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Aquilion ONEのバリアブルピッチヘリカルスキャン(vHP)を活用して画質と線量を最適化した救急CT撮影を実施

2012年にAquilion ONE/Global Standard Editionを導入。左から,坂下惠治企画調整監,藤村一郎技師,西池成章技師,相良健司技師。

2012年にAquilion ONE/Global Standard Editionを導入。左から,坂下惠治企画調整監,藤村一郎技師,西池成章技師,相良健司技師。

 

2015年9月に日本放射線技術学会(JSRT)より,『X線CT撮影における標準化〜GALACTIC〜(改訂2版)』が刊行された。2010年の初版を改訂したもので,最新の診断・診療ガイドラインなどを反映して,CT装置の性能の向上や検査技術の進歩に合わせ,被ばく線量の最適化にも考慮したCT検査のためのガイドラインとなっている。その中で救急の項目を取りまとめ,ガイドラインの作成に当たったのが,大阪府泉州救命救急センター放射線部の坂下惠治教育研修企画調整監(以下,企画調整監)以下,藤村一郎技師,西池成章技師,相良健司技師である。救急CT撮影における撮影プロトコールの標準化への取り組みと,同センターでのAquilion ONE/Global Standard Editionによるバリアブルピッチヘリカルスキャンを使用した救急撮影の現状を取材した。

GALACTIC改訂における救急領域の撮影プロトコールを作成

改訂第2版となった『X線CT撮影における標準化(以下,GALACTIC)』では,最新の診断・診療ガイドラインを参照し,推奨プロトコール43部位,参考プロトコール9部位を作成,そのほかAppendixとして,診断参考レベル(DRL)など,CT撮影の高度化,多様化を反映した多くの見直しや新規項目の追加が行われている。GALACTICでは各項目について,検査目的,撮影条件や再構成条件などの具体的なパラメータ,解説,診断・診療ガイドラインにおけるCT検査の位置づけ,臨床画像などが記載されている。
改訂作業はJSRTの撮影部会を中心とする平成26年度学術調査研究班「X線CT撮影における標準化改訂班」が行ったが,救急CT撮影のパートについては同センターが作成を担当した。今回の改訂のポイントについて藤村技師は,GALACTICの改訂のコンセプトと同様に“エビデンスレベルの高い撮影プロトコールの構築”をめざしたと次のように述べる。
「国内外のさまざまな診療ガイドラインや関連する論文のデータを精査し,それらをエビデンスとして撮影条件などのパラメータをできるだけ具体的に盛り込みました。救急領域では,外傷初期診療ガイドライン(JATEC)や,American College of Radiology(ACR)のAppropriateness Criteriaを参照して進めました」
救急領域における改訂版での主な変更点としては,領域分けが頭部外傷→頭部・顔面外傷,胸部→胸腹部外傷と変わったこと,新たに外傷全身が加わったことなどが挙げられる。西池技師は改訂のポイントについて,「救急で一連のシリーズとして撮影されることが多い領域をまとめたこと,また,高エネルギー外傷の全身検索を目的に実施されるケースが増えた,外傷全身撮影(パンスキャン)を追加しました」と述べる。

外傷全身撮影に“可変ヘリカルピッチ撮影”を推奨

外傷全身撮影は,“広範囲の外傷に伴う頭頸部および胸部血管損傷の検索と腹部・骨盤部の出血検索”を目的として行われるもので,頭部から骨盤部までの造影CTを1回のシリーズで連続撮影する。2009年にLancet誌に,多発外傷患者の全身CTが死亡リスクを減少させるとの報告が掲載され,2010年には一定の施設基準の下で診療報酬の加算が認められた。2013年の外傷初期診療ガイドライン改訂第4版では,Secondary Surveyの早期に全身CTを撮影するように変更されるなど,救急における全身CT撮影の適応が広がっている。
GALACTICの“外傷全身”領域のプロトコールでは,撮影条件は管電圧120kV,スライス厚0.5〜1.25mm,スキャン(回転)時間0.5〜1.0s,総スキャン時間25s以下などとなっており,線量についてはCT-AECを使用するが,1回の連続した撮影では画質と被ばくの適正化は困難で,可能であれば“可変ヘリカルピッチ撮影”を考慮するとされている。このほか,頭部・顔面外傷でも頸部を含む撮影では可変ヘリカルピッチ撮影を考慮するとのコメントが記載されている。
GALACTICは,「多種多様なCT装置を駆使して最大限で最良な診断画像情報を提供するためのガイドライン」(総論)をめざし,各領域ごとにさまざまな診断・診療ガイドラインを参照して標準的なプロトコールが作成されている。その中で可変ヘリカルピッチ撮影が可能な装置は,東芝メディカルシステムズの“バリアブルピッチヘリカルスキャン”が搭載されたCTのみである。可変ヘリカルピッチ撮影のGALACTICへの記載について藤村技師は,「外傷パンスキャンでは,部位に合わせた最適な撮影条件の設定が難しいため,画質の劣化や被ばく線量の増加が懸念されます。可変ヘリカルピッチ撮影は,1回のスキャン計画で部位に合わせた最適なパラメータでの撮影が可能です。現在は1社の技術ではありますが,ガイドラインに記載することで,より多くのメーカーのCT装置で利用が可能になることを期待する意味もあります」と,そのねらいを説明する。

