(京都大学医学部附属病院)が受賞した。また,閉会式では,山下大会長から参加者数が3830人,うち現地参加が2950人(いずれも速報値)であったことが報告された。なお,次回第46回医療情報学連合大会は,2026年11月12日(木)〜15日(日)の日程で,札幌コンベンションセンター(北海道札幌市)で行われる。大会長は渡邉 直氏(医療情報システム開発センター)が務め,テーマには「健康情報の適切・適時・容易な共有を」が掲げられた。

Young Practitioner Awardの伊藤敬太氏(医療法人富田浜病院)(左から4人目),Young Investigator Awardの福山啓太氏(京都大学医学部附属病院)(左から3人目)

Young Practitioner Awardの伊藤敬太氏(医療法人富田浜病院)(左から4人目),Young Investigator Awardの福山啓太氏(京都大学医学部附属病院)(左から3人目)

 

100社を超えた企業展示

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●問い合わせ先
第45回医療情報学連合大会
https://jcmi45.org/

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