恵寿総合病院がファーウェイ製スマートウォッチ300台による入院患者のバイタルサイン自動管理の本格運用を開始
世界初,測定から電子カルテへの記録までを自動化し,看護業務の効率化とともに,「点」から「線」,そして「面」でのケアの提供をめざす
2026-10-21
恵寿総合病院が世界初のスマートウォッチによる
入院患者のバイタルサイン自動管理を開始
〔写真左から,藤田靖介 氏:
(株)ソフトウェア・サービス
ネットワークプロダクト ゼネラルマネージャー,
張 大全 氏:華為技術日本(株)
法人ビジネス事業本部公共事業部事業部長,
神野正博 氏:社会医療法人財団董仙会
恵寿総合病院理事長,
小澤竹夫 氏:社会医療法人財団董仙会
恵寿総合病院情報部部長〕
社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院(石川県七尾市)は2026年10月19日(月),華為技術日本(以下,ファーウェイ)製スマートウォッチ「HUAWEI WATCH D2」を用いた入院患者のバイタルサイン自動管理の本格運用を開始した。入院患者がスマートウォッチを装着し,バイタルサインの測定から電子カルテへの記録までを人の手を介さずに自動で行う仕組みの本格運用は,世界初(編注:同院調べ)となる。HUAWEI WATCH D2を300台導入して,2027年1月中旬までに全病棟に展開する。同日には,同院で記者会見と見学会が開催され,神野正博理事長らが取り組みの概要と展望を説明した。
会見の冒頭,神野理事長はスマートウォッチ導入の背景に言及した。日本は現在,人口減少で働き手が減る一方,85歳以上の高齢者の増加で医療・介護ニーズは高まり続けるという構造的な課題を抱えていると指摘。質の高い医療をコストとアクセスを保ちながら持続させるには生産性の向上が不可欠であり,データ基盤となる「デジタル」,ロボティクスなどの「フィジカル」,生産性を最大化する「AI」,地域医療や遠隔医療などつながる医療のための「ネットワーク」という4つのレイヤーでDXを進めることは必然だと強調した。同院は386床,33診療科を擁し,平均在院日数11日,病床利用率83.7%で運営されている一方で,職員数は約800名と病床数に対して少なく,30年以上にわたって医療DXに取り組んできた。AIやRPA(Robotic Process Automation)の活用,医療・介護統合電子カルテ,業務用iPhoneやインカムによる音声DX,入退院管理センターやデータセンターによる見える化などを推進して,時間外勤務時間(月)は看護師で10.1時間から2.5時間に,医師で45時間から18.5時間に減少した。神野理事長は,今回のスマートウォッチ導入も,こうした取り組みの一環に位置づけられると説明した。
スマートウォッチ導入のねらいを説明する神野理事長
DXを進め七尾市の地域医療を支える恵寿総合病院
恵寿総合病院が導入したファーウェイのスマートウォッチ「HUAWEI WATCH D2」
同院が導入した「HUAWEI WATCH D2」はベルトに内蔵した小型のカフで腕を加圧して血圧を測る方式で,自動電子血圧計として管理医療機器認証を取得している。1日6回の血圧測定でも約6日間バッテリ駆動する仕様となっており,実際の運用では同院の平均在院日数11日をカバーできるという。家電量販店でも購入可能で,アプリをインストールすれば機能も拡張可能だ。
測定内容は血圧,心拍数,SpO2,皮膚温(参考値)に加えて,本格運用を開始した10月19日からは睡眠分析も追加し,5項目とした。心拍数とSpO2は装着中に連続して自動測定する。従来,病棟では,看護師が1日2〜4回程度,複数の機器を抱えて病室を回り,測定値を電子カルテに手入力していた。また,血圧は日中に看護師が訪室した際に患者と一緒に測っているが,夜間は睡眠を妨げずに自動測定もできるようになった。
バイタルサインを自動測定する装置としては,介護施設などで見守りベッドセンサの導入が進むが,神野理事長は「急性期病院の場合,患者には日中は歩いてリハビリテーションをしてほしい。ベッドにいる時しか測れない見守りベッドセンサではなく,ウエアラブルであらゆる場面の記録を取ることが重要だ」と,スマートウォッチの優位性に言及。看護師の訪室時に測る「点」の記録を「線」で,さらに複数の数値を重ねて「面」でとらえる重要性を説明した。