画質と線量を最適化するバリアブルピッチヘリカルスキャン

バリアブルピッチヘリカルスキャン(以下,vHP)は,東芝メディカルシステムズのCT(Aquilion ONE,Aquilion PRIME,Aquilion Lightning)に搭載可能な,“可変ヘリカルピッチ撮影”の機能で,あらかじめ設定した撮影条件を,任意の範囲で切り替えてスキャンすることができる。vHPでは,ピッチファクタと画像SDのパラメータを切り替えて,1回のスキャンで検査が可能になる。
外傷パンスキャンは,全身の骨折や出血などの病変を把握することが目的だが,撮影では部位によって必要とされる画質が異なる。そのため,実際の撮影では体幹部の撮影条件で全身を撮ったり,パラメータを変更して2,3回に分けて撮影しているが,それによって画質の低下や被ばく線量の増加,検査時間の延長や造影剤量の増加などが懸念される。藤村技師は外傷パンスキャンへのvHPの適用について,「vHPでは,部位ごとに最適なパラメータを設定して,連続で全身のスキャンが可能です。迅速な対応が必要とされる救急でのCT撮影の中で,vHPを使うことで画質と被ばくの最適化や,検査時間の短縮が可能になります」とメリットを説明する。
同センターでは,年間2300例の救急搬送を受け入れているが,そのうち約半数が外傷患者でvHPを使った全身パンスキャンを施行している。頭部から骨盤までのCTAのvHPでは,受傷の状況や撮影目的によって異なるが,頭部(ウィリス輪下)を設定SD:5で,頸部から骨盤までを設定SD:7.5(いずれも設定画像厚:5mm)でスキャンを行う。そのほか,頭頸部の単純CTもvHPを使った撮影を行っている。
救急撮影でのvHPの活用について坂下企画調整監は,「救急でのCT撮影では,部位や撮影目的に合った最適なプロトコールで撮影が行われれば,細かい骨折や微細な病変まで診断が可能な最高の画質を適正な線量で提供することができます。vHPは,そうした診断のフェーズに合わせた,適切な画像を提供するための重要なツールになると期待しています。さらにGALACTICのようなガイドラインが普及することで,撮影を担当する診療放射線技師と救急医や読影医が連携して,診療の目的に合った最適な画像が提供できる環境が構築されることが期待されます」と述べる。

■バリアブルピッチヘリカルスキャンを用いた外傷全身CTの症例画像

バリアブルピッチヘリカルスキャンを用いた外傷全身CTの症例画像

 

最適な救急CT撮影プロトコールの作成をめざす

vHPについては,GALACTICの中でも“改良の余地はあるものの”と記載されているが,藤村技師は,「可変できる回数を増やすこと,対応するパラメータを増やすこと,チルト撮影への対応など,今後の開発を期待しています」と述べる。さらに藤村技師は,「外傷パンスキャンの撮影プロトコールなど,救急のCT撮影にはまだ改良の余地も多くありますので,今後も検討を続けていきます」と,今後の取り組みについて語った。

(2015年10月6日取材)

●参考文献
1)日本放射線技術学会撮影部会 : X線CT撮影における標準化〜GALACTIC 〜(改訂2版).日本放射線技術学会, 放射線医療技術学叢書(27), 2015.

 

大阪府泉州救命救急センター
独立型の救命救急センターとして大阪南部の救急医療を担う
大阪府泉州救命救急センターは,1994年に大阪府立の独立型三次救急医療施設として開設。2013年に隣接するりんくう総合医療センターと統合し,協働体制での運用となった。病床数はICU18床を含む30床で,統合後は,りんくう総合医療センターと連携して搬送患者の転棟に対応する体制となり,受け入れ患者数も増加している。スタッフは,医師が25名,看護師89名,診療放射線技師はりんくう総合医療センターと合わせて24名となっている。

住所:〒598-8577
大阪府泉佐野市りんくう往来北2-23
TEL:072-469-3111
URL:http://www.senshu-tccc.com/

大阪府泉州救命救急センター

 

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