セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第55回日本小児循環器学会総会・学術集会が,2019年6月27日(木)〜29日(土)の3日間,札幌コンベンションセンター(北海道札幌市)にて開催された。28日(金)に行われたキヤノンメディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー9では,榊原記念病院小児循環器科部長の矢崎 諭氏を座長として,埼玉医科大学国際医療センター小児心臓科助教の葭葉茂樹氏と長野県立こども病院循環器センター長の安河内 聰氏が,「最新の画像診断機器の使用経験(超音波,アンギオ装置)」をテーマに講演を行った。

2019年10月号

第55回日本小児循環器学会総会・学術集会ランチョンセミナー9 最新の画像診断機器の使用経験(超音波,アンギオ装置)

ここまで視えるキヤノンの心エコー ─胎児から新生児における画像診断技術の進歩─

安河内 聰(長野県立こども病院循環器センター)

キヤノンメディカルシステムズ社の超音波診断装置は,Mモードに始まり,Bモードやドプラ法,harmonicsなどと進歩し,近年では3D/4D speckle trackingも可能となった。同時に,解析技術も進化を続け,心筋のstrain / strain rateや3D/4D volume & function解析などが,小児でも可能となっている。特に先天性心疾患においては,3Dエコーによる機能解析は重要で,左心低形成症候群などの体循環右室のTorsion(ねじれ運動)の解析や,興奮伝搬の3D解析を可能とする“Activation Imaging”,左右心室間の相互作用を可視化できる“Quad Chamber Tracking”など,小児から成人まで活用できる,他社のシステムでは得られない非常に重要な画像情報を得ることができる点できわめて有用である。
本講演では,超音波診断装置「Aplio i900」と最新の小児および新生児用経食道プローブや新生児用のセクタプローブの画像進歩と,新しく開発された胎児心機能解析について紹介する。

超音波診断装置の進歩

1.小児用細径経食道プローブの開発
新生児から使用可能な小児用細径経食道プローブ(マイクロTEEプローブ)「PET-609MA」は,約5.2mmのきわめて細い導中管径のマルチプレーン型のプローブ(周波数帯域は8〜3MHz)で,高い空間分解能と時間分解能に加え優れた操作性を有しており,体重が2.5kg以上で安全に使用できることが特長である(図1)。当センターではこれまで,生後13日~13歳,体重2.7~33kgの新生児・小児に対し安全に使用している。

図1 マイクロTEEプローブ PET-609MA

図1 マイクロTEEプローブ PET-609MA

 

症例1は,心室中隔欠損症(VSD),膜様心室中隔瘤(MSA)の11か月,8.6kgの男児である。心臓カテーテル検査時に,同時にマイクロTEEプローブを用いてVSDの形態とシャント血流の様子を観察した。マルチプレーンプローブの特性を生かし,カラードプラでさまざまな方向からシャント血流を観察している(図2)。経胸壁プローブでは,慢性肺疾患や重度の胸郭変形,開心術直後など,エコーウインドウなどが制限されて心エコーによる画像診断が困難な例でも,マイクロTEEプローブでは評価が可能である。

図2 症例1:VSDのシャント血流の評価(11か月,8.6kg,男児)

図2 症例1:VSDのシャント血流の評価(11か月,8.6kg,男児)

 

症例2は,心房心室不一致の両大血管右室起始症(l-DORV),肺動脈閉鎖症(PA)の5か月,5.7kgの男児である。マイクロTEEプローブにて左右心室とVSDの位置関係や,VSDや卵円孔開存のシャント血流の詳細な観察が可能である(図3)。また,経胸壁プローブでは描出が困難な,左室から大動脈への流出路と僧帽弁の位置関係が,明瞭に観察できる(図4)。

図3 症例2:l-DORV,PA症例の卵円孔開存に伴うシャント血流の評価(5か月,5.7kg,男児)

図3 症例2:l-DORV,PA症例の卵円孔開存に伴うシャント血流の評価(5か月,5.7kg,男児)

 

図4 症例2:左室から大動脈へのアクセスルートの評価

図4 症例2:左室から大動脈へのアクセスルートの評価

 

