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人口減、高齢化、人手不足が進む離島地域での医療を支える画像診断機器 〜AIを活用した技術を搭載した320列C...

長崎県 上五島病院

 

長崎県五島列島北部の新上五島町にある長崎県上五島病院は、1960年の開院以来、地域の医療ニーズに最大限に応えつつ、検診や介護、福祉まで住民の生活に寄り添ったサービスを提供してきた。島唯一の病院として高齢化や人口減少といった課題の中で、「郷診郷創」(地域での受診が地域を創るという長崎県病院企業団の理念)を実現するべく、救急医療やがん診療など高いレベルの医療提供体制を整えている。同院のキヤノンメディカルシステムズの320列CT「Aquilion ONE / NATURE Edition」をはじめとする画像診断機器の役割について、一宮邦訓病院長、永安忠則診療部長、放射線科の近藤和久技師長、安田貴明副技師長に取材した。

一宮邦訓 病院長

一宮邦訓 病院長

永安忠則 診療部長

永安忠則 診療部長

放射線科・近藤和久 技師長

放射線科・
近藤和久 技師長

安田貴明 副技師長

安田貴明 副技師長

 

高齢化率40%超の日本の課題先行地域

中通島、若松島など大小の島からなる新上五島町は、人口1万7500人、高齢化率は42.7%(2020年、日本医師会調べ)。人口減少は同時に医療の担い手不足にもつながり、医師数はなんとか確保されているものの看護師不足が深刻であり、その影響で186床のうち1病棟(30床)が閉鎖されている。一宮病院長は、「人口減と高齢化が進む中で、島内唯一の入院施設のある医療機関として、地域の医療ニーズに応えるべく高度医療を提供できる体制を整え、できるだけ地域で完結できる医療を提供し、さらに高度な医療が必要な場合には本土へ搬送できる体制を整えています。医療資源が限られる中で、介護や福祉を含めて住民が安心して生活できるよう包括的なサービスを提供しています」と述べる。
診療科は18科を標榜し、へき地拠点病院、災害拠点病院、救急医療、がん診療離島中核病院などの役割を担う。長崎県病院企業団が掲げる「郷診郷創」は、「地域での受診が地域を創る」ことをめざしているが、一宮病院長は、「患者の経済的な負担も大きくなるので、心臓カテーテル治療や、整形外科領域の膝の人工関節置換術など、できるだけこの病院で対応できるようにしています」と述べる。

80列から320列へとCTをリプレイス

離島の医療を支える重要な役割を担うのが画像診断機器だ。放射線科の診療放射線技師は9名で、サテライトの有川、奈良尾の両医療センターを含めて対応する。モダリティは、Aquilion ONE / NATURE Editionのほか、1.5T DLR-MRI「Vantage Orian」、血管撮影装置「Alphenix」、超音波診断装置、マンモグラフィ、骨塩定量装置などがそろう。近藤技師長は、「離島地域にこそ最先端の高度な機能を持った装置が必要だというのは、歴代の病院長をはじめ、現場の念願でした。320列CTを導入できたことで、AI機能を搭載したMRIなどを含めて理想に近いラインアップをそろえることができました」と述べる。
同院では、80列CTをリプレイスして2022年12月に、Aquilion ONE / NATURE Editionが導入された。Aquilion ONE / NATURE Editionでは、ディープラーニング技術を応用したノイズ低減画像再構成技術「Advanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」や超解像画像再構成技術「Precise IQ Engine(PIQE)」などが搭載され、装置の設計もコンパクト化されており、80列の「Aquilion PRIME」の部屋にそのまま設置できた。安田副技師長はAquilion ONE / NATURE Editionについて、「AiCEやPIQEを適用した画像は、ノイズが除去された高画質が得られて完成度が高いことに驚きました。装置の性能の向上という意味では、かつて4列から16列になった時と同じようなインパクトを受けました」と述べる。
同院でのCTの検査件数は月間約500件、1日では20〜25件だが、予約よりも当日依頼が多く、技師1名で検査から画像処理まで対応するため、リプレイス後も検査件数は変わっていない。検査部位は頭部、胸部が多く、70歳以上の患者の検査が8割を占める。安田副技師長は、「高齢者の撮影が多いので息止めや体動抑制が難しい患者の撮影も多いのですが、Aquilion ONE / NATURE Editionでは撮影時間が短くなり、息止めせずに撮影が可能になりました。また、AiCEを使うことで拘縮があって挙上が難しい患者でもクリアな画像が得られるようになりました。従来は、検査のために患者が機械に合わせることが必要でしたが、Aquilion ONE / NATURE Editionでは機械が患者に合わせてくれるという印象です」と評価する。

