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Allura Xper FD20 × 国立循環器病研究センター血管撮影装置と手術台との連携を実現した本格的ハイブリッド手術室が稼働—血管外科と放射線科の連携によるステントグラフト治療など難易度の高い手技に対応

2011-6-1

Allura Xper FD20を導入したハイブリッド手術室での術中風景

Allura Xper FD20を導入した
ハイブリッド手術室での術中風景

国立循環器病研究センター では,手術室の環境に血管撮影装置を設置したハイブリッド手術室を構築し,2011年1月から稼働を開始した。このハイブリッド手術室は,フィリップス社製の血管撮影装置「Allura Xper FD20」と,マッケ社のマグナス手術台を融合させたもので,大動脈瘤のステントグラフト内挿術など高度な手術に対応可能な環境を整えた。
同センターでは,大動脈疾患に対して血管外科と放射線科が連携した“血管カンファレンス”を行って,正確な診断と最適な治療を行う体制を整えている。循環器疾患の専門センターでの,ステントグラフト内挿術を中心としたハイブリッド手術室の運用と,今後の展開について,心臓血管外科の松田 均医長,放射線診療科の福田哲也医長,放射線部の横山博典主任に取材した。

●ハイブリッド手術室

アンギオと手術台を融合した真のハイブリッド手術室

松田 均 医長(心臓血管外科)

松田 均 医長
(心臓血管外科)

福田哲也 医長(放射線診療科)

福田哲也 医長
(放射線診療科)

同センターに導入されたのは,血管撮影装置「Allura Xper FD20(以下FD20)」とマグナス手術台を融合したハイブリッド手術対応型のX線撮影装置である。ハイブリッド手術室には,そのほかに,シーリングサプライユニットや手術用照明器などをそろえ,一般手術室と同等のクラス1000の清浄度を実現し,血管内治療から開腹・開胸の手術まで,さまざまな術式に対応できる環境を構築した。同センターにおけるハイブリッド手術室の稼働のねらいを松田医長は次のように述べる。
「ハイブリッド手術室の構築は,ステントグラフト内挿術を行う精度の高い環境を整えるのと同時に,高精細なX線透視画像やカテーテル治療を生かした,高度で難易度の高いさまざまなハイブリッド手術への対応を考えてのことです。将来的に経皮的大動脈弁埋込術(TAVI)など,より高いレベルの連携が必要な手技にも取り組んでいく予定です」
心臓血管外科は,心臓外科,小児心臓外科,血管外科で構成されている。血管外科は,主に大血管(大動脈,肺動脈)を中心に胸部・腹部大動脈瘤,急性・慢性大動脈解離,閉塞性動脈硬化症を中心とする末梢血管疾患などの診断・治療を行っている。なかでも大動脈瘤の治療件数が多く,これまでに大動脈手術は胸部3000件,腹部2000件を超え,国内でも有数の手術件数を誇る。
血管疾患に関しては,血管外科医5名に加え,放射線科医4名,血管内科医3名による“血管カンファレンス”を週1回定期的に行い,治療方針を決定する体制をとっている。血管疾患に対する診療体制について松田医長は,「診断から術後のQOLまで含めて,患者さんにあった最適な治療を提供できるように,各科が協力して総合的に判断する体制です」と説明する。

■Allura Xper FD20を中心に構成された本格的なハイブリッド手術室

Allura Xper FD20を中心に構成された本格的なハイブリッド手術室

 

●ステントグラフト治療

血管外科と放射線科が連携・協力して 診断から治療まで対応

同センターでは,ステントグラフト内挿術に関して血管外科と放射線科が協力して手技にあたる体制を構築している。手技は,血管外科の松田医長と放射線科の福田医長を中心としたステントグラフトチームが担当する。腹部ステントグラフトの適用は,75歳を基準として,それ以上であればステントグラフトを第一選択とし,未満であれば開腹による人工血管置換術を採用する。同センターの腹部大動脈人工血管置換術は,以前から高い手術成績を上げているが(最近5年間の死亡率は0.3%),大動脈瘤治療の選択肢としてステントグラフト治療を加えることで,高齢や重症度の高い患者に対しても,より負担の少ない治療が可能になると松田医長は説明する。
「ステントグラフト内挿術によって,全身状態が悪く手術が難しかった患者さんに対しても治療が可能になりました。特に,高齢の場合には,術後の負担を考えてステントグラフト治療を選択するケースが増えています。当センターでは,重症度が高い大動脈疾患の中でも高度な対応が必要な患者さんが集まっており,ステントグラフト治療は高リスクのケースが多くなっています」
同センターでは,ステントグラフトが認可された2007年から,手術室に移動式のCアームX線撮影装置やモニタを設置して,ステントグラフト治療に取り組んできた。松田医長は,「ステントグラフトに特化した環境ではなかったので,画質や操作性の面でストレスがありました。緊急手術やトラブルシューティングへの対応という意味だけでなく,手術と血管内治療を両方行うことを前提とした本格的な環境が必要だと考えて,ハイブリッド手術室の構築に至りました」と語る。

