innavi net画像とITの医療情報ポータルサイト

ホーム

急性期脳梗塞における治療までの“時間短縮”と脳の“組織評価”を最新技術で両立 〜ディープラーニングを...

Abierto Reading Support Solutionと河野浩之講師

Abierto Reading Support Solutionと河野浩之講師

 

杏林大学医学部付属病院の脳卒中センターでは、脳卒中科を核にした専門診療チームが脳卒中症例に対して、迅速な診断と治療を行う体制を整え、24時間365日診療に当たっている。同センターでは、キヤノンメディカルシステムズの320列ADCT「Aquilion ONE/ViSION Edition」と医用画像ワークステーション「Vitrea」を導入して、CTP、CTAを中心とした“CTファースト”の脳卒中診療を行っている。同センターに新たに導入された読影支援ソリューション「Abierto Reading Support Solution」の評価を含めて、急性期脳梗塞疾患における画像診断の運用について、脳卒中医学教室の河野浩之講師に取材した。

救急隊とのホットラインで急性期脳梗塞に対応

同院脳卒中センターは、脳卒中科を中心に脳神経外科、リハビリテーション科が診療科を横断して参画し、専門看護師、リハビリスタッフ、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカーなどで“脳卒中専門診療チーム(Stroke Care Team)”を構成し診療に当たっている。高度救命救急センターとも連携し、急性期の脳梗塞、脳出血、一過性脳虚血発作などに対して、CT、MRIなどを用いた高度な診断と、rt-PA静注療法、血栓回収療法をはじめとする内科的・外科的治療を、24時間365日提供する体制を整えている。急性期脳卒中患者については、救急隊との専用ホットラインを設けて、脳卒中センターが直接依頼を受ける体制となっている。
河野講師は脳卒中センターにおける急性期の診療体制について、「急性期の脳卒中診断では、患者を適切な治療が行える医療機関に搬送すること、到着後は迅速に診断して治療を開始することが重要です。当センターでは救急隊からホットラインに連絡が入った時点で、rt-PA静注療法、血栓回収療法を含めた対応が可能な準備をすることで、治療開始までの時間を短縮しています」と説明する。
2019年の実績としては、救急外来受診患者数733人、入院患者722人、rt-PA静注療法25件、血栓回収療法50例などとなっている。また、日本脳卒中学会により一次脳卒中センター(Primary Stroke Center:PSC)にも認定された。

Aquilion ONEとVitreaでCTファーストの検査を実施

急性期の脳梗塞治療は“Time is Brain”とも言われ、治療開始までの時間をいかに短縮するかが求められる。同時に最新の臨床試験では、脳の虚血を的確に評価して治療法を選択することが転帰の改善につながるとも報告されており、脳組織の状態を早く正確に把握する画像診断の重要性が高まっている。河野講師は急性期脳梗塞の画像診断について、「時間はもちろん重要ですが、短い時間で脳の状態を正確に把握して、脳組織の評価を適切に行うことが重要です」と述べる。
同センターでは2019年1月から、脳梗塞疑い患者についてAquilion ONEとVitreaワークステーションによる単純CT、CT灌流画像(CTP)、CT血管造影(CTA)で治療適応を判定する“CTファースト”のプロトコールでの運用を開始した。以前は、高度救命救急センター(1階)のAquilion ONEで単純CTを撮影後、地下のMRI室でMRIを撮像し、再び1階に移動して治療を行っていたが、移動、MRI撮像時間、MRI禁忌チェックなどで時間がかかっていたことからCTファーストに切り替えた。これによって、MRIでは60分程度かかっていた“door to needle”の時間が、CTファーストでは30〜35分程度まで短縮した。河野講師は、「患者移動などの時間短縮に加えて、CTとVitreaによって短時間で脳組織や血管の閉塞を把握できるようになり、rt-PA静注療法や血栓回収療法の適応を適切に判断できるようになりました」と評価する。

CTPによる虚血領域の解析で治療適応を判断

Vitreaによる4D-Perfusion解析では、ADCTのボリュームデータによる灌流解析だけでなく、4D-CTAによる脳血管の動的観察も並行して行うことができる。さらに、ベイズ推定アルゴリズムを用いた高精度な灌流画像マップより、サマリーマップと呼ばれるマップも算出される。河野講師は、「VitreaによるCTPの解析では、虚血コアだけでなく、救済可能と思われる虚血ペナンブラを確認でき、治療のターゲットが明確になりました。また、同時に血管の情報を4Dで確認できることで、閉塞血管だけではなく側副血行も判断でき、治療の際の有用な情報になっています」と説明する。
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大に伴い、日本脳卒中学会が2020年4月24日に公開した「COVID-19対応脳卒中プロトコル」では、蔓延期の脳卒中救急の画像診断について、原則としてCTを選択することが推奨された。COVID-19確定患者および未判定例では、同時に胸部単純CTを撮影することを推奨している。河野講師は、「頭部CTに続けて体幹部CTを撮影することで、感染の一つの目安になる肺炎の有無を確認できます。COVID-19下での脳卒中診療ではCTを活用することが、患者さんにとっても、医療従事者を守るという意味でもメリットが大きいと思います」と述べる。

