次世代の画像解析ソフトウェア(AZE)

2019年7月号

No.207 遅延第二注入法を利用した1相撮影による手術支援画像取得の試み

寺内ゆかり(日本赤十字社小川赤十字病院放射線科部)

はじめに

昨今の医療技術は,より低侵襲・安全・高精度なものへと進化を遂げており,手術支援画像をはじめとする画像作成技術への要望の高まりは,もはや必然である。
腫瘍摘出術では,一般的に腫瘍の範囲や周囲浸潤,転移リンパ節と主要臓器・脈管系との位置関係を事前に把握することが重要である。したがって,優れた元画像を取得することは,手術支援画像作成の精度や汎用性を高めるために不可欠である。
当院における術前CT検査は,被ばく低減,時相間でのミスレジストレーションの回避,全身転移検索にポイントを置いており,3D画像作成のみを目的とした撮影は最小限となるよう努めている。本稿では,胸部腫瘍性疾患に対して遅延第二注入法を利用し,1相撮影により取得した元画像を基に,「AZE VirtualPlace 風神 FORMULA」(AZE社製)を用いて手術支援画像を作成した例を紹介する。

元画像の取得から画像作成まで

従来,当院では手術支援画像作成用の撮影時は,一段(単相性)注入による造影を行っていた。胸部・縦隔撮影全般で言えるが,造影剤原液によるアーチファクトが生じやすい穿刺側上腕-上大静脈と目的臓器とが近接している場合,一段注入では造影タイミングやスキャン設定が非常に煩雑であった。加えて,平衡相は診断上必須撮影であるため,造影剤の減量は選択肢として考え難い。
そこで,すでに乳がん術前時のルーチン造影方法として使用していた遅延第二注入法(delayed secondary injection:DSI)1),2)図1)を利用した造影を試みた。
この造影法は,インターバルを設けた二段(多相性)注入であり,第一注入後,造影剤注入を一定時間停止し,腫瘍やリンパ節などが濃染する時相となるのを待ち,第二注入として造影剤を再度注入し,動脈系のCT値を上昇させ撮影を行う方法である。濃染する時相の異なる組織の造影効果を高め,結果として,画像作成においても描出能や作業効率の向上が期待できる。

図1 乳がんにおける手術支援画像およびDSIを用いた造影プロトコール

図1 乳がんにおける手術支援画像およびDSIを用いた造影プロトコール

 

 

図2は,食道がん症例でDSIを行った画像である。主要臓器と脈管系それぞれが同時に濃染されたタイミングで1相撮影することが可能となり,注入を分けたことにより,総ヨード量を担保しつつ第二注入時の造影剤を減量でき,造影剤原液によるアーチファクトの低減にもつながった。

図2 DSIにて撮影した食道がん症例のslab MIP画像 気管支動脈-食道枝,食道動脈などの微細な血管(○)から,時相の異なる門脈(↑)などまで描出されていることがわかる。

図2 DSIにて撮影した食道がん症例のslab MIP画像
気管支動脈-食道枝,食道動脈などの微細な血管()から,時相の異なる門脈()などまで描出されていることがわかる。

 

また,気管支動脈-食道枝,食道動脈などの微細な血管から時相の異なる門脈まで明瞭に抽出することができ,このことは微細解剖を認識した脈管の温存精度の向上だけでなく,胸腔鏡補助下手術(video assisted thoracoscopic surgery:VATS)法などの体腔鏡下手術の術前シミュレーションにも有用であると考える(図3,4)。

図3 食道がん手術支援画像

図3 食道がん手術支援画像

 

図4 体腔鏡下手術を想定した仮想内視鏡画像 透視投影法である内視鏡アプリケーションを使用することで,実際の術野により近い表示が可能

図4 体腔鏡下手術を想定した仮想内視鏡画像
透視投影法である内視鏡アプリケーションを使用することで,実際の術野により近い表示が可能

 

注意点としては,二段注入であるがゆえに一段注入とは異なるtime enhancement curve(TEC)を表すことである。しかし,がんの良悪性などの鑑別が目的ではない検査,つまり鑑別を終えた上で行われる手術支援画像などでは,手段の一つとして検討可能ではないかと考える。重要なのは,医師と方針を共有した上で検討することである。

標準機能の応用

より細かなレイヤー表示には,1相撮影の際でもあえてマルチボリュームを利用する場合がある。例えば,通常の3Dアプリケーション起動時では,ムービー表示可能なレイヤー数は6つまでであるが,同じ元画像から別ボリュームでレイヤーを保存し,マルチボリュームを起動し結合することによって,表示可能なレイヤー数を増設することができる。また,3Dアプリケーション時のボリュームクリップは,表示する全レイヤーを一様にクリッピング(断面指定のボリューム
カット)するが,マルチボリュームの起動によりクリッピングするレイヤーの選択(図5)や,指定断面を変更することが可能となる。これらの方法は,アプリケーションを起動させる動作が追加されるものの,繊細かつ広範囲に及ぶ術式などで表示レイヤーの自由度を高めるのに有効である。

図5 マルチボリュームアプリケーション 3シリーズをマルチ展開し,任意のレイヤー(a:門脈,c:気管支)は残しながらボリュームクリッピング(b←) を行うことができる。

図5 マルチボリュームアプリケーション
3シリーズをマルチ展開し,任意のレイヤー(a:門脈,c:気管支)は残しながらボリュームクリッピング(b) を行うことができる。

 

おわりに

AZE VirtualPlaceの導入に至った大きな要因としては,搭載機能の自由度の高さが挙げられる。これによって,ユーザーはより多くの選択肢から機能を選択し,必要な情報をわかりやすく簡潔に提供することができる。制約が少ない分,画像作成時のストレスが軽減され,ワークステーション自体の特性も理解しやすく,その意義は大きい。しかしながら,ユーザー側に選択肢を与えられる反面,確かな知識とtrue imageから逸脱しない技術をよりいっそう求められることは忘れてはならない。

●参考文献
1)CT造影理論. 市川智章編, 東京, 医学書院, 2004.
2)CT造影技術. 八町 淳・他, 東京, メディカルアイ, 2013.

【使用CT装置】
Brilliance CT 64(フィリップス社製)
【使用ワークステーション】
AZE VirtualPlace 風神 FORMULA(AZE社製)
【使用インジェクタ】
DUAL SHOT GX(根本杏林堂社製)

TOP