島外搬送の判断のために画像診断を活用

若い医師が多く、少ないスタッフでさまざまな疾患に対応せざるを得ない同院では、CTをはじめとした画像診断が大きな役割を担っている。永安診療部長は、「放射線科医がおらず、主治医が直接読影する必要があるので、高精細の画像になったことは大きなアドバンテージです。特に夜間は医師1名でさまざまな領域の疾患を診療する必要がありますので、画像診断はなくてはならない武器です。診断に迷ったらまず画像を撮る、撮影した診療放射線技師とディスカッションして、それでもわからなければほかの医師を呼ぶように若い医師にはアドバイスしています」と説明する。
救急の体制は、医師は昼間は午前1名、午後3名で、夜間は当直1名のほか各科の1名がオンコール体制となる。島唯一の病院である同院は必然的に救急医療の最後の砦となるが、院内で対応可能か搬送が必要かの判断が求められることになる。島外への搬送は年間約50件あり、昼間はドクターヘリを、夜間は自衛隊ヘリを利用する。疾患としては頭部(脳血管疾患)、産婦人科(緊急帝王切開)などが多い。永安診療部長は救急医療での画像診断の役割について、「急性期脳血管疾患では、脳出血か脳梗塞を判断して治療法を決定することが必要です。CTで出血の有無を確認し、出血がなければMRIで梗塞部位を確認します。血栓溶解療法(t-PA)の適応があれば静注を開始して、本土の大村市内の脳神経外科のある医療機関に搬送の手続きを進めます。搬送の判断は、搬送先の専門医とも相談して決めています」と述べる。安田副技師長は、「Aquilion ONE / NATURE Editionのワンショットで全脳単純撮影を行い、Vantage OrianのDWI撮像で短時間で診断できます。Vantage OrianはAiCEを搭載しており、短時間の撮像で体動の影響の少ない高精細画像が得られるので緊急検査では助かっています」と言う。
一宮病院長は、自身の専門である整形外科領域でのAquilion ONE / NATURE Editionの有用性について、金属アーチファクト低減技術の「SEMAR(Single Energy Metal Artifact Reduction)」による効果を実感したと次のように言う。
「人工関節を留置後にインプラントとのつなぎ目を骨折する人工関節周囲骨折の症例では、従来は金属アーチファクトで診断できなかったのですが、確認できるようになりました。術前に患部の固定に使うインプラントなどの材料をあらかじめ発注するのですが、CT画像で評価できるので、患部の状態を評価して準備できます。離島では医療材料の手配にも時間がかかるので、術前に正確に診断できるメリットは大きいですね」

■Aquilion ONE / NATURE EditionとVantage Orianによる臨床画像

図1 急性期脳梗塞症例 a:CT ONE Volume scan b:MRI DWI 80歳代、男性、脳卒中疑いで救急搬送、CT(a)では異常所見の確実な指摘は難しく、MRIを施行したところDWI(b)で右側頭葉に高信号が認められた。t-PA投与とヘリ搬送の適用ありと判断した。

図1 急性期脳梗塞症例
a:CT ONE Volume scan b:MRI DWI
80歳代、男性、脳卒中疑いで救急搬送、CT(a)では異常所見の確実な指摘は難しく、MRIを施行したところDWI(b)で右側頭葉に高信号が認められた。t-PA投与とヘリ搬送の適用ありと判断した。

 

図2 左足関節 創外固定 a:Xray b:SEMARなし c:SEMARあり 80歳代、女性、左脛骨腓骨開放骨折の創外固定術後にCTを撮影。ダークバンドアーチファクトがSEMARで取り除かれている。

図2 左足関節 創外固定
a:Xray b:SEMARなし c:SEMARあり
80歳代、女性、左脛骨腓骨開放骨折の創外固定術後にCTを撮影。ダークバンドアーチファクトがSEMARで取り除かれている。

 

ダウンタイムを最小限にするサービス体制を評価

島内にはCTは複数あるものの、MRIがあるのは同院のみだ。それだけに診療の質を維持するためにも、画像診断機器は常に使える状態であることが望まれる。万が一、故障したとしても、ダウンタイムをできるだけ短くして影響を最小限にするための支援体制も重要となる。近藤技師長は、画像診断機器の選定ではコストだけでなく保守やメンテナンスの質が重要であり、その点でキヤノンメディカルシステムズとの信頼関係がポイントになったと言う。実際に、MRIの不具合が発生した際には、その日の夜に博多を出て早朝に上五島に到着するフェリーで、部品とサービススタッフが来島し診療開始前に修理を終えて朝からの検査を滞りなく行えた。近藤技師長は、「個々のスタッフや支店、営業所だけでなく、会社として一体となってサポートされていると実感しています」と話す。

2026年に隣接地に新病院を建設予定

人口減と高齢化が一足早く進行する新上五島町は、日本の未来を先取りする地域だとも言える。その中で病院の今後の方向性を一宮病院長は、「医療はインフラであり、その中で病院は地域のニーズに応じた医療を過不足なく提供することを使命としてきました。一方で、今後ますます人口の減少が進み、人口構成も変化し、さらに医療の担い手不足が予想される中で、従来どおりの医療サービスを継続的に提供できるのか、岐路にあることは間違いありません。郷診郷創の理念の下で、島内でできること、できないことを見極めつつ病院のあり方を探っていきたいと思います」と述べる。
現在、2027年に向け隣接する公園に新病院を建設し移転する計画を進めている。一宮病院長は、「血管内治療と手術が可能なハイブリッド手術室のほか、病棟についても病床の増減に柔軟に対応できる構成にしています」と言う。安田副技師長は、「医療環境の変化に柔軟に対応するためにも、汎用性を備えた画像診断機器があることは、さまざまな選択肢を持つことにつながると思います」と述べる。
課題を抱えつつ進む同院の取り組みが、これからの日本の医療の道標となるに違いない。   

(2024年1月31日取材)

※AiCE、PIQEは画像再構成処理の設計段階でAI技術を用いており、本システム自体に自己学習機能は有しておりません。
※DLR:Deep Learning Reconstructionの略語です。

*記事内容はご経験や知見による、ご本人のご意見や感想が含まれる場合があります。

一般的名称:全身用X線CT診断装置
販売名:CTスキャナ Aquilion ONE TSX-306A
認証番号:301ADBZX00028000

一般的名称:超電導磁石式全身用MR装置
販売名:MR装置 Vantage Orian MRT-1550
認証番号:230ADBZX00021000

 

長崎県上五島病院

長崎県上五島病院
長崎県南松浦郡新上五鳥町青方郷1549-11
TEL 0959-52-3000
https://www.kamigoto-hospital.jp

 

  モダリティEXPO Aquilion ONE / NATURE Edition

 

  モダリティEXPO Vantage Orian

 

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