解析の全自動化と診断支援機能の提供

Abierto Reading Support Solution(以下、Abierto RSS)は、キヤノンメディカルシステムズの医療情報ソリューション「Abiertoシリーズ」の新ラインアップとして、2020年7月に発売された。Abierto RSSは、画像データの送受信や搭載された各種アプリケーションの実行を自動化する“Abierto Automation Platform(以下、Automation Platform)”、解析結果を一元的に管理、表示する“Findings Navigator”を搭載する。Automation Platform上で利用できるアプリケーションの第一弾として提供されたのが“脳卒中パッケージ(for Stroke)”である。脳卒中パッケージでは、脳出血(Hemorrhage Analysis)、脳虚血(Ischemia Analysis)、脳灌流(Brain Perfusion)、脳血管(Vessel Occlusion Analysis)の4つの解析アプリケーションをラインアップする。
脳卒中科では、キヤノンメディカルシステムズと“急性期脳梗塞のディープラーニングによる診断支援”に関する共同研究を進めており、今回、Abierto RSSを先行導入して急性期脳卒中症例に対する評価を行っている。河野講師は、「迅速で的確な診断が求められる急性期脳卒中診療において、自動解析による時間の短縮や診療放射線技師の負担軽減、脳卒中の診断に特化したアプリケーションの解析結果が、診断や治療のワークフローにどれだけ貢献できるかを検証しているところです」と述べる。
Automation Platformでは、CTの撮影終了後、サーバへの画像転送、アプリケーションによる処理、結果のビューワ(PACS)への転送が自動で行われる。河野講師はAutomation Platformについて、「CTを撮影するだけで、その後はすべて自動化されるので、撮影を担当する技師の負担は明らかに減ると思います。また、医師にとっても、撮影から解析画像が表示されるまでの時間が把握できるので、待ち時間のストレスが軽減します。Automation Platformは、一刻を争う急性期脳卒中診療の現場において、治療開始までのワークフローの改善に効果があるのではと期待しています」と述べる。

Abierto RSSで急性期脳梗塞の画像解析を自動化

Abierto RSSで急性期脳梗塞の画像解析を自動化

 

■Abierto Reading Support Solution for Stroke

図1 Ischemia Analysis(脳虚血解析)アプリケーションの解析結果

図1 Ischemia Analysis(脳虚血解析)アプリケーションの解析結果

 

図2 Brain Perfusion(脳灌流解析)アプリケーションの解析結果

図2 Brain Perfusion(脳灌流解析)アプリケーションの解析結果

 

医師の診断をサポートするもう一つの“目”

脳卒中パッケージの解析アプリケーションについては、解析結果の検証を進めている。Hemorrhage Analysisでは、頭部単純CTから高吸収領域を抽出し強調表示する。Ischemia Analysisでは、低吸収領域を抽出して“Early CT sign”と思われる領域を表示する。これらの解析には、ディープラーニングなどを用いて設計・開発した技術が使われている。また、Brain Perfusionは、Vitreaと同様にベイズ推定アルゴリズムを用いたdeconvolutionによる解析を行い、CBF、CBV、MTT、TTP、Tmaxの各マップを出力する。さらに、虚血コアとペナンブラと思われる領域を色分けして示し、それぞれの体積、ミスマッチ比を自動算出する。Vessel Occlusion Analysisでは造影CTから3D CTA(MPR、VR)を作成し、血管の不連続な部分を表示する。河野講師は、「Early CT signなどは、専門医同士でも意見が分かれることが多いので、Abierto RSSが示す解析結果の利用価値は高いと思います。CTPやCTAの解析結果をトータルで把握できることで、迅速な診断と適切な治療法の選択が可能になることが期待できます」と評価する。
河野講師はAbierto RSSについて、「例えば、遠隔地などの施設で常勤の専門医がいない場合に、画像を判断する支援ツールになることが最大のメリットです。すぐに治療するべきか、搬送が必要なのかをより適切に判断できるようになり、患者さんへのメリットも大きいと考えます。また、専門医にとっても、Abierto RSSはもう一つの“目”となってサポートしてくれるのではないでしょうか」と述べる。
Abierto RSSによる検査のワークフローの自動化と診断支援のソリューションが、急性期脳卒中診療の現場を変えていく。

(2020年7月3日取材)

 

 

杏林大学医学部付属病院

杏林大学医学部付属病院
東京都三鷹市新川6-20-2
TEL 0422-47-5511
https://www.kyorin-u.ac.jp/hospital/

 

 ヘルスケアIT展

 

●そのほかの施設取材報告はこちら(インナビ・アーカイブへ)