●FD20+手術台

手術台との連動,大画面モニタなど,精度の高い手技をサポートする機能を搭載

ハイブリッド手術室の撮影装置は,フィリップス社の血管撮影装置であるFD20とマッケ社のマグナス手術台を融合させた,本格的なハイブリッド手術に対応したシステムである。ハイブリッド手術室の構築のポイントを松田医長は次のように語る。
「血管内治療と通常の手術のどちらもが,最高の環境で実施できる設備をめざしました。専用の血管撮影装置によって高画質で長時間の手技にも対応でき,本格的な手術が可能な手術台とリンクすることで,最適な術式を選択して手技が行うことが可能です。画質については,ハイビジョンテレビを見てしまうと,アナログには戻れないように,FD20では術者のストレスがまったく違います」
また,福田医長はハイブリッドシステムについて,「手術台との連動によって,これまでのようにテーブルを手で動かすのではなく,常にアームと手術台が連動してスムーズに操作ができ,手技の際の操作性が格段に向上しました」と評価する。
ハイブリッド手術室は,カテーテル室を手術室の条件を満たすよう改造したが,松田医長は,構築にあたってはコンパクトな設計に注目したと語る。
「日本の病院はスペースに余裕がないので,限られた空間にコンパクトに設置できることが重要です。ハイブリッド手術室では,多くのスタッフの参加とさまざまな機器が必要ですが,FD20は天井走向式なので,他社の床置き式のシステムに比べて,麻酔器などの周辺装置関係の設置が容易で,スタッフが動きやすいレイアウトが実現できました」

■ハイブリッド手術室術中風景

ハイブリッド手術室術中風景

 

●マグナス手術台との連動

手術台には,手術室の設備では高い評価があるマッケ社のマグナス手術台を採用し,FD20と連動して操作性や位置情報などのデータ連携まで1つのシステムとして構築されているのが特長だ。手術台との連動のメリットを松田医長は次のように語る。
「手術台からの撮影位置情報を得ることで,最初にリファレンス画像を撮れば,そのデータを基準にしてアームを正確に移動でき,サブトラクションのためのリファレンス画像を撮影する回数を減らすことができます。まだ,細かい部分で調整中ですが,今後は治療効果判定まで造影せずに手技を進められれば,造影剤の削減と時間の短縮につながるのではと期待しています」
アームの操作や手術台の移動は,移動型独立コンソールに統合されており,1つのコンソールですべての操作が可能になっている。また,フィリップスの血管撮影装置に搭載されている非接触式のセンサーを使った安全機能(ボディガード)についても,マグナス手術台との組み合わせで利用できる。放射線部の横山主任は操作性について次のように語る。
「フィリップスの血管撮影装置としての操作性は,これまでの使用経験から評価は高かったのですが,ハイブリッド手術室に関しては,違うメーカーの製品の組み合わせということで心配した部分がありました。しかし,実際に使ってみると両方の機能が完全に連動しており,Xperモジュールからすべて一括で操作ができます。また,安全機能である“ボディガード”にも対応していて,手技の際にも安心して操作できます」

●大画面モニタ「FlexVision XL」

ハイブリッド手術室には,フィリップスの血管撮影室用大型モニタである「FlexVision XL」が設置されている。FlexVision XLは,56インチ8MピクセルのカラーLCDモニタを採用し,最大16チャンネルの信号入力が可能で,うち8チャンネルを同時表示することができる。松田医長は,ハイブリッド手術室におけるモニタの重要性を次のように言う。
「ハイブリッド手術では,手技を担当する医師のほかに,麻酔科医,看護師,診療放射線技師など多くのスタッフがかかわります。手術室の中では,それぞれのスタッフが状況を把握し情報を共有することが重要で,情報が一覧できる視認性の高いモニタが必要です。当初はモニタの数を増やすことを考えていたのですが,多系統の信号が入力できるFlexVision XLを採用しました」
福田医長は,「以前に手術エリアに構築したハイブリッド類似の手術室では,通常のPCのモニタ程度の大きさの画面しかなかったのですが,今回新設したハイブリッド手術室のFlexVision XLは大型の画面で見やすく,リファレンス画像がライブ画像と同じ大きさと高さで表示できるので,カテーテル操作での位置合わせがしやすくなりました。心電図やCT画像など多くの情報が一覧でき,厳密な手技が必要な時には,その画面だけを大きく表示できるなど,レイアウトや表示画像の変更が簡単にできるので,手技がしやすくなりました」と語る。
FlexVision XLには,病院情報システム,3Dワークステーション,心電図計,麻酔科モニタなどが入力されている。横山主任によれば,「このほか,IVUSやOCT,脳外科手術用顕微鏡などの入力も可能で,今後接続していく予定です」とのことだ。

