技術解説(AZE)

2017年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

「AZE VirtualPlace」における循環器領域の技術紹介

熊野 泰大(マーケティング部)

循環器領域の画像診断において,冠動脈CTの形態評価は撮影技術や機器性能などの向上により,多くの施設で行われるようになった。日本循環器学会の調べでは,今や冠動脈CTだけで年間40万件以上の検査が行われ,非侵襲的に評価ができることからも,増加基調は変わっていない1)。また,一方で被ばくのないMR検査,エビデンス豊富な核医学検査なども含めて,循環器系疾患の評価は冠動脈プラーク/石灰化の有無,弁の動き,心筋評価,2D/3Dから4D撮影画像解析と,多様な側面から行われるようになっている。この状況において,解析ワークステーションには,そのスループットを向上させる重要な役割を求められてきた。本稿では,AZEの汎用医用画像解析ワークステーション「AZE VirtualPlace」の循環器領域における解析・評価技術について紹介する。

■CT/MR冠動脈の解析

AZEでは,CT,MRのどちらの画像においても,冠動脈評価のための操作と表示が同一になるように,解析ソフトウェアのユーザーインターフェースを統一している。ストレッチCPR,ストレートCPRは,冠動脈全体を把握することに有用である一方,歪みが生じるため,併せてMPR画像を表示し,詳細観察が進みやすいように配置を行った(図1,2)。

図1 CT細血管解析

図1 CT細血管解析

 

図2 MR細血管解析

図2 MR細血管解析

 

特に,冠動脈CT画像においては,形態情報を解析するだけでなく,機能の検討をするための評価ツールの実装が進んでいる。心筋内膜側の機能評価ツールと各血管の支配領域を検討する心筋ボリュームメトリー機能である。
前者はもともと,AZE展2013でみなみ野ハートクリニック(現・みなみ野循環器病院)・望月純二先生から投稿されたアイデア(心臓CTの心筋灌流評価)を,自動化させて搭載したものである。冠動脈が支配する心筋領域の造影効果に着目し,心筋の信号値を相対化し,カラーマッピングする機能である(図3)。ここに抽出した冠動脈を重ねることで,血流量の落ちた心筋(造影効果が低い)領域と責任血管が同定しやすくなることが期待できる。逆に,完全閉塞などにより自動抽出できなかった冠動脈を,心筋カラーマッピングにより認知する可能性もあるだろう。
後者の心筋ボリュームメトリーは,各血管を指定すると,その末梢領域が支配する推定心筋領域が自動抽出される機能である(図4)。もともと当社が肝臓領域で行っていた脈管支配領域の推定機能を,冠動脈と心筋に応用したものである。本機能は,Erasmus大学(オランダ)・倉田 聖先生(現・愛媛大学)の研究において,冠動脈CTから推定される心筋領域のリスクとSPECTによるリスク評価に相関が報告2)されており,今後の治療方針の検討などに活用が期待できる。

図3 心筋内膜カラーマッピング画像

図3 心筋内膜カラーマッピング画像

図4 心筋ボリュームメトリー画像

図4 心筋ボリュームメトリー画像

 

■冠動脈CT/MR+SPECTフュージョン

CT/MR検査で確認された冠動脈狭窄が,すなわち心筋虚血を引き起こすとはかぎらないことが知られている3)。また一方で,核医学検査側から,責任血管の同定は,血管走行が患者ごとに大きく変わるため標準モデルでは把握しきれず,事前に冠動脈CT画像と重ねて評価させたいというニーズがある。この両方の観点から,冠動脈CT画像とSPECT画像を融合させた評価の有効性が唱えられ,実際にCT画像単独での検討よりも特異度,陽性適中率,偽陽性の改善が見られるという論文もある4)
当社の冠動脈CT/MR+SPECT解析ソフトウェア“Fusion EX”はそのフュージョン画像を作成表示するために,アトラス法というユニークな手法を採用したソフトウェアである(図5)。これは,施設ごとに設定できるSPECT標準アトラスを仲介することで,患者のCT/MR画像とSPECT画像の位置合わせの正確性を向上させることを念頭に置いて開発されたものである5)
形態画像としての冠動脈CT/MR画像と,機能画像であるSPECT画像では,持っている情報が異なる(形態の相関性が低く,解像度の差も大きい)ため,特に疾患のある患者で直接的に位置合わせをすることで,精度を十分に上げられるかという点について議論があった。冠動脈CT/MR画像から心臓の向き情報を得ることは,形態画像であるため比較的容易であるが,SPECT画像においては,その向き情報を付与させるためにSPECT標準アトラスが有用と考えられた6)
この手法を用いることで,解析におけるマニュアル部分を減らし,操作者ごとの結果のバラツキを抑えられるような自動化が進められるようになってきている。