2025年6月に開始した実証では,データをタブレット経由で手作業でひも付ける必要があったが,本格運用では病棟に既存のWi-Fiアクセスポイントを,Wi-FiとBluetooth両方に対応するタイプに切り替えた。HUAWEI WATCH D2からBluetoothで送信されたデータは,バイタルサイン用のサーバに集約され,電子カルテに自動で記録。ナースステーションの大型モニタなどから,バイタルサインの統合管理画面を確認できる。電子カルテの入力者欄には「スマートウォッチ」と記載され,看護師による測定値と区別できるようにした。また,同院が運用してきた「NEWS」(早期警告スコア)の自動算出にもデータが反映され,より新しく密度の高いデータで,容態の急変の兆しをとらえることが可能になった。自動化により看護師の業務負担も軽減されるが,神野理事長は,「生み出された時間を患者との対話や直接的なケアに振り向ける。テクノロジーは,より人間らしいケアのためにある」と述べている。
記者会見では,パートナー企業を代表してファーウェイの法人ビジネス事業本部公共事業部の張事業部長が挨拶した。張事業部長は,医療分野におけるファーウェイの取り組みについて,世界110以上の国・地域,6200以上の医療機関に実績があることを紹介。その上で今回の取り組みについて,電子カルテ連携を担ったソフトウェア・サービス,管理システムを開発した(株)YTTテクノロジー,(株)SHINKOなど,多くのパートナーの力を結集したソリューションであると説明した。同様の実証は海外でも進んでおり,「能登から世界へ」発信していきたいと意欲を見せた。
スマートウォッチにより「点」から「線」へのデータ収集が可能(恵寿総合病院提供)
スマートウォッチの計測内容は血圧など5項目(恵寿総合病院提供)
スマートウォッチによるバイタルサイン自動管理のシステム構成・運用図(恵寿総合病院提供)
「能登から世界へ」発信していきたいと述べる
ファーウェイの張事業部長
会見後には,運用中の病棟が公開された。バイタルサインの統合管理画面では,装着患者の状態やスマートウォッチの電池残量を一覧できるほか,患者ごとに心拍数や血圧,SpO2の推移を数日分さかのぼって確認できる。NEWSでは,患者がスコアの高い順に並び,黄色表示になると看護師各自のノートパソコンにアラームが表示される。黄色では医師に報告して対応を判断し,赤では即時に対応する運用だ。阪口智恵看護部長によると,実証はバイタルが比較的安定した患者の病棟で行ったためハイリスク判定から急変に至った例はないが,中リスクの段階で医師に報告して早めに対応しているという。ウォッチ側でも患者ごとにアラームの閾値を設定でき,普段の値からの変化をいち早く察知できる。また,心電図モニターは台数に限りがあるため,入院患者すべてに装着するのは困難であるが,スマートウォッチならば多くの患者に割り当てることができ,リアルワールドデータ(RWD)として患者のバイタルサインを常時取得して管理が可能になった。加えて,夜間のSpO2の推移から睡眠時無呼吸に気づくなど,早期発見につながり,医療とケアの質の向上にも寄与している。
現在,同院では,集中治療室の患者,退院間近の患者,認知症の患者などを除き,協力を得られた患者が基本的に全員装着することとしている。なお,データは院内のサーバに保存され,外部接続はしないオンプレミスでの運用としている。
ナースステーションの大型モニタに表示されるスマートウォッチの管理画面
スマートウォッチのデータはNEWSに反映され,看護師の速やかな対応を支援
病室でのスマートウォッチによる血圧測定
病棟の天井に設置されたWi-FiとBluetooth両方に対応するアクセスポイント
今後の展開について神野理事長は,市販品でもあるHUAWEI WATCH D2を退院後に患者自らが購入して健康管理を続けられるとし,スマートフォン経由でデータを送る仕組みを整えれば,AIを用いた健康状態の把握やかかりつけ医への警告など,「能登だけでなく都会も含めた在宅医療に大きな可能性を秘めている」と述べた。さらに,蓄積したバイタルサインを画像や検査データと組み合わせ,生成AIを通じて診断や治療に生かすといった活用にも期待を示した。その上で,神野理事長は,「医療人材が潤沢ではない能登だからこそ,生産性を上げる仕組みが必要だ。能登だから東京と同じ医療を受けられない,ということは絶対にさせない」と力を込めた。