症例3は,無脾症,右室性単心室(SRV),DORV,共通房室弁の13歳,33kgの男児である。今回開発されたマイクロTEEプローブでは,この年齢の症例でも共通房室弁の弁下組織(腱索)と弁の形態(図5),さらに,共通房室弁逆流の様子も観察可能である。
食道閉鎖など通常のTEE検査が禁忌な例を除くと,現時点でのマイクロTEEプローブの適応は,体重2.5kg以上となる。開心術後や術後のPICU管理中など,通常の経胸壁心エコーが困難な症例,心臓カテーテル検査中のモニタリングや画像診断,房室弁の形態評価など,多岐にわたる評価が可能である。プローブの挿入はきわめてスムーズで,先端のbending角度と曲率半径は体重5kg以上ではまったく問題にならない。手元操作ダイヤルはスムーズで,角度固定も可能である。われわれの経験では,体重2.5kg程度でも粘膜損傷のリスクはなく,新生児・乳児早期では歯がないため,むしろ挿入は安全に行えている。血行動態に与える影響もほとんどなく,マイクロTEEプローブ挿入による血圧の低下や酸素飽和度の上昇も認めなかった。画質は,精細モードとペネトレーション優先モードが選択でき,Bモード画像は高精細で,カラー・パルスドプラの感度も良好である。体重30kg以上の年長児でも,プローブを食道壁に密着できれば診断可能である。

図5 症例3:SRV,DORV症例の僧帽弁の腱索や付着の観察(13歳,33kg,男児)

図5 症例3:SRV,DORV症例の僧帽弁の腱索や付着の観察(13歳,33kg,男児)

 

2.超広帯域小児用セクタプローブの開発
低体重の新生児から使用可能な超広帯域小児用セクタプローブ「PST-65BT」(12~4MHz)は,小型で持ちやすいフォルムデザインで,高空間分解能,高ペネトレーションを特長としている(図6)。体重1~15kgの新生児および小児が対象であり,ハンドリングも良好で,診断に十分な画質が得られている。小児用ではあるものの,実際には成人においてもエコーウインドウが良い症例では高精細の心内構造の観察が十二分に可能である。

図6 超広帯域小児用セクタプローブ PST-65BT

図6 超広帯域小児用セクタプローブ PST-65BT

 

症例4は心房中隔欠損症(ASD),肺高血圧症(PH)の2歳児(図7),症例5はファロー四徴症の3歳児(図8),症例6はVSDの生後22日児(図9)であるが,いずれも良好な画像が得られている。

図7 症例4:ASD,PH(2歳児)

図7 症例4:ASD,PH(2歳児)

 

図8 症例5:ファロー四徴症(3歳児)

図8 症例5:ファロー四徴症(3歳児)

 

図9 症例6:VSD(生後22日児)

図9 症例6:VSD(生後22日児)

 

胎児心エコーの画像解析の進歩

Aplio i900では,胎児心エコーの画質(空間分解能)と時間分解能が大幅に改善された。この画質の改善により,従来困難であった2D speckle tracking法を用いた胎児心筋ストレイン計測(2D Wall Motion Tracking for Fetal Heart:2D WMT for Fetal Heart)が可能となった。
また,カラードプラ法の新しい表示形式として“Doppler Luminance”表示を用いると,血流が立体視できるようになり,交差する血流や重なった血流を分別でき,小さな胎児での異常血流の診断が容易となった。