図5 Fusion EXのCT+SPECT fusion画像

図5 Fusion EXのCT+SPECT fusion画像

 

■心筋SPECT画像解析

核医学領域においては,その豊富なエビデンスに合わせた評価ツールを搭載している。日本の多施設臨床研究J-ACCESSは,虚血性心疾患疑いで心筋SPECTを実施し,4000例を超える予後調査を集めているが,ここで蓄積された3年以内の心事故リスク評価7)を,実際の患者データと照らして表示する機能を“Heart Risk View-S”にて実装している。年齢や糖尿病合併の有無などに応じて,患者ごとに解析結果からのリスク表示が算出できるようになっている(図6)。
また,summed stress score(SSS),summed rest score(SRS),summed difference score(SDS),および%ischemicを計算表示することができるため,今後の治療方針選択の参考指標として活用できる。

図6 Heart Risk View-Sのリスク表示機能

図6 Heart Risk View-Sのリスク表示機能

 

“Heart Risk View-F”では,心電図同期収集されたSPECTから左心室の位相解析を行うことができる。正常な心臓では,全体が同期して収縮することでポンプとしての役割を果たしているが,心室の同期障害が起きると,収縮のタイミングにズレが生じることになる。位相解析を行うことでその程度を評価したり,再同期療法の効果を評価したりすることが可能となる(図7)。

図7 Heart Risk View-Fによる位相解析

図7 Heart Risk View-Fによる位相解析

 

本稿では,AZE VirtualPlaceに実装されている機能を基に,その技術を記した。AZEのワークステーションで循環器系の解析が始まって十数年のうちに,さまざまな機能追加,自動処理が進んできたものの,臨床の方々からの新しい検討が進み,まだまだ新しい発展が望める領域だと考えている。今後も循環器領域の機能開発に努め,患者にさらなるメリットを提供できるツールにしていきたい。

*AZE展は,ワークステーションを使用した画像の臨床的な有用性を高め,最良の画像を生み出すことを目的とした画像展で,全国のワークステーションユーザーからの作品投稿発表の場として開かれている。

●参考文献
1)日本循環器学会 : 循環器疾患診療実態調査報告書(2016年度実施・公表).
http://www.j-circ.or.jp/jittai_chosa/jittai_chosa2015web.pdf
2)Kurata, A. : Quantification of the myocardial area at risk using coronary CT angiography and Voronoi algorithm-based myocardial segmentation. Eur. Radiol., 25, 49〜57, 2015.
3)Schuijf, J.D., et al. : Relationship between noninvasive coronary angiography with multi-slice computed tomography and myocardial perfusion imaging. J. Am. Coll. Cardiol., 48・12, 2508〜2514, 2006.
4)Rispler, S., et al. : Integrated Single-Photon Emission Computed Tomography and Computed Tomography Angiography for the Assessment of Hemodynamically Significant Coronary Artery Lesions. J. Am. Coll. Cardiol., 49, 1059〜1067, 2007.
5)桧垣 徹・他 : SPECTアトラスデータを用いた心臓CT/SPECTの位置合わせ手法. 医学画像情報学会雑誌, 27・4, 105〜110, 2010.
6)泉 英伸 : ユーザー視点で考える最新画像解析の現状と活用法. 日本心臓核医学会誌, 17・1, 22〜24, 2015.
7)Nakajima, N., et al. :  Cardiac Event Risk in Japanese Subjects Estimated Using Gated Myocardial Perfusion Imaging, in Conjunction With Diabetes Mellitus and Chronic Kidney Disease. Circ. J., 76, 168〜175, 2011.

 

●問い合わせ先
株式会社AZE
〒108-0075
東京都港区港南2-13-29 キヤノン港南ビル
TEL:03-6719-7027
http://www.aze.co.jp/

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