●CTライクイメージ「XperCT」

FD20では,Cアームによる回転撮影を行いCTライクイメージを取得する“XperCT”を搭載している。同センターでは,術中にXperCTを行ってステントグラフト留置後のエンドリークの有無の確認などを行っている。福田医長は,FD20におけるXperCTの有用性について,次のように語る。
「ステントグラフト症例では,留置後,血管分枝の逆流によるわずかな漏れ(エンドリーク)を適切に治療することが長期の成績を左右します。FD20では,XperCTによって撮影室を移動することなく,その場でCTライク画像が取得でき,わずかな染まりや漏れを確認して,問題があれば二次治療に移行することが可能です」
XperCTは,放射線科での血管形成術(PTA)や肝動脈塞栓術などでもリーク像の確認などで使用されている。横山主任は,「画像の撮影と転送,それに表示の時間は最速約15秒で,高精細モードでの再構成画像表示を含めても約2分程度で行え,手技の流れを妨げることはありません。MIP像を大画面モニタに表示することで,視認性も向上しています」と評価する。

■XperCTによる症例画像

XperCTによる症例画像

83歳,男性。大動脈瘤に対するステントグラフト治療(EVAR)後2年に,下腸間膜動脈からのTypeⅡ エンドリークに対してコイル塞栓術を施行した。EVAR後3年のCTで,腰動脈からのエンドリークと瘤径の拡大を認めたため(a),左腸腰動脈から第4・第5腰動脈にNBCA(N-butyl cyanoacrylate)を注入した(b)。術中のXperCTにより,瘤内のエンドリーク部にNBCAが注入されていることが確認できた(c)。

 

●今後の方向性

経皮的大動脈弁埋込術(TAVI)など,高度な手技に積極的に取り組む

現在,ハイブリッド手術室では,ステントグラフト内挿術のほか,ペースメーカーの埋め込み術,小児科の心房中隔欠損閉鎖術,脳神経外科の脳動脈瘤に対するハイブリッド手術,放射線科の末梢血管の下肢動脈閉塞などが行われている。
ハイブリッド手術室でのこれからの取り組みについて横山主任は次のように言う。
「CTライクイメージは,手技を行いながら必要な時に撮影が可能で有用な情報を提供できますが,現状ではそれほど撮影件数が増えていません。それは,やはりアームを回転させるために周囲の器具などを整理する必要があり,簡単に撮影できないからです。今後,麻酔科の医師とも相談しながら,撮影しやすい体制や方法を検討していきたいと考えています」
一方,松田医長は,これからの取り組みとして経皮的大動脈弁埋込術(Transcatheter aortic valve implantation:TAVI)に取り組んでいきたいという。TAVIは,大動脈弁狭窄症に対して人工弁を経血管的にカテーテルを使って留置する方法で,外科的な置換術に比べて侵襲性が低く,重篤な症例や高齢者への適応が期待されている。日本では人工弁の治験が行われている段階で,同センターでも近く治験がスタートする予定だという。松田医長は,ハイブリッド手術室でのTAVIへの取り組みのメリットを次のように説明する。
「TAVIの人工弁の留置方法には,大腿動脈からと,開胸して心尖部からアプローチする2つの方法があります。いずれの方法も高度な設備と繊細な手技が要求され,高精細な画像と体外循環を必要とするような状況への変化にも即座に対応できる体制が必要です。現在,治験に向けたセットアップが進められています」
常に最先端の医療を提供する国立循環器病研究センターにおける,ハイブリッド手術室の今後の展開に大きな期待が寄せられる。

(2011年3月17日取材)

 

 

放射線部
ハイブリッド手術室を含めた7つのカテーテル室を高い技術でカバー

横山博典 主任

横山博典 主任

放射線部では,7部屋のカテーテル室(カテ室)で心臓内科から小児科,外科まで,すべてのインターベンションに対応しています。現在,1つはハイブリッド手術室になっていますので,残りの6室で手技を行い,カテ室のスタッフは全員が対応できる技術を持っています。カテ室のスタッフは,診療放射線技師が15名,看護師13名の体制です。当センターの技師スタッフは全体で41名で,CT,MRI,RIとカテ室に分かれており,責任担当者以外はローテーションしています。検査は24時間体制で,技師は当直していますが,カテ室に関しては時間外でも2~3室で同時に進行することもあり,その場合は呼び出して対応しています。
被ばく管理に関しては,手技時の撮影では範囲を絞って患者さんの無用な被ばくを避けるなど注意を払っています。また,術者に関しては,ハイブリッド手術室では,手洗いをした看護師が器械出し(直接介助)を行っていますので,そのスタッフにはガラスバッジとポケット線量計の両方で,個人の被ばく線量を把握するように気をつけています。

 

国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター
住所:〒565-8565 大阪府吹田市藤白台5-7-1
TEL:06-6833-5012
病床数:640床
http://www.ncvc.go.jp/