1.新しい胎児心筋ストレイン計測法
胎児心エコー検査において,母体腹壁から遠い深部に位置するサイズが小さな胎児心筋の詳細な観察は,高い空間分解能が必要な上,心拍数が高いため(平均120〜160回/分)高い時間分解能も必要となる。さらに,心筋の2D speckle tracking法を行うためには,少なくとも胎児心拍数と同等以上のframe rateが必要不可欠となる。
この点,新しいコンベックスプローブ「i8CX1」では,深部の高空間分解能に加え,100~240fps以上の高フレームレートの画像描出が可能となった。また,胎児心筋ストレイン計測用のプリセットを設定すれば,ズーム設定を含め通常の日常的な胎児心エコー検査の操作で簡便に解析画像を得ることを可能とした。
2D WMTによるストレイン計測は四腔断面と心室短軸断面で行い,解析は自動処理を基本とするため煩雑な設定は不要で,トラッキングの修正も容易である。また,データの再現性も良好である。最初の解析心周期区間の選択は,動画像から心室サイズ変化曲線を推定し,拡張末期(ED)~ED区間を自動的に設定することができる。
図10は左室のglobal longitudinal strain(GLS)で,GLSのカーブも取得できるほか,左室拡張末期容積(EDV),左室収縮末期容積(ESV),左室駆出率(EF)の測定結果も同時に表示される。さらに,右室のGLS(図11)や,左室のglobal radial strain(GRS)(図12)の計測も可能である。

図10 左室のGLS

図10 左室のGLS

 

図11 右室のGLS

図11 右室のGLS

 

図12 左室のGRS

図12 左室のGRS

 

2.胎児心筋ストレイン計測の応用
胎児心筋ストレイン計測を行うことで,従来の心室面積変化率(FAC)やEFでは検出できなかった胎児の心室収縮異常の検出が可能となる。その理由としては,通常のFACや左室内径短縮率(fractional shortening:FS)はchamber kineticsとして心内腔全体の収縮・拡張機能を見ているのに対して,心筋ストレインは心筋のwall kineticsとして局所的心筋の収縮・拡張機能を見ているため,心筋の局所的運動異常も検出できるからと説明されている。
実際,Mirandaらは,母体が糖尿病の胎児(母体DM胎児)と母体が正常な胎児コントロール群を比較したところ,両群のFACやEFには差を認めなかったが,strain/strain rateは母体DM胎児の方が低下していたと報告している1)。このように胎児の心機能評価項目に新たにstrain/strain rateを追加することで,従来わからなかった胎児心機能異常がわかるようになる可能性や,周産期の心機能管理に役立つ可能性もある(図13)。
正確な心筋ストレイン異常の検出のためには,正常胎児における左室・右室のGLSや左室のGRSとの比較が必要となる。そこで,在胎週数による正常胎児の左室と右室のGLSおよび左室のGRS変化を検討したところ,左室のGLSは右室のものより大きな値を示した。その測定値は,検者間比較および検者内比較でも一致率が高く,再現性も良好であった。これは,測定の誤差をできるだけ少なくするためには重要な点である。

図13 胎児心機能の評価項目

図13 胎児心機能の評価項目

 

まとめ

Aplio i900は,新しいマイクロTEE プローブ,超広帯域小児用セクタプローブ,胎児心機能解析用に著しく性能を向上させたi8CX1コンベックスプローブなどのラインアップの充実に加え,胎児・新生児・乳児の心エコー画像画質の向上と解析プログラムを充実させた「All-in-One」の超音波診断装置と言える。
超音波の画像診断の新技術開発と臨床医学における新たな応用・展開は表裏一体であり,どちらが欠けても発展させることはできない。このAplio i900の技術を用いて何ができるか試すとともに,新しいモダリティを十二分に使いこなすことで,今までわからなかったことがどれだけわかるようになるのか,今後の発展が本当に楽しみである。

●参考文献
1)Miranda, J.O., et al. : Fetal Cardiac Function in Maternal Diabetes ; A Conventional and Speckle-Tracking Echocardiographic Study. J. Am. Soc. Echocardiogr., 31・3, 333〜341, 2018.

 

安河内 聰(長野県立こども病院循環器センター)

安河内 聰(Yasukochi Satoshi)
信州大学医学部卒業。横須賀米海軍医療センター,信州大学小児科を経て,東京女子医科大学心臓血圧研究所で高尾篤良氏に師事し小児循環器学を学ぶ。1990~93年 米国・Johns Hopkins大学,Cornell大学に留学。93年長野県立こども病院循環器小児科。2002年 同部長。2012年 同エコーセンター長。2014年より同循環器センター長。

 

 

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